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短期マクロ分析の基礎

短期における財市場均衡条件と均衡国民所得(45度線モデル)

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短期における財市場での数量調整メカニズム

経済において生産主体と消費主体は独立に意思決定を行うため、経済全体における総需要と総供給は一致するとは限りません。両者が一致しない場合、財市場において調整が行われます。ここでは、短期において数量調整が行われる状況を想定します。すなわち、総需要と総供給に不一致があったとしても価格が変化しない期間を想定した上で、供給超過で売れ残りが発生している場合には生産主体が供給量を減らすことで対応し、逆に需要超過で品不足が発生している場合には生産主体が供給量を増やすことで対応するということです。

具体的には、以下の状況を想定します。

  1. 総供給の決定:企業は前期の販売実績や将来の総需要(支出)の予測などにもとづいて総供給\begin{equation*}AS=Y
    \end{equation*}を決定し、それを実行する。ただし、\begin{eqnarray*}
    AS &:&\text{総供給} \\
    Y &:&\text{国内総生産(GDP)}
    \end{eqnarray*}である。
  2. 付加価値の分配:生産活動が行われると、生み出された財・サービスが売れたかどうかに関係なく、その付加価値の対価として所得が発生する。会計の原則より付加価値は分配されつくすため国民所得もまた\(Y\)と定まる。
  3. 総需要の決定:国民所得\(Y\)を受け取った家計、企業、政府が計画にもとづいて総需要\begin{equation*}AD=C+I+G+\left( X-M\right) \end{equation*}を決定する。ただし、\begin{eqnarray*}
    AD &:&\text{総需要} \\
    C &:&\text{消費} \\
    G &:&\text{政府支出} \\
    I &:&\text{投資} \\
    X &:&\text{輸出} \\
    M &:&\text{輸入}
    \end{eqnarray*}である。特に、閉鎖経済を想定する場合には\(X=M\)であるため、\begin{equation*}AD=C+I+G
    \end{equation*}である。
  4. 財市場での調整:財市場において総供給\(AS\)と総需要\(AD\)が出会う。生産主体と消費主体は独立に意思決定を行うため\(AS\)と\(AD\)は一致するとは限らない。両者の差は意図しない在庫変動\(N^{U}\)として現れる。数量調整のもとで\(N^{U}\)が解消され、総供給\(AS\)と総需要\(AD\)が一致する。生産された付加価値\(AS\)は分配されて国民所得となる。

以降では、短期における数量調整メカニズムを前提とした上で、具体的なモデルを用いて有効需要の原理を表現し、さらに総需要と総供給の均衡条件を特定した上で、均衡における国民所得を導きます。

需給ギャップが数量調整によって解消されるのであれば、総供給は総需要によって決定されることになります。これを有効需要の原理と呼びます。以降では、短期における数量調整メカニズムを前提とした上で、具体的なモデルを用いて有効需要の原理を表現し、さらに総需要と総供給の均衡条件を特定した上で、均衡における国民所得を導きます。

 

消費の決定:消費関数

総需要\(AD\)を構成する1つ目の要素である消費\(C\)について考察します。これは国民経済計算(SNA)における「民間最終消費支出」に相当します。民間最終消費支出は家計最終消費支出と対家計民間非営利団体最終消費支出から構成されます。\begin{equation*}\text{消費}C=\text{民間最終消費支出}\left\{
\begin{array}{l}
\text{民間最終消費支出} \\
\text{対家計民間非営利団体最終消費支出}\end{array}\right.
\end{equation*}

ただし、以降では民間最終消費支出と対家計民間非営利団体最終消費支出をまとめて家計による消費支出とみなします。理由は以下の通りです。1つ目の理由は、民間最終消費支出の主要因は家計最終消費支出であることです。2つ目の理由は、家計最終消費支出と対家計民間非営利団体最終消費支出の最終的な目的はともに家計の便益の向上であることです。3つ目の理由は、非営利団体による最終支出を家計による消費支出から分離してモデルを組み立てると複雑になるだけで、有用な知見は得られないからです。以上の理由により、消費\(C\)を家計による最終消費とみなします。

