完備情報の静学ゲームとはどのようなクラスのゲームであるかを解説した上で、完備情報の静学ゲームを記述するために特定する必要がある情報について説明します。

2019年11月24日:公開

ゲームの分類

復習になりますが、ゲーム理論の分析対象であるゲーム(game)とは、戦略的相互依存性(strategic interdependence)が存在する状況を指します。戦略的相互依存性とは、複数の主体が関わり合う場面において、各々が最終的に直面する結果が自分の行動だけによって決まるのではなく、他の主体の行動にも依存するような状況のことです。

ゲームを記述するためには、以下の要素から構成されるゲームのルール(rule)を特定する必要があります。

  1. ゲームにおいて意思決定を行う主体は誰か。つまり、ゲームのプレイヤー(player)は誰か。
  2. プレイヤーたちはどのような順番(turn)で意思決定を行うか。
  3. プレイヤーたちが意思決定を行う際にどのような選択肢が与えられているか。つまり、プレイヤーたちはどのような行動(action)を選択可能か。
  4. プレイヤーが意思決定を行う際にどのような情報(information)が与えられているか。
  5. プレイヤーたちが意思決定を行う帰結として、どのような結果(outcome)が起こり得るか。
  6. プレイヤーたちはそれぞれの結果をどの程度評価しているか。すなわち、プレイヤーはどのような利得(payoff)の体系を持っているか。

ゲームに直面したプレイヤーたちは、自身にとってより望ましい結果を導くために、最終的な意思決定を行う前に交渉を行う可能性があります。したがって、ゲームを分析する際には、プレイヤーたちの間に拘束的な合意が成立するか否かを事前に明らかにしておく必要があります。プレイヤーたちの間に拘束的な合意が成立するという前提のもとで分析が行われるゲームを協力ゲーム(cooperative game)と呼び、プレイヤーたちの間に拘束的な合意が成立しないという前提のもとで分析が行われるゲームを非協力ゲーム(non-cooperative game)と呼びます。特に、非協力ゲームは「静学か動学か」という基準と「完備情報か不完備情報か」という基準をもとに、以下の 4 種類に分類されます。

$$\begin{array}{ccc}
\hline
& 完備情報 & 不完備情報
\\ \hline
静学 & 完備情報の静学ゲーム & 不完備情報の静学ゲーム \\ \hline
動学 & 完備情報の動学ゲーム & 不完備情報の動学ゲーム \\ \hline
\end{array}$$

表:非協力ゲームの分類

 

不完備情報の静学ゲーム

不完備情報の静学ゲーム(static games of incomplete information)は非協力ゲームです。したがって、そこではプレイヤーたちの間に拘束的な合意は成立せず、それぞれのプレイヤーの意思決定は、他のプレイヤーの意思決定からは独立した形で行われます。

完備情報の静学ゲームは静学ゲームです。したがって、そこではプレイヤーたちが同時に意思決定を行います。言い換えると、それぞれのプレイヤーは他のプレイヤーたちの意思決定の内容を観察できない状態で意思決定を行うということです。

完備情報の静学ゲームは不完備情報ゲームです。したがって、そこではゲームのルールがプレイヤーたちの共有知識ではありません。言い換えると、少なくとも 1 人のプレイヤーはゲームのルールを構成する少なくとも 1 つの要素を知らずに意思決定を行うということです。不完備情報ゲームのプレイヤーが保有するゲームのルールに関する情報のうち、そのプレイヤーだけが観察可能で、他のプレイヤーたちが観察できないものを、そのプレイヤーが持つ私的情報(private information)やタイプ(type)などと呼びます。少なくとも 1 人のプレイヤーが私的情報を持つ場合には、プレイヤーたちが直面する情報構造は対称的ではないため、情報の非対称性(asymmetric information)が存在すると表現します。不完備情報ゲームは情報の非対称性が成立する戦略的状況です。

 

不完備情報の静学ゲームを記述する方法

一般に、ゲームを記述するためにはゲームのルールを構成する要素であるプレイヤー、順番、行動、情報、結果、利得をそれぞれ具体的に特定する必要があります。ただし、不完備情報の静学ゲームを分析対象とする場合には「順番」はすでに明らかです。つまり、不完備の静学ゲームにおいて、すべてのプレイヤーは互いに他のプレイヤーによる意思決定の内容を観察できない状態で同時に意思決定を行います。

以上を踏まえると、不完備情報の静学ゲームを記述するためにはゲームのルールの残りの要素であるプレイヤー、行動、情報、結果、利得をそれぞれ具体的に特定すればよいということになります。これらの要素を記述する方法はいくつか存在しますが、以降ではその中でもベイジアンゲーム(Bayesian game)と呼ばれるモデルを紹介します。

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