部分ゲーム完全均衡を導入する動機
問題としている戦略的状況が完備情報の動学ゲームであるとともに、それが展開型ゲーム\begin{equation*}
\Gamma =\left( I\cup \left\{ 0\right\} ,A,X,>,a,\mathcal{H},i,p,\left\{
u_{i}\right\} _{i\in I}\right)
\end{equation*}として記述されているものとします。ただし、\(I\cup \left\{ 0\right\} \)は自然に相当するプレイヤー\(0\)を含めたプレイヤー集合、\(A\)は行動集合、\(\left( X,>\right) \)はゲームの木、\(a:X\backslash \left\{ x_{0}\right\} \rightarrow A\)はそれぞれの手番へ到達する直前に選択される行動を特定する写像、\(\mathcal{H}\)は情報分割、\(i:\mathcal{H}\rightarrow I\cup \left\{ 0\right\} \)はそれぞれの情報集合において意思決定を行うプレイヤーを特定する写像、\(p:\mathcal{H}_{0}\times A\rightarrow \left[0,1\right] \)は自然による意思決定を記述する確率分布、\(u_{i}:Z\rightarrow \mathbb{R} \)はプレイヤー\(i\)の利得関数です。
展開型ゲーム\(\Gamma \)におけるプレイヤー\(i\)の純粋戦略とは、ゲームにおいて彼が直面し得るそれぞれの情報集合\(H\in \mathcal{H}_{i}\)に対して、そこで彼が選択する行動\(s_{i}\left( H\right) \in A_{i}\)を1つずつ指定する写像\begin{equation*}s_{i}:\mathcal{H}_{i}\rightarrow A_{i}
\end{equation*}として定式化されます。展開型ゲーム\(\Gamma \)においてプレイヤーたちが純粋戦略を採用する状況を想定し、その戦略的状況を\(\Gamma \)の戦略型\begin{equation*}G\left( \Gamma \right) =\left( I,\left\{ S_{i}\right\} _{i\in I},\left\{
U_{i}\right\} _{i\in I}\right)
\end{equation*}として記述します。ただし、\(I\)はプレイヤー集合、\(S_{i}\)はプレイヤー\(i\)の純粋戦略集合、\(U_{i}:S_{I}\rightarrow \mathbb{R} \)はプレイヤー\(i\)の期待利得関数です。
展開型ゲーム\(\Gamma \)においてプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略\(s_{i}^{\ast }\in S_{i}\)が他のプレイヤーたちの純粋戦略の組\(s_{-i}\in S_{-i}\)に対する広義の最適反応であることとは、\(\Gamma \)の戦略型\(G\left( \Gamma \right) \)において、\begin{equation*}\forall s_{i}\in S_{i}:U_{i}\left( s_{i}^{\ast },s_{-i}\right) \geq
U_{i}\left( s_{i},s_{-i}\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。また、プレイヤーたちの純粋戦略の組\(s_{I}^{\ast }=\left( s_{i}^{\ast }\right)_{i\in I}\)が展開型ゲーム\(\Gamma \)における広義の純粋戦略ナッシュ均衡であることとは、それぞれのプレイヤー\(i\)の純粋戦略\(s_{i}^{\ast }\)が他のプレイヤーたちの純粋戦略の組\(s_{-i}^{\ast }\)に対する広義の最適反応になっていること、すなわち、\(\Gamma \)の戦略型\(G\left( \Gamma \right) \)において、\begin{equation*}\forall i\in I,\ \forall s_{i}\in S_{i}:U_{i}\left( s_{i}^{\ast
},s_{-i}^{\ast }\right) \geq U_{i}\left( s_{i},s_{-i}^{\ast }\right)
\end{equation*}が成立していることを意味します。
展開型ゲームにおける均衡概念として純粋戦略ナッシュ均衡を採用する場合、信憑性のない脅しを均衡戦略として含む均衡を排除できるとは限りません。信憑性のない脅しは非現実的であるため、信憑性のない脅しを均衡戦略として含む均衡もまた非現実的です。展開型ゲームにおける均衡概念として、純粋戦略ナッシュ均衡には改善の余地があります。
ただし、プレイヤー\(1\)は新規企業であり、プレイヤー\(2\)は既存企業です。プレイヤーは自身が直面する利得と利潤を同一視するものとみなします。プレイヤー\(1\)の純粋戦略集合は、\begin{eqnarray*}S_{1} &=&A\left( \left\{ x_{0}\right\} \right) \\
