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コモンズの悲劇(共有地の悲劇)

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共有資源(コモンズ)

通常、同一の商品ないしサービスを複数の人が同時に消費することはできません。誰かが消費すると他者の消費分が減ってしまう場合、そのような商品やサービスの消費には競合性(rivalness)があると言います。逆に、ある人が消費しても他者の消費分が減少しない場合、そのような商品やサービスの消費には非競合性(non-rivalness)があると言います。

例(競合性)
ある人が電気屋で1台のテレビを購入すると、別の人はその個体を購入できなくなるため、テレビの消費には競合性があります。一方、誰かが家でテレビを見ても、別の家に住む人がテレビを見られなくなるわけではないため、テレビ放送サービスの消費には競合性がありません。

通常、商品やサービスを消費するためには金銭などの対価を支払う必要があります。消費するためには対価を支払う必要がある場合、そのような商品やサービスの消費には排除可能性(excludability)があると言います。逆に、対価を支払わずとも消費することが可能である場合、そのような商品やサービスの消費には排除不可能性(non-excludability)があると言います。

例(排除可能性)
店で販売されているミネラルウォーターのボトルを入手するためには金銭を支払う必要があります。また、水道サービスを利用するためには料金を支払う必要があります。したがって、ミネラルウォーターや水道サービスの消費には排除可能性があります。一方、多くの場合、小川に流れている水は対価を支払わず自由に使うことができるため、自然の状態にある水資源の消費には排除不可能性があります。

消費に競合性がある一方で排除不可能性のある商品やサービスを共有資源(commons)やコモンズなど呼びます。つまり、共有資源とは、ある人が消費すると他者の消費分が減少する一方で、対価を支払わずとも消費することが可能であるような商品やサービスです。

 

コモンズの悲劇

ある集団が共同所有している共有資源があるものとします。資源の総量は一定であり、なおかつ共有資源の消費には競合性があるため、集団全体が利用できる資源量には限界があります。ただ、共有資源の消費には排除不可能性があるため、集団に属する各人は自身の消費量を自由に決めることができます。各人による消費量が資源の総量に占める割合が十分小さい状況を想定します。つまり、誰か1人が資源の消費量を増やしても全体に大きな影響はないということです。資源を利用することで利益を得られるのであれば、各人は合理的である限りにおいて、より多くの利益を得るためにより多くの資源を消費しようとします。繰り返しになりますが、1人だけが消費量を増やしても全体に大きな影響はありません。ただ、全員が合理的に行動すると、すなわち全員が資源の消費量を増やしてしまうと、その増加量は無視できないほど大きくなるため、この場合には資源が枯渇してしまいます。資源の枯渇は集団にとってだけでなく個人にとっても最悪の結果です。以上の現象をコモンズの悲劇(tragedy of the commons)や共有地の悲劇社会的ジレンマ(social dilemma)などと呼びます。

例(コモンズの悲劇)
複数の羊飼いが共同所有している牧草地があります。牧草地に生える草の量は有限であり、なおかつ牧草の消費には競合性があるため、全体として飼育可能な羊の数には限界があります。牧草地の消費に排除不可能性がある状況、すなわち、個々の羊飼いは飼育する羊の数を自由に決められる状況を想定します。1人の羊飼いが飼育できる羊の数には限界があるため、1人だけが羊を増やしても全体に大きな影響はありません。飼育する羊が多いほど利益も大きくなるため、個々の羊飼いは自分が飼育する羊を増やそうとします。繰り返しになりますが、1人だけが羊を増やしても全体に大きな影響はありません。ただ、全員が同じように羊を増やしてしまうと、その増加量は無視できないほど大きくなるため、この場合には牧草地が荒廃し、餌を失ったすべての羊が餓死してしまいます。これは羊飼いにとって最悪の結果です。これは1968年に米国の生態学者ギャレット・ハーディン(Garrett
Hardin)が発表した問題であり、コモンズの悲劇の起源として知られています。

 

完備情報の静学ゲームとしてのコモンズの悲劇

コモンズの悲劇が想定する状況をゲーム論の意味でのゲームと解釈します。共有資源の利用に関して集団の中で事前に話し合いを行うことができない状況や、話し合いの末に到達した合意に強制力がない状況を想定するのであれば、コモンズの悲劇は非協力ゲームとなります。さらに、各人が他の人たちによる意思決定を観察できない状態で自身の意思決定を行う状況を想定するのであれば、コモンズの悲劇は静学ゲームとなります。加えて、ゲームのルールが人々にとって共有知識であることを仮定するのであれば、コモンズの悲劇は完備情報ゲームとなります。

