クールノー競争は囚人のジレンマ

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クールノー競争を行う 2 つの企業にとってクールノー均衡は効率的ではありません。クールノー均衡は囚人のジレンマのナッシュ均衡と同様の性質を持ちます。

2019年10月30日:公開

クールノー均衡における利得

クールノー競争が行われる市場の逆需要曲線が線型であるとともに、両企業が一定かつ等しい限界費用を持つ場合には、以下のようなクールノー均衡が存在することを示しました。

命題(クールノー均衡)
クールノー競争を表す戦略型ゲーム\(G\)において、市場の逆需要関数\(p:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)は、\begin{equation*}
\forall q\geq 0:p\left( q\right) =a-bq
\end{equation*}を満たし、企業\(i\ \left( =1,2\right) \)の費用関数\(c_{i}:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)は、\begin{equation*}
\forall q_{i}\geq 0:c_{i}\left( q_{i}\right) =c\cdot q_{i}
\end{equation*}を満たす。ただし、\(a,b,c>0\)かつ\(a>c\)である。このゲーム\(G\)には純ナッシュ均衡\(\left( q_{1}^{\ast },q_{2}^{\ast }\right) \)が存在し、\begin{equation*}
q_{1}^{\ast }=q_{2}^{\ast }=\frac{a-c}{3b}
\end{equation*}となる。

以上を踏まえた上で、クールノー均衡\(\left( q_{1}^{\ast },q_{2}^{\ast }\right) \)における均衡価格は、\begin{equation*}
p\left( q_{1}^{\ast }+q_{2}^{\ast }\right) =\frac{a+2c}{3}
\end{equation*}であり、クールノー均衡\(\left( q_{1}^{\ast },q_{2}^{\ast }\right) \)において企業\(i\ \left( =1,2\right) \)が得る利得すなわち利潤は、\begin{equation*}
u_{i}\left( q_{1}^{\ast },q_{2}^{\ast }\right) =\frac{\left( a-c\right) ^{2}}{9b}\quad \left( i=1,2\right)
\end{equation*}であることを示しました。

 

両企業がカルテルを守った場合の利得

では、本来クールノー競争が行われるはずの複占市場において、両企業が競争せずにカルテルを結び、共謀してあたかも 1 つの独占企業として振る舞う場合、両企業はどれほどの利潤を得られるのでしょうか。この場合、両企業が得る利潤の和は独占利潤と一致します。そこで、議論のベンチマークとして独占利潤を求めましょう。ただし、市場の逆需要曲線や企業の費用曲線に関する仮定は、これまで採用していたものをそのまま引継ぎます。

独占企業による生産量を\(q\geq 0\)で表します。独占企業は生産した商品をすべて市場に供給するのであれば、独占企業が\(q\)だけ生産したときに得る利潤は、\begin{eqnarray*}
p\left( q\right) \cdot q-cq &=&\left( a-bq\right) q-cq\quad \because p\left( q\right) =a-bq \\
&=&-bq^{2}+\left( a-c\right) q\quad \because q\text{について整理}
\end{eqnarray*}となります。したがって、独占企業が解くべき最大化問題は、\begin{equation*}
\max_{q\in \mathbb{R} _{+}}\left[ -bq^{2}+\left( a-c\right) q\right] \end{equation*}となります。このとき、\begin{align*}
\frac{d\left[ -bq^{2}+\left( a-c\right) q\right] }{dq}& =-2bq+\left( a-c\right) \\
\frac{d^{2}\left[ -bq^{2}+\left( a-c\right) q\right] }{dq^{2}}& =-2<0 \end{align*}となるため、目的関数は\(q\)に関する狭義凹関数です。したがって、大域的最適のための必要十分条件より、\begin{equation*} \frac{d\left[ -bq^{2}+\left( a-c\right) q\right] }{dq}=0 \end{equation*}すなわち、\begin{equation*} -2bq+\left( a-c\right) =0 \end{equation*}を得ます。つまり、独占企業による最適生産量を\(q^{m}\)で表すならば、これは上の条件を\(q\)について解くことで得られる、\begin{equation} q^{m}=\frac{a-c}{2b} \tag{1} \end{equation}となります。ちなみに、モデルの仮定である\(a,b,c>0\)かつ\(a>c\)より\(q^{m}>0\)です。独占市場の均衡価格、すなわち独占価格は、\begin{eqnarray}
p\left( q^{m}\right) &=&a-bq^{m}\quad \because p\left( q\right) =a-bq \notag \\
&=&a-b\cdot \frac{a-c}{2b}\quad \because \left( 1\right) \notag \\
&=&\frac{a+c}{2} \tag{2}
\end{eqnarray}であり、独占価格において独占企業が得る利潤、すなわち独占利潤は、\begin{eqnarray*}
p\left( q^{m}\right) \cdot q^{m}-cq^{m} &=&\left[ p\left( q^{m}\right) -c\right] \cdot q^{m} \\
&=&\left( \frac{a+c}{2}-c\right) \cdot \frac{a-c}{2b}\quad \because \left( 1\right) ,\left( 2\right) \\
&=&\frac{\left( a-c\right) ^{2}}{4b}
\end{eqnarray*}となります。