&=&\left\{ \left( \text{参入しない}\right)
,\left( \text{参入する}\right) \right\}
\end{eqnarray*}であり、プレイヤー\(2\)の純粋戦略集合は、\begin{eqnarray*}S_{2} &=&A\left( \left\{ x_{1}\right\} \right) \\
&=&\left\{ \left( \text{対抗する}\right) ,\left(
\text{対抗しない}\right) \right\}
\end{eqnarray*}です。この展開型ゲーム\(\Gamma \)の戦略型\(G\left( \Gamma\right) \)は以下の利得行列によって表現されます。
$$\begin{array}{ccc}
\hline
1\backslash 2 & \left( \text{対抗する}\right) & \left( \text{対抗しない}\right) \\ \hline
\left( \text{参入しない}\right) & 0^{\ast },10^{\ast } & 0,10^{\ast } \\ \hline
\left( \text{参入する}\right) & -1,3 & 3^{\ast },5^{\ast } \\ \hline
\end{array}$$
上の表ではプレイヤーが広義の最適反応を選択した場合に直面する期待利得に印\(\ast \)をつけています。表から明らかであるように、\begin{eqnarray*}&&\left( \left( \text{参入する}\right) ,\left( \text{対抗しない}\right) \right) \\
&&\left( \left( \text{参入しない}\right)
,\left( \text{対抗する}\right) \right)
\end{eqnarray*}はともに広義の最適反応からなる組であるため、これらは\(\Gamma \)における広義の純粋戦略ナッシュ均衡です。一方の均衡\begin{equation*}\left( \left( \text{参入する}\right) ,\left( \text{対抗しない}\right) \right)
\end{equation*}はナッシュ均衡の定義を形式的に満たしているだけではなく、実態としても、これは真実味のある均衡です。この均衡が想定している状況とは、既存企業が新規企業に対して「参入してきても対抗はしないよ」と宣言し、新規企業がその宣言を真に受けて「参入する」というものです。実際、新規企業は、自身が参入する場合に相手が対抗してこないことを確信できます。なぜなら、そうすることが既存企業にとっても最善の選択だからです。同じことをテクニカルに表現すると、ナッシュ均衡\(\left( 1\right) \)の部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{1}\right) \)への制限は、\begin{equation*}\left( \text{対抗しない}\right)
\end{equation*}であり、これは部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{1}\right) \)における純粋戦略ナッシュ均衡であるため、新規企業は既存企業の宣言を真に受ける根拠があり、したがって、\(\left( 1\right) \)は実態としても真実味のある均衡です。もう一方の均衡\begin{equation*}\left( \left( \text{参入しない}\right) ,\left(
\text{対抗する}\right) \right)
\end{equation*}はナッシュ均衡の定義を形式的に満たしている一方で、実態としては、これは真実味のない均衡です。このナッシュ均衡が想定している状況とは、既存企業が新規企業に対して「参入してくるなら対抗するぞ」と脅しをかけ、新規企業がその脅しを真に受けて「参入しない」というものです。ただ、新規企業は、相手のそのような脅しを真に受ける合理的な理由はありません。なぜなら、新規企業が実際に参入する場合には既存企業にとって対抗しないことが最適反応であるため、その場合に既存企業が対抗してくるはずがないからです。同じことをテクニカルに表現すると、ナッシュ均衡\(\left( 2\right) \)の部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{1}\right) \)への制限は、\begin{equation*}\left( \text{対抗する}\right)
\end{equation*}であり、これは部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{1}\right) \)における純粋戦略ナッシュ均衡ではないため、新規企業は既存企業の脅しを真に受ける根拠がなく、したがって、\(\left( 2\right) \)は実態としても真実味のない均衡です。このような意味において、既存企業による「相手が参入してくる場合には対抗する」という純粋戦略は信憑性のない脅しです。
