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ゲームの例

結婚にともなう夫婦の姓選択(夫婦同姓制度と選択的夫婦別氏制度)

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夫婦同姓制度

結婚した夫婦が同じ姓を名乗る制度を夫婦同姓制度と呼びます。日本では民放750条において夫婦同姓が規定されており、夫婦は婚姻の際に夫または妻のどちらかの姓を選択することになっています。戸籍上、同一の姓にしないと結婚できないため、夫婦が結婚するためにはどちらか一方の姓を選択する必要があります。

夫婦同姓制度を踏まえると、夫婦はそれぞれ2つの選択に直面することになります。1つ目は夫の姓を選択すること、2つ目は妻の姓を選択することです。2人にとって重要なことは結婚することであり、逆に、姓に関する合意が得られず結婚できないことは最悪の結果です。婚姻が成立するパターンとしては夫の姓を選択する場合と妻の姓を選択する場合の2通りが存在しますが、とりあえずは、各々は自分の姓を維持したい気持ちがあるものと仮定して話を進めます。

 

完備情報の静学ゲームとしての夫婦同姓制度

夫婦同姓制度が想定する状況を2人の男女をプレイヤーとするゲームと解釈します。2人は事前に話し合いをするでしょうが、相手が本当に譲歩するかどうかは信頼に依存しており、両者の間に拘束的な合意が成立しているわけではありません。したがって夫婦同姓制度は非協力ゲームです。また、姓の選択は結婚時に一度だけ行われる決断であり、離婚や再婚を除けば繰り返しや修正の機会はなく、その場でお互いの選択にもとづいて結果が決まるという意味において夫婦同姓制度は静学ゲームです。さらにゲームのルールが2人にとって共有知識であることを仮定するのであれば、夫婦選択制度を完備情報の静学ゲームとして記述することができます。

そこで、夫婦選択制度を以下のような戦略型ゲーム\(G\)としてモデル化します。まず、プレイヤー集合は、\begin{equation*}I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}です。ただし、プレイヤー\(1\)は女性を表し、プレイヤー\(2\)は男性を表します。それぞれのプレイヤー\(i\)の純粋戦略は、\begin{equation*}S_{1}=S_{2}=\left\{ W,H\right\}
\end{equation*}です。ただし、\(W\)は女性の姓を選ぶことを意味し(WifeのW)、\(H\)は男の姓を選ぶことを意味します(HusbandのH)。ゲームの結果は以下の行列として整理されます。

$$\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
1\setminus 2 & W & H \\ \hline W & 妻の姓のもとで結婚 & 結婚は不成立 \\ \hline H & 結婚は不成立 & 夫の姓のもとで結婚 \\ \hline
\end{array}$$

利得関数としては様々な可能性がありますが、典型的なものは、\begin{equation*}
a>b>c
\end{equation*}を満たす実数\(a,b,c\in \mathbb{R} \)を用いて、

$$\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
1\setminus 2 & W & H \\ \hline
W & a,b & c,c \\ \hline
H & c,c & b,a \\ \hline
\end{array}$$

として表現されます。言い換えると、女性に相当するプレイヤー\(1\)の利得関数\(u_{1}:S_{1}\times S_{2}\rightarrow \mathbb{R} \)は、\begin{equation*}u_{1}\left( W,W\right) >u_{1}\left( H,H\right) >u_{1}\left( W,H\right)
=u_{1}\left( H,W\right)
\end{equation*}を満たし、男性に相当するプレイヤー\(2\)の利得関数\(u_{2}:S_{1}\times S_{2}\rightarrow \mathbb{R} \)は、\begin{equation*}u_{2}\left( H,H\right) >u_{2}\left( W,W\right) >u_{2}\left( W,H\right)
=u_{2}\left( H,W\right)
\end{equation*}を満たすということです。つまり、女性にとって自分の姓に統一することが最も望ましく(利得\(a\)を得る)、夫の姓に統一することが2番目に望ましく(利得\(b\)を得る)、残りの2つの結果はともに最悪です(利得\(c\)を得る)。一方、男性にとって自分の姓で統一することが最も望ましく(利得\(a\)を得る)、妻の姓に統一することが2番目に望ましく(利得\(b\)を得る)、残りの2つの結果はともに最悪です(利得\(c\)を得る)。以上の利得構造は男女の争い(battle of the sexes)と一致します。

