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短期マクロ分析の基礎

デフレギャップとインフレギャップ

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短期の均衡国民所得と長期の完全雇用国民所得は一致するとは限らない

経済において生産主体と消費主体は独立に意思決定を行うため、経済全体における総需要と総供給は一致するとは限りません。両者が一致しない場合、財市場において調整が行われます。これまでは、短期において数量調整が行われる状況を想定しました。つまり、総需要と総供給に不一致があったとしても価格が変化しない期間を想定した上で、供給超過で売れ残りが発生している場合には生産主体が供給量を減らすことで対応し、逆に需要超過で品不足が発生している場合には生産主体が供給量を増やすことで対応するということです。

具体的には、以下の状況を想定します。

  1. 総供給の決定:企業は前期の販売実績や将来の総需要(支出)の予測などにもとづいて総供給\begin{equation*}AS=Y
    \end{equation*}を決定し、それを実行する。ただし、\begin{eqnarray*}
    AS &:&\text{総供給} \\
    Y &:&\text{国内総生産(GDP)}
    \end{eqnarray*}である。
  2. 付加価値の分配:生産活動が行われると、生み出された財・サービスが売れたかどうかに関係なく、その付加価値の対価として所得が発生する。会計の原則より付加価値は分配されつくすため国民所得もまた\(Y\)と定まる。
  3. 総需要の決定:国民所得\(Y\)を受け取った家計、企業、政府が計画にもとづいて総需要\begin{equation*}AD=C+I+G+\left( X-M\right) \end{equation*}を決定する。ただし、\begin{eqnarray*}
    AD &:&\text{総需要} \\
    C &:&\text{消費} \\
    G &:&\text{政府支出} \\
    I &:&\text{投資} \\
    X &:&\text{輸出} \\
    M &:&\text{輸入}
    \end{eqnarray*}である。特に、閉鎖経済を想定する場合には\(X=M\)であるため、\begin{equation*}AD=C+I+G
    \end{equation*}である。
  4. 財市場での調整:財市場において総供給\(AS\)と総需要\(AD\)が出会う。生産主体と消費主体は独立に意思決定を行うため\(AS\)と\(AD\)は一致するとは限らない。両者の差は意図しない在庫変動\(N^{U}\)として現れる。数量調整のもとで\(N^{U}\)が解消され、総供給\(AS\)と総需要\(AD\)が一致する。生産された付加価値\(AS\)は分配されて国民所得となる。

閉鎖経済において短期を想定する場合、数量調整の結果として実現する均衡が以下のように定まることを明らかにしました。

命題(均衡国民所得)
閉鎖経済における総供給\(AS\)と総需要\(AD\)がそれぞれ、\begin{equation*}\left\{
\begin{array}{l}
AS\left( Y\right) =Y \\
AD\left( Y\right) =c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) +I+G\end{array}\right.
\end{equation*}で与えられているものとする。ただし、\(Y>0\)は国民所得を表す内生変数であり、\(T>0\)は所得税を表す外生変数であり、\(I>0\)は投資を表す外生変数であり、\(G>0\)は政府支出を表す外生変数であり、\(c_{0},c_{1}\in \mathbb{R} \)は\(c_{0}>0\)かつ\(0<c_{1}<1\)を満たす定数である。短期における財市場均衡条件\begin{equation*}AS\left( Y\right) =AD\left( Y\right)
\end{equation*}を満たす国民所得\(Y\)の水準、すなわち均衡国民所得は、\begin{equation*}Y^{\ast }=\frac{1}{1-c_{1}}\left( c_{0}-c_{1}T+I+G\right)
\end{equation*}である。

経済において生産主体と消費主体は独立に意思決定を行うため、総供給と総需要は一致するとは限りません。つまり、\begin{equation*}
AS\left( Y\right) =Y\not=AD\left( Y\right)
\end{equation*}が成り立つということです。価格が硬直的な短期では、企業は超過需要や超過供給を解消するために数量調整(増産ないし減産)によって\(AS\left( Y\right) \)を変化させます。このような数量調整は、国民所得\(Y\)すなわち総供給\(AS\left(Y\right) \)が、企業が実際に売れると期待する水準\(AD\left( Y\right) \)と一致するまで行われます。数量調整の結果、均衡において、\begin{equation*}AS\left( Y^{\ast }\right) =Y^{\ast }=AD\left( Y^{\ast }\right)
\end{equation*}が実現します。以上の事実は、経済の生産水準(総供給)が、実際に売れる水準(総需要)によって一方的に決定されることを意味します。以上のような調整メカニズムを有効需要の原理と呼びます。

