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非分割財の交換問題(Shapley-Scarf経済)

非分割財の交換経済の私的価値モデル

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非外部性の仮定

非分割財の交換経済が環境\begin{equation*}
\left( I,\left\{ h_{i}\right\} _{i\in I},\left\{ \succsim _{i}\right\}
_{i\in I},A,\left\{ \succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \right\}
_{i\in I}\right)
\end{equation*}として表現されているものとします。ただし、\(I\)はプレイヤー集合、\(h_{i}\)はプレイヤー\(i\in I\)が初期時点において保有する商品、\(\succsim _{i}\)はプレイヤー\(i\)が商品どうしを比較する選好関係、\(A\)は配分集合、\(\succsim _{i}\left[ \succsim _{I}\right] \)はプレイヤー\(i\)が配分どうしを比較する選好関係です。

繰り返しになりますが、非分割財の交換経済では、それぞれのプレイヤー\(i\)は商品どうしを比較する商品集合\(H\)上の選好関係\(\succsim _{i}\)に加えて、配分どうしを比較する配分集合\(A\)上の選好関係\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \)を持っています。\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim_{I}\right] \)を\(A\)上に定義するということは、プレイヤーが商品の交換を通じて得る満足度は、交換において自身に割り当てられる商品\(a_{i}\)だけに依存するのではなく、他のプレイヤーたちに割り当てられる商品の組み合わせ\(a_{-i}\)にも依存することを意味します。ただ、非分割財の交換経済の分析では多くの場合、プレイヤー\(i\)にとって重要であるのはそれぞれの結果\(a_{I}\)において自身に割り当てられる商品\(a_{i}\)だけであり、他のプレイヤーたちに割り当てられる商品\(a_{-i}\)はプレイヤー\(i\)による配分\(a_{I}\)の評価に影響を与えないものと仮定します。このような仮定を非外部性(non-externality)の仮定と呼びます。

プレイヤー\(i\)に関して非外部性の仮定が成り立つこととは、配分集合\(A\)上に定義された選好関係\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim_{I}\right] \)に対して、商品集合\(H\)上に定義された二項関係\(\succsim _{i}\left[ \succsim _{I}\right] \)が存在するとともに、任意の2つの配分\(a_{I},a_{I}^{\prime }\in A\)に対して以下の関係\begin{equation*}a_{I}\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \ a_{I}^{\prime
}\Leftrightarrow a_{i}\succsim _{i}\left[ \succsim _{I}\right] \
a_{i}^{\prime }
\end{equation*}が成り立つことを意味します。つまり、プレイヤー\(i\)にとって配分\(a_{I}\)が配分\(a_{I}^{\prime }\)以上に望ましいことと、\(a_{I}\)のもとで自身に割り当てられる商品\(a_{i}\)が\(a_{I}^{\prime }\)のもとで自身に割り当てられる商品\(a_{i}^{\prime }\)以上に望ましいことは必要十分であるということです。非外部性の仮定のもとでは、プレイヤー\(i\)が配分どうしを比較する選好関係\(\succsim_{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \)は、プレイヤー\(i\)が商品どうしを比較する選好関係\(\succsim_{i}\left[ \succsim _{I}\right] \)と実質的に等しくなります。

例(非外部性の仮定)
プレイヤー集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}である場合、商品集合は、\begin{equation*}
H=\left\{ h_{1},h_{2},h_{3}\right\}
\end{equation*}となります。以下の2つの配分\begin{eqnarray*}
a_{I} &=&\left( a_{1},a_{2},a_{3}\right) =\left( h_{1},h_{2},h_{3}\right) \\
a_{I}^{\prime } &=&\left( a_{1}^{\prime },a_{3}^{\prime },a_{2}^{\prime
}\right) =\left( h_{1},h_{3},h_{2}\right)
\end{eqnarray*}に注目します。つまり、配分\(a_{I}\)は初期配分と一致しますが、配分\(a_{I}^{\prime }\)においてプレイヤー\(2,3\)がお互いに商品を交換しています。仮に、プレイヤー\(1\)の選好関係が、\begin{equation*}a_{I}\succ _{1}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \ a_{I}^{\prime }
\end{equation*}を満たす場合、プレイヤー\(1\)の選好関係は非外部性の仮定を満たしません。なぜなら、他のプレイヤーたちが直面する結果によって自身の利得が左右されているからです。非外部性の仮定と整合的であるためには、\begin{equation*}a_{I}\sim _{1}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \ a_{I}^{\prime }
\end{equation*}である必要があります。