信憑性のない脅しを含むような純粋戦略ナッシュ均衡を排除するためにはどうすればよいでしょうか。繰り返しになりますが、先の参入ゲームにおいて、信憑性のない脅しを含まない純粋戦略の組\begin{equation*}
\left( \left( \text{参入しない}\right) ,\left(
\text{対抗する}\right) \right)
\end{equation*}はゲーム\(\Gamma \)そのものの純粋戦略ナッシュ均衡であるだけでなく、これを部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{1}\right) \)を制限することにより得られる、\begin{equation*}\left( \text{対抗しない}\right)
\end{equation*}もまた部分ゲーム\(\Gamma\left( x_{1}\right) \)における純粋戦略ナッシュ均衡になっています。つまり、この均衡はゲーム\(\Gamma \)の任意の部分ゲームに対して純粋戦略ナッシュ均衡を導いています。一方、信憑性のない脅しを含む純粋戦略の組\begin{equation*}\left( \left( \text{参入しない}\right) ,\left(
\text{対抗する}\right) \right)
\end{equation*}はゲーム\(\Gamma \)そのものの純粋戦略ナッシュ均衡である一方で、これを部分ゲーム\(\Gamma\left( x_{1}\right) \)を制限することにより得られる、\begin{equation*}\left( \text{対抗する}\right)
\end{equation*}は部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{1}\right) \)における純粋戦略ナッシュ均衡になっていません。つまり、この均衡はゲーム\(\Gamma \)の任意の部分ゲームに対して純粋戦略ナッシュ均衡を導いているとは言えません。
以上の議論を踏まえると、信憑性のない脅しを含む純粋戦略ナッシュ均衡を排除するためには、与えられたゲーム\(\Gamma \)の任意の部分ゲームに対して純粋戦略ナッシュ均衡を導くような純粋戦略の組だけを均衡として認めればよいのではないかという方針が立ちます。以上の方針のもと、以下では新たな均衡概念を定義します。
広義の純粋戦略部分ゲーム完全均衡
展開型ゲーム\(\Gamma \)においてプレイヤーたちが純粋戦略を採用する場合、プレイヤーたちが直面する戦略的状況は\(\Gamma \)の戦略型\begin{equation*}G\left( \Gamma \right) =\left( I,\left\{ S_{i}\right\} _{i\in I},\left\{
U_{i}\right\} _{i\in I}\right)
\end{equation*}として記述されますが、同様の想定のもと、部分ゲーム\(\Gamma \left(x\right) \)という\(\Gamma \)の局所的な局面においてプレイヤーたちが直面する戦略的状況は\(\Gamma \left(x\right) \)の戦略型\begin{equation*}G\left( \Gamma \left( x\right) \right) =\left( I,\left\{ S_{i}^{x}\right\}
_{i\in I},\left\{ U_{i}^{x}\right\} _{i\in I}\right)
\end{equation*}として記述されます。ただし、\(I\)はプレイヤー集合、\(S_{i}^{x}\)はプレイヤー\(i\)の純粋戦略集合\(S_{i}\)の部分ゲーム\(\Gamma\left( x\right) \)への制限、\(U_{i}^{x}:S_{I}^{x}:\rightarrow \mathbb{R} \)はプレイヤー\(i\)の期待利得関数\(U_{i}:S_{I}\rightarrow \mathbb{R} \)の部分ゲーム\(\Gamma \left( x\right) \)への制限です。
展開型ゲーム\(\Gamma \)におけるプレイヤーたちの純粋戦略の組\(s_{I}^{\ast }\in S_{I}^{\ast }\)が与えられているものとします。\(\Gamma \)の部分ゲーム\(\Gamma \left( x\right) \)を任意に選んだ上で、\(s_{I}^{\ast }\)の\(\Gamma \left( x\right) \)への制限に相当する純粋戦略の組\(s_{I}^{\ast x}\in S_{I}^{\ast x}\)を構成します。このとき、\(s_{I}^{\ast x}\)が部分ゲーム\(\Gamma \left( x\right) \)における広義の純粋戦略ナッシュ均衡になっているのであれば、すなわち、\(\Gamma \)の任意の部分ゲーム\(\Gamma \left( x\right) \)の戦略型\(G\left( \Gamma \left( x\right) \right) \)において、\begin{equation*}\forall i\in I,\ \forall s_{i}^{x}\in S_{i}^{x}:U_{i}^{x}\left( s_{i}^{\ast
