非分割財の交換経済におけるインセンティブの問題を解消するためには、すべてのプレイヤーが自身の選好を正直に表明することが均衡になるようなメカニズムを設計する必要があります。そのような性質を満たすメカニズムを誘因両立的なメカニズムと呼びます。ここでは、誘因両立性の中でも、耐戦略性と事後均衡誘因両立性について解説します。
< 前のページ
次のページ >

メカニズムのもとでのゲーム

仮に、マッチメイカーが非分割財の交換経済の真の状態、すなわちエージェントたちの真の選好を観察できるのであれば、観察した真の状態を基準に社会的に望ましい配分を特定し、それを遂行すればよいことになります。しかし、実際には、選好はエージェントが持つ私的情報であるため、マッチメイカーは真の状態を観察できず、したがって社会的に望ましい配分を事前に特定することはできません。そこで、マッチメイカーはプレイヤーたちに自身の選好を申告させた上で、申告された選好の組を基準に社会的に望ましい配分を特定し、それを遂行しようとします。このような資源配分ルールをメカニズムと呼ばれる概念として定式化しました。ただ、メカニズムに直面したそれぞれのエージェントは自身の真の選好を正直に申告するとは限りません。エージェントは望ましい商品を手に入れるために戦略的に行動しますが、その一環として、偽りの選好を申告する可能性があるからです。エージェントの選好は私的情報であるため、エージェントが嘘をついて真の選好とは異なる選好を申告しても、マッチメイカーはそれが嘘であるかどうかを知る術がないのです。エージェントたちが偽りの選好を表明する場合、マッチメイカーは偽りの選好の組を基準に配分を決定することとなり、それは真の意味で社会的に望ましい配分とは異なるものになってしまう可能性があります。情報の非対称に起因するこのような問題をインセンティブの問題と呼びます。

インセンティブの問題を引き起こす原因が情報の非対称性である以上、インセンティブの問題を解決するためには、何らかの方法を通じて情報の非対称性を解消する必要があります。具体的には、それぞれのエージェントにとって、自分の真の選好を正直に申告することが得であるようなメカニズムを設計すれば、そのようなメカニズムのもと、エージェントたちは自分の真の選好を自ら進んで正直に申告するため、結果として情報の非対称性は解消されます。以上のことをよりテクニカルに表現すると、メカニズムを提示されたエージェントたちが直面する戦略的状況をゲームとして記述したとき、そのゲームにおいて、「すべてのエージェントが自身の選好を正直に申告する」ことが均衡になるのであれば、そのようなメカニズムのもとで情報の非対称性は解消されるということです。ただ、そもそも、そのようなメカニズムを設計することは可能なのでしょうか。こうした問いについて考えるために、まずは、メカニズムを提示されたエージェントたちが直面する戦略的状況をゲームとして記述します。

非分割財の交換経済において、マッチメイカーはメカニズム\(\phi :\mathcal{R}_{I}\rightarrow A\)を設計し、それをエージェントたちに提示します。仮にすべてのエージェントが提示されたメカニズム\(\phi \)に同意するのであれば、それぞれのエージェント\(i\in I\)は自身の選好\(\succsim _{i}\in \mathcal{R}_{i}\)をマッチメイカーへ申告することになります。その際、他のエージェントたちが申告する選好を事前に観察できません。また、エージェントは真の選好を正直に申告するとは限りません。いずれにせよ、エージェントたちが申告してきた選好の組\(\succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I}\)に対し、マッチメイカーはあらかじめ提示したメカニズム\(\phi \)にもとづいて配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \in A\)を選び取り、これを遂行します。その結果、それぞれのエージェント\(i\)は商品\(\phi _{i}\left( \succsim _{I}\right) \in H\)を入手します。メカニズム\(\phi \)を提示されたエージェントたちが直面する以上のような戦略的状況をゲームとみなした上で、それを\(G\left( \phi \right) \)と表記し、これをメカニズム\(\phi \)のもとでのゲームと呼ぶこととします。以降では、このゲーム\(G\left( \phi \right) \)を構成する要素を具体的に特定します。

まず、このゲームのプレイヤーは商品の交換に臨むエージェントたちであるため、ゲーム\(G\left( \phi \right) \)のプレイヤー集合は問題としている非分割財の交換経済のエージェント集合\(I\)と一致します。

それぞれのプレイヤー\(i\in I\)は自身が商品どうしを比較する商品集合\(H\)上に定義された選好\(\succsim _{i}\)を私的情報として持っています。つまり、ゲーム\(G\left( \phi \right) \)におけるプレイヤー\(i\)のタイプは選好\(\succsim _{i}\)であり、タイプ集合は選好集合\(\mathcal{R}_{i}\)と一致します。エージェント\(i\)のタイプ\(\succsim _{i}\)はタイプ集合\(\mathcal{R}_{i}\)に属する様々な値を取り得ますが、\(\succsim _{i}\)の真の値を知っているのはエージェント\(i\)だけです。他の任意のエージェントやマッチメイカーは、\(\succsim _{i}\)のとり得る値の範囲\(\mathcal{R}_{i}\)を知っていますが、その中のどの値が真の値であるかは知らないものと仮定することで、エージェント\(i\)の選好が私的情報であるという状況を表現します。

メカニズム\(\phi \)に直面したそれぞれのプレイヤー\(i\)は自身の選好\(\succsim _{i}\)を申告する必要があります。したがって、ゲーム\(G\left( \phi \right) \)においてプレイヤー\(i\)に与えられた行動は自身が申告する選好\(\succsim _{i}\)であり、行動集合は選好集合\(\mathcal{R}_{i}\)と一致します。それぞれのプレイヤーは自身の真の選好を正直に表明するとは限りません。