国民所得\(Y\)を受け取った家計は、何らかの計画にもとづき消費\(C\)を選択します。両者の関係を表す関数を、\begin{equation*}C=C\left( Y\right)
\end{equation*}で表記します。つまり、国民所得\(Y\)に直面した家計が選択する消費\(C\)の総額が\(C\left( Y\right) \)であるということです。このような関数\(C\left( Y\right) \)を消費関数(consumption function)と呼びます。

消費関数\(C\left( Y\right) \)は具体的にどのような形状をしているのでしょうか。所得\(Y\)を受け取った家計は、その中から所得税や社会保険料を支払う必要があります。以降では、所得税と社会保険料をまとめて所得税と呼び、これを、\begin{equation*}T\geq 0
\end{equation*}で表記します。税の水準は政府が直接操作できる値であることから、所得税\(T\)をモデルの外生変数とみなすことができます。つまり、所得税\(T\)の水準は与えられたものとして議論を行うということです。所得\(Y\)を受け取った家計に所得税\(T\)が課される場合、家計が自分の意思で使える所得は、\begin{equation*}Y-T
\end{equation*}となります。これを可処分所得(disposable income)と呼びます。

以上を踏まえた上で、最も典型的な消費関数は、以下の条件\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ c_{0}>0 \\
&&\left( b\right) \ 0<c_{1}<1
\end{eqnarray*}を満たす定数\(c_{0},c_{1}\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation*}C\left( Y\right) =c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right)
\end{equation*}と表されます。これをケインズ型消費関数(Keynesian consumption function)と呼びます。ケインズ型消費関数のもとでは、以下の関係\begin{equation*}
C=c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right)
\end{equation*}が成り立つということです。以下ではケインズ型消費関数を用いて議論を行います。

可処分所得\(Y-T\)がゼロである場合の消費は、\begin{eqnarray*}C &=&c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) \quad \because \text{ケインズ型消費関数の定義} \\
&=&c_{0}\quad \because Y-T=0
\end{eqnarray*}となり、これは定数\(c_{0}\)と一致します。以上の事実は、家計は可処分所得がゼロである場合でも基礎的な生活のために\(c_{0}\)だけ消費支出を行うことを意味します。言い換えると、可処分所得がゼロの場合でも、家計は生存のためには最低でも\(c_{0}\)だけ消費支出する必要があるということです。このような事情を踏まえた上で、\(c_{0}\)を基礎的消費(basic consumption)と呼びます。

 

平均消費性向と平均貯蓄性向

可処分所得\(Y-T\)を得た家計は、そのすべてを消費\(C\)として支出するのではなく、その一部を貯蓄する状況は起こり得ます。可処分所得に対する消費の割合\begin{eqnarray*}\frac{C}{Y-T} &=&\frac{c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) }{Y-T} \\
&=&\frac{c_{0}}{Y-T}+c_{1}
\end{eqnarray*}のことを平均消費性向(average propensity to consume)と呼びます。

定数\(c_{0},c_{1}\)および所得税\(T\)の水準を一定とした場合、国民所得\(Y\)が増加すると\(\frac{c_{0}}{Y-T}+c_{1}\)すなわち\(\frac{C}{Y-T}\)は減少します。以上の事実は、ケインズ型消費関数のもとでは、平均消費性向\(\frac{C}{Y-T}\)は国民所得\(Y\)に関する減少関数であることを意味します。

\(1\)から平均消費性向を差し引けば、\begin{eqnarray*}1-\frac{C}{Y-T} &=&1-\left( \frac{c_{0}}{Y-T}+c_{1}\right) \\
&=&1-c_{1}-\frac{c_{0}}{Y-T}
\end{eqnarray*}が得られますが、これは可処分所得に対する貯蓄の割合に他なりません。これを平均貯蓄性向(average propensity to save)と呼びます。

先に明らかになったようにケインズ型消費関数のもとでは平均消費性向\(\frac{C}{Y-T}\)は国民所得\(Y\)に関する減少関数ですが、以上の事実は、平均貯蓄性向\(1-\frac{C}{Y-T}\)は国民所得\(Y\)に関する増加関数であることを意味します。

 

限界消費性向と限界貯蓄性向

消費関数を可処分所得について微分すると、\begin{equation*}
\frac{d}{d\left( Y-T\right) }\left[ c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) \right] =c_{1}
\end{equation*}を得ますが、この結果は定数\(c_{1}\)であるため、以上の事実は、家計がどのような水準の可処分所\(Y-T\)に直面した場合でも、そこを出発点に可処分所得が\(1\)単位増加した場合、そのうちの割合\(c_{1}\)分だけが消費\(C\)として支出されることを意味します。このような事情を踏まえた上で、\(c_{1}\)を限界消費性向(marginal propensity to consume)と呼びます。