x},s_{-i}^{\ast x}\right) \geq U_{i}^{x}\left( s_{i}^{x},s_{-i}^{\ast
x}\right)
\end{equation*}が成立している場合には、\(s_{I}^{\ast }\)を\(\Gamma \)における広義の部分ゲーム完全均衡(weak subgame perfect equilibrium)や広義の純粋戦略部分ゲーム完全均衡(weak pure strategy subgame perfect equilibrium)などと呼びます。
展開型ゲーム\(\Gamma \)において純粋戦略の組\(s_{I}^{\ast}\)が部分ゲーム完全均衡であるためには、もとのゲーム\(\Gamma \)の任意の部分ゲーム\(\Gamma \left(x\right) \)に対して、\(s_{I}^{\ast }\)の\(\Gamma \left( x\right) \)への制限\(s_{I}^{\ast x}\)が\(\Gamma \left( x\right) \)における純粋戦略ナッシュ均衡になっている必要があります。特定の部分ゲーム\(\Gamma \left( x\right) \)に対して\(s_{I}^{\ast x}\)が\(\Gamma \left( x\right) \)における純粋戦略ナッシュ均衡になっていることを示しただけでは、\(s_{I}^{\ast }\)が部分ゲーム完全均衡であることを示したことにはならないため注意が必要です。
展開型ゲーム\(\Gamma \)そのものは初期点\(x_{0}\)から始まる部分ゲーム\(\Gamma\left( x_{0}\right) \)と一致するため、部分ゲーム完全均衡\(s_{I}^{\ast }\)は\(\Gamma \left( x_{0}\right) \)すなわち\(\Gamma \)に対しても純粋戦略ナッシュ均衡を導きます。以上の事実は、\(\Gamma \)の部分ゲーム完全均衡は必ず\(\Gamma \)の純粋戦略ナッシュ均衡でもあることを意味します。つまり、\(\Gamma \)の純粋戦略ナッシュ均衡だけが\(\Gamma \)の部分ゲーム完全均衡になり得るため、\(\Gamma \)の部分ゲーム完全均衡を特定する際の基本方針としては、\(\Gamma \)の純粋戦略ナッシュ均衡をすべて特定した上で、その中でも、\(\Gamma \)の任意の部分ゲームに対して純粋戦略ナッシュ均衡を導くようなものを探すことになります。
純粋戦略の組\(s_{I}^{\ast }\)が展開型ゲーム\(\Gamma \)の部分ゲーム完全均衡であるものとします。部分ゲーム\(\Gamma \left( x\right) \)とプレイヤー\(i\)をそれぞれ任意に選んだ上で、\(\Gamma \left( x\right) \)において他のすべてのプレイヤーが均衡戦略\(s_{-i}^{\ast x}\)にしたがってプレーすることを前提とするとき、プレイヤー\(i\)だけが均衡戦略\(s_{i}^{\ast x}\)から逸脱して他の純粋戦略\(s_{i}^{x}\)にしたがってプレーすると、部分ゲーム完全均衡の定義より、部分ゲーム\(\Gamma \left( x\right) \)の戦略型\(G\left( \Gamma\left( x\right) \right) \)において、\begin{equation*}U_{i}^{x}\left( s_{i}^{x},s_{-i}^{\ast x}\right) >U_{i}^{x}\left(
s_{i}^{\ast x},s_{-i}^{\ast x}\right)
\end{equation*}が成立するため、プレイヤー\(i\)は\(G\left( \Gamma \left( x\right)\right) \)においてそのような逸脱から得できる可能性はありません。同様の議論は任意の部分ゲームおよび任意のプレイヤーについて成り立ちます。
つまり、プレイヤーたちが展開型ゲーム\(\Gamma \)において部分ゲーム完全均衡\(s_{I}^{\ast }\)をプレーしているとき、任意の部分ゲーム\(\Gamma\left( x\right) \)の戦略型\(G\left( \Gamma \left(x\right) \right) \)において、それぞれのプレイヤー\(i\)は、他のプレイヤーたちが均衡戦略\(s_{-i}^{\ast x}\)にしたがう限りにおいて、自分は均衡戦略\(s_{i}^{\ast x}\)から逸脱しても得できません。プレイヤーたちが部分ゲーム完全均衡\(s_{I}^{\ast }\)をプレーする場合、任意の部分ゲーム\(\Gamma \left(x\right) \)の戦略型\(G\left( \Gamma \left( x\right)\right) \)において、\(s_{I}^{\ast }\)の\(\Gamma \left( x\right) \)への制限\(s_{I}^{\ast x}\)がお互いに最適反応になっているため、誰もそこから逸脱する動機を持たないということです。
均衡概念として部分ゲーム完全均衡を用いれば、先の部分ゲームにおいて、信憑性のない脅しを含む純粋戦略の組が均衡から排除されることを確認します。
