不完備情報の静学ゲームをベイジアンゲームとして表現するとき、すべてのプレイヤーの利得関数が自身のタイプのみに依存し、他のプレイヤーのタイプに依存しないものと仮定する場合には、そのようなモデルを私的価値モデルと呼びます。

2019年11月25日:公開

私的価値の仮定

不完備情報の静学ゲームをベイジアンゲーム\(G\)として記述する際には、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)は状態\(\theta _{I}\in \Theta _{I}\)を変数として持つ選好\(\succsim _{i}\left( \theta _{I}\right) \)を持っているものと考えます。つまり、プレイヤー\(i\)の選好\(\succsim _{i}\left( \theta _{I}\right) \)は状態\(\theta _{I}\)に依存して変化し得るということです。このとき、プレイヤー\(i\)の選好は\(\{\succsim _{i}\left( \theta _{I}\right) \}_{\theta _{I}\in \Theta _{I}}\)として記述されます。

一方、プレイヤー\(i\)の選好は自身のタイプ\(\theta _{i}\)だけに依存し、他のプレイヤーたちのタイプ\(\theta _{-i}\)には依存しないという仮定を設けることもあります。このとき、それぞれの\(\theta _{i}\in \Theta _{i}\)に対して\(A_{I}\)上の二項関係\(\succsim _{i}\left( \theta _{i}\right) \)が存在して、\begin{equation*}
\forall \theta _{-i}\in \Theta _{-i}:\succsim _{i}\left( \theta _{i}\right) =\succsim _{i}\left( \theta _{i},\theta _{-i}\right)
\end{equation*}という関係が成り立ちます。つまり、プレイヤー\(i\)の選好が自身のタイプ\(\theta _{i}\)のみに依存する場合には、それぞれのタイプ\(\theta _{i}\)におけるプレイヤー\(i\)の選好は他のプレイヤーたちのタイプ\(\theta _{-i}\)に依存せず\(\succsim _{i}\left( \theta _{i}\right) \)で一定になるということです。このような仮定を私的価値(private values)の仮定と呼びます。私的価値の仮定のもとでは、それぞれのプレイヤー\(i\)の選好は\(\{\succsim _{i}\left( \theta _{I}\right) \}_{\theta _{I}\in \Theta _{I}}\)ではなく\(\{\succsim _{i}\left( \theta _{i}\right) \}_{\theta _{i}\in \Theta _{i}}\)と記述されます。

例(私的価値の仮定)
1つの商品をめぐって複数の買い手が入札を行うオークションについて考えます。プレイヤー集合は\(I=\{1,2,\cdots ,n\}\)、プレイヤーである入札者\(i\in I\)のタイプ\(\theta _{i}\)は自身にとっての商品への評価額であるとし、タイプ集合を\(\Theta _{i}=[\underline{\theta }_{i},\overline{\theta }_{i}]\subset \mathbb{R}\)と定めます。それぞれの入札者\(i\)の行動\(a_{i}\)は売りに出されている商品への入札価格であり、行動集合は\(A_{i}=[0,+\infty )\)であるものとします。さらに、入札者たちが提示する価格の組が\(a_{I}=\left( a_{i}\right) _{i\in I}\)であるとき、\(a_{i}=\max \left\{ a_{1},\cdots ,a_{n}\right\} \)を満たす入札者\(i\)が商品を落札し、自身の入札額\(a_{i}\)に等しい金額を支払うものと定めます。他の任意の入札者は商品を落札できず、支払いも行いません。入札者\(i\)が落札した商品を事後的に転売しようと考えている場合や、商品から得られる満足が他の人たちによる商品への評価によって左右されるのであれば、入札者\(i\)の選好\(\succsim _{i}\)は自身にとっての評価額\(\theta _{i}\)だけでなく他の入札者たちにとっての評価額\(\theta _{-i}\)にも依存するため、入札者\(i\)の選好は\(\succsim _{i}\left( \theta _{I}\right) \)と定式化されます。したがって、この場合には私的価値の仮定は成り立ちません。一方、それぞれの入札者\(i\)は商品を自分で消費するために落札しようとしており、なおかつ、商品から得られる満足が他の人たちによる商品への評価によって左右されないのであれば、入札者\(i\)の選好\(\succsim _{i}\)は自身にとっての評価額\(\theta _{i}\)のみに依存し、他の入札者たちにとっての評価額\(\theta _{-i}\)には依存しないため、入札者\(i\)の選好は\(\succsim _{i}\left( \theta _{i}\right) \)と定式化できます。つまり、この場合には私的価値の仮定が成り立ちます。

