商品の総需要曲線は右下がりのグラフ
モノやサービスの価格(price)はどのように決まるのでしょうか。好きな商品もしくはサービスを何か1つ思い浮かべてください。リンゴ、板チョコ、鶏肉、スマートフォン、ガソリン、映画のチケット、美容院でのヘアカット、何でも構いません。以降ではそれを「商品」と呼びます。ここで議論の対象とするのは世の中の一般的な物価ではなく、特定の商品の価格、すなわち個別物価であることに注意してください。
その商品を欲しているのはあなただけではないはずです。そこで、あなたを含め、その商品を購入できる環境下にあるそれぞれの人が「その商品にいくらまでなら支払えるか」と自問自答する状況を想定します。使えるお金の量や、その商品を欲する程度は人によって異なるため、質問に対する答えも人によって異なります。
通常、消費者はより安く購入したいと考えるため、商品の価格が下がるほど購入希望者は増加します。その結果、価格が下がるほど希望購入量の合計(これを総需要(aggregate demand)と呼びます)は増加します。したがって、平面座標の縦軸に問題としている商品の価格\(P\)をとり、横軸にその商品の数量\(Q\)をとった上で総需要をプロットすると、右下がりの曲線が得られます(下図の\(AD\))。総需要曲線は右下がりのグラフです。
商品の総供給曲線は右上がりのグラフ
続いて、その商品を生産できる環境下にあるそれぞれの企業が「その商品の値段をいくらまでなら下げられるか」と自問自答する状況を想定します。生産技術やコストは企業によって異なるため、質問に対する答えも企業によって異なります。
通常、生産者はより高く売りたいと考えるため、商品の価格が上がるほど販売希望者は増加します。その結果、価格が上がるほど希望販売量の合計(これを総供給(aggregate supply)と呼びます)は増加します。したがって、平面座標の縦軸に問題としている商品の価格\(P\)をとり、横軸にその商品の数量\(Q\)をとった上で総供給をプロットすると、右上がりの曲線が得られます(下図の\(AS\))。総供給曲線は右上がりのグラフです。
商品の値段は総需要曲線と総供給曲線の交点で落ち着く
問題としている商品の総需要曲線と総供給曲線が下図のように与えられているものとします。総需要曲線は右下がりであり、総供給曲線は右上がりであるため、両者は1つの点において交わります。交点における価格(これを均衡価格(equilibrium price)と呼びます)を\(P^{\ast }\)で表記し、交点における数量(これを均衡数量(equilibrium quantity)と呼びます)を\(Q^{\ast }\)で表記します。
同一商品の販売価格が企業によって異なる場合、消費者はより安い値段で販売してくれる企業から購入することになります。商品が同じである場合、値段は安い方が良いからです。高い値段をつけた企業は消費者をすべて他社に持っていかれてしまうため、自分もまた他社と同じ値段をつけざるを得ません。こうして商品の価格は統一されていきます。このような事情を踏まえた上で、以降では、すべての企業が同一価格で商品を販売するものと考えます。では、商品の価格はどの水準で落ち着くのでしょうか。
企業が設定する価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)よりも高い場合には何が起こるでしょうか。上図において、価格が\(P\)である場合の総需要が\(Q_{D}\)で、総供給が\(Q_{S}\)でそれぞれ表記されていますが、両者の間には以下の関係\begin{equation*}Q_{D}<Q_{S}
\end{equation*}が成立していることを確認できます。企業が設定する価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)よりも高い場合には、\begin{equation*}Q_{S}-Q_{D}>0
\end{equation*}だけ総供給が総需要を上回るということです。これを超過供給(excess supply)と呼びます(上図の\(ES\))。
超過供給が発生するということは、企業が価格を\(P\)に維持した場合、売りたい数量をすべて売りさばけないことを意味します。ただ、消費者はより安い値段で販売する企業から商品を購入するため、ある企業だけが\(P\)よりも低い価格で商品を販売すれば、その企業は自身が売りたい数量をすべて売りさばける可能性があります。他の企業についても事情は同じです。したがって、価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)よりも高い場合、企業は\(P\)から値下げする動機があります。\(P\)が\(P^{\ast }\)を上回る限りにおいて同様の議論が成立します。企業が値下げを繰り返して\(P\)が\(P^{\ast }\)と一致する段階まで到達した時点において総需要\(Q_{D}\)と総供給\(Q_{S}\)が均衡数量\(Q^{\ast }\)と一致するため、すなわち、以下の関係\begin{equation*}Q_{D}=Q_{S}=Q^{\ast }
\end{equation*}が成立するため、それぞれの企業は自身が売りたい数量をすべて売りさばけています。これ以上値下げしても損をするだけであるため、企業は\(P^{\ast }\)に留まる動機があります。
逆に、企業が設定する価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)よりも低い場合には何が起こるでしょうか。上図において、価格が\(P\)であるときの総需要が\(Q_{D}\)で、総供給が\(Q_{S}\)でそれぞれ表されていますが、両者の間には以下の関係\begin{equation*}Q_{S}<Q_{D}
\end{equation*}が成立していることを確認できます。企業が設定する価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)よりも低い場合には、\begin{equation*}Q_{D}-Q_{S}>0
\end{equation*}だけ総需要が総供給を上回るということです。これを超過需要(excess demand)と呼びます(上図の\(ED\))。