プレイヤーたちが選択する行動の組、すなわち申告する選好の組が\(\succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I}\)であるとき、それに対してメカニズム\(\phi \)は配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \in A\)を選び取ります。行動の組\(\succsim _{I}\)が変われば配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)も変化しますが、どのように変化するかはメカニズム\(\phi \)の内容に依存します。以上がゲーム\(G\left( \phi \right) \)において起こり得る結果です。

プレイヤー\(i\)が結果どうしを比較する評価体系は、自身が配分どうしを比較する配分集合\(A\)上に定義された選好\(\succsim _{i}^{A}\)として記述されます。以前に解説したように、一般に、プレイヤーが配分どうしを比較する選好\(\succsim _{i}^{A}\)の形状はすべてのプレイヤーの選好\(\succsim _{I}\)に依存するため、そのことを明示するために\(\succsim _{i}^{A}\)を\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \)と表記します。つまり、ゲーム\(G\left( \phi \right) \)におけるプレイヤー\(i\)の選好は\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \)であり、これは状態\(\succsim _{I}\)に依存するため、プレイヤー\(i\)の選好がとり得る値からなる集合は、\begin{equation*}
\mathcal{R}_{i}^{A}=\left\{ \succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \right\} _{\succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I}}
\end{equation*}となります。

以上でゲーム\(G\left( \phi \right) \)の要素がすべて出揃いました。つまり、このゲームはプレイヤーが私的情報を持つ不完備情報ゲームであり、以下の様なベイジアンゲーム\begin{equation*}
G\left( \phi \right) =\left( I,\left\{ \mathcal{R}_{i}\right\} _{i\in
I},\left\{ \mathcal{R}_{i}^{A}\right\} _{i\in I}\right)
\end{equation*}として定式化されます。ただし、\(\mathcal{R}_{i}\)はプレイヤー\(i\)のタイプ集合と行動集合を兼ねています。これをメカニズム\(\phi \)のもとでのゲームと呼ぶこととします。

ゲーム\(G\left( \phi \right) \)を構成するすべての要素はプレイヤーたちの共有知識です。それぞれのプレイヤー\(i\in I\)は自身のタイプ\(\succsim _{i}\)の真の値(便宜的にこれを\(\succsim _{i}^{\ast }\)と表記します)を知っていますが、他の任意のプレイヤー\(j\ \left( \not=i\right) \)のタイプ\(\succsim _{j}\)の真の値\(\succsim _{j}^{\ast }\)は知りません。プレイヤー\(i\)が他のプレイヤー\(j\)について知っていることは、\(\succsim _{j}\)がとり得る値の範囲\(\mathcal{R}_{j}\)だけです。したがって、プレイヤー\(i\)が直面し得る状態からなる集合は、\begin{equation*}
\left\{ \left( \succsim _{i}^{\ast },\succsim _{-i}\right) \right\}
_{\succsim _{-i}\in \mathcal{R}_{-i}}
\end{equation*}となります。他の任意のプレイヤーについても同様の議論が成立します。また、ベイジアンゲームの静学性と不完備性より、ゲーム\(G\left( \phi \right) \)においてプレイヤーたちは以下の手順で意思決定を行います。

  1. 自身の真のタイプ\(\succsim _{i}^{\ast }\in \mathcal{R}_{i}\)を知っているが他のプレイヤーたちの真のタイプ\(\succsim _{-i}^{\ast }\in \mathcal{R}_{-i}\)を知らないそれぞれのプレイヤー\(i\in I\)は自身の行動集合\(\mathcal{R}_{i}\)の中から特定の行動\(\succsim _{i}\)を選択する。その際、他のプレイヤーたちが選択した行動を観察できない。プレイヤー\(i\)が選択する行動\(\succsim _{i}\)は自身の真のタイプ\(\succsim _{i}^{\ast }\)であるとは限らない。
  2. プレイヤーたちが選択した行動の組\(\succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I}\)に対して、メカニズム\(\phi :\mathcal{R}_{I}\rightarrow A\)が配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \in A\)を定める。
  3. 真の状態\(\succsim _{I}^{\ast }\)とプレイヤーたちが選択した行動の組\(\succsim _{I}\)に応じて、それぞれのプレイヤー\(i\)は選好関係\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}^{\ast }\right] \)のもとで先の結果\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)を評価する。

ちなみに、復習になりますが、非分割財の交換経済においてプレイヤーの選好に関して非外部性と私的価値を仮定する場合(私的価値モデル)、任意のプレイヤー\(i\)について、商品どうしを比較する選好\(\succsim _{i}\)と配分どうしを比較する選好\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \)は実質的に等しくなります。したがって、メカニズム\(\phi \)のもとでのゲーム\(G\left( \phi \right) \)においても、それぞれのプレイヤー\(i\)の選好\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \)は\(\succsim _{i}\)と置き換え可能であるため、ゲームの要素は、\begin{equation*}
G\left( \phi \right) =\left( I,\left\{ \mathcal{R}_{i}\right\} _{i\in
I}\right)
\end{equation*}とよりシンプルになります。つまり、この場合、\(\mathcal{R}_{i}\)はプレイヤー\(i\)のタイプ集合と行動集合、そして選好集合を兼ねています。この場合、プレイヤーたちは以下の手順で意思決定を行います。