例(夫婦同性制度)
以下の利得行列は夫婦同性制度としての条件を満たしています。

$$\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
1\setminus 2 & W & H \\ \hline
W & 2,1 & 0,0 \\ \hline
H & 0,0 & 1,2 \\ \hline
\end{array}$$

例(夫婦同性制度)
以下の利得行列は夫婦同性制度としての条件を満たしています。

$$\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
1\setminus 2 & W & H \\ \hline
W & 2,1 & -1,-1 \\ \hline
H & -1,-1 & 1,2 \\ \hline
\end{array}$$

 

男女の争いにおける純粋戦略ナッシュ均衡

夫婦同姓制度には以下のような2つの純粋戦略ナッシュ均衡が存在します。

命題(夫婦同姓制度の純粋戦略ナッシュ均衡)
戦略型ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は、\begin{equation*}I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であり、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合は、\begin{equation*}S_{1}=S_{2}=\left\{ W,H\right\}
\end{equation*}であり、利得関数\(u_{i}:S_{1}\times S_{2}\rightarrow \mathbb{R} \)は、\begin{equation*}a>b>c
\end{equation*}を満たす実数\(a,b,c\in \mathbb{R} \)を用いて、以下の利得行列

$$\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
1\setminus 2 & W & H \\ \hline
W & a,b & c,c \\ \hline
H & c,c & b,a \\ \hline
\end{array}$$

によって表現されているものとする。このゲーム\(G\)には狭義の純粋戦略ナッシュ均衡が存在し、それは以下の2つ\begin{equation*}\left( s_{1}^{\ast },s_{2}^{\ast }\right) =\left( W,W\right) ,\left(
H,H\right)
\end{equation*}である。

証明

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以上の命題より、夫婦同姓制度には2つの純粋戦略ナッシュ均衡\(\left( W,W\right) ,\left( H,H\right) \)が存在することが明らかになりました。ただし、\(\left( W,W\right) \)は妻の姓に統一するという結果に相当し、\(\left( H,H\right) \)は夫の姓に統一するという結果に相当します。

 

夫婦同姓制度における支配戦略

夫婦同姓制度にはナッシュ均衡が存在することが明らかになりました。では、夫婦同姓制度の均衡の中には、支配される戦略の逐次消去による解や、支配戦略均衡などは存在するでしょうか。

命題(夫婦同姓制度に支配戦略は存在しない)
戦略型ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は、\begin{equation*}I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であり、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合は、\begin{equation*}S_{1}=S_{2}=\left\{ W,H\right\}
\end{equation*}であり、利得関数\(u_{i}:S_{1}\times S_{2}\rightarrow \mathbb{R} \)は、\begin{equation*}a>b>c
\end{equation*}を満たす実数\(a,b,c\in \mathbb{R} \)を用いて、以下の利得行列

$$\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
1\setminus 2 & W & H \\
\hline W & a,b & c,c \\
\hline H & c,c & b,a \\ \hline
\end{array}$$

によって表現されているものとする。このゲーム\(G\)において、プレイヤー\(1,2\)はともに広義の支配戦略を持たない。

証明

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夫婦同姓制度において、プレイヤーたちは広義の支配戦略を持たないことが明らかになりました。したがって、夫婦同姓制度には広義支配戦略均衡や、広義支配される戦略の逐次消去による解は存在しません。戦略型ゲームに狭義支配戦略均衡が存在する場合、それは広義支配戦略均衡でもあります。また、狭義支配される戦略の逐次消去による解が存在する場合、それは広義支配される戦略の逐次消去による解でもあります。以上の事実と、夫婦同姓制度には広義支配戦略均衡や、広義支配される戦略の逐次消去による解が存在することを踏まえると、夫婦同姓制度には狭義支配戦略均衡や、狭義支配される戦略の逐次消去による解は存在しないことが明らかになりました。

 