仮定より、\begin{equation*}
0<c_{1}<1
\end{equation*}です。以上の事実は、可処分所得が増加した場合、家計は消費を増やしますが(\(c_{1}>0\))、増加した可処分所得のすべてを消費として支出するのではなく(\(c_{1}<1\))、その一部を貯蓄することを意味します。

\(1\)から限界消費性向を差し引けば、\begin{equation*}1-\frac{d}{d\left( Y-T\right) }\left[ c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) \right] =1-c_{1}
\end{equation*}が得られますが、以上の事実は、どのような水準の可処分所\(Y-T\)に直面した場合でも、そこを出発点に可処分所得が\(1\)単位増加した場合、そのうちの割合\(1-c_{1}\)分だけが貯蓄されることを意味します。このような事情を踏まえた上で、\(1-c_{1}\)を限界貯蓄性向(marginal propensity to save)と呼びます。

仮定より、\begin{equation*}
0<c_{1}<1
\end{equation*}であるため、\begin{equation*}
0<1-c_{1}<1
\end{equation*}を得ます。以上の事実は、可処分所得が増加した場合、家計は貯蓄を増やしますが(\(1-c_{1}>0\))、増加した可処分所得のすべてを貯蓄するわけではなく(\(1-c_{1}<1\))、その一部を消費することを意味します。

 

投資の決定:投資関数

総需要\(AD\)を構成する2つ目の要素である投資\(I\)について考察します。これは国民経済計算(SNA)における「総固定資本形成」と「意図した在庫投資」の和に相当します。さらに、総固定資本形成は、家計による投資支出である民間住宅(住宅建設など)、民間企業による投資支出である民間企業設備(工場・事務所・生産設備の建設やソフトウェア開発など)、政府や公的企業による投資支出である公的資本形成(インフラや公共施設の整備など)から構成されます。\begin{equation*}\text{投資}I=\text{意図した在庫投資}+\text{総固定資本形成}\left\{
\begin{array}{l}
\text{民間住宅} \\
\text{民間企業設備} \\
\text{公的固定資本形成}\end{array}\right.
\end{equation*}

国民所得\(Y\)を受け取った家計、企業、政府はどのような基準をもとに投資\(I\)の水準を決定するのでしょうか。通常、投資に必要な費用は自身が受け取った所得を大きく超えるため、投資を行うためには銀行などから資金を借りる必要があります。その際、利子率(interest rate)が投資資金の調達費用となります。その一方で、追加的な投資から見込まれる収益率のことを投資の限界効率(marginal efficiency of investment)と呼びます。

ある投資プロジェクトの投資の限界効率が利子率を上回る場合には採算が合うため、そのプロジェクトは実行されます。逆に、ある投資プロジェクトの投資の限界費用が利子率を下回る場合には採算が合わないため、そのプロジェクトは実行されません。したがって、利子率が下がると採算の合う投資プロジェクトが増加するため、実施される投資プロジェクトが増加し、投資が増加します。逆に、利子率が上がると採算の合うプロジェクトが減少するため、実施される投資プロジェクトが減少し、投資が減少します。

これまでは経済主体が外部から資金を調達して投資を行う状況を想定しましたが、自己資金によって投資を行う場合にも同様の議論が成り立ちます。つまり、ある投資プロジェクトの投資の限界効率が利子率を上回る場合には、自己資金を銀行などに預けて利子を得るよりも投資にまわした方が有利であるため、そのプロジェクトは実行されます。逆に、ある投資プロジェクトの投資の限界費用が利子率を下回る場合には、自己資金を投資にまわさずに銀行などに預けて利子を得た方が有利であるため、そのプロジェクトは実行されません。以上より、自己資金で投資を行う場合にも、利子率が下がると投資が増加し、利子率が上がると投資が減少することが明らかになりました。

