同質財オークションのモデル(環境)

同質財オークションを分析するためには、入札者、商品、評価関数、オークションの結果、利得関数などを明確に定式化する必要があります。本ページでは、同質財オークションのプレイヤー集合、評価関数、結果、利得関数を定義するとともに、非外部性、私的価値、準線型効用からなる基本的な環境について解説します。

同質財オークション

前章では、1つの商品だけが販売される単一財オークションについて考えました。このようなオークションでは、それぞれの入札者は販売される商品に対して1つの評価額を持ち、その評価額に基づいて入札を行います。

しかし、現実のオークションでは、同じ種類の商品が複数販売されることも少なくありません。例えば、国債、電力、排出権、クラウドコンピューティング資源などは、同一種類の商品が複数単位販売される代表的な例です。このようなオークションでは、入札者は1単位だけでなく、2単位、3単位と複数単位の商品を取得したいと考える場合があります。このように、同一種類の商品が複数販売されるオークションを同質財オークション(multi-unit auction)と呼びます。

同質財オークションでは、それぞれの商品は同一であるため、どの商品を取得したかを区別する必要はありません。その代わり、入札者にとって重要なのは何単位の商品を取得するかです。例えば、ある入札者は1単位取得するだけで十分かもしれませんが、別の入札者は5単位取得したいと考えるかもしれません。また、同じ入札者であっても、1単位目を取得する価値と、2単位目や3単位目を取得する価値が異なることもあります。したがって、同質財オークションでは、入札者の選好を表現するために、商品1個に対する評価額ではなく、取得数量に応じた評価を考える必要があります。本章では、このような同質財オークションを数学的に定式化します。まずプレイヤー集合と販売される商品の数量を定義し、続いて取得数量に対する評価関数および限界評価額を導入します。その後、オークションの結果、利得関数および環境を定義することで、同質財オークションの基本的なモデルを構築します。

同一種類の商品を複数個めぐって複数の買い手たちが入札を行うオークションを想定します。ただし、販売される商品はすべて同質であり、どの商品を取得したかを区別する必要はないものとします。それぞれの入札者は、商品を取得する数量に応じた評価額、すなわち各数量の商品を取得するために支払ってもよい金額を想定しています。取得数量に対する評価額は入札者ごとに異なりますが、これは入札者の私的情報であり、他の人たちはそれを事前に観察できません。以上のような資源配分問題を同質財オークション(multi-unit auction)と呼びます。

例(国債の販売)
政府が同一条件の国債を多数発行し、オークションによって販売しようとしています。それぞれの国債は同質であり、どの国債を取得したかを区別する必要はありません。複数の金融機関がおり、彼らはそれぞれ取得数量に応じた評価額を持っていますが、この評価額は各社の資金運用方針や投資計画に依存するため、それぞれの金融機関は、他の金融機関にとっての評価額を事前に観察することはできません。

例(電力の販売)
電力市場において、ある時間帯の電力がオークションによって取引されています。販売される電力は同質であり、どの単位の電力を取得したかを区別する必要はありません。複数の小売電気事業者がおり、彼らはそれぞれ取得数量に応じた評価額を持っていますが、この評価額は需要予測や調達計画に依存するため、それぞれの事業者は、他の事業者にとっての評価額を事前に観察することはできません。

例(排出権の販売)
政府が温室効果ガス排出枠をオークションによって販売しようとしています。販売される排出権はすべて同質であり、どの排出権を取得したかを区別する必要はありません。複数の企業がおり、彼らはそれぞれ取得数量に応じた評価額を持っていますが、この評価額は各社の生産計画や排出削減費用に依存するため、それぞれの企業は、他の企業にとっての評価額を事前に観察することはできません。

例(クラウドコンピューティング資源の販売)
クラウドサービス事業者が同一性能の計算資源(CPU時間や仮想マシンなど)を多数提供しようとしています。提供される資源は同質であり、どの計算資源を取得したかを区別する必要はありません。複数の利用者がおり、彼らはそれぞれ取得数量に応じた評価額を持っていますが、この評価額は各利用者の計算需要や事業計画に依存するため、それぞれの利用者は、他の利用者にとっての評価額を事前に観察することはできません。