そこで、コモンズの悲劇を以下のような戦略型ゲーム\(G\)としてモデル化します。まず、プレイヤー集合は、\begin{equation*}I=\left\{ 1,\cdots ,n\right\}
\end{equation*}です。ただし、\(i\in I\)は問題としている集団の成員\(i\)を表します。また、プレイヤー\(i\)の純粋戦略集合は、\begin{equation*}S_{i}=\left\{ C,D\right\}
\end{equation*}です。ただし、\(C\)は全体の利益を考えて資源の消費を抑制する協調戦略(Cooperate の C)であり、\(D\)は利己的な考えから資源の消費を抑制しない裏切り戦略(Defect の D)です。問題は、それぞれのプレイヤー\(i\)の利得関数\(u_{i}:S_{I}\rightarrow \mathbb{R} \)をどのように記述するかです。

それぞれのプレイヤーが自分を除く\(n-1\)人のプレイヤーを個人として区別しないのであれば、プレイヤー\(i\)の利得関数を、自分が選ぶ純粋戦略\(s_{i}\in S_{i}\)と、自分を除く\(n-1\)人のプレイヤーの中で協調戦略\(C\)を選ぶ人数\(c\ \left( =0,1,\cdots ,n-1\right) \)を変数として持つ関数\begin{equation*}u_{i}:S_{i}\times \left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\} \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}として定式化できます。

それぞれのプレイヤーは協調戦略\(C\)の代わりに裏切り戦略\(D\)を選べばより多くの資源を消費することになるため、そこからより多くの利益を得られます。加えて、各人による消費量が資源の総量に占める割合が十分小さい状況を想定しているため、特定のプレイヤーだけが裏切り戦略\(D\)を選んでも全体の資源量に与える影響はわずかであり、したがって、裏切り戦略\(D\)を選ぶことで自身が被る不利益は無視できるほど小さくなります。つまり、トータルで考えた場合、自分以外のプレイヤーたちの中で協調戦略\(C\)を選ぶ人たちが何人であるかに関わらず、自分は裏切り戦略\(D\)を選択すれば、そうでない場合にもより多くの利益を得られます。以上を踏まえた上で、任意のプレイヤー\(i\in I\)について、\begin{equation*}\forall c\in \left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\} :u_{i}\left( D,c\right)
>u_{i}\left( C,c\right)
\end{equation*}が成り立つものと仮定します。

全員が協調戦略\(C\)を選んだ場合には資源が枯渇しない一方で、全員が裏切り戦略\(D\)を選んだ場合には資源が枯渇してしまいます。資源の枯渇はすべてのプレイヤーにとって最悪の結果であるため、任意のプレイヤー\(i\)について、\begin{equation*}u_{i}\left( C,n-1\right) >u_{i}\left( D,0\right)
\end{equation*}が成り立つものと仮定します。

他のプレイヤーの中で協調戦略\(C\)を選ぶ人の数が多いほど残存資源量は多くなります。残存資源を全員で利用するのであれば、それぞれの人にとって、他のプレイヤーの中で協調戦略\(C\)を選ぶ人の数の数が多いほど望ましいことになります。以上を踏まえた上で、任意のプレイヤー\(i\in I\)について、関数\begin{eqnarray*}u_{i}\left( C,\cdot \right) &:&\left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\} \rightarrow \mathbb{R} \\
u_{i}\left( D,\cdot \right) &:&\left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\} \rightarrow \mathbb{R} \end{eqnarray*}はともに変数\(c\)に関する狭義の増加関数であるものと仮定します。

以上によってコモンズの悲劇を描写する戦略型ゲーム\(G\)の定義とします。改めて整理すると、このゲームのプレイヤー集合は問題としている共有資源を利用する集団からなる集合\(I=\left\{ 1,\cdots,n\right\} \)であり、任意のプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合は\(S_{i}=\left\{ C,D\right\} \)です。ただし、\(C\)は資源の利用を抑制する協調戦略であり、\(D\)は資源の利用を抑制しない裏切り戦略です。それぞれのプレイヤー\(i\)の利得関数は、自分が選ぶ純粋戦略\(s_{i}\in S_{i}\)と、自分以外の\(n-1\)人のプレイヤーの中で\(C\)を選ぶ人数\(c\in \left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\} \)を変数として持つ関数\(u_{i}:S_{i}\times\left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\} \rightarrow \mathbb{R} \)であり、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall c\in \left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\}
:u_{i}\left( D,c\right) >u_{i}\left( C,c\right) \\
&&\left( b\right) \ u_{i}\left( C,n-1\right) >u_{i}\left( D,0\right) \\
&&\left( c\right) \ u_{i}\left( C,\cdot \right) \text{と}u_{i}\left(
D,\cdot \right) \text{は}c\text{に関する狭義単調増加関数}
\end{eqnarray*}をすべて満たすものとして定義されます。