これまでは投資プロジェクトについて議論してきましたが、意図した在庫投資についても同様の議論が成り立ちます。意図した在庫投資とは、在庫不足による機会損失を防いだり、将来の需要増に備える目的で企業が意図的に増減させる在庫変動を指します。利子率が上昇した場合、在庫として資金を眠らせ続けることは、得られたはずの利子収入を放棄することを意味します。つまり、利子率が上昇すると機会費用が大きくなるため、在庫投資が減少します。逆に、利子率が下落した場合、在庫を減らしてわずかな利子収入を得るよりも、将来起こり得る在庫不足による機会損失を防ぐために在庫を増やすインセンティブが強くなるため、在庫投資が増加します。

利子率を、\begin{equation*}
r>0
\end{equation*}で表記します。利子率\(r\)と投資\(I\)の関係を表す関数を、\begin{equation*}I=I\left( r\right)
\end{equation*}で表記します。つまり、利子率\(r\)に直面した家計・企業・政府による投資\(I\)の総額が\(I\left( r\right) \)であるということです。このような関数\(I\left( r\right) \)を投資関数(investment function)と呼びます。

先の議論より、経済主体が資金を外部から調達して投資する場合、および自己資金から投資する場合のいずれにおいても、利子率が下がると投資が増加し、利子率が上がると投資が減少することが明らかになりました。意図した在庫投資についても同様です。以上の事実は、投資関数\(I\left( r\right) \)が利子率\(r\)に関する減少関数であることを意味します。

詳細は場を改めて解説しますが、利子率\(r\)は中央銀行が金融政策を通じて変化させることができます。したがって、利子率\(r\)によって決定される投資\(I\)をモデルの外生変数とみなすことができます。つまり、投資\(I\)の水準は与えられたものとして議論を行うということです。

 

政府支出の決定

総需要\(AD\)を構成する3つ目の要素である政府支出\(G\)について考察します。これは国民経済計算(SNA)における「政府最終消費支出」に相当します。政府最終消費支出は、政府が公共サービスを提供するために行う最終消費支出に相当します。

政府最終消費支出は政府が直接操作できる値であることから、政府支出\(G\)はモデルの外生変数とみなすことができます。つまり、政府支出\(G\)の水準を与えられたものとして議論を行うということです。

 

輸出と輸入の決定

総需要\(AD\)を構成する4つ目の要素である輸出\(X\)と輸入\(M\)について考察します。これは国民経済計算(SNA)における「輸出」と「輸入」に相当します。

国際収支や貿易構造の複雑な分析を避けるため、分析の初期の段階において閉鎖経済を想定します。その場合、\begin{equation*}
X=M=0
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、閉鎖経済を想定することは、輸出と輸入が存在しないものと仮定して議論を行うことを意味します。

 

財市場均衡条件と均衡国民所得

これまでの議論をまとめます。総供給は、\begin{equation*}
AS=Y
\end{equation*}と定義され、総需要は、\begin{equation*}
AD=C+I+G+\left( X-M\right)
\end{equation*}と定義されます。ケインズ型消費関数を想定する場合の消費は、\begin{equation*}
C=c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right)
\end{equation*}と表されます。投資は、\begin{equation*}
I=I\left( r\right)
\end{equation*}と定まりますが、中央銀行が\(r\)を決定できるため\(I\)は外生変数となります。また、政府最終消費支出は政府が直接操作できるため、政府支出\begin{equation*}G
\end{equation*}もまた外生変数です。加えて、分析を単純化するために閉鎖経済を想定する場合には、\begin{equation*}
X=M=0
\end{equation*}となります。

以上より、閉鎖経済における総供給\(AS\)と総需要\(AD\)はそれぞれ、\begin{equation}\left\{
\begin{array}{l}
AS=Y \\
AD=c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) +I+G\end{array}\right. \quad \cdots (1)
\end{equation}として表現されることが明らかになりました。ただし、\(Y\)は国民所得(国内総生産かつ国民総所得)であり、\(T\)は所得税であり、\(I\)は投資であり、\(G\)は政府支出です。\(Y\)は内生変数である一方で、\(T,I,G\)は外生変数です。また、\(c_{0},c_{1}\in \mathbb{R} \)は\(c_{0}>0\)かつ\(0<c_{1}<1\)を満たす定数です。したがって、総需要\(AD\)は\(Y\)に関する変数です。さらに、短期を想定します。つまり、物価が変動しない状況を想定するため、財市場において総供給\(AS\)と総需要\(AD\)が一致しない場合、その不均衡は数量調整、すなわち生産量の調整によって解消されるということです。では、数量調整が行われる結果、どのような均衡が実現するのでしょうか。