例(広告インプレッションの販売)
Web広告プラットフォームが同一条件の広告インプレッションを多数販売しようとしています。それぞれの広告インプレッションは同質であり、どのインプレッションを取得したかを区別する必要はありません。複数の広告主がおり、彼らはそれぞれ取得数量に応じた評価額を持っていますが、この評価額は各社の広告戦略や期待される広告効果に依存するため、それぞれの広告主は、他の広告主にとっての評価額を事前に観察することはできません。

 

プレイヤー集合

同質財オークションをモデルとして定式化します。まずはプレイヤーの表現です。同質財オークションに参加するすべての入札者(bidder)からなる集合を入札者集合(bidder set)と呼び、これを\(I\)で表記します。特に、有限\(n\)人の入札者がオークションに参加する場合、入札者集合を、\begin{equation*}I=\left\{ 1,2,\cdots ,n\right\}
\end{equation*}と特定します。入札者集合\(I\)に属する\(i\ \left(=1,2,\cdots ,n\right) \)番目のプレイヤーを入札者\(i\)(bidder \(i\))と呼びます。\(i\in I\)です。

例(入札者集合)
問題としている同質財オークションに参加する入札者が\(3\)人であれば、入札者集合は、\begin{equation*}I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}となります。

商品の売り手をオークションのプレイヤーに含めるべきかどうかは重要な問題です。商品の所有者がオークションの主催者に商品の販売を委託する場合や、売り手自身がオークションを主催する場合などには、売り手をオークションのプレイヤーに含める必要はありません。一方、売り手もまた商品の販売希望額を提示するタイプのオークション(ダブルオークション)では、売り手もまた入札者とともにオークションのプレイヤーとみなした上で分析を行う必要があります。以降では、特に断りのない場合において、入札者だけをオークションのプレイヤーとみなした上で分析を行います。

 

商品数

同質財オークションでは販売される商品はすべて同質であり、その総数はあらかじめ決まっているものとします。この販売数量を商品数と呼び、\begin{equation*}
Q\in \mathbb{N} \end{equation*}と表記します。\(Q\)個の商品は分割不可能であるものとします。

それぞれの入札者は\(Q\)個の商品のうち、\(0\)個から\(Q\)個までの任意の個数の商品を取得できます。ある入札者が取得する商品の個数を一般に\(q\)と表すと、\begin{equation*}q\in \left\{ 0,1,\cdots ,Q\right\}
\end{equation*}が成り立ちます。

商品はすべて同質であるため、どの商品を取得したかは重要ではありません。重要なのは、何個の商品を取得したかという取得個数だけです。そのため、本章では個々の商品を区別せず、各入札者に配分された商品の個数によってオークションの結果を表現します。

 

評価関数(限界評価額)

単一財オークションでは、それぞれの入札者は販売される商品に対して1つの評価額を持っていました。一方、同質財オークションでは、入札者は複数個の商品を取得できるため、取得数量に応じて評価額が変化します。

同質財オークションにおいて、それぞれの入札者\(i\in I\)はそれぞれの個数\(q\in \left\{ 0,1,\cdots ,Q\right\} \)の商品に対して支払ってもよい金額を頭の中で想定しているものとします。そのような金額の最大値を\(q\)個の商品への評価額(valuation)や支払い意思額(willingness to pay)もしくはタイプ(type)などと呼び、\begin{equation*}\theta _{i}\left( q\right) \in \mathbb{R} \end{equation*}で表記します。つまり、入札者\(i\)は\(q\)個の商品に対して最大で\(\theta _{i}\left( q\right) \)まで支払ってもよいと考えているということです。