それぞれのプレイヤーの純粋戦略集合は、\begin{eqnarray*}
S_{1} &=&A\left( \left\{ x_{0}\right\} \right) =\left\{ \left( \text{参入しない}\right) ,\left( \text{参入する}\right) \right\} \\
S_{2} &=&A\left( \left\{ x_{1}\right\} \right) =\left\{ \left( \text{対抗する}\right) ,\left( \text{対抗しない}\right) \right\}
\end{eqnarray*}であり、\(\Gamma \)すなわち部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{0}\right) \)の戦略型\(G\left( \Gamma \left( x_{0}\right) \right) \)は以下の利得行列によって表現されます。
$$\begin{array}{ccc}
\hline
1\backslash 2 & \left( \text{対抗する}\right) &
\left( \text{対抗しない}\right) \\ \hline
\left( \text{参入しない}\right) & 0^{\ast },10^{\ast } & 0,10^{\ast } \\ \hline
\left( \text{参入する}\right) & -1,3 & 3^{\ast },5^{\ast } \\ \hline
\end{array}$$
また、部分ゲーム\(\Gamma\left( x_{1}\right) \)の戦略型\(G\left( \Gamma \left(x_{1}\right) \right) \)は以下の利得行列によって表現されます。
$$\begin{array}{ccc}
\hline
2 & \left( \text{対抗する}\right) & \left( \text{対抗しない}\right) \\ \hline
\quad & 3 & 5^{\ast } \\ \hline
\end{array}$$
さて、以下の純粋戦略の組\begin{eqnarray}
&&\left( \left( \text{参入する}\right) ,\left( \text{対抗しない}\right) \right) \quad \cdots (1) \\
&&\left( \left( \text{参入しない}\right)
,\left( \text{対抗する}\right) \right) \quad \cdots (2)
\end{eqnarray}はともに\(\Gamma \left( x_{0}\right) \)すなわち\(\Gamma \)における広義の純粋戦略ナッシュ均衡であるため、これらだけが\(\Gamma \)における広義の純粋戦略完全均衡の候補です。まずは\(\left( 1\right) \)から考えます。\(\left( 1\right) \)の部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{1}\right) \)への制限は、\begin{equation*}\left( \text{対抗しない}\right)
\end{equation*}ですが、これは\(\Gamma \left(x_{1}\right) \)における純粋戦略ナッシュ均衡です。他に\(\Gamma \)の部分ゲームは存在しないため、\(\left( 1\right) \)は\(\Gamma \)の任意の部分ゲームに対して純粋戦略ナッシュ均衡を導くことが明らかになりました。したがって、\(\left( 1\right) \)は広義の純粋戦略部分ゲーム完全均衡です。続いて、\(\left( 2\right) \)について考えます。\(\left( 2\right) \)の部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{1}\right) \)への制限は、\begin{equation*}\left( \text{対抗する}\right)
\end{equation*}ですが、これは\(\Gamma \left(x_{1}\right) \)における純粋戦略ナッシュ均衡ではありません。したがって、\(\left( 1\right) \)は純粋戦略部分ゲーム完全均衡ではないことが明らかになりました。以上より、\(\left( 1\right) \)だけが\(\Gamma \)の純粋戦略部分ゲーム完全均衡であり、信憑性のない脅しを含む\(\left( 2\right) \)は純粋戦略部分ゲーム完全均衡として判定されないことが明らかになりました。均衡経路は\(x_{0}\rightarrow x_{1}\rightarrow z_{3}\)であり、ゲームは確率\(1\)で頂点\(z_{4}\)へ到達し、プレイヤー\(1\)は利得\(3\)を得て、プレイヤー\(2\)は利得\(2\)を得ます。
