トップ・トレーディング・サイクルメカニズム
非分割財の交換問題におけるメカニズムとは、エージェントたちが申告する選好からなる組\(\succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I}\)に対して、何らかの配分\begin{equation*}\phi \left( \succsim _{I}\right) =\left( \phi _{i}\left( \succsim
_{I}\right) \right) _{i\in I}\in A
\end{equation*}を1つずつ選ぶ写像\(\phi :\mathcal{R}_{I}\rightarrow A\)として定式化されます。メカニズムを設計することとは、この写像\(\phi \)の具体的な形状を定めることを意味します。今回は、非分割財の交換問題における代表的なメカニズムであるトップ・トレーディング・サイクルメカニズム(top trading cyclemechanism)について解説します。以降では、これをTTCメカニズム(TTC mechanism)と呼ぶこととします。
TTCメカニズムについて分析する際には、多くの場合、私的価値モデルを分析対象にします。つまり、エージェントの選好について非外部性と私的価値の仮定を置くということです。この場合、任意のエージェント\(i\in I\)と任意の配分\(a_{I},a_{I}^{\prime }\in A\)に対して、\begin{equation*}a_{I}\succsim _{i}^{A}[\succsim _{I}]\ a_{I}^{\prime }\Leftrightarrow
a_{i}\succsim _{i}a_{i}^{\prime }
\end{equation*}という関係が成り立つため、エージェント\(i\)が配分どうしを比較する選好\(\succsim _{i}^{A}[\succsim _{I}]\)について考えるかわりに、エージェント\(i\)が商品どうしを比較する選好\(\succsim _{i}\)について考えても一般性は失われません。さらに、それぞれのエージェント\(i\)が商品どうしを比較する\(\succsim _{i}\)が完備性、推移性、さらに狭義選好の仮定を満たすものとします。この場合、エージェント\(i\)は商品集合\(H\)の要素であるすべての商品を狭義選好\(\succ _{i}\)だけを用いて一列に並べることができます。つまり、すべての商品を最も望ましいものから最も望ましくないものまで順番に並べることができ、なおかつ、その中に同じ程度望ましい複数の商品は存在しないことを仮定するということです。
以上を踏まえた上で、TTCメカニズム\(\phi \)を以下のように定義します。
- 【ステップ\(1\)】エージェントたちが申告する選好の組が\(\succsim_{I}=\left( \succsim _{i}\right) _{i\in I}\)であるものとする。また、初期時点のエージェント集合と商品集合を\(I_{1}=I\)と\(H_{1}=H\)でそれぞれ表記する。それぞれのエージェント\(i\in I_{1}\)について、その人が申告した選好\(\succsim _{i}\)のもとで、商品集合\(H_{1}\)に属する商品の中で最も望ましい商品が\(h\in H_{1}\)であるならば、\(i\)から\(h\)へ向けて矢印を描く(\(i\rightarrow h\))。また、それぞれの商品\(h\in H_{1}\)について、その商品を初期保有するエージェントが\(i\in I_{1}\)であるならば、\(h\)から\(i\)へ向けて矢印を描く(\(h\rightarrow i\))。以上のような矢印をすべて描くと少なくとも1つのサイクルが生成されるため、生成された何らかのサイクルに属するそれぞれのエージェントに対して、その人から伸びている矢印の先にある商品を与える。最後に、生成されたサイクルに属するすべてのエージェントと商品を取り除く。残されたエージェントからなる集合を\(I_{2}\)で表記し、残された商品からなる集合を\(H_{2}\)で表記する。\(I_{2}\not=\phi \)ならば次のステップへ進む。\(I_{2}=\phi \)ならばプロセスを終了する。
- 【ステップ\(2\)】それぞれのエージェント\(i\in I_{2}\)について、その人が申告した選好\(\succsim _{i}\)のもとで、商品集合\(H_{2}\)に属する商品の中で最も望ましい商品が\(h\in H_{2}\)であるならば、\(i\)から\(h\)へ向けて矢印を描く(\(i\rightarrow h\))。また、それぞれの商品\(h\in H_{2}\)について、その商品を初期保有するエージェントが\(i\in I_{2}\)であるならば、\(h\)から\(i\)へ向けて矢印を描く(\(h\rightarrow i\))。以上のような矢印をすべて描くと、少なくとも1つのサイクルが生成されるため、生成された何らかのサイクルに属するそれぞれのエージェントに対して、その人から伸びている矢印の先にある商品を与える。最後に、生成されたサイクルに属するすべてのエージェントと商品を取り除く。残されたエージェントからなる集合を\(I_{3}\)で表記し、残された商品からなる集合を\(H_{3}\)で表記する。\(I_{3}\not=\phi \)ならば次のステップへ進む。\(I_{3}=\phi \)ならばプロセスを終了する。