複占市場のプレイヤーである企業\(1,2\)がカルテルを結んだ上で、\(q_{1}+q_{2}=q^{m}\)を満たすような生産量\(q_{1},q_{2}\)を選択すれば、つまり、両社の生産量の和が独占企業の最適生産水準と一致するよう共謀するのであれば、両企業が得る利得の和は上で求めた独占利潤\(\frac{\left( a-c\right) ^{2}}{4b}\)と一致します。

両企業が談合を行い、\(q_{1}+q_{2}=q^{m}\)を満たす生産\(\left( q_{1},q_{2}\right) \)を遂行するという合意に至ったとします。この条件を満たす\(\left( q_{1},q_{2}\right) \)としては様々な可能性がありますが、仮に両企業が生産量を二等分するのであれば、\begin{equation*}
q_{1}^{p}=q_{2}^{p}=\frac{q^{m}}{2}\ \left( =\frac{a-c}{4b}\right)
\end{equation*}を満たす\(\left( q_{1}^{p},q_{2}^{p}\right) \)がそのような約束になります。両企業がこの約束を履行するのであれば、両企業が得る利潤の和は最大化され、それは独占利潤\(\frac{\left( a-c\right) ^{2}}{4b}\)と一致します。両企業がこの利潤を二等分するのであれば、それぞれの企業は利潤\(\frac{\left( a-c\right) ^{2}}{8b}\)を得ます。

図:カルテルがもたらす死荷重
図:カルテルがもたらす死荷重

ちなみに、この場合の死荷重は上図の\(DWL\)として表されているため、その水準は、\begin{equation*}
\left( \frac{a+c}{2}-c\right) \left( \frac{a-c}{b}-\frac{a-c}{2b}\right) \frac{1}{2}=\frac{\left( a-c\right) ^{2}}{8b}
\end{equation*}となります。

 