超過需要が発生するということは、企業が価格を\(P\)に維持した場合、市場では品不足が発生していることを意味します。消費者の中には\(P\)よりも高い金額を支払ってもよいと考えている人がいるため、ある企業が\(P\)よりも高い価格へ値上げしても、その企業はあいかわらず自身が売りたい数量をすべて売りさばくことができます。他の企業についても事情は同じです。したがって、価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)よりも低い場合、企業は\(P\)から値上げする動機があります。\(P\)が\(P^{\ast }\)を下回る限りにおいて同様の議論が成立します。企業が値上げを繰り返して\(P\)が\(P^{\ast }\)と一致する段階まで到達した時点において総需要\(Q_{D}\)と総供給\(Q_{S}\)が均衡数量\(Q^{\ast }\)と一致するため、すなわち、以下の関係\begin{equation*}Q_{D}=Q_{S}=Q^{\ast }
\end{equation*}が成立するため、それぞれの企業は自身が売りたい数量をすべて売りさばけています。これ以上値上げすると売れ残りが発生するだけであるため、企業は\(P^{\ast }\)に留まる動機があります。
議論を整理します。商品の価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)を上回る場合、企業は値下げを行う動機がありますが、そのような動機は\(P=P^{\ast }\)が成立した時点において消失します。逆に、商品の価格\(P\)が均衡価格\(P^{\ast }\)を下回る場合、企業は値上げを行う動機がありますが、そのような動機は\(P=P^{\ast }\)が成立した時点において消失します。こうして、商品の価格は均衡価格\(P^{\ast }\)で落ち着きます。商品の価格は総需要曲線と総供給曲線が交わる点において定まるということです。
生産者余剰と消費者余剰
通常、商品の値段はその総需要曲線と総供給曲線が交わる点における価格、すなわち均衡価格\(P^{\ast }\)において落ち着くことが明らかになりました。
商品はすべて同一の均衡価格\(P^{\ast }\)で売買されます。ある消費者はその商品に対して\(P\)までなら支払ってもよいと考えているものとします。その消費者がその商品を購入する条件は、\begin{equation*}P\geq P^{\ast }
\end{equation*}です。消費者が商品を手に入れるために均衡価格\(P^{\ast }\)以上の金額\(P\)を支払ってよいと考えている場合でも実際の購入価格は\(P^{\ast }\)であるため、消費者は購入体験によって差し引きで、\begin{equation*}P-P^{\ast }\geq 0
\end{equation*}だけ追加的に得することになります。これを消費者余剰(consumer surplus)と呼びます。\(P\)の水準は消費者によって異なるため消費者余剰\(P-P^{\ast }\)の水準もまた消費者によって異なります。すべての消費者が得る消費者余剰の合計が下図に記されています(下図の\(CS\))。
商品はすべて同一の均衡価格\(P^{\ast }\)で売買されます。ある生産者はその商品の価格を\(P\)までなら下げてもよいと考えているものとします。その生産者がその商品を販売する条件は、\begin{equation*}P^{\ast }\geq P
\end{equation*}です。生産者が均衡価格\(P^{\ast }\)以下の金額\(P\)まで値下げしてもよいと考えている場合でも実際の販売価格は\(P^{\ast }\)であるため、生産者は販売体験によって差し引きで、\begin{equation*}P^{\ast }-P\geq 0
\end{equation*}だけ追加的に得することになります。これを生産者余剰(producer surplus)と呼びます。\(P\)の水準は生産者によって異なるため、生産者余剰\(P^{\ast }-P\)の水準もまた生産者によって異なります。すべての生産者が得る生産者余剰の合計が下図に記されています(下図の\(PS\))。
消費者余剰と生産者余剰の合計を総余剰(total surplus)や社会的余剰(social surplus)と呼びます。総余剰が下図に記されています(下図の\(CS+PS\))。
総余剰は市場均衡において最大化される
商品の価格\(P\)が市場均衡価格\(P^{\ast }\)よりも高い状況が下図において表現されています。価格\(P\)のもとで消費者たちは\(Q\)までしか消費しないため超過供給が発生します。総余剰は下図の通りです。市場均衡価格\(P^{\ast }\)と比べると価格\(P\)が過剰に高くなっているため、\(P^{\ast }\)から\(P\)へ移行すると生産者余剰は増加する一方で消費者余剰は減少します。消費者余剰の減少分は生産者余剰の増加分よりも大きいため、トータルでは総余剰が減少してしまいます。
商品の価格\(P\)が市場均衡価格\(P^{\ast }\)よりも低い状況が下図において表現されています。価格\(P\)のもとで生産者たちは\(Q\)までしか生産しないため超過需要が発生します。総余剰は下図の通りです。市場均衡価格\(P^{\ast }\)と比べると価格\(P\)が過剰に安くなっているため、\(P^{\ast }\)から\(P\)へ移行すると消費者余剰は増加する一方で生産者余剰は減少します。生産者余剰の増加分は消費者余剰の減少分よりも大きいため、トータルでは総余剰が減少してしまいます。
商品の価格\(P\)が市場均衡価格\(P^{\ast }\)と異なる場合には総余剰が最大化されないことが明らかになりました。逆に言うと、市場均衡価格\(P^{\ast }\)のもとで総余剰は最大化されます。市場均衡価格\(P^{\ast }\)からそれ以外の価格\(P\)へ移行すると総余剰は減少してしまうため、誰かの利益を増加させるために\(P^{\ast }\)から\(P\)へ移行しようとすると、それは必ず他の誰かの犠牲が必要になってしまいます。そのような意味において市場均衡価格\(P^{\ast }\)は社会的に効率的な状態(これをパレート効率的(Pareto efficient)と呼びます)であり、市場均衡価格\(P^{\ast }\)において商品は最も効率的に分配されています。
演習問題
P=100-Q
\end{equation*}として与えられており、総供給曲線が、\begin{equation*}
P=20+Q
\end{equation*}として与えられているものとします。均衡価格と均衡数量を求めた上で、均衡における消費者余剰と生産者余剰を求めてください。
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