入札者\(i\)は商品の個数ごとに異なる評価額を持っているのであれば、そのような評価体系を関数\begin{equation*}\theta _{i}:\left\{ 0,1,\cdots ,Q\right\} \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}として表現できます。これを入札者\(i\)の評価関数(valuation function)と呼びます。つまり、評価関数\(\theta _{i}\)を持つ入札者\(i\)は、\(q\)個の商品に対して最大で\(\theta _{i}\left(q\right) \)まで支払ってもよいと考えているということです。

すべての入札者の評価関数からなる組を、\begin{equation*}
\theta _{I}=\left( \theta _{i}\right) _{i\in I}
\end{equation*}で表記し、これを評価関数プロファイル(profile of valuation functions)やタイププロファイル(type profile)などと呼びます。入札者\(i\)以外の入札者たちの評価関数からなる組を、\begin{equation*}\theta _{-i}=\left( \theta _{j}\right) _{j\in I\backslash \left\{ i\right\} }
\end{equation*}で表記します。\(\theta _{I}=\left(\theta _{i},\theta _{-i}\right) \)です。

例(評価関数)
入札者集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であり、商品数が、\begin{equation*}
Q=5
\end{equation*}であるものとします。それぞれの入札者によるそれぞれの個数への評価額が以下の表で与えられているものとします。

$$\begin{array}{ccccccc}
\hline
入札者\backslash 個数 & 0 & 1 & 2 & 3& 4 & 5 \\ \hline
1 & 0 & 100 & 180 & 240 & 280 & 300 \\ \hline
2 & 0 & 90 & 170 & 230 & 270 & 300 \\ \hline
3 & 0 & 70 & 130 & 180 & 220 & 250 \\ \hline
\end{array}$$

入札者\(1\)に注目すると、上の表は、\begin{eqnarray*}\theta _{1}\left( 0\right) &=&0 \\
\theta _{1}\left( 1\right) &=&100 \\
\theta _{1}\left( 2\right) &=&180 \\
\theta _{1}\left( 3\right) &=&240 \\
\theta _{1}\left( 4\right) &=&280 \\
\theta _{1}\left( 5\right) &=&300
\end{eqnarray*}であることを意味します。他の入札者についても同様です。

多くの場合、任意の入札者\(i\)の評価関数\(\theta_{i}:\left\{ 0,1,\cdots ,Q\right\} \rightarrow \mathbb{R} \)は以下の2つの条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \theta _{i}\left( 0\right) =0 \\
&&\left( b\right) \ \forall q\in \left\{ 1,\cdots ,Q\right\} :\theta
_{i}\left( q-1\right) \leq \theta _{i}\left( q\right)
\end{eqnarray*}を満たすものと仮定します。

条件\(\left( a\right) \)は、商品を落札しない(\(0\)個の商品)への評価額が\(0\)であることを意味しますが、これを標準化(normalization)の仮定と呼びます。

条件\(\left( b\right) \)は、得られる商品の個数が増えると評価額が単調に増加する(減少しない)ことを意味しますが、これを単調性(monotonicity)の仮定と呼びます。入札者は商品を1個多く受け取ったとしても、不要である場合には利用しなければよく、自由に処分できるため、商品を追加で受け取っても評価額は下がらないということです。そのような事情を踏まえた上で、条件\(\left( b\right) \)を無償廃棄の可能性(free disposal)と呼ぶこともあります。

入札者\(i\)の評価関数\(\theta_{i}\)が標準化と単調性の仮定を満たす場合、個数\(q\in \left\{ 0,1,\cdots ,Q\right\} \)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}\theta _{i}\left( q\right) &\geq &\theta _{i}\left( 0\right) \quad \because
\text{単調性} \\
&=&0\quad \because \text{標準化}
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
\theta _{i}\left( q\right) \geq 0
\end{equation*}を得ます。つまり、以上の仮定のもとでは、任意の個数への評価額が非負の実数になることが保証されます。