一方の企業がカルテルを破った場合の利得

両企業が談合を行い、\(q_{1}^{p}=q_{2}^{p}=\frac{q^{m}}{2}\ \left( =\frac{a-c}{4b}\right) \)を満たす生産\(\left( q_{1}^{p},q_{2}^{p}\right) \)を遂行する約束をしたにも関わらず、企業\(1\)だけがその約束を破ってクールノー競争を行った場合には何が起こるでしょうか。企業\(2\)が約束\(q_{2}^{p}=\frac{a-c}{4b}\)を守ることを前提とするとき、それに対する企業\(1\)の純最適反応は、\(q_{2}=q_{2}^{q}\ \left( =\frac{a-c}{4b}\right) \)を所与としたときの以下の最大化問題\begin{equation*}
\max_{q_{1}\in \mathbb{R} _{+}}u_{1}\left( q_{1},q_{2}^{p}\right) =\max_{q_{1}\in \mathbb{R} _{+}}\left[ a-b\left( q_{1}+q_{2}^{p}\right) -c\right] \cdot q_{1}
\end{equation*}の解です。先にクールノー均衡を求めた際のプロセスと同様に考えると、この最大化問題の解は、\begin{equation*}
q_{1}=\frac{3\left( a-c\right) }{8b}
\end{equation*}となりますが、これは企業\(1\)の約束\(q_{1}^{p}=\frac{a-c}{4b}\)よりも多くなっています。つまり、企業\(2\)が約束\(q_{2}^{p}\)を守ることを前提とした場合、企業\(1\)は約束\(q_{1}^{p}\)を破ってそれよりも生産を増やしたほうが良いということです。このときの企業\(1\)の利得は、\begin{eqnarray*}
u_{1}\left( \frac{3\left( a-c\right) }{8b},q_{2}^{p}\right) &=&\left[ p\left( \frac{3\left( a-c\right) }{8b}+\frac{a-c}{4b}\right) -c\right] \cdot \frac{3\left( a-c\right) }{8b} \\
&=&\left[ p\left( \frac{5\left( a-c\right) }{8b}\right) -c\right] \cdot \frac{3\left( a-c\right) }{8b} \\
&=&\left[ a-b\cdot \frac{5\left( a-c\right) }{8b}-c\right] \cdot \frac{3\left( a-c\right) }{8b} \\
&=&\frac{3\left( a-c\right) }{8}\cdot \frac{3\left( a-c\right) }{8b} \\
&=&\frac{9\left( a-c\right) ^{2}}{64b}
\end{eqnarray*}となり、企業\(2\)の利得は、\begin{eqnarray*}
u_{2}\left( \frac{3\left( a-c\right) }{8b},q_{2}^{p}\right) &=&\left[ p\left( \frac{3\left( a-c\right) }{8b}+\frac{a-c}{4b}\right) -c\right] \cdot \frac{a-c}{4b} \\
&=&\frac{3\left( a-c\right) }{8}\cdot \frac{a-c}{4b} \\
&=&\frac{3\left( a-c\right) ^{2}}{32b}
\end{eqnarray*}となります。企業\(2\)だけが約束を破った場合にも同様の議論が成立します。

 

クールノー競争は囚人のジレンマ

これまでの議論から得られた結論を以下の表に整理しました。

$$\begin{array}{ccc}
\hline
1\backslash 2 & カルテル & クールノー競争 \\ \hline
カルテル & \frac{\left( a-c\right) ^{2}}{8b},\frac{\left( a-c\right) ^{2}}{8b} & \frac{3\left( a-c\right) ^{2}}{32b},\frac{9\left( a-c\right) ^{2}}{64b} \\ \hline
クールノー競争 & \frac{9\left( a-c\right) ^{2}}{64b},\frac{3\left( a-c\right) ^{2}}{32b} & \frac{\left( a-c\right) ^{2}}{9b},\frac{\left( a-c\right) ^{2}}{9b} \\ \hline
\end{array}$$

表:利得行列

左上の結果は、両企業が\(q_{1}^{p}=q_{2}^{p}=\frac{q^{m}}{2}\)を満たす約束\(\left( q_{1}^{p},q_{2}^{p}\right) \)を遂行するようカルテルを結び、なおかつ両企業が約束通りに生産を行い、得られた独占利潤を二等分する場合に相当します。左下の結果は、約束\(\left( q_{1}^{p},q_{2}^{p}\right) \)を遂行するようカルテルを結んだが、企業\(1\)だけがカルテルを破ってクールノー競争を行った場合に相当します。右上の結果は、逆に企業\(2\)だけがカルテルを破ったケースです。右下の結果は、両企業がクールノー競争を行った場合に相当します。

上の表を利得行列とする新たな戦略型ゲーム\(G\)について考えましょう。つまり、このゲーム\(G\)のプレイヤーは複占市場の参加者である企業\(1,2\)であり、それぞれの企業の純戦略としては、カルテルを守ることと破ることの 2 つが与えられています。純戦略のそれぞれの組み合わせがもたらす利得は上の表で与えられています。

この新たなゲーム\(G\)のナッシュ均衡を求めましょう。まず、企業\(2\)がカルテルを守ることを前提とした上で、企業\(1\)がカルテルを守る場合に得られる利得とカルテルを破った場合の利得を比較すると、\begin{equation*}
\frac{9\left( a-c\right) ^{2}}{64b}-\frac{\left( a-c\right) ^{2}}{8b}=\frac{3\left( a-c\right) ^{2}}{64b}>0
\end{equation*}となるため、企業\(1\)にとってカルテルを破ることが最適戦略になります。また、企業\(2\)がカルテルを破ることを前提とした場合にも、\begin{equation*}
\frac{\left( a-c\right) ^{2}}{9b}-\frac{3\left( a-c\right) ^{2}}{32b}=\frac{5\left( a-c\right) ^{2}}{288}>0
\end{equation*}となるため、この場合にも企業\(1\)にとってカルテルを破ることが最適戦略です。したがって、企業\(1\)にとってカルテルを破ることは支配戦略です。企業\(2\)についても同様に、カルテルを破ることが支配戦略となります。したがって、両者がカルテルを破ることがこのゲームの支配戦略均衡であり、ゆえに純ナッシュ均衡でもあります。