 

私的価値モデル

不完備情報の静学ゲームをベイジアンゲーム\(G\)として表現するとき、そこに含まれる要素は、\begin{equation*}
G=(I,\left\{ A_{i}\right\} _{i\in I},\left\{ \Theta _{i}\right\} _{i\in I},\left\{ u_{i}\right\} _{i\in I})
\end{equation*}となります。特に、プレイヤー\(i\)の利得関数\(u_{i}\)は、\begin{equation*}
u_{i}=\{u_{i}\left( \cdot ,\theta _{I}\right) \}_{\theta _{I}\in \Theta _{I}}
\end{equation*}と定式化されます。プレイヤー\(i\)の利得関数は状態\(\theta _{I}=\left( \theta _{i},\theta _{-i}\right) \)に依存するということです。一方、私的価値を仮定する場合には、プレイヤー\(i\)の利得関数\(u_{i}\)は、\begin{equation*}
u_{i}=\{u_{i}\left( \cdot ,\theta _{i}\right) \}_{\theta _{i}\in \Theta _{i}}
\end{equation*}と定式化されます。このとき、プレイヤー\(i\)の利得関数は自身のタイプ\(\theta _{i}\)のみに依存するということです。ベイジアンゲーム\(G\)においてすべてのプレイヤーの利得関数に関して私的価値の仮定が成り立つとき、そのモデルを私的価値モデル(private value model)と呼びます。

例(私的価値モデル)
ベイジアンゲーム\(G\)のプレイヤー集合が\(I=\{1,2\}\)、行動集合は\(A_{1}=A_{2}=\{a,b\}\)、タイプ集合は\(\Theta _{1}=\{\theta _{1}^{\prime }\},\ \Theta _{2}=\{\theta _{2}^{\prime },\theta _{2}^{\prime \prime }\}\)であるものとします。このとき、2 通りの状態\(\left( \theta _{1}^{\prime },\theta _{2}^{\prime \prime }\right) ,\ \left( \theta _{1}^{\prime },\theta _{2}^{\prime \prime }\right) \)が存在しますが、それぞれの状態におけるプレイヤーの利得関数を以下の利得行列で表します。
$$\begin{array}{ccc}
\hline
1\diagdown 2 & a & b \\ \hline
a & 2,1 & 0,0 \\ \hline
b & 0,0 & 1,2 \\ \hline
\end{array}$$
表:状態\(\left( \theta _{1}^{\prime },\theta _{2}^{\prime }\right) \)
$$\begin{array}{ccc}
\hline
1\diagdown 2 & a & b \\ \hline
a & 2,0 & 0,2 \\ \hline
b & 0,1 & 1,0 \\ \hline
\end{array}$$
表:状態\(\left( \theta _{1}^{\prime },\theta _{2}^{\prime \prime }\right) \)

プレイヤー\(2\)のタイプ\(\theta _{2}\)がとり得る値として\(\theta _{2}^{\prime },\theta _{2}^{\prime \prime }\)の 2 通りありますが、プレイヤー\(1\)の利得関数\(u_{1}\left( \theta _{I}\right) \)は相手のタイプ\(\theta _{2}\)に依存しないことを上の表から確認できるため、プレイヤー\(1\)の利得関数に関して私的価値の仮定が成立しています。一方、プレイヤー\(1\)のタイプ\(\theta _{1}\)がとり得る値は\(\theta _{1}^{\prime }\)だけですので、プレイヤー\(2\)の利得関数\(u_{2}\left( \theta _{I}\right) \)は明らかに私的価値を満たします。したがって、このベイジアンゲーム\(G\)は私的価値モデルです。

次回はベイジアンゲームと状態から定義される状態ゲームと呼ばれる概念について解説します。

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