総供給\(AS\)と総需要\(AD\)が一致すること、すなわち、\begin{equation*}AS=AD
\end{equation*}が成り立つことは、\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}Y=c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) +I+G
\end{equation*}が成り立つことを意味します。これを財市場均衡条件(income-expenditure equilibrium condition)と呼びます。これを\(Y\)について解くと、\begin{equation*}Y^{\ast }=\frac{1}{1-c_{1}}\left( c_{0}-c_{1}T+I+G\right)
\end{equation*}を得ますが、これを均衡国民所得(equilibrium national income)と呼びます。この場合、買いたい人はすべて予定通りに買うことができ、売り手は作ったものがすべて予定通り売れているため、調整は起こりません。

命題(均衡国民所得)
閉鎖経済における総供給\(AS\)と総需要\(AD\)がそれぞれ、\begin{equation*}\left\{
\begin{array}{l}
AS=Y \\
AD=c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) +I+G\end{array}\right.
\end{equation*}で与えられているものとする。ただし、\(Y>0\)は国民所得を表す内生変数であり、\(T>0\)は所得税を表す外生変数であり、\(I>0\)は投資を表す外生変数であり、\(G>0\)は政府支出を表す外生変数であり、\(c_{0},c_{1}\in \mathbb{R} \)は\(c_{0}>0\)かつ\(0<c_{1}<1\)を満たす定数である。短期における財市場均衡条件\begin{equation*}AS=AD
\end{equation*}を満たす国民所得\(Y\)の水準、すなわち均衡国民所得は、\begin{equation*}Y^{\ast }=\frac{1}{1-c_{1}}\left( c_{0}-c_{1}T+I+G\right)
\end{equation*}である。

証明

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数量調整による財市場の均衡

総供給\(AS\left( Y\right) \)が総需要\(AD\left( Y\right) \)を上回る場合、すなわち、以下の条件\begin{equation*}AS\left( Y\right) >AD\left( Y\right)
\end{equation*}を満たす\(Y\)のもとでは、\begin{equation*}Y>\frac{1}{1-c_{1}}\left( c_{0}-c_{1}T+I+G\right) =Y^{\ast }
\end{equation*}が成り立ちます。超過供給は、\begin{equation*}
AS\left( Y\right) -AD\left( Y\right) >0
\end{equation*}ですが、これは正の意図せざる在庫投資です。物価水準が変動しない短期を想定しているため、企業は超過供給を解消するために数量調整(減産)で対応します。現在の総供給は\(AS\left(Y\right) =Y\)である一方で、財市場を均衡させる総供給は\(AS\left( Y^{\ast }\right) =Y^{\ast }\)であるため、両者の差\begin{equation*}Y-Y^{\ast }>0
\end{equation*}だけ減産すれば、総供給量が、\begin{equation*}
Y-\left( Y-Y^{\ast }\right) =Y^{\ast }
\end{equation*}となります。その結果、総供給と総需要が、\begin{equation*}
AS\left( Y^{\ast }\right) =AD\left( Y^{\ast }\right) =Y^{\ast }
\end{equation*}で均衡します。さらに、生産された総付加価値\(Y^{\ast }\)がもれなく分配されることにより国民所得もまた均衡国民所得\(Y^{\ast }\)として定まります。

逆に、総需要\(AD\left( Y\right) \)が総供給\(AS\left( Y\right) \)を上回る場合、すなわち、以下の条件\begin{equation*}AS\left( Y\right) <AD\left( Y\right)
\end{equation*}を満たす\(Y\)のもとでは、\begin{equation*}Y<\frac{1}{1-c_{1}}\left( c_{0}-c_{1}T+I+G\right) =Y^{\ast }
\end{equation*}が成り立ちます。超過需要は、\begin{equation*}
AD\left( Y\right) -AS\left( Y\right) >0
\end{equation*}ですが、これは負の意図せざる在庫投資です。物価水準が変動しない短期を想定しているため、企業は超過需要を解消するために数量調整(増産)で対応します。現在の総供給は\(AS\left(Y\right) =Y\)である一方で、財市場を均衡させる総供給は\(AS\left( Y^{\ast }\right) =Y^{\ast }\)であるため、両者の差\begin{equation*}Y^{\ast }-Y>0
\end{equation*}だけ増産すれば、総供給量が、\begin{equation*}
Y+\left( Y^{\ast }-Y\right) =Y^{\ast }
\end{equation*}となります。その結果、総供給と総需要が、\begin{equation*}
AS\left( Y^{\ast }\right) =AD\left( Y^{\ast }\right) =Y^{\ast }
\end{equation*}で均衡します。さらに、生産された総付加価値\(Y^{\ast }\)がもれなく分配されることにより国民所得もまた均衡国民所得\(Y^{\ast }\)として定まります。