  1. 自身の真のタイプ\(\succsim _{i}^{\ast }\in \mathcal{R}_{i}\)を知っているが他のプレイヤーたちの真のタイプ\(\succsim _{-i}^{\ast }\in \mathcal{R}_{-i}\)を知らないそれぞれのプレイヤー\(i\in I\)は自身の行動集合\(\mathcal{R}_{i}\)の中から特定の行動\(\succsim _{i}\)を選択する。その際、他のプレイヤーたちが選択した行動を観察できない。プレイヤー\(i\)が選択する行動\(\succsim _{i}\)は自身の真のタイプ\(\succsim _{i}^{\ast }\)であるとは限らない。
  2. プレイヤーたちが選択した行動の組\(\succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I}\)に対して、メカニズム\(\phi :\mathcal{R}_{I}\rightarrow A\)が配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \in A\)を定める結果、それぞれのプレイヤー\(i\)は商品\(\phi _{i}\left( \succsim _{I}\right) \in H\)を入手する。
  3. 自身の真のタイプ\(\succsim _{i}^{\ast }\)とプレイヤーたちが選択した行動の組\(\succsim _{I}\)に応じて、それぞれのプレイヤー\(i\)は選好関係\(\succsim _{i}^{\ast }\)のもとで先の商品\(\phi _{i}\left( \succsim _{I}\right) \)を評価する。

 

エージェントの戦略

メカニズム\(\phi \)のもとでのゲーム\(G\left( \phi \right) \)において、仮にすべてのプレイヤーが真の状態\(\succsim _{I}^{\ast }\)を把握しており、なおかつそのことが共有知識であるならば、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)の選好が\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}^{\ast }\right] \)であることが確定するため、プレイヤーたちが直面する戦略的状況はもはや不完備情報ゲームではなく、以下のような完備情報ゲーム\begin{equation*}
G\left( \phi ,\succsim _{I}^{\ast }\right) =\left\{ I,\left\{ \mathcal{R}_{i}\right\} _{i\in I},\left\{ \succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}^{\ast }\right] \right\} \right\}
\end{equation*}となります。ただし、\(I\)はプレイヤー集合、\(\mathcal{R}_{i}\)はプレイヤー\(i\)の行動集合、\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}^{\ast }\right] \)はプレイヤー\(i\)の選好関係です。これを\(\succsim _{I}^{\ast }\)のもとでの状態ゲームと呼ぶこととします。状態ゲーム\(G\left( \phi ,\succsim _{I}^{\ast }\right) \)は完備情報ゲームであるため、そこでのプレイヤーの戦略とは、単純に、プレイヤーが選択可能な行動の中から1つの行動を選ぶことを意味します。

しかし、実際には、ゲーム\(G\left( \phi \right) \)において真の状態\(\succsim _{I}^{\ast }=\left( \succsim _{i}^{\ast },\succsim _{-i}^{\ast }\right) \)を把握しているプレイヤーは存在せず、それぞれのプレイヤー\(i\)は真の状態\(\succsim _{I}^{\ast }\)に関する断片的な知識、すなわち自身の真のタイプ\(\succsim _{i}^{\ast }\)に関する情報しか持っていないため、プレイヤーは複数の状態ゲームに直面し得る中で意思決定を行う必要があります。具体的には、プレイヤーが直面し得る状態ゲームからなる集合は、\begin{equation}
\left\{ G\left( \phi ,\succsim _{i}^{\ast },\succsim _{-i}\right) \right\}
_{\succsim _{-i}\in \mathcal{R}_{-i}} \tag{1}
\end{equation}です。しかも、それぞれのプレイヤー\(i\)は自身が直面し得るそれぞれの状態ゲーム\(G\left( \phi ,\succsim _{i}^{\ast },\succsim _{-i}\right) \)に対して、そこで選択する行動をあらかじめ指定することはできません。なぜなら、プレイヤー\(i\)は他のプレイヤーたちのタイプ\(\succsim _{-i}\)を観察できず、ゆえに自分が\(\left( 1\right) \)に属するどの状態ゲームをプレーしているかを判別できないからです。したがって、プレイヤー\(i\)は特定の行動\(a_{i}\)を事前に選び、その1つの行動のもとで、自分が直面し得る\(\left( 1\right) \)に属するすべての状態ゲームに備えなければなりません。

プレイヤー\(i\)は自身のタイプ\(\succsim _{i}\)の真の値\(\succsim _{i}^{\ast }\)を知っているため、\(\succsim _{i}^{\ast }\)のもとで直面し得る状態ゲームの集合\(\left( 1\right) \)に対してのみ1つの行動を定めればよいと考えるかもしれませんが、この考えは誤りです。他のプレイヤー\(j\ \left( \not=i\right) \)の視点から考えてみると、プレイヤー\(j\)にとっての最適な行動はプレイヤー\(i\)の行動に依存するため、プレイヤー\(j\)はプレイヤー\(i\)の行動を予想しながら自身の行動を決定します。プレイヤー\(i\)の行動は自身のタイプ\(\succsim _{i}\)に依存しますが、プレイヤー\(j\)はプレイヤー\(i\)の真のタイプ\(\succsim _{i}^{\ast }\)を知らない以上、\(\mathcal{R}_{i}\)に属するそれぞれのタイプごとに、そこでのプレイヤー\(i\)の行動を予想した上で、その予想を踏まえた上で自身の行動を決定します。つまり、プレイヤー\(j\)の行動はプレイヤー\(i\)のそれぞれのタイプのもとでの行動に依存します。逆に、プレイヤー\(i\)の最適な行動はプレイヤー\(j\)の行動に依存しますが、プレイヤー\(j\)の行動がプレイヤー\(i\)のそれぞれのタイプのもとでの行動に依存する以上、プレイヤー\(i\)が自身の最適な行動を考えるためには、プレイヤー\(i\)は自身の真のタイプ\(\succsim _{i}^{\ast }\)とは限らない自身のそれぞれのタイプにおいて自分が何をするであろうか考える必要があります。つまり、真のタイプ\(\succsim _{i}^{\ast }\)とは異なるそれぞれのタイプ\(\succsim _{i}\)についても、プレイヤー\(i\)はその場合に自身が選択するであろう行動をあらかじめ定める必要があります。