- 【ステップ\(k\)】以上のプロセスを繰り返す。各ステップ\(k\)の内容は以下のように一般化される。まず、直前のステップ\(k-1\)において消去されずに残ったエージェントからなる集合を\(I_{k}\)で表記し、同じく直前のステップ\(k-1\)において消去されずに残った商品からなる集合を\(H_{k}\)で表記する。それぞれのエージェント\(i\in I_{k}\)について、その人が申告した選好\(\succsim _{i}\)のもとで、商品集合\(H_{k}\)に属する商品の中で最も望ましい商品が\(h\in H_{k}\)であるならば、\(i\)から\(h\)へ向けて矢印を描く(\(i\rightarrow h\))。また、それぞれの商品\(h\in H_{k}\)について、その商品を初期保有するエージェントが\(i\in I_{k}\)であるならば、\(h\)から\(i\)へ向けて矢印を描く(\(h\rightarrow i\))。以上のような矢印をすべて描くと、少なくとも1つのサイクルが生成されるため、生成された何らかのサイクルに属するそれぞれのエージェントに対して、その人から伸びている矢印の先にある商品を与える。最後に、生成されたサイクルに属するすべてのエージェントと商品を取り除く。残されたエージェントからなる集合を\(I_{k+1}\)で表記し、残された商品からなる集合を\(H_{k+1}\)で表記する。\(I_{k+1}\not=\phi \)ならば次のステップへ進む。\(I_{k+1}=\phi \)ならばプロセスを終了する。
- プロセスの終了後、それぞれのエージェント\(i\)には商品が1つずつ与えられているため、それを\(\phi _{i}\left( \succsim_{I}\right) \)と定める。その結果、TTCメカニズム\(\phi \)が定める配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)が得られる。
I=\left\{ 1,2,3\right\}
\end{equation*}であるとき、商品集合は、\begin{equation*}
H=\left\{ h_{1},h_{2},h_{3}\right\}
\end{equation*}となります。ただし、\(h_{i}\)はエージェント\(i\)が初期保有する商品です。任意のエージェント\(i\)の選好関係\(\succsim_{i}\)は完備性と推移性に加えて狭義選好の仮定を満たすものとします。具体的には、エージェントたちの選好プロファイル\(\succsim_{I}\)が以下の表で与えられているものとします。
$$\begin{array}{cccc}\hline
エージェント\diagdown 順位 & 1 & 2 & 3 \\ \hline
1 & h_{3} & h_{2} & h_{1} \\ \hline
2 & h_{1} & h_{2} & h_{3} \\ \hline
3 & h_{2} & h_{3} & h_{1} \\ \hline
\end{array}$$
TTCメカニズム\(\phi \)に直面したエージェントたちが以上の選好プロファイル\(\succsim _{I}\)を申告する場合、TTCメカニズムが選択する配分\(\phi \left(\succsim _{I}\right) \)は以下のように決定されます。まず、\begin{eqnarray*}I_{1} &=&I \\
H_{1} &=&H
\end{eqnarray*}とおきます。それぞれのエージェント\(i\in I_{1}\)から、その人の選好\(\succsim _{i}\)のもとで\(H_{1}\)に属する商品の中で最も望ましい商品\(h\in H_{1}\)へ向けてそれぞれ矢印を描くと、\begin{equation*}1\rightarrow h_{3},\quad 2\rightarrow h_{1},\quad 3\rightarrow h_{2}
\end{equation*}を得ます。また、それぞれの商品\(h\in H_{1}\)から、その商品を初期保有するエージェント\(i\in I_{1}\)へ向けてそれぞれ矢印を描くと、\begin{equation*}h_{1}\rightarrow 1,\quad h_{2}\rightarrow 2,\quad h_{3}\rightarrow 3