 

私的価値の仮定

非分割財の交換経済を描写する環境において、プレイヤー\(i\)が配分どうしを比較する配分集合\(A\)上の選好関係を\(\succsim _{i}^{A}\)ではなく\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \)と表現する理由は、プレイヤー\(i\)にとっての配分の評価は自身が商品どうしを比較する選好\(\succsim _{i}\)や他のプレイヤーたちが商品どうしを比較する選好\(\succsim_{-i}\)に依存する状況が起こり得るからです。ただ、非分割財の交換経済の分析では多くの場合、プレイヤー\(i\)が配分どうしを比較する選好関係の形状は\(\succsim _{i}\)のみに依存し、\(\succsim _{-i}\)には依存しないものと仮定します。このような仮定を私的価値(privatevalues)の仮定と呼びます。例えば、プレイヤーは交換を通じて得た商品を再交換せずに自身でそのまま消費する場合、他のプレイヤーにとっての商品の評価は重要ではないため、このような状況は私的価値の仮定と整合的です。

プレイヤー\(i\)に関して私的価値性の仮定が成り立つこととは、配分集合\(A\)上に定義された選好関係\(\succsim _{i}^{A}\left[\succsim _{I}\right] \)に対して、やはり\(A\)上に定義された二項関係\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{i}\right]\)が存在するとともに、任意の2つの配分\(a_{I},a_{I}^{\prime }\in A\)に対して以下の関係\begin{equation*}a_{I}\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \ a_{I}^{\prime
}\Leftrightarrow a_{i}\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{i}\right] \
a_{i}^{\prime }
\end{equation*}が成り立つことを意味します。つまり、プレイヤー\(i\)が配分どうしを比較する選好関係\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \)の形状は、他のプレイヤーたちの選好\(\succsim _{-i}\)の影響を受けないということです。

例(私的価値の仮定)
プレイヤー集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}である場合、商品集合は、\begin{equation*}
H=\left\{ h_{1},h_{2},h_{3}\right\}
\end{equation*}となります。以下の配分\begin{eqnarray*}
a_{I} &=&\left( a_{1},a_{2},a_{3}\right) =\left( h_{2},h_{3},h_{1}\right) \\
a_{I}^{\prime } &=&\left( a_{1}^{\prime },a_{2}^{\prime },a_{3}^{\prime
}\right) =\left( h_{1},h_{2},h_{3}\right)
\end{eqnarray*}に注目します。つまり、配分\(a_{I}\)においてプレイヤー\(1\)は商品\(h_{2}\)を獲得する一方で、配分\(a_{I}^{\prime }\)は初期配分と一致します。以下の2つの選好プロファイル\(\succsim _{I},\succsim _{I}^{\prime }\)に注目します。ただし、\(\succsim _{I}\)のもとでは、\begin{eqnarray*}h_{2} &\succ &_{1}h_{3}\succ _{1}h_{1} \\
h_{2} &\succ &_{2}h_{3}\succ _{2}h_{1} \\
h_{2} &\succ &_{3}h_{3}\succ _{3}h_{1}
\end{eqnarray*}が成り立ち、\(\succsim _{I}^{\prime }\)のもとでは、\begin{eqnarray*}h_{2} &\succ &_{1}^{\prime }h_{3}\succ _{1}^{\prime }h_{1} \\
h_{3} &\succ &_{2}^{\prime }h_{1}\succ _{2}^{\prime }h_{2} \\
h_{3} &\succ &_{3}^{\prime }h_{1}\succ _{3}^{\prime }h_{2}
\end{eqnarray*}が成り立つものとします。つまり、\(\succsim _{I}\)では全員が商品\(h_{2}\)を最も望ましいものと評価している一方で、\(\succsim _{I}^{\prime }\)ではプレイヤー\(1\)だけが商品\(h_{2}\)を最も望ましいものと評価しています。仮に、プレイヤー\(1\)の選好関係が、\begin{eqnarray*}a_{I} &\succ &_{1}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \ a_{I}^{\prime } \\
a_{I}^{\prime } &\succ &_{1}^{A}\left[ \succsim _{I}^{\prime }\right] \ a_{I}
\end{eqnarray*}を満たす場合、プレイヤー\(1\)の選好関係は私的価値の仮定を満たしません。なぜなら、他のプレイヤーたちにとっての商品の評価によって自身が得る利得が左右されているからです。私的価値の仮定と整合的であるためには、\begin{eqnarray*}a_{I} &\succ &_{1}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \ a_{I}^{\prime } \\
a_{I} &\succ &_{1}^{A}\left[ \succsim _{I}^{\prime }\right] \ a_{I}^{\prime }
\end{eqnarray*}である必要があります。

