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積分形式の包絡面定理

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価値関数

変数\(x\in X\)とパラメータ\(t\in T\)に関する関数\begin{equation*}f:X\times T\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が与えられている状況を想定します。パラメータの値\(t\)を適当に選んだ上で関数\(f\)に代入すると、変数\(x\)に関する関数\begin{equation*}f\left( \cdot ,t\right) :X\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が得られるため、この関数を目的関数とする最大化問題\begin{equation}
\sup_{x\in X}f\left( \cdot ,t\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}を定義できます。

パラメータ\(t\)の値が変化すれば目的関数\(f\left(\cdot ,t\right) \)の形状も変化するため、それに応じて最大化問題\(\left( 1\right) \)の解\(x\)も変化し、その解のもとでの関数\(f\left( \cdot,t\right) \)の値、すなわち\(f\left(\cdot ,t\right) \)の上限も変化します。関数\(f\left( \cdot ,t\right) \)が定義域\(X\)上で上に有界である場合には\(\left( 1\right) \)は有限な実数として定まる一方、\(f\left( \cdot ,t\right) \)が上に有界ではない場合には\(\left( 1\right) \)は有限な実数として定まらず、その場合には\(\left(1\right) \)の値を\(+\infty \)と定めます。そこで、それぞれの値\(t\in T\)に対して、\begin{equation*}V\left( t\right) =\sup_{x\in X}f\left( \cdot ,t\right)
\end{equation*}を値として定める拡大実数値関数\begin{equation*}
V:T\rightarrow \overline{\mathbb{R} }
\end{equation*}を定義し、これを価値関数(value function)や包絡面関数(envelope plane function)などと呼びます。

パラメータのそれぞれの値\(t\in T\)に対して、関数\(f\left( \cdot ,t\right) \)を目的関数とする最大化問題\begin{equation*}\sup_{x\in X}f\left( \cdot ,t\right)
\end{equation*}の解は存在するとは限らず、存在する場合でも一意的に定まるとは限りません。そこで、それぞれの値\(t\in T\)に対して、関数\(f\left( \cdot ,t\right) \)を目的関数とする最大化問題の解からなる集合\begin{equation*}X^{\ast }\left( t\right) =\mathrm{argsup}_{x\in X}f\left( x,t\right)
\end{equation*}を像として定める対応\begin{equation*}
X^{\ast }:T\twoheadrightarrow X
\end{equation*}を定義し、これを最適選択対応(optimal choice correspondence)と呼びます。価値関数の定義より、それぞれの\(t\in T\)に対して、以下の関係\begin{equation*}X^{\ast }\left( t\right) =\left\{ x\in X\ |\ f\left( x,t\right) =V\left(
t\right) \right\}
\end{equation*}もまた成り立ちます。特に、\(V\left( t\right) =+\infty \)である場合には\(t\)のもとでの最大化問題に解が存在しないことを意味するため、\begin{equation*}X^{\ast }\left( t\right) =\phi
\end{equation*}となります。

パラメータの値\(t\in T\)を任意に選んだときに、関数\(f\left( \cdot ,t\right) \)を目的関数とする最大化問題\begin{equation*}\sup_{x\in X}f\left( \cdot ,t\right)
\end{equation*}に解が存在することが保証される場合には、すなわち、\begin{equation}
\forall t\in T:X^{\ast }\left( t\right) \not=\phi \quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立つ場合には、それぞれの\(t\in T\)に対して\(X^{\ast }\left( t\right) \)の何らかの要素\begin{equation*}x^{\ast }\left( t\right) \in X^{\ast }\left( t\right)
\end{equation*}を1つずつ選び取る写像\begin{equation*}
x^{\ast }:T\rightarrow X
\end{equation*}が定義可能であるため、これを\(X^{\ast }\)からの選択子(selection)と呼びます。定義より、以下の関係\begin{equation*}\forall t\in T:x^{\ast }\left( t\right) \in X^{\ast }\left( t\right)
\end{equation*}が成り立ちます。\(\left(2\right) \)が成り立つ場合には価値関数は実数値関数\begin{equation*}V:T\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}になるとともに、以下の関係\begin{equation*}
\forall t\in T:f\left( x^{\ast }\left( t\right) ,t\right) =V\left( t\right)
\end{equation*}が成り立ちます。

 

包絡面定理

以降では、パラメータ集合が有界閉区間\begin{equation*}
T=\left[ a,b\right] \subset \mathbb{R} \end{equation*}である状況を想定します。関数\(f:X\times \left[ a,b\right]\rightarrow \mathbb{R} \)が与えられたとき、パラメータの値\(t\in \left[ a,b\right] \)を選べば最大化問題\begin{equation*}\sup_{x\in X}f\left( \cdot ,t\right)
\end{equation*}を構成できます。この問題の価値関数を\(V:\left[ a,b\right] \rightarrow \overline{\mathbb{R} }\)で表記します。最大化問題を解けば価値関数の値\begin{equation*}V\left( t\right) =\sup_{x\in X}f\left( \cdot ,t\right)
\end{equation*}が判明しますが、場合によっては、パラメータ\(t\)の値が変化したときに\(V\left( t\right) \)の値がどのように変化するかを知りたい状況は起こり得ます。つまり、\(V\)の導関数\(\frac{dV\left( t\right) }{dt}\)や、特定のパラメータ水準\(t=t_{0}\)における\(V\)の微分係数\(\frac{dV\left( t_{0}\right) }{dt}\)に興味がある状況が起こり得ます。この疑問に答えるのが以下の包絡面定理(envelope theorem)です。

