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経済学入門

商品の総需要曲線の形状の影響:需要の価格弾力性

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商品の総需要曲線の形状が価格変化に与える影響

商品の総需要曲線は右下がりである一方で総供給曲線は右上がりであり、商品の価格と取引量は総需要曲線と総供給曲線の交点に落ち着きます。総需要曲線や総供給曲線が移動すれば両者の交点も変化するため、それに応じて商品の価格と取引量も変化します。これまでは総需要曲線や総供給曲線が移動する要因や、移動した場合の市場均衡の変化について解説してきましたが、総需要曲線や総供給曲線の形状については、それを一定とみなしてきました。では、総需要曲線や総供給曲線の形状はどのような要因によって決定されるのでしょうか。また、それらの形状は価格変化に対してどのような影響を与えるのでしょうか。今回は総需要曲線の形状について解説します。

図:総需要曲線の傾きの違いがもたらす影響
図:総需要曲線の傾きの違いがもたらす影響

上図において商品の総供給曲線が\(AS\)として描かれています。総需要曲線として2つのシナリオを想定します。1つ目は傾きが小さい場合の総需要曲線\(AD_{1}\)であり、2つ目は傾きが大きい場合の総需要曲線\(AD_{2}\)です。当初の市場均衡における市場価格は\(P^{\ast }\)であり、均衡数量は\(Q^{\ast }\)です。今、何らかの要因により総供給曲線が右側へシフトして\(AS^{\prime }\)となった状況を想定します。総需要曲線が\(AD_{1}\)である場合の新たな均衡価格は\(P_{1}^{\ast \ast }\)であり均衡数量は\(Q_{1}^{\ast \ast }\)です。総需要曲線が\(AD_{2}\)である場合の新たな均衡価格は\(P_{2}^{\ast \ast }\)であり均衡数量は\(Q_{2}^{\ast \ast }\)です。図から明らかであるように以下の関係\begin{eqnarray}\left\vert P_{1}^{\ast \ast }-P^{\ast }\right\vert &<&\left\vert
P_{2}^{\ast \ast }-P^{\ast }\right\vert \quad \cdots (1) \\
\left\vert Q_{1}^{\ast \ast }-Q^{\ast }\right\vert &>&\left\vert
Q_{2}^{\ast \ast }-Q^{\ast }\right\vert \quad \cdots (2)
\end{eqnarray}がともに成り立ちます。つまり、総需要曲線の傾きが小さい場合\(AD_{1}\)には、傾きが大きい場合\(AD_{2}\)よりも、価格の下落幅がより小さく、取引量の増加幅がより大きいということです。\(\left(1\right) ,\left( 2\right) \)より、以下の関係\begin{equation*}\frac{\left\vert Q_{1}^{\ast \ast }-Q^{\ast }\right\vert }{\left\vert
P_{1}^{\ast \ast }-P^{\ast }\right\vert }>\frac{\left\vert Q_{1}^{\ast \ast
}-Q^{\ast }\right\vert }{\left\vert P_{2}^{\ast \ast }-P^{\ast }\right\vert }
\end{equation*}もまた成り立ちます。つまり、総需要曲線の傾きが小さい場合\(AD_{1}\)には、傾きが大きい場合\(AD_{2}\)よりも、同一の価格下落に対して取引量がより大きく増加するするということです。

これまでは総供給曲線が右側へシフトする場合について考えましたが、総供給曲線が左側へシフトする場合にも同様の議論が成り立ちます。つまり、総需要曲線の傾きが小さい場合\(AD_{1}\)には、傾きが大きい場合\(AD_{2}\)よりも、同一の価格上昇に対して取引量がより大きく減少するということです。

ある商品の価格が変化した場合に、その商品の需要がどれほど変化するかを表す指標を、その商品の需要の自己価格弾力性(own price elasticity)と呼びます。より正確には、ある商品の需要の自己価格弾力性とは、その商品の市場価格が\(1\)パーセント変化した場合に、その商品の需要が何パーセント変化するかを表す指標です。つまり、ある商品の均衡価格が\(P^{\ast }\)から\(P^{\ast \ast }\)へ変化した場合に需要量が\(Q^{\ast }\)から\(Q^{\ast \ast }\)へ変化するのであれば、その商品の需要の自己価格弾力性は、\begin{equation*}\frac{\frac{\left\vert Q^{\ast \ast }-Q^{\ast }\right\vert }{Q^{\ast }}}{\frac{\left\vert P^{\ast \ast }-P^{\ast }\right\vert }{P^{\ast }}}
\end{equation*}と定義されます。以下ではこれをシンプルに価格弾力性(price elasticity)と呼びます。これまでの議論から明らかになったように、総需要曲線の傾きが小さい商品の価格弾力性は大きく評価され、総需要曲線の傾きが大きい商品の価格弾力性は小さく評価されます。

 

価格弾力的な商品

ある商品の需要の価格弾力性が\(1\)より大きい場合には、すなわち、その商品の市場価格が\(1\)パーセント変化した場合に、その商品の需要が\(1\)パーセントより大きく変化する場合には、そのような商品の需要は価格弾力的(price elastic)であると言います。

価格弾力的な商品の総需要曲線の傾きは小さいため、価格が上昇すると取引量が大幅に減少し、価格が下落すると取引量が大幅に増加します。

価格弾力的な商品の価格が\(1\)パーセント上がると取引量は\(1\)パーセントより大きく減少するため、売上は減少します。逆に、価格が\(1\)パーセント下落すると取引量は\(1\)パーセントより大きく増加するため、売上は増加します。