 

非分割財の交換経済の私的価値モデル

非分割財の交換経済を描写する環境は、\begin{equation*}
\left( I,\left\{ h_{i}\right\} _{i\in I},\left\{ \succsim _{i}\right\}
_{i\in I},A,\left\{ \succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right] \right\}
_{i\in I}\right)
\end{equation*}と定式化されます。さらに、任意のプレイヤー\(i\in I\)に関して非外部性と私的価値を仮定する場合、任意の2つの配分\(a_{I},a_{I}^{\prime }\in A\)に対して、\begin{eqnarray*}a_{I}\succsim _{i}^{A}[\succsim _{I}]\ a_{I}^{\prime } &\Leftrightarrow
&a_{I}\succsim _{i}^{A}[\succsim _{i}]\ a_{I}^{\prime }\quad \because \text{私的価値の仮定} \\
&\Leftrightarrow &a_{i}\succsim _{i}[\succsim _{i}]\ a_{i}^{\prime }\quad
\because \text{非外部性の仮定} \\
&\Leftrightarrow &a_{i}\succsim _{i}a_{i}^{\prime }
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
a_{I}\succsim _{i}^{A}[\succsim _{I}]\ a_{I}^{\prime }\Leftrightarrow
a_{i}\succsim _{i}a_{i}^{\prime }
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、プレイヤー\(i\)が配分\(a_{I}\)を配分\(a_{I}^{\prime }\)以上に評価することと、プレイヤー\(i\)が配分\(a_{I}\)のもとで自身が得る商品\(a_{i}\)を配分\(a_{I}^{\prime }\)のもとで自身が得る商品\(a_{i}^{\prime }\)以上に評価することは必要十分になるとともに、この評価は他のプレイヤーたちによる商品の評価\(\succsim _{-i}\)からの影響を受けません。言い換えると、プレイヤー\(i\)が配分どうしを比較する選好\(\succsim _{i}^{A}[\succsim_{I}]\)について考えるかわりに、プレイヤー\(i\)が商品どうしを比較する選好\(\succsim _{i}\)について考えても一般性は失われないということです。

このような事情を踏まえると、非分割財の交換経済において任意のプレイヤー\(i\in I\)に関して非外部性と私的価値を仮定する場合には\(\succsim _{i}^{A}\left[ \succsim _{I}\right]\)は\(\succsim _{i}\)と実質的に等しくなるため、環境を、\begin{equation*}\left( I,\left\{ h_{i}\right\} _{i\in I},\left\{ \succsim _{i}\right\}
_{i\in I},A\right)
\end{equation*}とシンプルに記述できます。このようなモデルを私的価値モデル(private value model)と呼ぶこととします。非分割財の交換経済の分析では多くの場合、私的価値モデルを対象とします。