\end{equation*}を得ます。以上の矢印から以下のサイクル\begin{equation*}
1\rightarrow h_{3}\rightarrow 3\rightarrow h_{2}\rightarrow 2\rightarrow
h_{1}\rightarrow 1
\end{equation*}が生成されるため、エージェント\(1\)に商品\(h_{3}\)を与え、エージェント\(2\)に商品\(h_{1}\)を与え、エージェント\(3\)に商品\(h_{2}\)を与えます。サイクルに含まれるエージェントと商品をそれぞれ消去すると、\begin{eqnarray*}I_{2} &=&\phi \\
H_{2} &=&\phi
\end{eqnarray*}を得ます。\(I_{2}=\phi \)であるためプロセスを完了します。したがって、TTCメカニズムが定める配分は、\begin{eqnarray*}\phi \left( \succsim _{I}\right) &=&\left( \phi _{1}\left( \succsim
_{I}\right) ,\phi _{2}\left( \succsim _{I}\right) ,\phi _{3}\left( \succsim
_{I}\right) \right) \\
&=&\left( h_{3},h_{1},h_{2}\right)
\end{eqnarray*}となります。
I=\left\{ 1,2,3,4\right\}
\end{equation*}であるとき、商品集合は、\begin{equation*}
H=\left\{ h_{1},h_{2},h_{3},h_{4}\right\}
\end{equation*}となります。ただし、\(h_{i}\)はエージェント\(i\)が初期保有する商品です。任意のエージェント\(i\)の選好関係\(\succsim_{i}\)は完備性と推移性に加えて狭義選好の仮定を満たすものとします。具体的には、エージェントたちの選好プロファイル\(\succsim_{I}\)が以下の表で与えられているものとします。
$$\begin{array}{ccccc}\hline
エージェント\diagdown 順位 & 1 & 2 & 3 & 4 \\ \hline
1 & h_{3} & h_{2} & h_{4} & h_{1} \\ \hline
2 & h_{4} & h_{1} & h_{2} & h_{3} \\ \hline
3 & h_{1} & h_{4} & h_{3} & h_{2} \\ \hline
4 & h_{3} & h_{2} & h_{1} & h_{4} \\ \hline
\end{array}$$
TTCメカニズム\(\phi \)に直面したエージェントたちが以上の選好プロファイル\(\succsim _{I}\)を申告する場合、TTCメカニズムが選択する配分\(\phi \left(\succsim _{I}\right) \)は以下のように決定されます。まず、\begin{eqnarray*}I_{1} &=&I \\
H_{1} &=&H
\end{eqnarray*}とおきます。それぞれのエージェント\(i\in I_{1}\)から、その人の選好\(\succsim _{i}\)のもとで\(H_{1}\)に属する商品の中で最も望ましい商品\(h\in H_{1}\)へ向けてそれぞれ矢印を描くと、\begin{equation*}1\rightarrow h_{3},\quad 2\rightarrow h_{4},\quad 3\rightarrow h_{1},\quad
4\rightarrow h_{3}
\end{equation*}を得ます。また、それぞれの商品\(h\in H_{1}\)から、その商品を初期保有するエージェント\(i\in I_{1}\)へ向けてそれぞれ矢印を描くと、\begin{equation*}h_{1}\rightarrow 1,\quad h_{2}\rightarrow 2,\quad h_{3}\rightarrow 3,\quad
h_{4}\rightarrow 4
\end{equation*}を得ます。以上の矢印から以下のサイクル\begin{equation*}
1\rightarrow h_{3}\rightarrow 3\rightarrow h_{1}\rightarrow 1
\end{equation*}が生成されるため、エージェント\(1\)に商品\(h_{3}\)を与え、エージェント\(3\)に商品\(h_{1}\)を与えます。サイクルに含まれるエージェントと商品をそれぞれ消去すると、\begin{eqnarray*}I_{2} &=&\left\{ 2,4\right\} \\
H_{2} &=&\left\{ h_{2},h_{4}\right\}
