国内に知的基盤を築く
WIISは、大学レベルの数学や経済学を、できるだけ分かりやすく、体系的に学べる教材を提供するとともに、学習者同士が議論し、研究を深められる環境をつくることを目指しています。
しかし、私たちが目指しているものは、単なる教材サイトではありません。
目指しているのは、国内に高度な学びと自律的な研究を支える知的基盤を築くことです。
良質な教材があり、自由に議論できる場があり、学びたい人が継続して研究に取り組める環境がある。そのような知的基盤は、一朝一夕に生まれるものではありません。
なぜ私たちがこのような活動を続けようとしているのか。
その背景には、日本の大学教育や学問を取り巻く環境に対する一つの問題意識があります。
大学教育には大学教育の価値がある
まず強調したいのは、WIISは大学教育を否定したいわけではありません。
大学には、第一線の研究者から直接学べること、学生同士で議論できること、研究室で専門的な研究に取り組めることなど、多くの価値があります。
これらは、オンライン教材だけで代替できるものではありません。
一方で、大学だけですべての学習ニーズを満たすことも容易ではありません。
学生一人ひとりの学力や背景知識は多様であり、限られた授業時間の中で全員が十分に理解できるよう説明することには限界があります。
また、卒業後も学び続けたい社会人や、大学に所属していない人にとって、高度な学問へ継続的にアクセスできる環境は決して多くありません。
だからこそ、大学教育を補完し、誰もが学び続けられる知的基盤が必要だと考えています。
日本に知的基盤は十分にあるのか
私が以前から考え続けていることがあります。
それは、日本国内だけで世界水準の教育や研究へ到達できる環境が、十分に整っているのだろうかということです。
優秀な学生が海外へ留学し、優れた教育や研究環境で学ぶことには大きな価値があります。
異なる文化や研究者と交流し、新しい知見を日本へ持ち帰ることは、日本の学術にとっても重要です。
しかし一方で、高度な教育や研究訓練を受けるためには海外へ行くことが最も有力な選択肢になっているとすれば、それは国内の知的基盤について考えるべき課題でもあります。
海外で学んだ研究者が日本へ戻り、次の世代にも海外で学ぶことを勧める。
この循環そのものは決して悪いことではありません。
しかし、その循環が「国内だけでは十分な教育や研究を提供することが難しい」という現実を映し出しているのであれば、日本は自国の知的基盤をどのように育てていくのかを改めて考える必要があります。
本当の国際化とは何か
近年、多くの大学で国際化が進められています。
海外大学との交流や共同研究、留学生の受け入れは、これからの大学に欠かせない取組です。
しかし、国際化とは単に授業を英語で行うことではありません。
学問において本当に重要なのは、概念を正確に理解し、自ら考え、議論できるようになることです。
数学や経済学のような分野では、言語は単なるコミュニケーションの手段ではなく、思考そのものを支える土台でもあります。
もちろん、英語で授業を行うことが教育的に有効な場面もあります。
しかし、教育内容や学習環境とのバランスを考えず、形式だけを英語化することが目的になってしまえば、本来目指すべき教育の質の向上にはつながりません。
本当の国際化とは、英語で授業を行うことではなく、国内にいながらも世界水準の教材、研究、議論へアクセスできる環境を整えることではないでしょうか。
良質な教材は知的基盤である
そのような知的基盤を支える上で、最も重要なものの一つが教材です。
WIISでは、教材を作る際に「分かりやすさ」を何よりも重視しています。
大学レベルだから説明を省略する。
行間を読める人だけが理解できればよい。
そのような考え方は採りません。
難しい内容だからこそ、必要な背景知識を丁寧に説明し、学習者が一歩ずつ理解を積み重ねられる教材が必要だと考えています。
説明が長くなっても構いません。
別の角度から何度説明しても構いません。
理解できることこそが、学びの出発点だからです。
良質な教材は、一人の学生のためだけにあるものではありません。
世代を超えて知識を伝え、多くの人が高度な学問へアクセスできるようにする知的基盤そのものです。
教材だけでは学問は完成しない
もっとも、学問は教材を読むだけでは完成しません。
学問とは、自ら問いを立て、考え、議論し、ときには間違えながら理解を深めていく営みです。
だからこそ、WIISでは教材だけでなく、フォーラムや研究会も運営しています。
質問し、議論し、研究テーマについて意見を交わし、成果をまとめる。
そのような活動を通じて、学ぶ人自身が知識の受け手から、知識を生み出す側へと成長していける環境を目指しています。
学問は誰のものか
私は、専門知識はもっと多くの人に開かれていてよいと考えています。
もちろん、長年研究を積み重ねてきた研究者の知見には大きな価値があります。
専門知識への敬意は、社会にとって欠かせません。
しかし同時に、専門知識は一部の人だけが持つものではありません。
良質な教材を通じて学び、議論し、研究を続けることで、多くの人が専門知識へ到達できる社会の方が、長期的には豊かな知的基盤を築くことにつながります。
学問は、本来、肩書や所属によって評価されるものではありません。
重要なのは、「誰が言ったか」ではなく、「何を言ったか」です。
論理と根拠によって議論し、互いに学び合う文化こそが、健全な学問を育てます。
WIISが目指すもの
WIISが目指しているのは、大学の代わりになることではありません。
また、大学教育を批判することでもありません。
私たちが目指しているのは、大学教育を補完し、日本国内に高度な学びと研究を支える知的基盤を築くことです。
良質な教材があり、自由な議論があり、自律的な研究が行われる。
国内にいながら世界水準の学びへアクセスできる。
そして、学歴や肩書ではなく、知識と論理、そして研究成果によって議論が深められる学問文化が育つ。
そのような環境を少しずつ築いていくことこそが、WIISの理念であり、私たちが目指している未来です。