短期において数量調整の結果として実現する均衡国民所得\(Y^{\ast }\)のもとでは財市場は均衡しますが、労働市場や資本市場は均衡しているとは限りません。一方、価格が変動する長期を想定した場合、物価や賃金が柔軟に変化することにより、何らかの実質レントと実質賃金および労働量と資本量のもとで2つの市場が均衡することを明らかにしました。労働市場と資本市場が同時に均衡している状態、すなわち完全雇用が実現している場合には生産要素である資本と労働は適切に配分され、生産部門は利潤最大化を実現し、家計は効用最大化を実現しています。したがって、完全雇用は経済全体として最も効率的な状態であると言えます。完全雇用を実現する均衡資本量\(K^{\ast }\)と均衡労働量\(L^{\ast }\)を生産関数\(F\left( K,L\right) \)に代入することにより得られる値\begin{equation*}Y_{F}=F\left( K^{\ast },L^{\ast }\right)
\end{equation*}は経済の供給能力を最大限に活用した場合の国民所得であり、これを完全雇用国民所得と呼びます。

長期均衡における完全雇用、すなわち労働市場と資本市場が同時に均衡している場合、労働市場における需給は均衡実質賃金において均衡しています。したがって、その賃金水準において生産部門が需要したい労働がすべて供給されるとともに、その賃金水準において家計が供給したい労働がすべて需要されているため、そこには非自発的失業が存在しません。つまり、完全雇用とは、均衡実質賃金のもとで働きたいすべての人が雇われているという意味において非自発的失業が存在しない状態を指します。完全雇用では、均衡実質賃金のもとで働きたい人が全員働いているということです。資本市場についても同様であるため、完全雇用国民所得を経済全体の生産能力の上限とみなすことができます。

完全雇用国民所得\(Y_{F}\)はいわば国民所得の最大値の理論値であり、短期という制約のもとで実現する均衡国民所得\(Y^{\ast }\)と一致するとは限りません。短期では物価や賃金が硬直的であるため、総需要が変動しても価格調整ではなく数量調整で対応せざるを得ないからです。以下では、均衡国民所得\(Y^{\ast }\)が完全雇用国民所得\(Y_{F}\)と乖離する理由とその問題、および解決方法について解説します。

 

デフレギャップの発生メカニズムと経済的帰結

短期における均衡国民所得\(Y^{\ast }\)が完全雇用国民所得\(Y_{F}\)を下回る場合、すなわち、\begin{equation*}Y^{\ast }<Y_{F}
\end{equation*}が成り立つ状態をデフレギャップ(deflationary gap)と呼びます。デフレギャップはなぜ発生するのでしょうか。

完全雇用国民所得\(Y_{F}\)は、労働市場と資本市場の均衡によって決定された最適な投入量\(\left( L^{\ast },K^{\ast }\right) \)のもとで、\begin{equation*}Y_{F}=F\left( K^{\ast },L^{\ast }\right)
\end{equation*}として定まります。総供給関数は、\begin{equation*}
AS\left( Y\right) =Y
\end{equation*}であるため、経済の潜在的な供給能力は、\begin{equation*}
AS\left( Y_{F}\right) =Y_{F}=F\left( K^{\ast },L^{\ast }\right)
\end{equation*}として定まります。一方、総需要関数は、\begin{equation*}
AD\left( Y\right) =c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) +I+G
\end{equation*}であるため、国民所得が\(Y_{F}\)である場合の総需要は、\begin{equation*}AD\left( Y_{F}\right) =c_{0}+c_{1}\left( Y_{F}-T\right) +I+G
\end{equation*}と定まります。何らかの要因により総需要を構成する限界消費性向\(c_{1}\)が低い場合や所得税\(T\)が高い場合、もしくは投資\(I\)や政府支出\(G\)が低い場合には総需要が低く評価されるため、\begin{equation*}AS\left( Y_{F}\right) =Y_{F}=F\left( K^{\ast },L^{\ast }\right) >AD\left(
Y_{F}\right)
\end{equation*}が成立します。つまり、潜在的な供給能力に対して需要が追い付いていないということです。デフレギャップの水準は、完全雇用国民所得\(Y_{F}\)のもとでの超過供給量\begin{equation*}AS\left( Y_{F}\right) -AD\left( Y_{F}\right) >0
\end{equation*}として定義されます。