この純ナッシュ均衡において両企業はともに利得\(\frac{\left( a-c\right) ^{2}}{9b}\)を得ますが、これは両企業がともにカルテルを守った場合の利得\(\frac{\left( a-c\right) ^{2}}{8b}\)よりも小さくなっています。つまり、両企業はクールノー競争を行う代わりに共謀すれば双方の利得の和を最大化できます。しかし、プレイヤーの行動原理として合理性の仮定を採用する限りにおいて、つまり、それぞれの企業が自己の利得を最大化するために最善な行動を選択する場合、実現するのは両者にとって最適ではないクールノー均衡になるのです。

これは囚人のジレンマと同じ構造です。プレイヤーの目的が自己の利得の最大化である限りにおいて、囚人のジレンマのプレイヤーである 2 人の囚人はともに裏切り戦略である自白\(D\)を選び、そうして実現する\(\left( D,D\right) \)がナッシュ均衡になります。しかし、\(\left( D,D\right) \)においてそれぞれのプレイヤーが得る利得は、2 人が協力してともに黙秘\(C\)を選んだときに実現する\(\left( C,C\right) \)において得る利得よりも小さくなってしまいます。複占市場においてクールノー競争を行うことは囚人のジレンマにおける自白\(D\)に対応し、複占市場において共謀することは囚人のジレンマの黙秘\(C\)に対応しています。

 

複占企業が共謀しない理由

そもそも独占禁止法はカルテルを禁じているため、複占市場のプレイヤーである企業\(1,2\)は、両社の利得の和を最大化するような生産量の組、すなわち両社の生産量の和\(q_{1}+q_{2}\)が独占企業の最適生産水準\(q^{m}\ \left( =\frac{a-c}{2b}\right) \)と一致するような組\(\left( q_{1},q_{2}\right) \)の履行を事前に約束することは許されていません。

また、両企業が秘密裏に談合を行い、\(q_{1}+q_{2}=q^{m}\)を満たすような\(\left( q_{1},q_{2}\right) \)を遂行するよう口裏を合わせた場合にも、それぞれの企業の行動指針が自己の利得の最大化である限りにおいて、両企業ともその約束を履行するインセンティブを持ちません。実際、相手企業がカルテル通りに行動することを前提としたとき、自分は約束を守ってクールノー競争を行い、約束した水準よりも多く生産すればより多くの利得が得られるからです。つまり、両企業ともカルテルから逸脱するインセンティブがあるため、カルテルは最適反応の組になっていません。

議論を整理しましょう。複占市場において両企業にとって効率的な結果を実現するためには、\(q_{1}+q_{2}=q^{m}\)を満たすような生産量の組\(\left( q_{1},q_{2}\right) \)を履行する必要があります。そこで企業どうしが事前にそのような条件を満たす生産の組を履行するよう約束した場合においても、その約束はナッシュ均衡にはならず、両企業は約束した水準よりも多くを生産するインセンティブを持ちます。その結果、両企業の生産量の和は独占供給量\(q^{m}\)を超過してしまうため、市場の均衡価格は独占価格を下回り、両社にとって効率的な結果が実現しません。

ちなみに、クールノー均衡\(\left( q_{1}^{\ast },q_{2}^{\ast }\right) \)における総供給量は、\begin{equation*}
q_{1}^{\ast }+q_{2}^{\ast }=\frac{2\left( a-c\right) }{3b}
\end{equation*}であり、これは独占供給量\(q^{m}\ \left( =\frac{a-c}{2b}\right) \)よりも多くなっています。したがって、クールノー均衡価格は独占価格よりも低く、両企業が生産量を増やそうとするインセンティブは弱くなります。実際、クールノー均衡\(\left( q_{1}^{\ast },q_{2}^{\ast }\right) \)はナッシュ均衡ですので、両企業はそこから逸脱して生産量を増やそうというインセンティブを持ちません。

次回は企業数の変化がクールノー競争に与える影響を分析します。

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