\end{eqnarray*}を得ます。\(I_{2}\not=\phi \)であるため次のステップへ進みます。エージェント\(i\in I_{2}\)から、その人の選好\(\succsim _{i}\)のもとで\(H_{2}\)に属する商品の中で最も望ましい商品\(h\in H_{2}\)へ向けてそれぞれ矢印を描くと、\begin{equation*}2\rightarrow h_{4},\quad 4\rightarrow h_{2}
\end{equation*}を得ます。また、それぞれの商品\(h\in H_{2}\)から、その商品を初期保有するエージェント\(i\in I_{2}\)へ向けてそれぞれ矢印を描くと、\begin{equation*}h_{2}\rightarrow 2,\quad h_{4}\rightarrow 4
\end{equation*}を得ます。以上の矢印から、以下のサイクル\begin{equation*}
2\rightarrow h_{4}\rightarrow 4\rightarrow h_{2}\rightarrow 2
\end{equation*}が生成されるため、エージェント\(2\)に商品\(h_{4}\)を与え、エージェント\(4\)に商品\(h_{2}\)を与えます。サイクルに含まれるエージェントと商品をそれぞれ消去すると、\begin{eqnarray*}I_{3} &=&\phi \\
H_{3} &=&\phi
\end{eqnarray*}を得ます。\(I_{3}=\phi \)であるためプロセスを完了します。したがって、TTCメカニズムが定める配分は、\begin{eqnarray*}\phi \left( \succsim _{I}\right) &=&\left( \phi _{1}\left( \succsim
_{I}\right) ,\phi _{2}\left( \succsim _{I}\right) ,\phi _{3}\left( \succsim
_{I}\right) ,\phi _{4}\left( \succsim _{I}\right) \right) \\
&=&\left( h_{3},h_{4},h_{1},h_{2}\right)
\end{eqnarray*}となります。
TTCはメカニズムである
TTCメカニズムはメカニズムとしての要件を満たすのでしょうか。メカニズムを写像\(\phi :\mathcal{R}_{I}\rightarrow A\)として定義しましたが、これは、エージェントたちが表明する選好の組\(\succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I}\)がいかなるものであっても、それに対して\(\phi \)は必ず配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \in A\)を1つずつ選び取ることができることを意味します。先に置いた仮定を認める場合、TTCメカニズムは常に配分を1つずつ選び取ることができるのでしょうか。
まず、非分割財の交換問題の前提としてエージェント集合\(I\)は有限集合であり、したがってエージェントの人数は有限です。なおかつ、後ほど示すように、TTCメカニズムの各回のステップにおいて少なくとも1つのサイクルが必ず生成されることから、TTCメカニズムのプロセスは有限ステップで終了します。また、やはり後ほど示すように、仮にそれぞれのステップにおいて複数のサイクルが生成される場合、それらのサイクルが交わることはありません。したがって、あるステップにおいてあるエージェントが複数のサイクルに属することは起こり得ないことから、生成されたサイクルに属するそれぞれのエージェントに与えられる商品は1つだけです。また、あるステップにおいて商品を与えられたエージェントは消去されて以降のステップには参加しないため、そのエージェントが以降のステップにおいて再び商品を与えられる可能性はありません。また、エージェントが消去される際には、直前のステップにおいて1つの商品を入手しています。つまり、TTCメカニズムのプロセスは有限ステップで完了することが保証されるとともに、プロセスが終了した時点においてすべてのエージェントに商品が1つずつ与えられていることが保証されるため、TTCメカニズムは常に配分を1つずつ選び取ることが明らかになりました。TTCメカニズムはメカニズムとしての要件を満たしているということです。
ただ、上の議論中の2つの主張は証明されていません。1つは、TTCメカニズムの各ステップにおいて少なくとも1つのサイクルが必ず生成されること。もう1つは、仮にそれぞれのステップにおいて複数のサイクルが生成される場合、それらのサイクルが交わらないこと。以降ではこれらを証明します。
TTCメカニズムは耐戦略的メカニズム