同質財オークションでは、商品を1個追加で取得することにより評価額がどれだけ増加するかが重要になります。そこで、入札者\(i\)による\(q\in \left\{ 1,\cdots,Q\right\} \)個目の商品に対する限界評価額(marginal value)を、評価関数\(\theta _{i}\)を用いて、\begin{equation*}m_{i}\left( q\right) =\theta _{i}\left( q\right) -\theta _{i}\left(
q-1\right)
\end{equation*}と定義します。

逆に、限界評価額\(m_{i}\)から評価関数\(\theta _{i}\)を特定することもできます。具体的には、個数\(q\in \left\{ 1,\cdots ,Q\right\} \)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}\theta _{i}\left( q\right) &=&\theta _{i}\left( q\right) -\theta _{i}\left(
q-1\right) +\theta _{i}\left( q-1\right) -\theta _{i}\left( q-2\right)
+\cdots +\theta _{i}\left( 1\right) -\theta _{i}\left( 0\right) \\
&=&m_{i}\left( q\right) +m_{i}\left( q-1\right) +\cdots +m_{i}\left(
1\right) \quad \because m_{i}\text{の定義} \\
&=&\sum_{k=1}^{q}m_{i}\left( k\right)
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
\theta _{i}\left( q\right) =\sum_{k=1}^{q}m_{i}\left( k\right)
\end{equation*}を得ます。

多くの場合、商品の所得数量が増えるにつれて追加1個あたりの価値は低下するものと考えられます。つまり、\begin{equation*}
m_{i}\left( 1\right) \geq m_{i}\left( 2\right) \geq \cdots \geq m_{i}\left(
Q\right)
\end{equation*}が成り立つということです。この性質を限界評価額低減(diminishing marginal value)と呼びます。ただし、これは仮定であり、同質財オークションの定義そのものには含まれません。

例(限界評価額)
入札者集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であり、商品数が、\begin{equation*}
Q=5
\end{equation*}であるものとします。それぞれの入札者によるそれぞれの個数への評価額が以下の表で与えられているものとします。

$$\begin{array}{ccccccc}
\hline
入札者\backslash 個数 & 0 & 1 & 2 & 3& 4 & 5 \\ \hline
1 & 0 & 100 & 180 & 240 & 280 & 300 \\ \hline
2 & 0 & 90 & 170 & 230 & 270 & 300 \\ \hline
3 & 0 & 70 & 130 & 180 & 220 & 250 \\ \hline
\end{array}$$

この場合、限界評価額は以下のようになります。

$$\begin{array}{cccccc}
\hline
入札者\backslash 個数 & 1 & 2 & 3 & 4& 5 \\ \hline
1 & 100 & 80 & 60 & 40 & 20 \\ \hline
2 & 90 & 80 & 60 & 40 & 30 \\ \hline
3 & 70 & 60 & 50 & 40 & 30 \\ \hline
\end{array}$$

 

オークションの結果

同質財オークションにおいて起こり得る結果を記述するためには、それぞれの入札者が入手する商品数と、入札者に課される所得移転(落札した商品への支払い額など)をそれぞれ特定する必要があります。以降で順番に解説します。

同質財オークションを行った結果として商品がどのような形で入札者たちの間に配分されるかを特定する情報を配分(allocation)と呼びます。具体的には、入札者集合\(I\)と商品数\(Q\)が与えられたとき、個々の配分は以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i\in I:0\leq a_{i}\leq Q \\
&&\left( b\right) \ \sum_{i\in I}a_{i}\leq Q
\end{eqnarray*}を満たす組\begin{equation*}
a_{I}=\left( a_{i}\right) _{i\in I}
\end{equation*}として定義されます。ただし、配分\(a_{I}\)の成分である\(a_{i}\)は、\(a_{I}\)のもとで入札者\(i\)が得る商品の個数です。

条件\(\left( a\right) \)は、配分\(a_{I}\)においてそれぞれの入札者\(i\)が入手する商品の個数が\(0\)以上\(Q\)以下であることを意味します。条件\(\left( b\right) \)は、配分\(a_{I}\)においてすべての入札者が得る商品の総数が\(Q\)以下であることを意味します。したがって、配分\(a_{I}\)において売れ残る商品の個数は、\begin{equation*}Q-\sum_{i\in I}a_{i}
\end{equation*}です。