以上の理由により、短期において財市場で数量調整が行われる結果、総供給\(AS\left( Y\right) \)と総需要\(AD\left( Y\right) \)が均衡国民所得\begin{equation*}Y^{\ast }=\frac{1}{1-c_{1}}\left( c_{0}-c_{1}T+I+G\right)
\end{equation*}と一致する状態が均衡になることが明らかになりました。つまり、均衡において、\begin{equation*}
AS\left( Y^{\ast }\right) =AD\left( Y^{\ast }\right) =Y^{\ast }
\end{equation*}が成り立ちます。また、生産された付加価値\(Y^{\ast }\)は分配されて国民所得もまた\(Y^{\ast }\)と定まります。

 

有効需要の原理

経済全体における総需要と総供給は、\begin{equation*}
\left\{
\begin{array}{l}
AS\left( Y\right) =Y \\
AD\left( Y\right) =c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) +I+G\end{array}\right.
\end{equation*}と定まりますが、経済において生産主体と消費主体は独立に意思決定を行うため、両者は一致するとは限りません。つまり、\begin{equation*}
AS\left( Y\right) =Y\not=AD\left( Y\right)
\end{equation*}が成り立つということです。物価水準が変動しない短期では、企業は超過需要を解消するために数量調整(増産ないし減産)によって\(AS\left( Y\right) \)を変化させます。このような数量調整は、国民所得\(Y\)すなわち総供給\(AS\left( Y\right) \)が、企業が実際に売れると期待する水準\(AD\left( Y\right) \)と一致するまで行われます。数量調整の結果、均衡において、\begin{equation*}AS\left( Y^{\ast }\right) =Y^{\ast }=AD\left( Y^{\ast }\right)
\end{equation*}が実現します。以上の事実は、経済の生産水準(総供給)が、実際に売れる水準(総需要)によって一方的に決定されることを意味します。そのような意味において総需要を有効需要(effective demand)と呼び、以上のような調整メカニズムを有効需要の原理(principle of effective demand)と呼びます。

 

45度線モデル(有効需要モデル)

先の一連の議論を視覚的に表現すると以下のようになります。

図:45度線
図:45度線

横軸に国民所得\(Y\)をとり、縦軸に総需要\(AD\)をとった上で、上図のような45度線を描きます(上図の赤い直線)。45度線上の点を任意に選んだとき、そこでは、横軸の値と縦軸の値が一致するため、\begin{equation}AD=Y \quad \cdots (1)
\end{equation}が実現します。他方で総供給は、\begin{equation*}
AS=Y
\end{equation*}であるため、これと\(\left( 1\right) \)より、\begin{equation*}AD=AS
\end{equation*}を得ます。以上より、45度線上の任意の点において、総需要と総供給が一致することが明らかになりました。

総供給\(AS\)の価値はもれなく分配されて国民所得\(Y\)となるため両者は恒等的に一致します。したがって、総供給\(AS\)を国民所得\(Y\)に関する恒等関数\begin{equation*}AS\left( Y\right) =Y
\end{equation*}とみなすことができます。つまり、45度線は総供給関数\(AS\left( Y\right) \)のグラフでもあるということです。