利得関数に関する仮定\(\left( a\right) ,\left( b\right) ,\left( c\right) \)より、コモンズの悲劇を描写する以上の戦略型ゲーム\(G\)は\(n\)人囚人のジレンマに他なりません。つまり、コモンズの悲劇における\(C\)が\(n\)人囚人のジレンマにおける協調戦略に対応し、\(D\)が\(n\)人囚人のジレンマにおける裏切り戦略に対応します。

 

コモンズの悲劇の均衡

コモンズの悲劇では全員が裏切り戦略\(D\)を選ぶことが狭義の支配戦略均衡になります。

命題(コモンズの悲劇の狭義の支配戦略均衡)
戦略型ゲーム\(G\)のプレイヤー集合は\(I=\left\{ 1,\cdots,n\right\} \)であり、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略集合は\(S_{i}=\left\{ C,D\right\} \)であり、利得関数\(u_{i}:S_{i}\times \left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\} \rightarrow \mathbb{R} \)は以下のすべての条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall c\in \left\{ 0,1,\cdots ,n-1\right\}
:u_{i}\left( D,c\right) >u_{i}\left( C,c\right) \\
&&\left( b\right) \ u_{i}\left( C,n-1\right) >u_{i}\left( D,0\right) \\
&&\left( c\right) \ u_{i}\left( D,c\right) \text{と}u_{i}\left(
C,c\right) \text{は}c\text{に関する狭義単調増加関数}
\end{eqnarray*}を満たすものとする。ただし、\(c\)はプレイヤー\(i\)を除く\(n-1\)人のプレイヤーの中で協調戦略\(C\)を選ぶ人数である。このゲーム\(G\)には狭義の支配戦略均衡が存在し、それはすべてのプレイヤーが\(D\)を選ぶことである。
証明

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一般に、戦略型ゲーム\(G\)に狭義の支配戦略均衡が存在する場合には一意的であるため、全員が裏切り戦略\(D\)を選ぶことはコモンズの悲劇における唯一の狭義の支配戦略均衡です。

プレイヤーが混合戦略を採用する場合にはどうなるでしょうか。一般に、戦略型ゲーム\(G\)に狭義の支配戦略均衡が存在することと、\(G\)の混合拡張\(G^{\ast }\)に狭義の支配戦略均衡が存在することは必要十分であるとともに、両者は一致します。したがって、全員が裏切り戦略\(D\)を選ぶことは混合戦略の範囲においても狭義の支配戦略均衡です。

戦略型ゲーム\(G\)に狭義の支配戦略均衡が存在する場合、プレイヤーたちが合理的であるという事実が共有知識でない場合においても、それぞれのプレイヤーが合理的でありさえすれば、プレイヤーたちはその均衡をプレーします。コモンズの悲劇では全員が裏切り戦略\(D\)を選ぶことが狭義の支配戦略均衡であるため、それぞれのプレイヤーが合理的であれば、全員が裏切り戦略\(D\)を選ぶという均衡が実際にプレーされることが予想されます。

コモンズの悲劇においてそれぞれのプレイヤーは、他のプレイヤーたちが選択する行動がいかなるものであっても、自分は裏切り戦略\(D\)を選んだ方が協調戦略\(C\)を選ぶ場合よりも大きな利得を得られます(\(D\)が\(C\)を狭義支配する)。したがって、プレイヤーが合理的である限りにおいて裏切り戦略\(D\)を選びます。しかし、全員が裏切り戦略\(D\)を選んだ場合に自分が得る利得は、全員が協調戦略\(C\)を選んだときに自分が得る利得よりも小さくなってしまいます。他のプレイヤーたちにとっても事情は同じであるため、自分だけでなく他のプレイヤーたちにとっても全員が協調戦略\(C\)を選ぶことは全員が裏切り戦略\(D\)を選ぶことよりも望ましいはずです。つまり、それぞれのプレイヤーが自己の利得を最大化するために行動する場合、得られる結果は他のプレイヤーにとってだけでなく自分にとっても最適なものにならないという意味においてコモンズの悲劇は興味深い例になっています。

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