組\(a_{I}\)が配分である場合、すなわち\(a_{I}\)が以上の条件を満たす場合、\(a_{I}\)を実行することが物理的に可能です。そのようなこともあり、配分のことを実現可能な配分(feasible allocation)と呼ぶこともあります。すべての配分からなる集合を、\begin{equation*}A
\end{equation*}で表記し、これを配分集合(allocation set)と呼びます。\(a_{I}\in A\)です。

例(配分)
入札者集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であり、商品数が、\begin{equation*}
Q=5
\end{equation*}であるものとします。入札者\(1\)がすべての商品を入手するという配分は、\begin{equation*}\left( a_{1},a_{2},a_{3}\right) =\left( 5,0,0\right)
\end{equation*}です。また、入札者\(1\)と入札者\(2\)が商品を\(2\)個ずつ入手し、入札者\(3\)が商品を\(1\)個入手するという配分は、\begin{equation*}\left( a_{1},a_{2},a_{3}\right) =\left( 2,2,1\right)
\end{equation*}です。また、入札者\(3\)だけが商品を\(3\)個入手するという配分は、\begin{equation*}\left( a_{1},a_{2},a_{3}\right) =\left( 0,0,3\right)
\end{equation*}です。

同質財オークションを行った結果として入札者たちに課される所得移転を特定する情報を所得移転(transfer)と呼びます。具体的には、入札者集合\(I\)が与えられたとき、個々の所得移転は以下の条件\begin{equation*}\forall i\in I:t_{i}\in \mathbb{R} \end{equation*}を満たす組\begin{equation*}
t_{I}=\left( t_{i}\right) _{i\in I}
\end{equation*}として定義されます。ただし、\(t_{I}\)の成分である\(t_{i}\)は、\(t_{I}\)のもとで入札者\(i\)に課される所得移転であり、上の条件より、これは任意の実数を値としてとり得るとともに、\begin{eqnarray*}t_{i} &>&0\Leftrightarrow \text{入札者}i\text{は}t_{i}\text{だけ支払う} \\
t_{i} &<&0\Leftrightarrow \text{入札者}i\text{は}t_{i}\text{だけ受け取る} \\
t_{i} &=&0\Leftrightarrow \text{入札者}i\text{の収支は均衡}
\end{eqnarray*}と解釈されます。後の章で扱う一般的なオークションも表現できるよう、入札者が所得を受け取る可能性を許容する形で所得移転を定義しています。

所得移転\(t_{I}\)が与えられたとき、すべての入札者による所得移転の総和\begin{equation*}\sum_{i\in I}t_{i}
\end{equation*}をとると、これはオークションの主催者に課される所得移転に相当します。つまり、\begin{eqnarray*}
\sum_{i\in I}t_{i} &>&0\Leftrightarrow \text{主催者の収支は黒字} \\
\sum_{i\in I}t_{i} &<&0\Leftrightarrow \text{主催者の収支は赤字} \\
\sum_{i\in I}t_{i} &=&0\Leftrightarrow \text{主催者の収支は均衡}
\end{eqnarray*}という関係が成り立ちます。

任意の入札者\(i\in I\)に課される所得移転は\(t_{i}\in \mathbb{R} \)を満たすため、所得移転\(t_{I}\)は\(\mathbb{R} ^{n}\)の点として表現されます。起こり得るすべての所得移転からなる集合\begin{equation*}\mathbb{R} ^{n}\end{equation*}を所得移転集合(transfer set)と呼びます。\(t_{I}\in \mathbb{R} ^{n}\)です。

例(所得移転)
入札者集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であるとき、入札者\(1\)だけが\(100\)を支払うという所得移転は、\begin{equation*}\left( t_{1},t_{2},t_{3}\right) =\left( 100,0,0\right)
\end{equation*}と表現されます。以上の所得移転のもとでオークションの主催者が直面する所得移転は、\begin{eqnarray*}
t_{1}+t_{2}+t_{3} &=&100+0+0 \\
&=&100
\end{eqnarray*}となります。つまり、主催者は収入\(100\)を得るということです。