例(私的価値モデル)
プレイヤー集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}である場合、商品集合は、\begin{equation*}
H=\left\{ h_{1},h_{2},h_{3}\right\}
\end{equation*}となります。プレイヤー\(1\)の選好\(\succsim _{1}\)が、\begin{equation*}h_{2}\succ _{1}h_{3}\succ _{1}h_{1}
\end{equation*}を満たすものとします。\(a_{1}=h_{2}\)を満たす配分\(a_{I}\)および\(a_{1}^{\prime }\not=h_{2}\)を満たす配分\(a_{I}^{\prime }\)がそれぞれ任意に与えられているものとします。加えて、他のプレイヤーたちの選好\(\left(\succsim _{2},\succsim _{3}\right) \)が任意に与えられたとき、私的価値モデルを想定する場合には以下の関係\begin{equation*}a_{I}\succ _{i}^{A}[\succsim _{I}]\ a_{I}^{\prime }
\end{equation*}が成り立ちます。

 

演習問題

問題(私的価値モデル)
プレイヤー集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であり、商品集合\begin{equation*}
H=\left\{ h_{1},h_{2},h_{3}\right\}
\end{equation*}は各々が所有する住宅からなる集合であるものとします。加えて、これらの家は\(h_{1},h_{2},h_{3}\)の順番で並んで建っているものとします。以下の問いに答えてください。

  1. プレイヤー\(1\)が家\(h_{3}\)に住む場合、もしプレイヤー\(2\)が自分の隣に住むなら騒音が気になり効用が下がるものとします。以上の状況を定式化した上で、この状況が私的価値モデルとは整合的ではない理由を説明してください。
  2. プレイヤー\(2\)が家\(h_{1}\)に住む場合、もしプレイヤー\(3\)が自分の隣に住むなら庭の手入れを共同で行うことができるため効用が上がるものとします。以上の状況を定式化した上で、この状況が私的価値モデルとは整合的ではない理由を説明してください。
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問題(私的価値モデル)
プレイヤー集合が、\begin{equation*}
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であり、商品集合が、\begin{equation*}
H=\left\{ h_{1},h_{2},h_{3}\right\}
\end{equation*}であるものとします。選好プロファイル\(\succsim _{I}\)が以下の表で与えられているものとします。

$$\begin{array}{cccc}\hline
プレイヤー\diagdown 順位 & 1 & 2 & 3 \\ \hline
1 & h_{1} & h_{2} & h_{3} \\ \hline
2 & h_{1} & h_{3} & h_{2} \\ \hline
3 & h_{1} & h_{3} & h_{2} \\ \hline
\end{array}$$

以下の問いに答えてください。

  1. プレイヤー\(1\)は自身に割り当てられる商品のみに興味があり、なおかつ他のプレイヤーたちによる商品への評価に興味がない状況を定式化してください。このシナリオは私的価値モデルと整合的でしょうか。
  2. プレイヤー\(2\)は自身に割り当てられる商品のみに興味があり、なおかつ自身を含めた全員の多数決によって商品への評価を決定するものとします(より多くの人が評価する商品を自分が手に入れたい)。以上の状況を定式化してください。このシナリオは私的価値モデルと整合的でしょうか。
  3. プレイヤー\(3\)はプレイヤー\(1\)に割り当てられる商品のみに興味があり、なおかつ他のプレイヤーたちによる商品への評価に興味がなく、なおかつ、自身にとって望ましい商品をプレイヤー\(1\)に得てもらいたいと考えているものとします(おせっかい)。以上の状況を定式化してください。このシナリオは私的価値モデルと整合的でしょうか。
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