図:デフレギャップ
図:デフレギャップ

デフレギャップが存在することは、完全雇用国民所得\(Y_{F}\)のもとでは正の意図せざる在庫(売れ残り)が発生することを意味します。ただ、短期では価格メカニズムが働かないため、生産主体は数量調整で対応します。具体的には、生産要素の投入量\(\left( K,L\right) \)を完全雇用水準\(\left( K^{\ast },L^{\ast }\right) \)から減少させることを通じて総供給\(AS\left( Y\right) =Y\)を減少させ、その結果、以下の条件\begin{equation*}AS\left( Y^{\ast }\right) =AD\left( Y^{\ast }\right)
\end{equation*}を満たす短期の均衡国民所得\(Y^{\ast }\)が実現します。ただし、ここでは減産しているため、\begin{equation*}AS\left( Y^{\ast }\right) <AS\left( Y_{F}\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
Y^{\ast }<Y_{F}
\end{equation*}が成り立ち、ゆえにデフレギャップが発生しています。

デフレギャップの何が問題なのでしょうか。デフレギャップ時には短期の均衡国民所得\(Y^{\ast }\)を実現する要素投入量\(\left( K,L\right) \)が完全雇用水準\(\left( K^{\ast },L^{\ast }\right) \)を下回るため、資本市場では遊休資本が発生し、労働市場では非自発的失業が発生しています。非自発的失業が存在することとは、現行の賃金水準で働く意思があるにも関わらず、そのような人々が職を得られないことを意味します。また、デフレギャップ時には短期の均衡国民所得\(Y^{\ast }\)が完全雇用国民所得\(Y_{F}\)に達していませんが、以上の事実は、経済の状態が潜在能力以下の非効率的な状態に留まっていることを意味します。

デフレギャップが存在する状態が長期にわたって持続すると、価格メカニズムを通じてデフレギャップは解消される方向へ動きます。デフレギャップは供給過剰の状態\begin{equation*}
AS\left( Y_{F}\right) >AD\left( Y_{F}\right)
\end{equation*}ですが、長期的に生産部門は在庫を抱えきれなくなり、価格メカニズムを通じて財市場では物価が下落します。また、デフレギャップにより労働市場において非自発的失業者が増え続けると、価格メカニズムによって長期的には賃金が下落しますが、これは生産部門のコスト削減につながるため総供給曲線が下方へシフトし、その結果、物価が下落します。以上より、長期を想定した場合、デフレギャップが解消されるプロセスにおいて物価水準が下落すること、すなわちデフレ(deflation)が発生することが明らかになりました。デフレを通じてデフレギャップを解消するプロセスは、理論上は長期的に効率的な均衡へ回帰させますが、その過程で発生する諸問題は、経済を長期にわたる大不況に陥れるリスクがあります。

例(実質債務負担の増大)
デフレ下では物価が下落しお金の価値が上昇しますが、これは名目債務の実質価値が上昇を意味します。つまり、過去に借りた金額の実質的な価値が上昇するため、返済負担が大きくなるということです。このような現象をデットデフレーション(debt deflation)と呼びます。この負担増が家計の消費者企業の設備投資を抑制し、さらなる需要低迷と物価下落を招く悪循環に陥ることがあります。

例(期待デフレの定着)
デフレが長期化し人々が「将来も価格が下がる」と予想すると、消費や投資を先送りすることになります。これが現在の需要減につながるため、デフレが自己強化されます。

例(名目賃金の下方硬直性)
理論的には長期において均衡実質賃金\(\frac{W}{P}\)が下がり労働市場が均衡しますが、現実には、企業が賃下げに踏み切るとモラルや生産性が低下するため名目賃金\(W\)は簡単には下がりません。そのような中でデフレが進み物価\(P\)だけが下落すると実質賃金\(\frac{W}{P}\)が上昇し、結果的に、非自発的失業が長期化します。

デフレの問題を考慮すると、デフレギャップはデフレによって自然解消されるのを待つのではなく、様々な政策によって、経済に負担をかけずに意図的に解消することが、マクロ経済政策の基本方針とされています。具体的には、デフレギャップが存在する場合には以下の条件\begin{equation*}
Y^{\ast }<Y_{F}
\end{equation*}が成立しているため、デフレギャップを解消するためには左辺の均衡国民所得\(Y^{\ast }\)を上昇させて、それを完全雇用国民所得\(Y_{F}\)に一致させる必要があります。具体的には、\begin{equation*}Y^{\ast }=\frac{1}{1-c_{1}}\left( c_{0}-c_{1}T+I+G\right)
\end{equation*}が成り立つため、デフレギャップを解消するためには限界消費性向\(c_{1}\)を引き上げる、所得税\(T\)を引き下げる、政府支出\(G\)を増加させる、投資\(I\)を増加させる必要があります。これらを実現する施策については後述します。