以上を踏まえると、メカニズム\(\phi \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( \phi \right) \)においてそれぞれのプレイヤーは、自身のそれぞれのタイプごとに自身が選択するであろう行動を包括的に定めておく必要があります。具体的には、ゲーム\(G\left( \phi \right) \)におけるプレイヤー\(i\)の戦略は写像\begin{equation*}
s_{i}:\mathcal{R}_{i}\rightarrow \mathcal{R}_{i}
\end{equation*}として定式化されます。この戦略\(s_{i}\)のもとで、プレイヤー\(i\)は自分のタイプが\(\succsim _{i}\in \mathcal{R}_{i}\)の場合には行動\(s_{i}\left( \succsim _{i}\right) \in \mathcal{R}_{i}\)を選択します。言い換えると、自身のタイプが\(\succsim _{i}\)である場合、戦略\(s_{i}\)のもとでは、プレイヤー\(i\)はマッチメイカーに対して自身のタイプが\(s_{i}\left( \succsim _{i}\right) \)であると申告するということです。このような行動計画\(s_{i}\)をプレイヤーの純粋戦略(pure strategy)と呼びます。

すべてのプレイヤーの純粋戦略の組を\(s_{I}=(s_{i})_{i\in I}\)で表し、プレイヤー\(i\)以外のプレイヤーたちの純粋戦略からなる組を\(s_{-i}=(s_{j})_{j\in I\backslash \left\{ i\right\} }\)で表します。\(s_{I}=\left( s_{i},s_{-i}\right) \)です。

プレイヤー\(i\)が選択可能なすべての純粋戦略からなる集合をプレイヤー\(i\)の戦略集合(strategy set)や戦略空間(strategy space)などと呼び、これを\(S_{i}\)で表します。\(s_{i}\in S_{i}\)です。すべてのプレイヤーの戦略集合の直積を\(S_{I}=\prod_{i\in I}S_{i}\)で表します。また、\(S_{-i}=\prod_{j\in I\backslash \left\{ i\right\} }S_{j}\)とします。\(s_{I}\in S_{I}\)かつ\(s_{-i}\in S_{-i}\)です。

 

誘因両立的なメカニズム

メカニズム\(\phi \)のもとでのゲーム\(G\left( \phi \right) \)において、プレイヤーたちの純粋戦略からなる何らかの組\(s_{I}^{\ast }=\left( s_{i}^{\ast }\right) \in S_{I}\)が均衡であるならば(均衡の具体的な内容は後述)、それぞれの状態\(\succsim _{I}=\left( \succsim _{i}\right) _{i\in I}\in \mathcal{R}_{I}\)において、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)は自身の均衡戦略\(s_{i}^{\ast }\)にしたがって最適な選好\(s_{i}^{\ast }\left( \succsim _{i}\right) \in \mathcal{R}_{i}\)を申告します。状態\(\succsim _{I}\)においてプレイヤーたちが申告する選好の組を\(s_{I}^{\ast }\left( \succsim _{I}\right) =\left( s_{i}^{\ast }\left( \succsim _{i}\right) \right) _{i\in I}\)と表記するのであれば、それに対してメカニズム\(\phi \)は以下の配分\begin{equation*}
\phi \left( s_{I}^{\ast }\left( \succsim _{I}\right) \right) =\left( \phi
_{i}\left( s_{I}^{\ast }\left( \succsim _{I}\right) \right) \right)_{i\in I} \in A
\end{equation*}を選びます。このとき、メカニズム\(\phi \)は状態\(\succsim _{I}\)において上の配分を遂行する(implement)と言います。また、上の配分を状態\(\succsim _{I}\)における均衡結果(equilibrium outcome)や均衡配分(equilibrium allocation)などと呼びます。

一般に、メカニズム\(\phi \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( \phi \right) \)には均衡は存在するとは限りません。しかし、仮にマッチメイカーが、ゲーム\(G\left( \phi \right) \)に均衡が存在するようなメカニズム\(\phi \)の設計に成功したとしましょう。均衡はプレイヤーたちにとっての最適戦略の組ですから、プレイヤーたちが自身にとってより望ましい商品を手に入れるために利己的に行動することを前提とした場合においても、そのようなメカニズム\(\phi \)のもとでは、それぞれの状態\(\succsim _{I}\)において、マッチメイカーは均衡結果\(\phi \left( s_{I}^{\ast }\left( \succsim _{I}\right) \right) \)を遂行できることになります。言い換えると、均衡が存在するようなメカニズムの設計に成功すれば、エージェントたちの行動を均衡へ誘導することに成功し、それぞれの状態\(\succsim _{I}\)において、そこでの均衡結果\(\phi \left( s_{I}^{\ast }\left( \succsim _{I}\right) \right) \)が実現することを理論的に予測できるようになります。

では、マッチメイカーはエージェントたちをどのような均衡へ誘導すべきでしょうか。非分割財の交換経済においてインセンティブの問題が発生する原因は、エージェントたちが自身の選好を私的情報として持っていることにあります。インセンティブの問題を解決するためには、何らかの方法を通じて情報の非対称性を解消する必要があります。具体的には、それぞれのエージェントにとって、自分の真の選好を正直に申告することが得であるようなメカニズムを設計すれば、そのようなメカニズムのもと、エージェントたちは自分の真の選好を自ら進んで正直に申告するため、結果として情報の非対称性は解消されます。