夫婦同姓制度の複数均衡問題

夫婦同姓制度では「双方が\(W\)を選ぶ」ことと「双方が\(H\)を選ぶ」ことの双方が純粋戦略ナッシュ均衡であるとともに、これらはいずれも支配戦略均衡や支配戦略の逐次消去による解ではないことが明らかになりました。したがって、夫婦同姓制度では以下の2つの点が問題になります。

1つ目は、均衡が実際にプレーされるかどうかという問題です。ナッシュ均衡が支配戦略均衡や支配される戦略の逐次消去による解である場合には、プレイヤーたちの合理性や警戒心の仮定、もしくはそれらが共有知識であることは、プレイヤーたちが実際に均衡をプレーする根拠となります。一方、夫婦同姓制度の均衡は支配戦略均衡や支配される戦略の逐次消去による解ではないため、合理性や警戒心の仮定、もしくはそれらが共有知識であることは、プレイヤーたちが何らかの均衡を実際にプレーする根拠となり得るか自明ではありません。夫婦同姓制度は「相手と同じ戦略を選ぶことが最適である」という構造になっているため、何らかの均衡が実際にプレーされることを保証するためには、プレイヤーはお互いに相手の行動を正しく予想する必要があります。この予想が成立することを保証するためには、何らかの説明体系が必要になります。

2つ目は、複数均衡の問題です。ゲームに複数のナッシュ均衡が存在する場合においても、その中の1つが広義の支配戦略均衡や広義支配される戦略の逐次消去の解である場合には、プレイヤーたちの合理性や警戒心の仮定、もしくはそれらが共有知識であることは、その特定の均衡がプレーされる根拠となるため、複数均衡問題は解決可能です。一方、夫婦同姓制度の均衡の中には広義の支配戦略均衡や広義支配される戦略の逐次消去の解が含まれないため、どの均衡がプレーされることになるかは自明ではなく、何らかの説明体系が必要になります。

 

夫婦同姓制度におけるフォーカルポイント

複数均衡問題に対する1つの考え方は、フォーカルポイントであるようなナッシュ均衡が存在するのであれば、プレイヤーたちはそれを実際にプレーする、というものです。

夫婦同姓制度において\(\left( W,W\right) \)と\(\left( H,H\right) \)はともに純粋戦略ナッシュ均衡であるため、これは複数均衡問題です。現状、日本では新たに結婚する夫婦の約95パーセントが夫の姓を選択しているため、\(\left( H,H\right) \)がフォーカルポイントになっている可能性があります。

日本では明治民法以来、夫婦同姓が義務化されました。同時に、明治政府は戸籍制度を中心とした諸制度を通じて家父長的家制度を規定したため、家族全体が戸主の姓に統一されるのが原則であり、結婚とは「妻が夫の家に入ることを」意味しました。そのため、実質的には「夫の姓に統一」することが社会的慣習として定着し、そのような文脈の下、現在においても男性が世帯主であるという価値観や、結婚の際には夫姓に統一するという認知が社会に根強く残っています。このような状況の下で妻の姓を選択すると、何か特別な理由があるものと解釈されやすく、心理的・社会的・実務的コストが高くつきます。そのため、夫の姓を選択することは無難な選択肢として機能するため、多くの人は\(\left(H,H\right) \)をプレーすることになります。

ゲームの構造は同じでも、プレイヤーが直面する事情や文脈、2人の関係性、社会的背景などが異なればフォーカルポイントも変わり得ます。フォーカルポイントはゲームのルールとして記述されない要素によって決定されます。

 

選択的夫婦別氏制度:リベラル派のシナリオ

夫婦同姓制度のもとでは姓を統一しなければ結婚できないため、男女がともに自身の姓を維持する事情がある場合、結婚自体を断念することになります。これは制度がもたらす非効率性です。結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の姓を名乗ることを認める制度を選択的夫婦別氏制度(選択的夫婦別姓制度)と呼びます。夫婦別姓のもとでも結婚が可能になるメリットを強調する場合、以下のようなシナリオになります。