例(やや弾力的な商品)
価格弾力性が\(1\)より大きく\(2\)以下であるような価格弾力的な商品をやや弾力的(moderately elastic)な商品と呼びます。ファミレスやカフェ、定食屋など比較的安価な外食に対しては、自炊やコンビニ弁当などの代替手段が数多く存在するため、価格が変化したときに消費者は容易に別の飲食方法に切り替えることができます。また、食べること自体は必需ですが、外食は娯楽的な性格を持つため、価格上昇に対して需要の変化が敏感になりやすい傾向があります。このような理由により、多くの場合、安価な外食の需要なやや弾力的です。

例(非常に弾力的な商品)
価格弾力性が\(2\)を超えるような価格弾力的な商品を非常に弾力的(highly elastic)な商品と呼びます。安価なスマホケースや充電器などのアクセサリー製品に対しては、デザインや見た目、機能にほとんど差がない商品が無数に存在するため、ブランド志向よりもコスパ志向が強く、価格が安いものを買う人が圧倒的に多い市場です。また、Amazonや楽天などでは同じような商品が何百件も出てきますが、それらの商品は価格順に並べられ、価格の違いが可視化されやすく、価格差がただちに消費行動につながる傾向があります。このような理由により、多くの場合、安価なスマホアクセサリーの需要は非常に弾力的です。
例(完全に弾力的な商品)
価格弾力性が無限大\(+\infty \)であるような価格弾力的な商品を完全に弾力的(perfectly elastic)な商品と呼びます。完全に弾力的な商品の総需要曲線は水平であるため、ある価格において供給されれば消費者はそれを無限に購入します。逆に、価格が少しでも上がると需要がゼロになってしまいます。

 

価格非弾力的な商品

ある商品の需要の価格弾力性が\(1\)より小さい場合には、すなわち、その商品の市場価格が\(1\)パーセント変化した場合に、その商品の需要が\(1\)パーセントより小さく変化する場合には、そのような商品の需要は価格非弾力的(price inelastic)であると言います。

価格非弾力的な商品の総需要曲線の傾きは大きいため、価格が上昇しても取引量はそれほど減少せず、価格が下落しても取引量がそれほど増加しません。

価格非弾力的な商品の価格が\(1\)パーセント上がっても取引量の減少は\(1\)パーセント未満であるため、売上は増加します。逆に、価格が\(1\)パーセント下落しても取引量の増加は\(1\)パーセント未満であるため、売上は減少します。

例(やや非弾力的な商品)
価格弾力性が\(\frac{1}{2}\)以上\(1\)未満であるような価格非弾力的な商品をやや非弾力的(moderately inelastic)な商品と呼びます。ガソリンや軽油などは通勤、通学、物流、建設などのために毎日使う必要がある必需品です。多くの自動車やトラックはガソリンや軽油で走るように設計されており、他の燃料に簡単に切り替えることはできません。また、ガソリン車や軽油車を利用している人がすぐに電気自動車や公共交通機関へ切り替えるのは困難であるため、ガソリンや軽油などの価格が上昇しても同じ車を使用せざるを得ません。このような理由により、ガソリンや軽油などの燃料への需要は、短期的にはやや非弾力的です。

例(非常に非弾力的な商品)
価格弾力性が\(0\)より大きく\(\frac{1}{2}\)より小さい価格非弾力的な商品を非常に非弾力的(highly inelastic)な商品と呼びます。インスリンや血圧降下剤などの常備薬は生きていくために不可欠であるため、価格とは関係なく消費し続ける必要があります。このような理由により、常備薬の需要は非常に非弾力的です。
例(完全に弾力的な商品)
価格弾力性が\(0\)であるような価格非弾力的な商品を完全に非弾力的(perfectly inelastic)な商品と呼びます。完全に弾力的な商品の総需要曲線は垂直であるため、価格が変化しても取引量は一切変化しません。つまり、価格とは関係なく絶対に必要とされる商品です。

 

単位弾力的な商品

ある商品の需要の価格弾力性が\(1\)である場合には、すなわち、その商品の市場価格が\(1\)パーセント変化した場合に、その商品の需要もまた\(1\)パーセント変化する場合には、そのような商品の需要は単位弾力的(unit elastic)であると言います。

単位弾力的な商品の価格が\(1\)パーセント上がると取引量の減少も\(1\)パーセントであるため、売り上げは変化しません。逆に、価格が\(1\)パーセント下落すると取引量の増加も\(1\)パーセントであるため、売り上げは変化しません。

 

演習問題

問題(需要の価格弾力性と総需要曲線の傾き)
需要の価格弾力性が高い商品と低い商品とでは、総需要曲線の傾きにどのような違いが現れるでしょうか。グラフの形状にも触れて説明してください。

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問題(企業側の戦略)
需要の価格弾力性が異なる複数の商品を扱う企業にとって、価格設定においてどのような戦略的配慮が必要でしょうか。具体例を交えて説明してください。

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問題(アパレル製品)
ユニクロやGU、ZARA、H&Mなどファストファッションブランドのアパレル製品に関しては、需要の価格弾力性が大きい理由を説明してください。

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問題(ガソリンの市場分析)
ガソリンは一般的に価格弾力性が小さい商品とされます。その理由と、もしガソリン価格が急騰した場合、短期と長期で消費者の行動がどのように異なるかを説明してください。

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問題(価格弾力性と需要曲線の傾きの違い)
需要の価格弾力性と総需要曲線の傾きの違いを具体的に説明してください。

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問題(政策のインパクト)
生活必需品の価格上昇を抑えるために政府が価格上限を設定した状況を想定します。この場合、問題としている商品の価格弾力性が高い場合と低い場合とで、市場にどのような違いが生じるか説明してください。

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