ゲームに参加するプレイヤーはそれぞれ明確な目的を持ち、その目的を達成するために最適な行動を選択するものと仮定します。さらに、プレイヤーの目的は自己の利得の最大化であると仮定します。つまり、ゲームに参加するプレイヤーたちは、意志決定の際に自分の利得の最大化をめざすという意味において利己的であるものと仮定します。

2019年5月15日:改定
2018年11月15日:公開

合理性の仮定

完備情報ゲームにおけるプレイヤーの意思決定の内容は純戦略として定式化できます。では、そもそも、プレイヤーはどのような原理にもとづいて意思決定を行うのでしょうか。

ゲーム理論では、ゲームに参加するプレイヤーはそれぞれ明確な目的を持ち、その目的を達成するために最適な行動を選択するものと仮定します。この意味において、ゲームにおけるプレイヤーは合理的(rational)です。さらに、プレイヤーの目的は自己の利得の最大化であると仮定します。つまり、ゲームに参加するプレイヤーたちは、意志決定の際に自分の利得の最大化をめざすという意味において利己的(selfish)であるものと仮定します。

プレイヤーの行動原理に関して合理性と利己性を仮定することは、プレイヤーが自己の利得を最大化するために最適な行動を選択することを意味します。ちなみに、これらの 2 つの仮定を総称して合理性の仮定と呼ぶこともあります。私たちもその流儀にしたがいましょう。

完備情報の静学ゲームにおいて、プレイヤーの意思決定に関して合理性の仮定が成り立つことを保証するためには、そのゲームを表す戦略型ゲームにおいて以下を仮定する必要があります。

仮定(合理性の仮定の前提)
  1. それぞれのプレイヤーは、自分がプレーしている戦略型ゲーム\(G\)において起こり得るすべての事象を把握している。つまり、それぞれのプレイヤーはすべてのプレイヤーの戦略集合の直積\(S_{I}=\prod_{i\in I}S_{i}\)に属するすべての要素を把握している。
  2. それぞれのプレイヤー\(i\)は、ゲームにおいて起こり得るそれぞれの事象\(s_{I}\in S_{I}\)から自身が得る利得\(u_{i}\left( s_{I}\right) \in \mathbb{R}\)を把握しており、その上で、自身の利得を最大化するような戦略\(s_{i}\in S_{i}\)を選択する。

これらの条件は、プレイヤーは起こり得る事象の集合\(S_{I}\)を把握する情報収集能力を持ち、また、意志決定を行う時点において利用可能な情報をすべて活用し、さらに、自身が選択可能なそれぞれの戦略によって自分が得るであろう利得を計算する能力を備えていることを暗に仮定していることになります。

完備情報ゲームにおいては、ゲームのルールはプレイヤーたちの共有知識です。一方、プレイヤーの合理性はゲームのルールとは異なる概念であるため、完備情報ゲームにおいてプレイヤーの合理性は共有知識であるとは限りません。多くの場合、プレイヤーの合理性は相互知識であると仮定します。つまり、すべてのプレイヤーが合理的であることをすべてのプレイヤーが知っていることを仮定します。ただし、プレイヤーの合理性を共有知識と仮定する場合もあります。つまり、すべてのプレイヤーが合理的であることをすべてのプレイヤーが知っており、なおかつ、その事実をすべてのプレイヤーが知っており、\(\cdots \)、という仮定を無限に積み重ねるということです。

 

純戦略均衡

戦略型ゲーム\(G\)として表現される完備情報の静学ゲームに直面したそれぞれのプレイヤー\(i\in I\)は、合理性の仮定にもとづいて、自身が選択可能な戦略の集合\(S_{i}\)の中から、自身の利得を最大化する純戦略を選びます。このような純戦略を\(s_{i}^{\ast }\in S_{i}\)で表し、これをプレイヤー\(i\)の最適戦略(best strategy)と呼びます。

プレイヤーたちが最適戦略を選ぶ目的は自身の利得の最大化ですが、最適戦略の具体的な内容は戦略型ゲーム\(G\)の要素とは別に外生的に定義する必要があります。つまり、ゲームの分析家は最適戦略の意味をあらかじめ規定した上で、そこで規定された最適戦略の概念のもとでプレイヤーたちが具体的にどのように振る舞い、そこからどのような結果がもたらされるかを分析する、ということです。したがって、同じゲーム\(G\)を分析対象とする場合でも、異なる最適戦略の概念のもとで分析を行えば異なる分析結果が得られます。ですから、分析家がどのような最適戦略の概念を採用するかは非常に重要な問題です。

最適戦略の意味を定義することとは、それぞれの戦略型ゲーム\(G\)に対して、そこでの最適戦略の組\(s_{I}^{\ast }=(s_{i}^{\ast })_{i\in I}\in S_{I}\)を定める概念を特定することを意味します。そこで、そのような概念を均衡概念(equilibrium concept)や解の概念(solution concept)などと呼びます。また、均衡概念がそれぞれの戦略型ゲーム\(G\)に対して定める最適戦略の組\(s_{I}^{\ast }\)を\(G\)の均衡(equilibrium)や純戦略均衡(pure strategy equilibrium)などと呼び、均衡\(s_{I}^{\ast }\)を構成するプレイヤー\(i\)の最適戦略\(s_{i}^{\ast }\)を\(i\)の均衡戦略(equilibrium strategy)と呼びます。さらに、戦略型ゲーム\(G\)の均衡が\(s_{I}^{\ast }\)であるとき、ゲームのルールが\(s_{I}^{\ast }\)に対して\(G\)の結果を定めますが、それを\(G\)の均衡結果(equilibrium outcome)と呼びます。その上で、均衡結果からプレイヤーたちが得る利得の組を\(u_{I}^{\ast }=(u_{i}(s_{I}^{\ast }))_{i\in I}\in \mathbb{R} ^{n}\)で表します。

ある均衡概念が外生的に与えられたとき、その均衡概念のもとで、それぞれの戦略型ゲームに対して純戦略均衡は存在するとは限りません。また、純戦略均衡が存在する場合においても、それは一意的に定まるとは限りません。したがって、完備情報の静学ゲームが戦略型ゲームとして表現されるとき、均衡概念とは、それぞれの戦略型ゲームに対してそこでの純戦略均衡を定める対応として定式化されます。

古典的経済学の一般均衡モデル(general equilibrium model)における均衡とは、個々の経済主体が最適な行動を選択した結果として得られる価格の集合です。一方、ゲーム理論における均衡とは、ゲームに対する最適戦略の組を定める対応に相当する概念です。したがって、一般均衡モデルをゲーム論的に解釈するならば、個々の経済主体による商品の売買ルールが均衡に相当し、その結果として得られる価格の集合は均衡そのものではなく、均衡結果に相当します。

次回は混合戦略と呼ばれる概念について解説します。

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