繰り返しになりますが、メカニズム\(\phi \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( \phi \right) \)において、それぞれのプレイヤー\(i\in I\)の純粋戦略は写像\(s_{i}:\mathcal{R}_{i}\rightarrow \mathcal{R}_{i}\)として定式化されます。この純粋戦略\(s_{i}\)のもとで、プレイヤー\(i\)は自分のタイプが\(\succsim _{i}\in \mathcal{R}_{i}\)の場合に行動\(s_{i}\left( \succsim _{i}\right) \in \mathcal{R}_{i}\)を選択します。特に、プレイヤー\(i\)の純粋戦略\(s_{i}^{\ast }\)が以下の条件\begin{equation*}
\forall \succsim _{i}\in \mathcal{R}_{i}:s_{i}^{\ast }\left( \succsim
_{i}\right) =\succsim _{i}
\end{equation*}を満たすとき、すなわち、プレイヤー\(i\)が純粋戦略\(s_{i}^{\ast }\)のもとで常に自身のタイプ\(\succsim _{i}\)をそのまま正直に申告するとき、このような\(s_{i}^{\ast }\)を正直戦略(honest strategy)と呼びます。仮に、メカニズム\(\phi \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( \phi \right) \)において、すべてのプレイヤーが正直戦略を選択すること\(s_{I}^{\ast }=\left( s_{i}^{\ast }\right) _{i\in I}\)が均衡であるならば、それぞれの状態\(\succsim _{I}\)において、プレイヤーたちが申告する選好の組は、\begin{eqnarray*}
s_{I}^{\ast }\left( \succsim _{I}\right) &=&\left( s_{i}^{\ast }\left(
\succsim _{i}\right) \right) _{i\in I} \\
&=&\left( \succsim _{i}\right) _{i\in I}\quad \because \text{正直戦略の定義} \\
&=&\succsim _{I}
\end{eqnarray*}となります。つまり、正直戦略の組が均衡になるようなメカニズム\(\phi \)のもとでは、それぞれの状態\(\succsim _{I}=\left( \succsim _{i}\right) _{i\in I}\)において、任意のプレイヤー\(i\)が自身の真の選好\(\succsim _{i}\)をそのまま正直に表明することが最適になるため、結果として、情報の非対称性が解消されます。そこで、このようなメカニズム\(\phi \)を誘因両立的(incentive compatible)なメカニズムと呼びます。非分割財の交換経済におけるインセンティブの問題を解消するため、マッチメイカーは誘因両立的なメカニズムを設計する必要があります。

 

耐戦略的なメカニズム

メカニズム\(\phi \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( \phi \right) \)において、プレイヤー\(i\)のある純粋戦略\(s_{i}^{\ast }\)に注目します。さらに、状態\(\succsim _{I}=(\succsim _{i},\succsim _{-i})\)と他のプレイヤーたちが選ぶ行動の組\(\hat{\succsim}_{-i}\)をそれぞれ任意に選びます。プレイヤー\(i\)の行動\(\hat{\succsim}_{i}\)を任意に選んだとき、それに対してメカニズム\(\phi \)は配分\(\phi \left( \hat{\succsim}_{i},\hat{\succsim}_{-i}\right) \)を定めます。一方、プレイヤー\(i\)が先の純粋戦略\(s_{i}^{\ast }\)にしたがうならば行動\(s_{i}^{\ast }\left( \succsim _{i}\right) \)を選ぶことになるため、それに対してメカニズム\(\phi \)は配分\(\phi \left( s_{i}^{\ast }\left( \succsim _{i}\right) ,\hat{\succsim}_{-i}\right) \)を定めます。以上を踏まえた上で、\begin{equation*}
\forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{-i}\in
\mathcal{R}_{-i},\ \forall \hat{\succsim}_{i}\in \mathcal{R}_{i}:\phi \left(
s_{i}^{\ast }\left( \succsim _{i}\right) ,\hat{\succsim}_{-i}\right) \
\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \ \phi \left( \hat{\succsim}_{i},\hat{\succsim}_{-i}\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{I}\in
\mathcal{R}_{I}:\phi \left( s_{i}^{\ast }\left( \succsim _{i}\right) ,\hat{\succsim}_{-i}\right) \ \succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \ \phi
\left( \hat{\succsim}_{I}\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(s_{i}^{\ast }\)はエージェント\(i\)の支配戦略(dominant strategy)であると言います。これは、プレイヤー\(i\)にとって、自身のタイプ\(\succsim _{i}\)や他のプレイヤーたちのタイプ\(\succsim _{-i}\)がいかなるものであるかに関わらず、また、他のプレイヤーたちが選ぶ行動がいかなるものであるかに関わらず、自身は\(s_{i}^{\ast }\)にしたがうことで常に自身の選好を最大化できることを意味します。したがって、プレイヤー\(i\)が支配戦略\(s_{i}^{\ast }\)を持つ場合、プレイヤー\(i\)は自身を含めた全員のタイプや他のプレイヤーたちが選ぶ行動について何も考える必要はなく、常に\(s_{i}^{\ast }\)にしたがって自身の行動を選ぶことが最適になります。