非分割財の交換問題におけるメカニズム\(\phi \)が耐戦略的であることは、メカニズム\(\phi \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( \phi \right) \)において正直戦略の組が支配戦略均衡になること、すなわち、任意のエージェントにとって真の選好を正直に申告することが支配戦略になることを意味します。特に、私的価値モデルを分析対象とする場合、メカニズム\(\phi \)が耐戦略的であることは、\begin{equation*}\forall i\in I,\ \forall \succsim _{i}\in \mathcal{R}_{i},\ \forall \hat{\succsim}_{I}\in \mathcal{R}_{I}:\phi _{i}\left( \succsim _{i},\hat{\succsim}_{-i}\right) \succsim _{i}\phi \left( \hat{\succsim}_{i},\hat{\succsim}_{-i}\right)
\end{equation*}が成り立つこととして表現されます。つまり、任意のエージェント\(i\)にとって、自身のタイプ\(\succsim _{i}\)がいかなるものであるかに関わらず、また、他のプレイヤーたちが申告する選好\(\hat{\succsim}_{-i}\)がいかなるものであるかに関わらず、自分は正直戦略にしたがって真のタイプ\(\succsim_{i}\)を正直に選好すれば最も望ましい商品を手に入れられるということです。
TTCメカニズムは耐戦略的なメカニズムです。まずは以下の補題を示します。
以上の補題を踏まえた上で、TTCメカニズムが耐戦略的であることを示します。
I=\left\{ 1,2,3,4\right\}
\end{equation*}であるとともに、任意のエージェント\(i\)の選好関係\(\succsim _{i}\)は完備性と推移性に加えて狭義選好の仮定を満たすものとします。具体的には、エージェントたちの選好プロファイル\(\succsim _{I}\)が以下の表で与えられているものとします。
$$\begin{array}{ccccc}\hline
エージェント\diagdown 順位 & 1 & 2 & 3 & 4 \\ \hline
1 & h_{3} & h_{2} & h_{4} & h_{1} \\ \hline
2 & h_{4} & h_{1} & h_{2} & h_{3} \\ \hline
3 & h_{1} & h_{4} & h_{3} & h_{2} \\ \hline
4 & h_{3} & h_{2} & h_{1} & h_{4} \\ \hline
\end{array}$$
先に確認したように、TTCメカニズム\(\phi \)に直面したエージェントたちが以上の選好プロファイル\(\succsim _{I}\)を正直に申告する場合、TTCメカニズムが選択する配分は、\begin{eqnarray*}\phi \left( \succsim _{I}\right) &=&\left( \phi _{1}\left( \succsim
_{I}\right) ,\phi _{2}\left( \succsim _{I}\right) ,\phi _{3}\left( \succsim
_{I}\right) ,\phi _{4}\left( \succsim _{I}\right) \right) \\
&=&\left( h_{3},h_{4},h_{1},h_{2}\right)
\end{eqnarray*}となります。この配分において\(1,2,3\)は自身にとって最も望ましい商品を入手している一方で、\(4\)は自身にとって2番目に望ましい商品\(h_{2}\)を入手しています。では、\(4\)は偽りの選好を表明することにより、自身にとって最も望ましい商品\(h_{3}\)を入手できる見込みはあるでしょうか。\(1,2,3\)は先の選好を正直に申告するものとします。商品\(h_{3}\)の所有者である\(3\)にとって\(h_{1}\)が最も望ましく、商品\(h_{1}\)の所有者である\(1\)にとって\(h_{3}\)が最も望ましいため、\(4\)が選好をどのような形で偽った場合においても、TTCメカニズムの最初のステップにおいて以下のサイクル\begin{equation*}1\rightarrow h_{3}\rightarrow 3\rightarrow h_{1}\rightarrow 1
\end{equation*}が生成されることは確定しているため、\(4\)が商品\(h_{3}\)を入手できる見込みはありません。つまり、\(4\)は正直戦略から逸脱しても得はできないことが明らかになりました。この結果は先の命題の主張と整合的です。
TTCメカニズムは狭義コア選択メカニズム