図:総需要関数と総供給関数のグラフ
図:総需要関数と総供給関数のグラフ

総需要\(AD\)は国民所得\(Y\)の水準に依存します。つまり、総需要\(AD\)は国民所得\(Y\)に関する関数ですが、そのことを明示するために、\begin{eqnarray*}AD\left( Y\right) &=&c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) +I+G \\
&=&c_{1}Y+\left( c_{0}-c_{1}T+I+G\right)
\end{eqnarray*}と表記します。つまり、総需要関数\(AD\left( Y\right) \)のグラフは、傾きの大きさが\(c_{1}\)であるような直線です(上図の青い直線)。\(0<c_{1}<1\)であるため、総需要関数\(AD\left( Y\right) \)のグラフの傾きは45度線の傾きよりも小さいことに注意してください。また、総需要関数\(AD\left( Y\right) \)のグラフと縦軸との切片は、\begin{equation*}AD\left( 0\right) =c_{0}-c_{1}T+I+G
\end{equation*}ですが、\(c_{0},I,G\)が十分大きく、\(c_{1}\)と\(T\)が十分小さければ、\begin{equation*}c_{0}+I+G>c_{1}T
\end{equation*}が成り立つため、\begin{equation*}
AD\left( 0\right) >0
\end{equation*}を得ます。

図:均衡国民所得
図:均衡国民所得

財市場均衡条件は、\begin{equation*}
AS\left( Y\right) =AD\left( Y\right)
\end{equation*}であり、均衡国民所得\(Y^{\ast }\)は以上の条件を満たす\(Y\)の水準であるため、\begin{equation*}AS\left( Y^{\ast }\right) =AD\left( Y^{\ast }\right)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、国民所得が\(Y^{\ast }\)であるような点において総供給関数\(AS\left( Y\right) \)のグラフと総需要関数\(AD\left( Y\right) \)のグラフは交わるということです(上図)。総需要関数\(AD\left( Y\right) \)のグラフと45度線(\(=\)総供給曲線\(AS\left(Y\right) \)のグラフ)の交わりとして財市場の均衡を表現する上の図をケインジアン・クロス(Keynesian cross)と呼びます。

図:供給超過からの数量調整
図:供給超過からの数量調整

総供給\(AS\left( Y\right) \)が総需要\(AD\left( Y\right) \)を上回る状況を想定します。つまり、以下の条件\begin{equation*}AS\left( Y_{1}\right) >AD\left( Y_{1}\right)
\end{equation*}を満たす\(Y_{1}\)を想定するということです(上図)。この場合、超過供給は、\begin{equation*}AS\left( Y_{1}\right) -AD\left( Y_{1}\right) >0
\end{equation*}ですが、これは正の意図せざる在庫投資です。数量調整によって、\begin{equation*}
Y_{1}-Y^{\ast }>0
\end{equation*}だけ減産すれば、総供給量が、\begin{equation*}
Y_{1}-\left( Y_{1}-Y^{\ast }\right) =Y^{\ast }
\end{equation*}となります。その結果、総供給と総需要が、\begin{equation*}
AS\left( Y^{\ast }\right) =AD\left( Y^{\ast }\right) =Y^{\ast }
\end{equation*}で均衡します。さらに、生産された総付加価値\(Y^{\ast }\)がもれなく分配されることにより国民所得もまた均衡国民所得\(Y^{\ast }\)として定まります。

図:需要超過からの数量調整
図:需要超過からの数量調整

総需要\(AD\left( Y\right) \)が総供給\(AS\left( Y\right) \)を上回る状況を想定します。つまり、以下の条件\begin{equation*}AD\left( Y_{1}\right) >AS\left( Y_{1}\right)
\end{equation*}を満たす\(Y_{1}\)を想定するということです(上図)。この場合、超過需要は、\begin{equation*}AD\left( Y_{1}\right) -AY\left( Y_{1}\right) >0
\end{equation*}ですが、これは負の意図せざる在庫投資に他なりません。数量調整によって、\begin{equation*}
Y^{\ast }-Y_{1}>0
\end{equation*}だけ増産すれば、総供給量が、\begin{equation*}
Y_{1}+\left( Y^{\ast }-Y_{1}\right) =Y^{\ast }
\end{equation*}となります。その結果、総供給と総需要が、\begin{equation*}
AS\left( Y^{\ast }\right) =AD\left( Y^{\ast }\right) =Y^{\ast }
\end{equation*}で均衡します。さらに、生産された総付加価値\(Y^{\ast }\)がもれなく分配されることにより国民所得もまた均衡国民所得\(Y^{\ast }\)として定まります。

 

所得税が固定税と比例税から構成される場合の均衡国民所得

これまでは所得税\(T\)の決定メカニズムを特定せずに議論を行ってきました。では、所得税額が定額税と比例税から構成される場合には、すなわち、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ T_{0}\geq 0 \\
&&\left( b\right) \ 0\leq t<1
\end{eqnarray*}を満たす定額税額\(T_{0}\in \mathbb{R} \)および比例税率\(t\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation*}T=T_{0}+tY
\end{equation*}と表現される場合には、均衡国民所得はどのように変化するのでしょうか。