メカニズム\(\phi \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( \phi \right) \)において、プレイヤーたちの純粋戦略の組\(s_{I}^{\ast }=\left( s_{i}^{\ast }\right) \)が支配戦略均衡の組であるならば、すなわち、\begin{equation*}
\forall i\in I,\ \forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{I}\in \mathcal{R}_{I}:\phi \left( s_{i}^{\ast }\left( \succsim
_{i}\right) ,\hat{\succsim}_{-i}\right) \ \succsim _{i}^{A}\left[ \succsim
_{I}\right] \ \phi \left( \hat{\succsim}_{I}\right)
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(s_{I}^{\ast }\)を支配戦略均衡(dominant strategy equilibrium)と呼びます。ゲーム\(G\left( \phi \right) \)に支配戦略均衡\(s_{I}^{\ast }=\left( s_{i}^{\ast }\right) _{i\in I}\)が存在する場合、任意のプレイヤー\(i\)は自身を含めた含めた全員のタイプや他のプレイヤーたちが選ぶ行動について何も考える必要はなく、均衡戦略\(s_{i}^{\ast }\)にしたがって自身の行動を選ぶことが最適になります。その結果、状態\(\succsim _{I}\)を任意に選んだとき、メカニズム\(\phi \)は以下の配分\begin{equation*}
\phi \left( s_{I}^{\ast }\left( \succsim _{I}\right) \right) \in A
\end{equation*}を支配戦略均衡を通じて遂行できることになります。

繰り返しになりますが、メカニズム\(\phi \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( \phi \right) \)において、純粋戦略の組\(s_{I}^{\ast }=\left( s_{i}^{\ast }\right) _{i\in I}\)が支配戦略均衡であることとは、\begin{equation*}
\forall i\in I,\ \forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{I}\in \mathcal{R}_{I}:\phi \left( s_{i}^{\ast }\left( \succsim
_{i}\right) ,\hat{\succsim}_{-i}\right) \ \succsim _{i}^{A}\left[ \succsim
_{I}\right] \ \phi \left( \hat{\succsim}_{I}\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。特に、この\(s_{I}^{\ast }\)が正直戦略の組である場合には、\begin{equation*}
\forall i\in I,\ \forall \succsim _{i}\in \mathcal{R}_{i}:s_{i}^{\ast
}\left( \succsim _{i}\right) =\succsim _{i}
\end{equation*}という関係が成り立つため、先の条件は、\begin{equation*}
\forall i\in I,\ \forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{I}\in \mathcal{R}_{I}:\phi \left( \succsim _{i},\hat{\succsim}_{-i}\right) \ \succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \ \phi \left(
\hat{\succsim}_{I}\right)
\end{equation*}と言い換え可能です。そこで、以上の条件が成り立つとき、すなわち、ゲーム\(G\left( \phi \right) \)において正直戦略の組\(s_{I}^{\ast }\)が支配戦略均衡になるとき、メカニズム\(\phi \)は耐戦略性(strategy-proofness)や支配戦略均衡誘因両立性(incentive compatible in weakly dominant strategy equilibrium)を満たすと言います。このとき、任意のプレイヤー\(i\)は自身を含めた全員のタイプや他のプレイヤーたちが選ぶ行動について何も考える必要はなく、常に自身の真のタイプを正直に申告することによって最も望ましい配分を実現できます。状態\(\succsim _{I}\)を任意に選んだとき、耐戦略的なメカニズム\(\phi \)は以下の配分\begin{equation*}
\phi \left( s_{I}^{\ast }\left( \succsim _{I}\right) \right) =\phi \left(
\succsim _{I}\right) \in A
\end{equation*}を支配戦略均衡を通じて遂行できることになります。

非分割財の交換経済においてプレイヤーの選好に関して非外部性と私的価値を仮定する場合(私的価値モデル)、任意のプレイヤー\(i\)について、商品どうしを比較する選好\(\succsim _{i}\)と配分どうしを比較する選好\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \)は実質的に等しくなります。したがって、メカニズム\(\phi \)のもとでのゲーム\(G\left( \phi \right) \)においても、それぞれのプレイヤー\(i\)の選好\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \)は\(\succsim _{i}\)と置き換え可能であるため、メカニズム\(\phi \)が耐戦略性を満たすことは、\begin{equation*}
\forall i\in I,\ \forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{I}\in \mathcal{R}_{I}:\phi _{i}\left( \succsim _{i},\hat{\succsim}_{-i}\right) \succsim _{i}\phi _{i}\left( \hat{\succsim}_{I}\right)
\end{equation*}が成り立つこととして表現されます。つまり、耐戦略的なメカニズム\(\phi \)に直面した任意のプレイヤー\(i\)は、自身を含めた全員のタイプや他のプレイヤーたちが選ぶ行動について何も考える必要はなく、常に自身の真のタイプを正直に申告することを通じて最も望ましい商品を手に入れられるということです。

 