非分割財の交換問題におけるメカニズム\(\phi \)が狭義コア選択であることは、選好プロファイル\(\succsim _{I}\)を任意に選んだとき、それに対して\(\phi \)が定める配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)が\(\succsim_{I}\)のもとで狭義コアであることを意味します。特に、私的価値モデルを分析対象とする場合、メカニズム\(\phi \)が狭義コア選択であることとは、選好プロファイル\(\succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I}\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i\in T,\ \exists j\in T:a_{i}=h_{j} \\
&&\left( b\right) \ \forall i\in T:a_{i}\succsim _{i}\phi _{i}\left(
\succsim _{I}\right) \\
&&\left( c\right) \ \exists i\in T:a_{i}\succ _{i}\phi _{i}\left( \succsim
_{I}\right)
\end{eqnarray*}をすべて満たす提携\(T\subset I\)と配分\(a_{I}\in A\)の組が存在しないことを意味します。
TTCメカニズムは狭義コア選択メカニズムです。
I=\left\{ 1,2,3,4\right\}
\end{equation*}であるとともに、任意のエージェント\(i\)の選好関係\(\succsim _{i}\)は完備性と推移性に加えて狭義選好の仮定を満たすものとします。具体的には、エージェントたちの選好プロファイル\(\succsim _{I}\)が以下の表で与えられているものとします。
$$\begin{array}{ccccc}\hline
エージェント\diagdown 順位 & 1 & 2 & 3 & 4 \\ \hline
1 & h_{3} & h_{2} & h_{4} & h_{1} \\ \hline
2 & h_{4} & h_{1} & h_{2} & h_{3} \\ \hline
3 & h_{1} & h_{4} & h_{3} & h_{2} \\ \hline
4 & h_{3} & h_{2} & h_{1} & h_{4} \\ \hline
\end{array}$$
先に確認したように、TTCメカニズム\(\phi \)に直面したエージェントたちが以上の選好プロファイル\(\succsim _{I}\)を正直に申告する場合、TTCメカニズムが選択する配分は、\begin{eqnarray*}\phi \left( \succsim _{I}\right) &=&\left( \phi _{1}\left( \succsim
_{I}\right) ,\phi _{2}\left( \succsim _{I}\right) ,\phi _{3}\left( \succsim
_{I}\right) ,\phi _{4}\left( \succsim _{I}\right) \right) \\
&=&\left( h_{3},h_{4},h_{1},h_{2}\right)
\end{eqnarray*}となります。この配分において全員が初期保有する商品よりも望ましい商品を入手しているため、1人からなる提携はいずれも\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)を広義にブロックしません。また、\(1,2,3\)は自身にとって最も望ましい商品を入手しているため、彼らが得る商品を変更する形での提携内の取引を通じた提携内での広義パレート改善は不可能です。仮に2人以上からなる提携が\(\phi \left( \succsim_{I}\right) \)が広義にブロックするのであれば、その提携には\(4\)が含まれます。\(4\)の状態を向上させるためには同じ提携に属する誰かが得る商品が変化するため矛盾です。したがって、2人以上からなる任意の提携もまた\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)を広義にブロックせず、ゆえに\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)は\(\succsim _{I}\)のもとで狭義コアであることが明らかになりました。この結果は先の命題の主張と整合的です。
狭義コア選択メカニズム\(\phi \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left( \phi\right) \)に均衡が存在することを前提としない場合、配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)はエージェントたちが申告する選好プロファイル\(\succsim _{I}\)のもとでの狭義コアです。一方、狭義コア選択メカニズム\(\phi \)が誘因両立性を満たす場合、均衡配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)は真の状態\(\succsim _{I}\)のもとで狭義コアであることが保証されます。すでに示したように、TTCメカニズムは耐戦略性(支配戦略均衡誘因両立性)と狭義コア選択をともに満たすため、状態\(\succsim_{I}\)がいかなるものであるかに関わらず、任意のエージェント\(i\)は自身の真の選好\(\succsim _{i}\)を正直に表明することが均衡になるとともに、均衡配分\(\phi \left(\succsim _{I}\right) \)が真の状態\(\succsim _{I}\)のもとで狭義コアになります。