 

インフレギャップの発生メカニズムと経済的帰結

短期における均衡国民所得\(Y^{\ast }\)が完全雇用国民所得\(Y_{F}\)を上回る場合、すなわち、\begin{equation*}Y^{\ast }>Y_{F}
\end{equation*}が成り立つ状態をインフレギャップ(inflationary gap)と呼びます。インフレギャップはなぜ発生するのでしょうか。

完全雇用国民所得\(Y_{F}\)は、労働市場と資本市場の均衡によって決定された最適な投入量\(\left( L^{\ast },K^{\ast }\right) \)のもとで、\begin{equation*}Y_{F}=F\left( K^{\ast },L^{\ast }\right)
\end{equation*}として定まります。総供給関数は、\begin{equation*}
AS\left( Y\right) =Y
\end{equation*}であるため、経済の潜在的な供給能力は、\begin{equation*}
AS\left( Y_{F}\right) =Y_{F}=F\left( K^{\ast },L^{\ast }\right)
\end{equation*}として定まります。一方、総需要関数は、\begin{equation*}
AD\left( Y\right) =c_{0}+c_{1}\left( Y-T\right) +I+G
\end{equation*}であるため、国民所得が\(Y_{F}\)である場合の総需要は、\begin{equation*}AD\left( Y_{F}\right) =c_{0}+c_{1}\left( Y_{F}-T\right) +I+G
\end{equation*}と定まります。何らかの要因により総需要を構成する限界消費性向\(c_{1}\)が高い場合や所得税\(T\)が低い場合、もしくは投資\(I\)や政府支出\(G\)が高い場合には総需要が高く評価されるため、\begin{equation*}AS\left( Y_{F}\right) =Y_{F}=F\left( K^{\ast },L^{\ast }\right) <AD\left(
Y_{F}\right)
\end{equation*}が成立します。つまり、潜在的な供給能力に対して需要が多すぎるということです。インフレギャップの水準は、完全雇用国民所得\(Y_{F}\)のもとでの超過需要量\begin{equation*}AD\left( Y_{F}\right) -AS\left( Y_{F}\right) >0
\end{equation*}として定義されます。

図:インフレギャップ
図:インフレギャップ

インフレギャップが存在することは、完全雇用国民所得\(Y_{F}\)のもとでは負の意図せざる在庫(品不足)が発生することを意味します。ただ、短期では価格メカニズムが働かないため、生産主体は数量調整で対応します。具体的には、生産要素の投入量\(\left( K,L\right) \)を完全雇用水準\(\left( K^{\ast },L^{\ast }\right) \)から増加させることを通じて総供給\(AS\left( Y\right) =Y\)を増加させ、その結果、以下の条件\begin{equation*}AS\left( Y^{\ast }\right) =AD\left( Y^{\ast }\right)
\end{equation*}を満たす短期の均衡国民所得\(Y^{\ast }\)が実現します。ただし、ここでは増産しているため、\begin{equation*}AS\left( Y^{\ast }\right) >AS\left( Y_{F}\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
Y^{\ast }>Y_{F}
\end{equation*}が成り立ち、ゆえにインフレギャップが発生しています。

インフレギャップの何が問題なのでしょうか。インフレギャップ時には短期の均衡国民所得\(Y^{\ast }\)を実現する要素投入量\(\left( K,L\right) \)が完全雇用水準\(\left( K^{\ast},L^{\ast }\right) \)を上回ります。特に、均衡雇用水準\(L^{\ast }\)のもとでは労働市場は均衡しているため、均衡実質賃金のもとで働きたい人はすべて雇われていることになります。つまり、非自発的失業は存在しないため、既存の労働者への残業の要請などを通じて\(L^{\ast }\)を上回る\(L\)を確保する必要があります。資本市場においても同様に、資本の一時的な超過稼働によって\(K^{\ast }\)を上回る\(K\)を確保することになります。つまり、完全雇用水準\(\left( K^{\ast },L^{\ast }\right) \)を上回る要素投入\(\left(K,L\right) \)を行うことは、生産能力の限界を超えて稼働することを意味するため、この状態は持続可能ではありません。また、インフレギャップ時には短期の均衡国民所得\(Y^{\ast }\)が完全雇用国民所得\(Y_{F}\)を上回りますが、以上の事実は、経済の状態が潜在能力を超えた非効率的な状態にあることを意味します。