同質財オークションにおける結果(outcome)とは、配分と所得移転の組\begin{equation*}
\left( a_{I},t_{I}\right)
\end{equation*}として定義されます。オークション理論では、誰がどの商品を受け取るかだけでは結果は決まりません。同じ配分であっても支払額が異なれば参加者の評価は変わるため、配分と所得移転をあわせたものを結果として定義します。

結果\(\left( a_{I},t_{I}\right) \)において、入札者\(i\)は\(a_{i}\)個の商品を入手する対価として所得移転\(t_{i}\)が課されます。また、売れ残る商品の個数は、\begin{equation*}Q-\sum_{i\in I}a_{i}
\end{equation*}であり、オークションの主催者に課される所得移転は、\begin{equation*}
\sum_{i\in I}t_{i}
\end{equation*}となります。起こり得るすべての結果からなる集合\begin{equation*}
A\times \mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}を結果集合(outcome set)と呼びます。\(\left( a_{I},t_{I}\right)\in A\times \mathbb{R} ^{n}\)です。

例(結果)
入札者集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であり、商品数が、\begin{equation*}
Q=5
\end{equation*}であるものとします。入札者\(1\)が商品を\(3\)個入手する対価として\(150\)だけ支払い、入札者\(2\)が商品を\(2\)個入手する対価として\(100\)だけ支払い、入札者\(3\)には所得移転が課されない場合、そのような結果は、\begin{equation*}\left( a_{1},a_{2},a_{3},t_{1},t_{2},t_{3}\right) =\left(
3,2,0,150,100,0\right)
\end{equation*}と表記されます。以上の結果において売れ残る商品の個数は、\begin{equation*}
5-\left( 3+2+0\right) =0
\end{equation*}であり、オークションの主催者が直面する所得移転は、\begin{eqnarray*}
t_{1}+t_{2}+t_{3} &=&150+100+0 \\
&=&250
\end{eqnarray*}となります。つまり、商品は売れ残らず、主催者は収入\(250\)を得るということです。

 

利得関数

それぞれの入札者\(i\)は評価関数\(\theta _{i}:\left\{ 0,1,\cdots ,Q\right\}\rightarrow \mathbb{R} \)を持っていますが、同質財オークションにおいて起こり得る帰結が結果\(\left( a_{I},t_{I}\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)として表現されることを踏まえると、入札者\(i\)は評価関数\(\theta _{i}\)だけでなく、結果どうしを比較する評価体系を持っていなければ、オークションにおいて起こり得る帰結を評価できないことになってしまいます。そこで、それぞれの入札者\(i\)は結果集合\(A\times \mathbb{R} ^{n}\)上に定義された関数\begin{equation*}u_{i}:A\times \mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}を持っているものとし、これを入札者\(i\)の利得関数(payoff function)と呼びます。また、利得関数\(u_{i}\)が結果\(\left(a_{I},t_{I}\right) \in A\times \mathbb{R} ^{n}\)に対して定める値\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I}\right) \in \mathbb{R} \end{equation*}を、入札者\(i\)が結果\(\left(a_{I},t_{I}\right) \)から得る利得(payoff)と呼びます。その上で、2つの結果\(x,y\in A\times \mathbb{R} ^{n}\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}u_{i}\left( x\right) &\geq &u_{i}\left( y\right) \Leftrightarrow \text{入札者}i\text{は}x\text{を}y\text{以上に好む} \\
u_{i}\left( x\right) &>&u_{i}\left( y\right) \Leftrightarrow \text{入札者}i\text{は}x\text{を}y\text{よりも好む} \\
u_{i}\left( x\right) &=&u_{i}\left( y\right) \Leftrightarrow \text{入札者}i\text{は}x\text{を}y\text{と同じ程度好む}
\end{eqnarray*}を満たすものとして\(u_{i}\)は定義されます。つまり、利得関数を用いれば、結果どうしの相対的な望ましさを、結果がもたらす利得の大小関係として表現できるということです。