TTCメカニズムは事後個人合理的メカニズム
非分割財の交換問題におけるメカニズム\(\phi \)が事後個人合理的であることは、選好プロファイル\(\succsim _{I}\)を任意に選んだとき、それに対して\(\phi \)が定める配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)が\(\succsim _{I}\)のもとで個人合理的であることを意味します。特に、私的価値モデルを分析対象とする場合、メカニズム\(\phi \)が事後個人合理的であることとは、選好プロファイル\(\succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I}\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}\forall i\in I:a_{i}\succsim _{i}h_{i}
\end{equation*}が成り立つことを意味します。つまり、任意のエージェント\(i\)にとって、配分\(a_{I}\)のもとで自身に割り当てられる商品\(a_{i}\)が自身が初期保有する商品\(h_{i}\)以上に望ましいということです。
TTCメカニズムは事後個人合理的なメカニズムです。
I=\left\{ 1,2,3,4\right\}
\end{equation*}であるとともに、任意のエージェント\(i\)の選好関係\(\succsim _{i}\)は完備性と推移性に加えて狭義選好の仮定を満たすものとします。具体的には、エージェントたちの選好プロファイル\(\succsim _{I}\)が以下の表で与えられているものとします。
$$\begin{array}{ccccc}\hline
エージェント\diagdown 順位 & 1 & 2 & 3 & 4 \\ \hline
1 & h_{3} & h_{2} & h_{4} & h_{1} \\ \hline
2 & h_{4} & h_{1} & h_{2} & h_{3} \\ \hline
3 & h_{1} & h_{4} & h_{3} & h_{2} \\ \hline
4 & h_{3} & h_{2} & h_{1} & h_{4} \\ \hline
\end{array}$$
先に確認したように、TTCメカニズム\(\phi \)に直面したエージェントたちが以上の選好プロファイル\(\succsim _{I}\)を正直に申告する場合、TTCメカニズムが選択する配分は、\begin{eqnarray*}\phi \left( \succsim _{I}\right) &=&\left( \phi _{1}\left( \succsim
_{I}\right) ,\phi _{2}\left( \succsim _{I}\right) ,\phi _{3}\left( \succsim
_{I}\right) ,\phi _{4}\left( \succsim _{I}\right) \right) \\
&=&\left( h_{3},h_{4},h_{1},h_{2}\right)
\end{eqnarray*}となります。このとき、\begin{eqnarray*}
\phi _{1}\left( \succsim _{I}\right) &=&h_{3}\succ _{1}h_{1} \\
\phi _{2}\left( \succsim _{I}\right) &=&h_{4}\succ _{2}h_{2} \\
\phi _{3}\left( \succsim _{I}\right) &=&h_{1}\succ _{3}h_{3} \\
\phi _{4}\left( \succsim _{I}\right) &=&h_{2}\succ _{4}h_{4}
\end{eqnarray*}が成立しているため、\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)は\(\succsim _{I}\)のもとで個人合理的です。この結果は先の命題の主張と整合的です。