この場合の総供給は依然として、\begin{equation*}
AS\left( Y\right) =Y
\end{equation*}である一方で、総需要は、\begin{eqnarray*}
AD\left( Y\right) &=&c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) +I+G \\
&=&c_{0}+c_{1}\left[ Y-\left( T_{0}+tY\right) \right] +I+G\quad \because
T=T_{0}+tY
\end{eqnarray*}へと変化します。以上の想定のもとで財市場均衡条件\begin{equation*}
AS\left( Y\right) =AD\left( Y\right)
\end{equation*}を満たす\(Y\)を特定することにより、\begin{equation*}Y^{\ast }=\frac{1}{1-c_{1}\left( 1-t\right) }\left(
c_{0}-c_{1}T_{0}+I+G\right)
\end{equation*}が得られます。したがって、特に、\(t=0\)の場合には、\begin{equation*}Y^{\ast }=\frac{1}{1-c_{1}}\left( c_{0}-c_{1}T_{0}+I+G\right)
\end{equation*}であり、\(T_{0}=0\)の場合には、\begin{equation*}Y^{\ast }=\frac{1}{1-c_{1}\left( 1-r\right) }\left( c_{0}+I+G\right)
\end{equation*}となります。

命題(所得税が固定税と比例税から構成される場合の均衡国民所得)
閉鎖経済における総供給\(AS\)と総需要\(AD\)がそれぞれ、\begin{equation*}\left\{
\begin{array}{l}
AS=Y \\
AD=c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) +I+G\end{array}\right.
\end{equation*}で与えられているものとする。ただし、\(Y>0\)は国民所得を表す内生変数であり、\(T>0\)は所得税を表す外生変数であり、\(I>0\)は投資を表す外生変数であり、\(G>0\)は政府支出を表す外生変数であり、\(c_{0},c_{1}\in \mathbb{R} \)は\(c_{0}>0\)かつ\(0<c_{1}<1\)を満たす定数である。さらに、\(T_{0}\geq 0\)および\(0\leq t<1\)を満たす定数\(T_{0},t\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation*}T=T_{0}+tY
\end{equation*}と表されるものとする。短期における財市場均衡条件\begin{equation*}
AS=AD
\end{equation*}を満たす国民所得\(Y\)の水準、すなわち均衡国民所得は、\begin{equation*}Y^{\ast }=\frac{1}{1-c_{1}\left( 1-t\right) }\left(
c_{0}-c_{1}T_{0}+I+G\right)
\end{equation*}である。

証明

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演習問題

問題(均衡国民所得)
消費関数が、\begin{equation*}
C=50+0.8Y
\end{equation*}であるものとします。ただし、\(Y\)は国民所得です。投資と政府支出は、\begin{eqnarray*}I &=&40 \\
G &=&30
\end{eqnarray*}であるものとします。以下の問いに答えてください。

  1. 閉鎖経済を想定した上で、短期において財市場で数量調整が行われる場合の均衡国民所得\(Y^{\ast }\)を求めてください。
  2. 開放経済を想定し、純輸出が、\begin{equation*}X-M=-10
    \end{equation*}であるものとします(貿易赤字)。短期において財市場で数量調整が行われる場合の均衡国民所得\(Y^{\ast }\)を求めてください。
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問題(均衡国民所得)
閉鎖経済を想定します。消費関数が、\begin{equation*}
C=100+0.75\left( Y-T\right)
\end{equation*}であるものとします。ただし、\(Y\)は国民所得であり、\(T\)は所得税です。ただし、所得税は、\begin{equation*}T=0.2Y
\end{equation*}として定まるものとします。投資と政府支出は、\begin{eqnarray*}
I &=&150 \\
G &=&200
\end{eqnarray*}であるものとします。以下の問いに答えてください。

  1. 短期において財市場で数量調整が行われる場合の均衡国民所得\(Y^{\ast }\)を求めてください。
  2. 政府支出\(G\)が\(200\)から\(220\)に増加すると均衡国民所得\(Y^{\ast }\)はどう変化するでしょうか。
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