先と同様に、プレイヤー集合は、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}です。ただし、プレイヤー\(1\)は女性を表し、プレイヤー\(2\)は男性を表します。それぞれのプレイヤー\(i\)の純粋戦略は、\begin{equation*}S_{1}=S_{2}=\left\{ W,H\right\}
\end{equation*}です。ただし、\(W\)は女性の姓を選ぶことを意味し(WifeのW)、\(H\)は男の姓を選ぶことを意味します(HusbandのH)。先とは異なり、2人がお互いに自分の姓を選択した場合にも夫婦別姓のもとで結婚は成立します。一方、姓の交換は不可能であり、そのような場合には結婚は不成立であるものとします。つまり、ゲームの結果は以下の行列として整理されます。

$$\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
1\setminus 2 & W & H \\ \hline
W & 妻の姓のもとで結婚 & 夫婦別姓のもとで結婚 \\ \hline
H & 結婚は不成立 & 夫の姓のもとで結婚 \\ \hline
\end{array}$$

先と同様、各々にとって自分の姓に統一することが最も望ましいものとします。また、夫婦別姓のもとで自分の姓を維持したまま結婚することが2番目に望ましく、相手の姓に統一して結婚することが3番目に望ましく、結婚が不成立になることが最悪の結果であるものとします。つまり、利得関数は、以下の条件\begin{equation*}
a>b>c>d
\end{equation*}を満たす実数\(a,b,c,d\in \mathbb{R} \)を用いて、

$$\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
1\setminus 2 & W & H \\ \hline
W & a,c & b,b \\ \hline
H & d,d & c,a \\ \hline
\end{array}$$

として表現されます。言い換えると、女性に相当するプレイヤー\(1\)の利得関数\(u_{1}:S_{1}\times S_{2}\rightarrow \mathbb{R} \)は、\begin{equation*}u_{1}\left( W,W\right) >u_{1}\left( W,H\right) >u_{1}\left( H,H\right)
>u_{1}\left( H,W\right)
\end{equation*}を満たし、男性に相当するプレイヤー\(2\)の利得関数\(u_{2}:S_{1}\times S_{2}\rightarrow \mathbb{R} \)は、\begin{equation*}u_{2}\left( H,H\right) >u_{2}\left( W,H\right) >u_{2}\left( W,W\right)
>u_{2}\left( H,W\right)
\end{equation*}を満たすということです。

ナッシュ均衡は以下の通りです。

命題(夫婦別姓制度の純粋戦略ナッシュ均衡)
戦略型ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は、\begin{equation*}I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であり、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合は、\begin{equation*}S_{1}=S_{2}=\left\{ W,H\right\}
\end{equation*}であり、利得関数\(u_{i}:S_{1}\times S_{2}\rightarrow \mathbb{R} \)は、\begin{equation*}a>b>c>d
\end{equation*}を満たす実数\(a,b,c,d\in \mathbb{R} \)を用いて、以下の利得行列

$$\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
1\setminus 2 & W & H \\ \hline
W & a,c & b,b \\ \hline
H & d,d & c,a \\ \hline
\end{array}$$

によって表現されているものとする。このゲーム\(G\)には狭義の純粋戦略ナッシュ均衡が存在し、それは、\begin{equation*}\left( s_{1}^{\ast },s_{2}^{\ast }\right) =\left( W,H\right)
\end{equation*}である。

証明

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以上の議論により、夫婦別姓を認める場合には、夫婦別姓のもとで結婚が成立することがナッシュ均衡になることが明らかになりました。

 

選択的夫婦別氏制度:保守派のシナリオ

夫婦別姓のもとで結婚が可能になるメリットだけを強調するシナリオは現実的でしょうか。たとえ制度が変わったとしても、結婚の際には夫姓に統一するという認知が社会に根強く残っているのであれば、あえて別姓を選択した場合には何か特別な理由があるものと解釈されやすく、心理的・社会的・実務的コストが高くつきます。加えて、夫婦別姓を選択した場合、子供の姓をどちらにするかという大きな問題が生じます。それに伴う夫婦間でのトラブルや子供が直面する違和感や不安などを考慮する場合、以下のようなシナリオになります。