事後均衡誘因両立的なメカニズム

メカニズム\(\phi \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( \phi \right) \)において、プレイヤー\(i\)のある純粋戦略\(s_{i}^{\ast }\)と、他のプレイヤーたちの純粋戦略のある組\(s_{-i}\)に注目します。さらに、状態\(\succsim _{I}=(\succsim _{i},\succsim _{-i})\)を任意に選ぶと、そのとき他のプレイヤーたちは先の\(s_{-i}\)のもとで行動の組\(s_{-i}\left( \succsim _{-i}\right) =\left( s_{j}\left( \succsim _{j}\right) \right) _{j\in I\backslash \left\{ i\right\} }\)を選びます。したがって、プレイヤー\(i\)の行動\(\hat{\succsim}_{i}\)を任意に選んだとき、それに対してメカニズム\(\phi \)は配分\(\phi \left( \hat{\succsim}_{i},s_{-i}\left( \succsim _{-i}\right) \right) \)を定めます。一方、プレイヤー\(i\)が先の純粋戦略\(s_{i}^{\ast }\)にしたがうならば行動\(s_{i}^{\ast }\left( \succsim _{i}\right) \)を選ぶことになるため、それに対してメカニズム\(\phi \)は配分\(\phi \left( s_{i}^{\ast }\left( \succsim _{i}\right) ,s_{-i}\left( \succsim _{-i}\right) \right) \)を定めます。以上を踏まえた上で、\begin{equation*}
\forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{i}\in
\mathcal{R}_{i}:\phi \left( s_{i}^{\ast }\left( \succsim _{i}\right)
,s_{-i}\left( \succsim _{-i}\right) \right) \ \succsim _{i}^{A}\left[
\succsim _{I}\right] \ \phi \left( \hat{\succsim}_{i},s_{-i}\left( \succsim
_{-i}\right) \right)
\end{equation*}が成り立つ場合、\(s_{i}^{\ast }\)は\(s_{-i}\)に対する事後最適戦略(ex-post best strategy)であると言います。これは、プレイヤー\(i\)にとって、自身のタイプ\(\succsim _{i}\)や他のプレイヤーたちのタイプ\(\succsim _{-i}\)がいかなるものであるかに関わらず、他のプレイヤーたちが純粋戦略の組\(s_{-i}\)にしたがって行動する限りにおいて、自身は\(s_{i}^{\ast }\)にしたがうことで常に自身の選好を最大化できることを意味します。したがって、プレイヤー\(i\)が\(s_{-i}\)に対する事後最適戦略\(s_{i}^{\ast }\)を持つ場合、プレイヤー\(i\)は自身を含めた全員のタイプについて何も考える必要はなく、他のプレイヤーたちが\(s_{-i}\)にしたがって行動する限りにおいて、常に\(s_{i}^{\ast }\)にしたがって自身の行動を選ぶことが最適になります。

メカニズム\(\phi \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( \phi \right) \)において、プレイヤーたちの純粋戦略の組\(s_{I}^{\ast }=\left( s_{i}^{\ast }\right) \)が事後最適戦略の組であるならば、すなわち、\begin{equation*}
\forall i\in I,\ \forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{i}\in \mathcal{R}_{i}:\phi \left( s_{i}^{\ast }\left( \succsim
_{i}\right) ,s_{-i}^{\ast }\left( \succsim _{-i}\right) \right) \ \succsim
_{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \ \phi \left( \hat{\succsim}_{i},s_{-i}^{\ast }\left( \succsim _{-i}\right) \right)
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(s_{I}^{\ast }\)を事後均衡(ex-post equilibrium)と呼びます。ゲーム\(G\left( \phi \right) \)に事後均衡\(s_{I}^{\ast }=\left( s_{i}^{\ast }\right) _{i\in I}\)が存在する場合、任意のプレイヤー\(i\)は自身を含めた含めた全員のタイプや他のプレイヤーたちが選ぶ行動について何も考える必要はなく、他のプレイヤーたちが均衡戦略\(s_{-i}^{\ast }\)にしたがって行動する限りにおいて、自身もまた均衡戦略\(s_{i}^{\ast }\)にしたがって自身の行動を選ぶことが最適になります。その結果、状態\(\succsim _{I}\)を任意に選んだとき、メカニズム\(\phi \)は以下の配分\begin{equation*}
\phi \left( s_{I}^{\ast }\left( \succsim _{I}\right) \right) \in A
\end{equation*}を事後均衡を通じて遂行できることになります。

繰り返しになりますが、メカニズム\(\phi \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( \phi \right) \)において、純粋戦略の組\(s_{I}^{\ast }=\left( s_{i}^{\ast }\right) _{i\in I}\)が事後均衡であることとは、\begin{equation*}
\forall i\in I,\ \forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{i}\in \mathcal{R}_{i}:\phi \left( s_{i}^{\ast }\left( \succsim
_{i}\right) ,s_{-i}^{\ast }\left( \succsim _{-i}\right) \right) \ \succsim
_{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \ \phi \left( \hat{\succsim}_{i},s_{-i}^{\ast }\left( \succsim _{-i}\right) \right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。特に、この\(s_{I}^{\ast }\)が正直戦略の組である場合には、\begin{equation*}
\forall i\in I,\ \forall \succsim _{i}\in \mathcal{R}_{i}:s_{i}^{\ast
}\left( \succsim _{i}\right) =\succsim _{i}
\end{equation*}という関係が成り立つため、先の条件は、\begin{equation*}
\forall i\in I,\ \forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{i}\in \mathcal{R}_{i}:\phi \left( \succsim _{i},\succsim
_{-i}\right) \ \succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \ \phi \left(
\hat{\succsim}_{i},\succsim _{-i}\right)
\end{equation*}と言い換え可能です。そこで、以上の条件が成り立つとき、すなわち、ゲーム\(G\left( \phi \right) \)において正直戦略の組\(s_{I}^{\ast }\)が事後均衡になるとき、メカニズム\(\phi \)は事後均衡誘因両立性(incentive compatible in ex-post equilibrium)を満たすと言います。このとき、任意のプレイヤー\(i\)は自身を含めた全員のタイプについて何も考える必要はなく、他のプレイヤーたちが正直戦略にしたがって行動する限りにおいて、自身もまた正直戦略にしたがって行動することが最適になります。状態\(\succsim _{I}\)を任意に選んだとき、事後均衡誘因両立的なメカニズム\(\phi \)は以下の配分\begin{equation*}
\phi \left( s_{I}^{\ast }\left( \succsim _{I}\right) \right) =\phi \left(
\succsim _{I}\right) \in A
\end{equation*}を事後均衡を通じて遂行できることになります。