展開型ゲームの均衡概念として純粋戦略部分ゲーム完全均衡を採用した場合、なぜ信憑性のない脅しを含む均衡を排除できるのでしょうか。先の展開型ゲーム\(\Gamma \)においてプレイヤー\(2\)の純粋戦略「対抗する」が信憑性のない脅しであることとは、部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{1}\right) \)において「対抗する」が純粋戦略ナッシュ均衡ではないことを意味します。実際、\(\Gamma \left( x_{1}\right) \)においてプレイヤー\(2\)は「対抗する」よりも「対抗しない」を選んだ方がよく、であるからこそプレイヤー\(2\)が\(\Gamma \left(x_{1}\right) \)において「対抗する」を選ぶという脅しには信憑性がありません。ただ、純粋戦略部分ゲーム完全均衡は任意の部分ゲームにおいて純粋戦略ナッシュ均衡を導くため、部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{1}\right) \)に対しても純粋戦略ナッシュ均衡を導きます。したがって、\(\Gamma \left( x_{1}\right) \)において純粋戦略ナッシュ均衡戦略ではない信憑性のない脅し「対抗する」は純粋戦略部分ゲーム完全均衡の均衡戦略にはなり得ず排除されます。
繰り返しになりますが、展開型ゲーム\(\Gamma \)において純粋戦略ナッシュ均衡だけが部分ゲーム完全均衡になり得るため、\(\Gamma \)の部分ゲーム完全均衡を特定する際には\(\Gamma \)の純粋戦略ナッシュ均衡を特定した上で、その中でも、\(\Gamma \)の任意の部分ゲームに対して純粋戦略ナッシュ均衡を導くようなものを探すことが基本的な方針になります。
プレイヤー\(1\)の純粋戦略集合は、\begin{eqnarray*}S_{1} &=&A\left( \left\{ x_{0}\right\} \right) \\
&=&\left\{ a_{11},a_{12}\right\}
\end{eqnarray*}であり、プレイヤー\(2\)の純粋戦略集合は、\begin{eqnarray*}S_{2} &=&A\left( \left\{ x_{1}\right\} \right) \times A\left( \left\{
x_{2}\right\} \right) \\
&=&\left\{ \left( a_{21},a_{21}\right) ,\left( a_{21},a_{22}\right) ,\left(
a_{22},a_{21}\right) ,\left( a_{22},a_{22}\right) \right\}
\end{eqnarray*}です。\(\Gamma \)すなわち部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{0}\right) \)の戦略型\(G\left( \Gamma \left( x_{0}\right) \right) \)は以下の利得行列として得られます。
$$\begin{array}{ccccc}
\hline
1\backslash 2 & \left( a_{21},a_{21}\right) & \left( a_{21},a_{22}\right) & \left( a_{22},a_{21}\right) & \left( a_{22},a_{22}\right) \\ \hline
\left( a_{11}\right) & 2^{\ast },1^{\ast } & 2,1^{\ast } & 0^{\ast },0 & 0,0 \\ \hline
\left( a_{12}\right) & -1,1 & 3^{\ast },2^{\ast } & -1,1 & 3^{\ast },2^{\ast } \\ \hline
\end{array}$$
また、部分ゲーム\(\Gamma\left( x_{1}\right) \)の戦略型\(G\left( \Gamma \left(x_{1}\right) \right) \)は以下の利得行列によって表現されます。
$$\begin{array}{ccc}
\hline
2 & \left( a_{21}\right) & \left( a_{22}\right) \\ \hline
\quad & 1^{\ast } & 0 \\ \hline
\end{array}$$
また、部分ゲーム\(\Gamma\left( x_{2}\right) \)の戦略型\(G\left( \Gamma \left(x_{2}\right) \right) \)は以下の利得行列によって表現されます。
$$\begin{array}{ccc}
\hline
2 & \left( a_{21}\right) & \left( a_{22}\right) \\ \hline
\quad & 1 & 2^{\ast } \\ \hline
\end{array}$$
さて、以下の純粋戦略の組\begin{eqnarray}
&&\left( \left( a_{11}\right) ,\left( a_{21},a_{21}\right) \right)
\quad \cdots (1) \\
&&\left( \left( a_{12}\right) ,\left( a_{21},a_{22}\right) \right)