例(利得関数)
入札者\(i\)は、自身に配分される商品の個数が同じであれば、自身に課される支払額が少ないほど望ましいものと考えているものとします。また、他の入札者たちが直面する配分や所得移転には無関心であるものとします。この場合、\(a_{i}=a_{i}^{\prime }\)を満たす任意の配分\(a_{I},a_{I}^{\prime}\)と\(t_{i}<t_{i}^{\prime }\)を満たす任意の所得移転\(t_{I},t_{I}^{\prime }\)に対して、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I}\right) >u_{i}\left( a_{I}^{\prime },t_{I}^{\prime
}\right)
\end{equation*}が成り立ちます。

例(利得関数)
入札者\(i\)は、自身に配分される商品の個数が多いほど望ましいものとし、支払額には無関心であるものとします。また、他の入札者たちが直面する配分や所得移転には無関心であるものとします。この場合、\(a_{i}>a_{i}^{\prime }\)を満たす任意の配分\(a_{I},a_{I}^{\prime }\)と任意の所得移転\(t_{I},t_{I}^{\prime}\)に対して、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I}\right) >u_{i}\left( a_{I}^{\prime },t_{I}^{\prime
}\right)
\end{equation*}が成り立ちます。

例(利得関数)
入札者\(i\)は、競合する入札者\(j\)に商品が配分されないことを望ましいと考えており、支払額には無関心であるものとします。この場合、\(a_{j}>a_{j}^{\prime }\)を満たす任意の配分\(a_{I},a_{I}^{\prime }\)と任意の所得移転\(t_{I},t_{I}^{\prime }\)に対して、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I}\right) <u_{i}\left( a_{I}^{\prime },t_{I}^{\prime
}\right)
\end{equation*}が成り立ちます。

一般に、入札者\(i\)の利得関数\(u_{i}\)の形状は自身の評価関数\(\theta _{i}\)に依存して変化します。実際、入札者\(i\)が商品の追加的な取得を高く評価する場合には、より多くの商品が配分される結果を好むと考えるのが自然です。一方、商品の追加的な取得をほとんど評価しない場合には、自身に多くの商品が配分される結果を必ずしも望ましいとは考えません。このような事情を踏まえると、入札者\(i\)の利得関数\(u_{i}\)は自身の評価関数\(\theta _{i}\)に依存して変化するという意味を込めて、\begin{equation*}u_{i}\left( \cdot ,\theta _{i}\right)
\end{equation*}と表記すべきです。

ただ、入札者\(i\)の利得関数\(u_{i}\)は、自身の評価関数\(\theta _{i}\)だけに依存するのではなく、他の入札者たちの評価関数\(\theta _{-i}\)に依存する状況も起こり得ます。例えば、入札者\(i\)が落札した商品を転売することを見越した上でオークションに参加する場合、他の入札者たちの評価関数は商品の転売価格に影響を与えるため、その結果として入札者\(i\)の利得にも影響を及ぼします。このような事情を踏まえると、入札者\(i\)の利得関数\(u_{i}\)は自身の評価関数\(\theta _{i}\)だけでなく、他の入札者たちの評価関数\(\theta _{-i}\)にも依存して変化するという意味を込めて、\begin{equation*}u_{i}\left( \cdot ,\theta _{i},\theta _{-i}\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
u_{i}\left( \cdot ,\theta _{I}\right)
\end{equation*}と表記すべきです。

 