命題(包絡面地理)
関数\(f:X\times \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が与えられたとき、最適選択対応\(X^{\ast }:\left[ a,b\right]\twoheadrightarrow X\)は点\(t_{0}\in \left[ a,b\right] \)において\(X^{\ast }\left( t_{0}\right) \not=\phi \)を満たすものとする。\(X^{\ast }\)の選択子\(x^{\ast }:\left[ a,b\right]\rightarrow X\)を任意に選んだとき、変数\(t\)に関する関数\(f\left( x^{\ast }\left( t_{0}\right) ,t\right) :\left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が点\(t_{0}\)において微分可能であるものとする。その上で、微分係数を、\begin{equation*}f_{t}^{\prime }\left( x^{\ast }\left( t_{0}\right) ,t_{0}\right) =\left.
\frac{df\left( x^{\ast }\left( t_{0}\right) ,t\right) }{dt}\right\vert
_{t=t_{0}}
\end{equation*}と表記する。このとき、価値関数\(V:\left[ a,b\right]\rightarrow \mathbb{R} \)に関して以下が成り立つ。

  1. \(t_{0}\in (a,b]\)であるとともに\(V\)が点\(t_{0}\)において左側微分可能である場合には、\begin{equation*}V^{\prime }\left( t_{0}-0\right) \leq f_{t}^{\prime }\left( x^{\ast }\left(t_{0}\right) ,t_{0}\right)
    \end{equation*}が成り立つ。ただし、\(V^{\prime }\left( t_{0}-0\right) \)は関数\(V\)の点\(t_{0}\)における左側微分係数である。
  2. \(t_{0}\in \lbrack a,b)\)であるとともに\(V\)が点\(t_{0}\)において右側微分可能である場合には、\begin{equation*}V^{\prime }\left( t_{0}+0\right) \geq f_{t}^{\prime }\left( x^{\ast }\left(t_{0}\right) ,t_{0}\right)
    \end{equation*}が成り立つ。ただし、\(V^{\prime }\left( t_{0}+0\right) \)は関数\(V\)の点\(t_{0}\)における右側微分係数である。
  3. \(t_{0}\in \left( a,b\right) \)であるとともに\(V\)が点\(t_{0}\)において微分可能である場合には、\begin{equation*}V^{\prime }\left( t_{0}\right) =f_{t}^{\prime }\left( x^{\ast }\left(t_{0}\right) ,t_{0}\right)
    \end{equation*}が成り立つ。ただし、\(V^{\prime }\left( t_{0}\right) \)は関数\(V\)の点\(t_{0}\)における微分係数である。
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積分形式で表現された価値関数

有界閉区間\(\left[ a,b\right] \subset \mathbb{R} \)が与えられたとき、それに対して以下の3つの条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ n\in \mathbb{N} \\
&&\left( b\right) \ \forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :a\leq
a_{i}<b_{i}\leq b \\
&&\left( c\right) \ \forall i,j\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :\left(
i\not=j\Rightarrow \left[ a_{i},b_{i}\right] \cap \left[ a_{j},b_{j}\right] =\phi \right)
\end{eqnarray*}を満たす集合族\begin{equation*}
\left\{ \left[ a_{i},b_{i}\right] \right\} _{i=1}^{n}
\end{equation*}に注目します。つまり、この集合族は有限個の要素を持ち、個々の要素は区間\(\left[ a,b\right] \)の部分集合であるような正の長さを持つ有界閉区間であり、なおかつ、それらの閉区間どうしは互いに素です。簡潔に表現すると、\(\left\{ \left[ a_{i},b_{i}\right] \right\} _{i=1}^{n}\)は互いに素な有界閉区間からなる\(\left[ a,b\right] \)の有限部分集合族です。