\quad \cdots (2) \\
&&\left( \left( a_{12}\right) ,\left( a_{22},a_{22}\right) \right)
\quad \cdots (3)
\end{eqnarray}はいずれも\(\Gamma \left( x_{0}\right) \)すなわち\(\Gamma \)における広義の純粋戦略ナッシュ均衡であるため、これらだけが広義の純粋戦略完全均衡の候補です。まずは\(\left(1\right) \)から考えます。\(\left(1\right) \)の部分ゲーム\(\Gamma \left(x_{1}\right) \)への制限は、\begin{equation*}\left( a_{21}\right)
\end{equation*}ですが、これは\(\Gamma \left(x_{1}\right) \)における純粋戦略ナッシュ均衡です。また、\(\left( 1\right) \)の部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{2}\right) \)への制限は、\begin{equation*}\left( a_{21}\right)
\end{equation*}ですが、これは\(\Gamma \left(x_{2}\right) \)における純粋戦略ナッシュ均衡ではありません。したがって、\(\left( 1\right) \)は純粋戦略部分ゲーム完全均衡ではないことが明らかになりました。続いて\(\left( 2\right) \)について考えます。\(\left( 2\right) \)の部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{1}\right) \)への制限は、\begin{equation*}\left( a_{21}\right)
\end{equation*}ですが、これは\(\Gamma \left(x_{1}\right) \)における純粋戦略ナッシュ均衡です。また、\(\left( 2\right) \)の部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{2}\right) \)への制限は、\begin{equation*}\left( a_{22}\right)
\end{equation*}ですが、これは\(\Gamma \left(x_{2}\right) \)における純粋戦略ナッシュ均衡です。他に\(\Gamma \)の部分ゲームは存在しないため、\(\left( 2\right) \)は\(\Gamma \)の任意の部分ゲームに対して純粋戦略ナッシュ均衡を導くことが明らかになりました。したがって、\(\left( 2\right) \)は広義の純粋戦略部分ゲーム完全均衡です。最後に\(\left( 3\right) \)について考えます。\(\left( 3\right) \)の部分ゲーム\(\Gamma \left( x_{1}\right) \)への制限は、\begin{equation*}\left( a_{22}\right)
\end{equation*}ですが、これは\(\Gamma \left(x_{1}\right) \)における純粋戦略ナッシュ均衡ではありません。したがって、\(\left( 3\right) \)は純粋戦略部分ゲーム完全均衡ではないことが明らかになりました。以上より、\(\left( 2\right) \)だけが\(\Gamma \)の純粋戦略部分ゲーム完全均衡であることが明らかになりました。均衡経路は\(x_{0}\rightarrow x_{2}\rightarrow z_{4}\)であり、ゲームは確率\(1\)で頂点\(z_{4}\)へ到達し、プレイヤー\(1\)は利得\(3\)を得て、プレイヤー\(2\)は利得\(2\)を得ます。
純粋戦略部分ゲーム完全均衡は存在するとは限らない
広義の純粋戦略部分ゲーム完全均衡は存在するとは限りません。以下の例より明らかです。
このゲームには広義の純粋戦略部分ゲーム完全均衡は存在しません(演習問題)。
純粋戦略部分ゲーム完全均衡は一意的であるとは限らない
広義の純粋戦略部分ゲーム完全均衡が存在する場合、それは1つだけであるとは限りません。以下の例より明らかです。
このゲーム\(\Gamma \)には以下の2つの純粋戦略部分ゲーム完全均衡\begin{eqnarray*}&&\left( a_{11},a_{21}\right) \\
&&\left( a_{12},a_{22}\right)
\end{eqnarray*}が存在します(演習問題)。
演習問題
このゲーム\(\Gamma \)の純粋戦略ナッシュ均衡と純粋戦略部分ゲーム完全均衡をそれぞれ求めてください。
このゲームに純粋戦略部分ゲーム完全均衡は存在するでしょうか。議論してください。
このゲームには純粋戦略部分ゲーム完全均衡は存在しないことを示してください。
このゲーム\(\Gamma \)の純粋戦略ナッシュ均衡と純粋戦略部分ゲーム完全均衡をそれぞれ求めてください。
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