環境

同質財オークションを表現するモデルの要素は以上ですべてです。つまり、同質財オークションを描写するためには、そこに参加する入札者からなる集合\(I\)、商品の個数\(Q\)、それぞれの入札者\(i\in I\)の評価関数\(\theta _{i}:\left\{ 0,1,\cdots ,Q\right\} \rightarrow \mathbb{R} \)、結果集合\(A\times \mathbb{R} ^{n}\)、それぞれの入札者\(i\)の利得関数\(u_{i}\left( \cdot ,\theta_{I}\right) :A\times \mathbb{R} ^{n}\rightarrow \mathbb{R} \)を特定することになります。以上の要素からなるモデルを、\begin{equation*}\left( I,Q,\left\{ \theta _{i}\right\} _{i\in I},A\times \mathbb{R} ^{n},\left\{ u_{i}\left( \cdot ,\theta _{I}\right) \right\} _{i\in I}\right)
\end{equation*}と表記し、これによって同質財オークションの定義とします。このようなモデルを環境(environment)と呼ぶこともあります。

以上で同質財オークションを表現するための一般的な環境を定義しました。この段階では評価関数や利得関数の形状について特別な仮定を設けていません。以降では分析対象に応じて適切な仮定を追加した上で、同質財オークションを具体的に分析していきます。

 

演習問題

問題(評価関数)
商品数が、\begin{equation*}
Q=4
\end{equation*}であるとともに、入札者\(i\)の評価関数\(\theta _{i}\)が、\begin{eqnarray*}\theta _{i}\left( 0\right) &=&0 \\
\theta _{i}\left( 1\right) &=&30 \\
\theta _{i}\left( 2\right) &=&55 \\
\theta _{i}\left( 3\right) &=&70 \\
\theta _{i}\left( 4\right) &=&80
\end{eqnarray*}を満たすものとします。以下の問いに答えてください。

  1. 単調性は成り立つでしょうか。
  2. 限界評価額は逓減しているでしょうか。
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問題(配分)
入札者集合は、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であり、商品数が、\begin{equation*}
Q=6
\end{equation*}であるものとします。以下が配分であるか判定してください。

  1. \(\left( a_{1},a_{2},a_{3}\right) =\left( 3,2,1\right) \)
  2. \(\left( a_{1},a_{2},a_{3}\right) =\left( 4,3,0\right) \)
  3. \(\left( a_{1},a_{2},a_{3}\right) =\left( -1,4,2\right) \)
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問題(結果)
入札者集合は、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であり、商品数が、\begin{equation*}
Q=5
\end{equation*}であるものとします。以下の配分\begin{equation*}
\left( a_{1},a_{2},a_{3},t_{1},t_{2},t_{3}\right) =\left(
2,2,1,100,120,80\right)
\end{equation*}のもとでの売れ残り個数と主催者収入を求めてください。

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問題(総合問題)
入札者集合は、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であり、商品数が、\begin{equation*}
Q=4
\end{equation*}であるものとします。それぞれの入札者の評価関数が以下の表で与えられるものとします。

$$\begin{array}{cccccc}
\hline
入札者\backslash 個数 & 0 & 1 & 2 & 3& 4 \\ \hline
1 & 0 & 90 & 160 & 210 & 240 \\ \hline
2 & 0 & 80 & 150 & 210 & 260 \\ \hline
3 & 0 & 70 & 130 & 180 & 220 \\ \hline
\end{array}$$

あるオークションの結果として以下の結果\begin{equation*}
\left( a_{I},t_{I}\right) =\left( 2,1,1,120,60,40\right)
\end{equation*}が実現したものとします。なお、すべての入札者\(i\)の利得関数は、\begin{equation*}u_{i}\left( a_{I},t_{I}\right) =\theta _{i}\left( a_{i}\right) -t_{i}
\end{equation*}で与えられるものとします。以下の問いに答えてください。

  1. それぞれの入札者の限界評価額を求めてください。
  2. 売れ残る商品の個数を求めてください。
  3. オークションの主催者が受け取る所得移転を求めてください。
  4. それぞれの入札者の利得を求めてください。
  5. 入札者\(1\)への配分を\(3\)個に変更し、その代わりに入札者\(2\)への配分を\(0\)個に変更したとします。所得移転は変更しません。このとき、それぞれの入札者の利得を求め、もとの結果と比べて誰の利得が変化するかを答えてください。
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