インフレギャップが存在する状態が長期にわたって持続すると、価格メカニズムを通じてインフレギャップは解消される方向へ動きます。インフレギャップは需要過剰の状態\begin{equation*}
AD\left( Y_{F}\right) >AS\left( Y_{F}\right)
\end{equation*}ですが、長期的に生産部門は能力を超えた生産ができなくなり、価格メカニズムを通じて財市場では物価が上昇します。また、インフレギャップにより労働市場において需要が高まると、価格メカニズムによって長期的には賃金が上昇しますが、これは生産部門のコスト増加につながるため総供給曲線が上方へシフトし、その結果、物価が上昇します。以上より、長期を想定した場合、インフレギャップが解消されるプロセスにおいて物価水準が上昇すること、すなわちインフレ(inflation)が発生することが明らかになりました。インフレを通じてインフレギャップを解消するプロセスは、理論上は長期的に効率的な均衡へ回帰させますが、その過程で発生する諸問題は、経済に対して明確なコストをもたらします。

例(実質所得の低下)
インフレにより家計の実質購買力が下がると、実質消費が減少します。特に、名目賃金\(W\)の上昇が物価\(P\)の上昇に追いつかない場合、実質賃金\(\frac{W}{P}\)の低下が起こり、生活水準が悪化します。
例(所得分配のゆがみ)
価格の上昇スピードはすべての財・要素市場で均一に起こるわけではありません。価格転嫁が早い企業や資産保有者は得をする一方で、名目所得が固定的な労働者や年金生活者は損をします。結果として所得格差が拡大します。

例(期待インフレの定着)
インフレが長期化し人々が「将来も価格が上がる」と予想すると、賃金要求や価格設定に反映させるようになります。これによりインフレ期待が自己実現的に持続し、インフレギャップが消えても物価上昇が止まりにくくなります。

インフレの問題を考慮すると、インフレギャップはインフレによって自然解消されるのを待つのではなく、様々な政策によって、経済に負担をかけずに意図的に解消することが、マクロ経済政策の基本方針とされています。具体的には、インフレギャップが存在する場合には以下の条件\begin{equation*}
Y^{\ast }>Y_{F}
\end{equation*}が成立しているため、インフレギャップを解消するためには左辺の均衡国民所得\(Y^{\ast }\)を下落させて、それを完全雇用国民所得\(Y_{F}\)に一致させる必要があります。具体的には、\begin{equation*}Y^{\ast }=\frac{1}{1-c_{1}}\left( c_{0}-c_{1}T+I+G\right)
\end{equation*}が成り立つため、インフレギャップを解消するためには限界消費性向\(c_{1}\)を引き下げる、所得税\(T\)を引き上げる、政府支出\(G\)を減少させる、投資\(I\)を減少させる必要があります。これらを実現する施策については後述します。

$$\begin{array}{ccc}
\hline
& デフレギャップ & インフレギャップ \\ \hline
状況 & 総需要不足 & 総需要超過 \\ \hline
在庫 & 売れ残り(正)& 品不足(負) \\ \hline
調整方向 & 減産・雇用縮小 & 増産・雇用拡大 \\ \hline
長期の価格変化 & 物価下落(デフレ) & 物価上昇(インフレ) \\ \hline
政策対応 & 拡張的財政・金融政策 & 緊縮的財政・金融政策 \\ \hline
\end{array}$$

 

演習問題

問題(インフレギャップ)
消費関数が、\begin{equation*}
C=50+0.8\left( Y-T\right)
\end{equation*}であるものとします。ただし、\(Y\)は国民所得であり、\(T\)は所得税です。所得税と投資と政府支出は、\begin{eqnarray*}T &=&100 \\
I &=&150 \\
G &=&100
\end{eqnarray*}であるものとします。以下の問いに答えてください。

  1. 閉鎖経済を想定した上で、短期において財市場で数量調整が行われる場合の均衡国民所得\(Y^{\ast }\)を求めてください。
  2. 完全雇用国民所得が、\begin{equation*}Y_{F}=900
    \end{equation*}であるとき、デフレギャップまたはインフレギャップの有無とその大きさを求めてください。
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問題(短期モデルと長期モデルの違い)
短期均衡国民所得\(Y^{\ast }\)が完全雇用国民所得\(Y_{F}\)を超えるインフレギャップについて、短期モデル(ケインズ派)と長期モデル(古典派)とでは、その結論、価格の役割、解消メカニズムに関してどのような意見の相違があるか、簡潔にまとめてください。
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