以上を踏まえた上で、価値関数\(V:\left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が以下の条件\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall \left( a\right) ,\left(
b\right) ,\left( c\right) \text{を満たす}\left\{ \left[ a_{i},b_{i}\right] \right\} _{i=1}^{n}:\left[ \sum_{i=1}^{n}\left(
b_{i}-a_{i}\right) <\delta \Rightarrow \sum_{i=1}^{n}\left\vert V\left(
b_{i}\right) -V\left( a_{i}\right) \right\vert <\varepsilon \right] \end{equation*}を満たす場合には、\(V\)は絶対連続(absolutely continuous)であると言います。つまり、どれほど小さい\(\varepsilon >0\)を選んだ場合でも、それに対して何らかの\(\delta >0\)を選ぶことにより、以下の4つの条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ n\in \mathbb{N} \\
&&\left( b\right) \ \forall i\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :a\leq
a_{i}<b_{i}\leq b \\
&&\left( c\right) \ \forall i,j\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :\left(
i\not=j\Rightarrow \left[ a_{i},b_{i}\right] \cap \left[ a_{j},b_{j}\right] =\phi \right) \\
&&\left( d\right) \ \sum_{i=1}^{n}\left( b_{i}-a_{i}\right) <\delta
\end{eqnarray*}を満たす任意の閉区間族\(\left\{ \left[ a_{i},b_{i}\right] \right\} _{i=1}^{n}\)について、\begin{equation*}\sum_{i=1}^{n}\left\vert V\left( b_{i}\right) -V\left( a_{i}\right)
\right\vert <\varepsilon
\end{equation*}が成り立つことを保証できるということです。

関数\(V:\left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が\(\left[ a,b\right] \)上において絶対連続である場合、\(V\)は\(\left( a,b\right) \)上のほとんどいたるところで微分可能です。さらに、関数\(F\)の導関数\(F^{\prime }\)の定義域を\(\left[ a,b\right] \)に拡張したとき、以下の関係\begin{equation*}\int_{a}^{b}V^{\prime }\left( t\right) dt=V\left( b\right) -V\left( a\right)
\end{equation*}が成り立ちます(ルベーグ積分に関する微分積分学の第2基本定理)。

価値関数が絶対連続であることを仮定すると、先に示した包絡面定理より、価値関数を以下のような積分形式で表現できることが明らかになります。

命題(積分形式で表現された価値関数)
関数\(f:X\times \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が与えられたとき、最適選択対応\(X^{\ast }:\left[ a,b\right]\twoheadrightarrow X\)はほとんどすべての点\(s\in \left[ a,b\right] \)において\(X^{\ast }\left( s\right) \not=\phi \)を満たすものとする。また、\(x\in X\)を任意に選んだとき、関数\(f\left( x,\cdot \right) :\left[ a,b\right]\rightarrow \mathbb{R} \)は変数\(t\)について微分可能であるものとする。さらに、価値関数\(V:\left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)は絶対連続であるものとする。この場合、\(X^{\ast }\)の選択子\(x^{\ast }\)と点\(t\in \left[ a,b\right] \)をそれぞれ任意に選んだとき、以下の関係\begin{equation*}V\left( t\right) =V\left( a\right) +\int_{a}^{t}f_{t}\left( x^{\ast }\left(
s\right) ,s\right) dx
\end{equation*}が成り立つ。

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価値関数が絶対連続であるための条件

価値関数を積分形式で表現するためには絶対関数が絶対連続であることを保証する必要があります。では、価値関数はどのような条件のもとで絶対連続になるのでしょうか。以下の命題が答えを与えます。

命題(価値関数が絶対連続であるための条件)
関数\(f:X\times \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が与えられたとき、任意の点\(x\in X\)について関数\(f\left( x,\cdot \right) :\left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)は絶対連続であるものとする。加えて、積分可能な関数\(h:\left[ a,b\right]\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が存在して、任意の点\(x\in X\)とほとんどすべての点\(t\in \left[ a,b\right] \)において、\begin{equation*}\left\vert f_{t}\left( x,t\right) \right\vert \leq h\left( t\right)
\end{equation*}が成り立つものとする。以上の条件のもとでは価値関数\(V:\left[ a,b\right]\rightarrow \mathbb{R} \)は絶対連続になる。
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積分形式の包絡面定理

価値関数が絶対連続であれば積分形式で表現可能であること、および価値関数が絶対連続になるため条件が明らかになりました。以上の2つの命題を総合すると以下を得ます。これを積分形式の包絡面定理(integral form envelope theorem)と呼びます。

命題(積分形式の包絡面定理)
関数\(f:X\times \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が与えられたとき、任意の点\(x\in X\)について関数\(f\left( x,\cdot \right) :\left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)は絶対連続であるとともに変数\(t\)について微分可能であるものとする。また、積分可能な関数\(h:\left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が存在して、任意の点\(x\in X\)とほとんどすべての点\(t\in \left[ a,b\right] \)において、\begin{equation*}\left\vert f_{t}\left( x,t\right) \right\vert \leq h\left( t\right)
\end{equation*}が成り立つものとする。さらに、最適選択対応\(X^{\ast }:\left[ a,b\right] \twoheadrightarrow X\)はほとんどすべての点\(s\in \left[ a,b\right] \)において\(X^{\ast}\left( s\right) \not=\phi \)を満たすものとする。この場合、\(X^{\ast }\)の選択子\(x^{\ast }\)と点\(t\in \left[ a,b\right] \)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}V\left( t\right) =V\left( a\right) +\int_{a}^{t}f_{t}\left( x^{\ast }\left(
s\right) ,s\right) dx
\end{equation*}という関係が成り立つ。

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