非分割財の交換経済においてプレイヤーの選好に関して非外部性と私的価値を仮定する場合(私的価値モデル)、任意のプレイヤー\(i\)について、商品どうしを比較する選好\(\succsim _{i}\)と配分どうしを比較する選好\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \)は実質的に等しくなります。したがって、メカニズム\(\phi \)のもとでのゲーム\(G\left( \phi \right) \)においても、それぞれのプレイヤー\(i\)の選好\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \)は\(\succsim _{i}\)と置き換え可能であるため、メカニズム\(\phi \)が事後均衡誘因両立性を満たすことは、\begin{equation*}
\forall i\in I,\ \forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{i}\in \mathcal{R}_{i}:\phi _{i}\left( \succsim _{i},\succsim
_{-i}\right) \succsim _{i}\phi _{i}\left( \hat{\succsim}_{i},\succsim
_{-i}\right)
\end{equation*}が成り立つこととして表現されます。つまり、事後均衡誘因両立的なメカニズム\(\phi \)に直面した任意のプレイヤー\(i\)は、自身を含めた全員のタイプについて何も考える必要はなく、他のプレイヤーたちが正直戦略にしたがって行動する限りにおいて、自身もまた正直戦略にしたがって行動することを通じて最も望ましい商品を手に入れられるということです。

 

耐戦略性と事後均衡誘因両立性の関係

非分割財の交換経済において、メカニズム\(\phi \)が耐戦略性を満たすものとします。つまり、\begin{equation*}
\forall i\in I,\ \forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{I}\in \mathcal{R}_{I}:\phi \left( \succsim _{i},\hat{\succsim}_{-i}\right) \ \succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \ \phi \left(
\hat{\succsim}_{I}\right)
\end{equation*}が成り立つということです。上の命題において\(\hat{\succsim}_{-i}\)は任意であるため\(\hat{\succsim}_{-i}=\succsim _{-i}\)とすることができ、その場合、\begin{equation*}
\forall i\in I,\ \forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{i}\in \mathcal{R}_{i}:\phi \left( \succsim _{i},\succsim
_{-i}\right) \ \succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \ \phi \left(
\hat{\succsim}_{i},\succsim _{-i}\right)
\end{equation*}を得ますが、これはメカニズム\(\phi \)が事後均衡誘因両立的であることの定義に他なりません。したがって、耐戦略的なメカニズムは事後均衡誘因両立的であることが明らかになりました。

命題(耐戦略的なメカニズムは事後均衡誘因両立的)
非分割財の交換経済において、メカニズム\(\phi \)が耐戦略性を満たすならば、\(\phi \)は事後均衡誘因両立性を満たす。
証明を見る(プレミアム会員限定)

上の命題の逆は成り立つとは限りません。つまり、事後均衡誘因両立的なメカニズムは耐戦略性を満たすとは限りません。しかし、非分割財の交換経済の私的価値モデルにおいては、すなわち、非外部性と私的価値を仮定する場合には、事後均衡誘因両立的なメカニズムは耐戦略性を満たします。証明は以下の通りです。

非分割財の交換経済の私的価値モデルにおいて、メカニズム\(\phi \)が事後均衡誘因両立的であるものとします。つまり、\begin{equation*}
\forall i\in I,\ \forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{i}\in \mathcal{R}_{i}:\phi _{i}\left( \succsim _{i},\succsim
_{-i}\right) \succsim _{i}\phi _{i}\left( \hat{\succsim}_{i},\succsim
_{-i}\right)
\end{equation*}が成り立つものとします。上の命題において\(\succsim _{-i}\)は任意であるため、\(\succsim _{-i}\)を\(\hat{\succsim}_{-i}\)に置き換えて得られる以下の命題\begin{equation*}
\forall i\in I,\ \forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{i}\in \mathcal{R}_{i},\ \forall \hat{\succsim}_{-i}\in \mathcal{R}_{-i}:\phi _{i}\left( \succsim _{i},\hat{\succsim}_{-i}\right) \succsim
_{i}\phi _{i}\left( \hat{\succsim}_{i},\hat{\succsim}_{-i}\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall i\in I,\ \forall \succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I},\ \forall \hat{\succsim}_{I}\in \mathcal{R}_{I}:\phi _{i}\left( \succsim _{i},\hat{\succsim}_{-i}\right) \succsim _{i}\phi _{i}\left( \hat{\succsim}_{I}\right)
\end{equation*}を得ますが、これはメカニズム\(\phi \)が耐戦略的であることの定義に他なりません。したがって、私的価値モデルにおいて、事後均衡誘因両立的なメカニズムは耐戦略性を満たすことが明らかになりました。

命題(事後均衡誘因両立メカニズムが耐戦略的であるための条件)
非分割財の交換経済の私的価値モデルにおいて、メカニズム\(\phi \)が事後均衡誘因両立性を満たすならば、\(\phi \)は耐戦略性を満たす。
証明を見る(プレミアム会員限定)

以上の2つの命題より、非分割財の交換経済の私的価値モデルにおいて、メカニズムの耐戦略性と事後均衡誘因両立性は概念として一致することが明らかになりました。

命題(耐戦略メカニズムの特徴づけ)
非分割財の交換経済の私的価値モデルにおいて、メカニズム\(\phi \)が事後均衡誘因両立性を満たすことは、\(\phi \)が耐戦略的であるための必要十分条件である。
証明を見る(プレミアム会員限定)

次回はメカニズムが満たすべき望ましい性質の1つである個人合理性と呼ばれる概念について解説します。

次へ進む 質問・コメント(プレミアム会員限定) 演習問題(プレミアム会員限定)
Share on facebook
Share on twitter
Share on email
< 前のページ
次のページ >

プレミアム会員サービス

ユーザー名とメールアドレスを入力して有料(500円/月)のプレミアム会員へアップグレードすることにより、質問やコメントの投稿と閲覧、プレミアムコンテンツ(命題の証明や演習問題、解答など)へのアクセスが可能に。
会員サービス
ログイン

プレミアム会員だけが質問やコメントを投稿・閲覧できます。

アカウント
ログイン