先と同様に、プレイヤー集合は、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}です。ただし、プレイヤー\(1\)は女性を表し、プレイヤー\(2\)は男性を表します。それぞれのプレイヤー\(i\)の純粋戦略は、\begin{equation*}S_{1}=S_{2}=\left\{ W,H\right\}
\end{equation*}です。ただし、\(W\)は女性の姓を選ぶことを意味し(WifeのW)、\(H\)は男の姓を選ぶことを意味します(HusbandのH)。夫婦別姓のもとで、ゲームの結果は以下の行列として整理されます。

$$\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
1\setminus 2 & W & H \\ \hline
W & 妻の姓のもとで結婚 & 夫婦別姓のもとで結婚 \\ \hline
H & 結婚は不成立 & 夫の姓のもとで結婚 \\ \hline
\end{array}$$

先と同様、各々にとって自分の姓に統一することが最も望ましいものとし、その場合の利得を\(a\)で表記します。夫婦別姓のもとで自分の姓を維持したまま結婚する場合の利得を\(b-h\)で表記します。ただし、\(h>0\)は夫婦別姓をあえて選択した場合に直面する様々なコストです。相手の姓に統一する場合に得る利得を\(c\)で表記し、結婚が不成立の場合の利得を\(d\)で表記します。コスト\(h\)が十分大きく、以下の条件\begin{equation*}a>c>b-h>d
\end{equation*}が成り立つ状況を想定します。つまり、利得関数は、以下の条件\begin{equation*}
a>c>b-h>d
\end{equation*}を満たす実数\(a,b,c,d\in \mathbb{R} \)および\(h\in \mathbb{R} _{++}\)を用いて、

$$\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
1\setminus 2 & W & H \\ \hline
W & a,c & b-h,b-h \\ \hline
H & d,d & c,a \\ \hline
\end{array}$$

として表現されます。言い換えると、女性に相当するプレイヤー\(1\)の利得関数\(u_{1}:S_{1}\times S_{2}\rightarrow \mathbb{R} \)は、\begin{equation*}u_{1}\left( W,W\right) >u_{1}\left( H,H\right) >u_{1}\left( W,H\right)
>u_{1}\left( H,W\right)
\end{equation*}を満たし、男性に相当するプレイヤー\(2\)の利得関数\(u_{2}:S_{1}\times S_{2}\rightarrow \mathbb{R} \)は、\begin{equation*}u_{2}\left( H,H\right) >u_{2}\left( W,W\right) >u_{2}\left( W,H\right)
>u_{2}\left( H,W\right)
\end{equation*}を満たすということです。

ナッシュ均衡は以下の通りです。

命題(夫婦別姓制度の純粋戦略ナッシュ均衡)
戦略型ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は、\begin{equation*}I=\left\{ 1,2\right\}
\end{equation*}であり、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合は、\begin{equation*}S_{1}=S_{2}=\left\{ W,H\right\}
\end{equation*}であり、利得関数\(u_{i}:S_{1}\times S_{2}\rightarrow \mathbb{R} \)は、\begin{equation*}a>c>b-h>d
\end{equation*}を満たす実数\(a,b,c,d\in \mathbb{R} \)および\(h\in \mathbb{R} _{++}\)を用いて、以下の利得行列

$$\begin{array}{|c|c|c|}
\hline
1\setminus 2 & W & H \\ \hline
W & a,c & b-h,b-h \\ \hline
H & d,d & c,a \\ \hline
\end{array}$$

によって表現されているものとする。このゲーム\(G\)には狭義の純粋戦略ナッシュ均衡が存在し、それは以下の2つ\begin{equation*}\left( s_{1}^{\ast },s_{2}^{\ast }\right) =\left( W,W\right) ,\left(
H,H\right)
\end{equation*}である。

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以上の命題より、夫婦別姓を選択した場合に直面する心理的・社会的・実務的コストや子供の負担を考慮した場合、そのコストが十分大きい場合には、選択的夫婦別氏制度がもたらす結果は夫婦同姓制度の場合と一致することが明らかになりました。したがって、制度が変わっても社会の価値観が変わらなければ、\(\left( H,H\right) \)がフォーカルポイントとしてプレーされ続ける可能性があります。

 

演習問題

問題(夫婦別姓制度)
本文中では、選択的夫婦別氏制度を導入した場合に起こり得るシナリオとして2つを提示しましたが、その他にどのようなシナリオがあり得るでしょうか。自由に議論してください。

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