農産物の総供給曲線の特徴
農産物の供給は短期的には非弾力的であり、外生的な要因により総供給曲線がシフトしやすい傾向があります。理由は以下の通りです。
農産物生産は栽培規模と栽培期間の制約を強く受けます。農産物を生産する際には作付面積をあらかじめ決定し、種まきから収穫まで数カ月かかるため、農産物価格が上昇しても供給量を即座に調整できません。そのため、短期的に農産物の供給は非弾力的であり、総供給曲線の傾きは大きくなる傾向があります。長期的には農地開発や新規参入、品種改良などを通じて供給量を増やすことができます。
多くの農産物は在庫調整が困難です。生鮮野菜や果物は収穫後すぐに消費する必要があるため、在庫を通じて供給を調整することが困難です。そのため、供給は非弾力的になります。他方で、米や小麦などの穀物は一定期間の保存が可能であるため、在庫調整を通じて供給を調整することがある程度は可能です。そのため、生鮮野菜や果物と比べると供給が弾力的になる傾向があります。
農産物の生産は天候や自然災害の影響を受けやすいという特徴があります。日照不足や台風、干ばつ、霜害などによって農産物の生産量が急減すると総供給曲線は左側へシフトします。
農産物の総需要曲線の特徴
農産物の需要は非弾力的である傾向があります。理由は以下の通りです。
米や野菜、果物などの農産物は多くの人にとって日常的に消費する生活必需品であり、価格の変化に対して消費を急激に変化させることはできません。また、人間の胃袋の容量には限界があるため消費量にも限界があります。そのため、多くの農産物の需要は非弾力的であり、総需要曲線の傾きは大きくなる傾向があります。ただし、比較的高価な野菜や果物の需要は弾力的な側面があります。
多くの農作物は腐りやすく、鮮度が商品価値を左右するため、価格が安くなっても買いだめができません。逆に、価格が上がった場合、冷蔵保存ができず代替しづらい野菜はある程度購入されます。そのため、多くの農産物の需要は非弾力的であり、総需要曲線の傾きは大きくなる傾向があります。ただし、米やジャガイモ、玉ねぎなど保存可能性が高い農産物については、需要の価格弾力性がやや高めになる傾向があります。
農産物価格の特徴
短期的には農産物価格は乱高下する傾向があります。理由は以下の通りです。
農産物の供給と需要は非弾力的であることが明らかになりました。したがって、農産物の総供給曲線と総需要曲線はともに大きな傾きを持ちます。そのような状況において、天候不順など外生的な要因により総供給曲線が左側へシフトすると、農産物の価格は大きく上昇します。逆に、好天など外生的な要因により総供給曲線が右側へシフトすると、農産物の価格は大きく下落します。日照不足や台風、干ばつ、霜害など農産物の総供給曲線をシフトさせる要因が多いため、農産物の価格は不安定かつ乱高下します。
農産物市場における短期と長期
経済学における短期とは、一部の生産要素の投入量が固定されており、生産者が商品の供給量を自由に調整できないタイムスパンを指します。農業における短期とは、おおむね作付から収穫までの1つの周期を意味します。農業生産では季節や生育期間、土地や労働の制約があるため生産量は基本的に確定しており、市場の価格変動に対して供給量を調整するのが困難です。したがって、短期的な需要の変動や天候による供給ショックは、ほぼ価格の変動として現れます。凶作による価格の急騰や豊作貧乏などは、供給の価格非弾力性が支配的な短期に特有の減少です。
経済学における長期とは、すべての生産要素の投入量が可変であり、生産者が市場への参入・退出を含めて自由に供給量を調整できるタイムスパンを指します。長期になると、農業生産者は生産規模の調整、設備投資、土地利用の変更、技術の導入、労働力の再配置などが可能になります。また、農業への新規参入や撤退といった供給主体の入れ替わりも起こります。そのため、長期における総供給曲線は短期の場合よりも傾きが緩やかになり、価格の安定性は相対的に高くなる傾向があります。
価格安定化のための政策
農産物価格の不安定性は農家の所得の不安定性に直結します。そこで、各国の政府は価格変動リスクを軽減するために様々な政策を講じてきました。
農産物価格や農家の所得を安定させる政策は生産者保護の観点からは重要ですが、いくつか課題もあります。まず、過剰な保護は市場メカニズムを歪め、生産意欲や効率性を損なう恐れがあります。また、政策の実施に伴う財政的コストが高い場合、持続性に問題があります。したがって、単に価格を操作するのではなく、リスク分散や農業経営の自立性向上を促す政策もまた求められます。
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