事後個人合理的メカニズム\(\phi \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left(\phi \right) \)に均衡が存在することを前提としない場合、配分\(\phi \left( \succsim_{I}\right) \)はエージェントたちが申告する選好プロファイル\(\succsim _{I}\)のもとで個人合理的です。一方、事後個人合理的メカニズム\(\phi \)が誘因両立性を満たす場合、均衡配分\(\phi \left(\succsim _{I}\right) \)は真の状態\(\succsim _{I}\)のもとで個人合理的であることが保証されます。すでに示したように、TTCメカニズムは耐戦略性(支配戦略均衡誘因両立性)と事後個人合理性をともに満たすため、状態\(\succsim _{I}\)がいかなるものであるかに関わらず、任意のエージェント\(i\)は自身の真の選好\(\succsim _{i}\)を正直に表明することが均衡になるとともに、均衡配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)が真の状態\(\succsim _{I}\)のもとで個人合理的になります。
TTCメカニズムは狭義事後効率的メカニズム
非分割財の交換問題におけるメカニズム\(\phi \)が狭義事後効率的であることは、選好プロファイル\(\succsim _{I}\)を任意に選んだとき、それに対して\(\phi \)が定める配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)が\(\succsim _{I}\)のもとで狭義パレート効率的であることを意味します。特に、私的価値モデルを分析対象とする場合、メカニズム\(\phi \)が狭義事後効率的であることとは、選好プロファイル\(\succsim _{I}\in \mathcal{R}_{I}\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i\in I:a_{i}\succsim _{i}\phi _{i}\left(
\succsim _{I}\right) \\
&&\left( b\right) \ \exists i\in I:a_{i}\succ _{i}\phi _{i}\left( \succsim
_{I}\right)
\end{eqnarray*}ともに満たす配分\(a_{I}\in A\)が存在しないことを意味します。
TTCメカニズムは狭義事後効率的なメカニズムです。
I=\left\{ 1,2,3,4\right\}
\end{equation*}であるとともに、任意のエージェント\(i\)の選好関係\(\succsim _{i}\)は完備性と推移性に加えて狭義選好の仮定を満たすものとします。具体的には、エージェントたちの選好プロファイル\(\succsim _{I}\)が以下の表で与えられているものとします。
$$\begin{array}{ccccc}\hline
エージェント\diagdown 順位 & 1 & 2 & 3 & 4 \\ \hline
1 & h_{3} & h_{2} & h_{4} & h_{1} \\ \hline
2 & h_{4} & h_{1} & h_{2} & h_{3} \\ \hline
3 & h_{1} & h_{4} & h_{3} & h_{2} \\ \hline
4 & h_{3} & h_{2} & h_{1} & h_{4} \\ \hline
\end{array}$$
先に確認したように、TTCメカニズム\(\phi \)に直面したエージェントたちが以上の選好プロファイル\(\succsim _{I}\)を正直に申告する場合、TTCメカニズムが選択する配分は、\begin{eqnarray*}\phi \left( \succsim _{I}\right) &=&\left( \phi _{1}\left( \succsim
_{I}\right) ,\phi _{2}\left( \succsim _{I}\right) ,\phi _{3}\left( \succsim
_{I}\right) ,\phi _{4}\left( \succsim _{I}\right) \right) \\
&=&\left( h_{3},h_{4},h_{1},h_{2}\right)
\end{eqnarray*}となります。以上の配分において\(1,2,3\)は自身にとって最も望ましい商品を得ているため、彼らが得る商品を変更する形での広義パレート改善は不可能です。その一方で、\(4\)により望ましい商品\(h_{3}\)を与えようとすると\(1\)が得る商品が変わってしまいます。したがって、\(\phi \left(\succsim _{I}\right) \)は\(\succsim _{I}\)のもとで狭義パレート効率的です。この結果は先の命題の主張と整合的です。
狭義事後効率的メカニズム\(\phi \)のもとでのベイジアンゲーム\(G\left(\phi \right) \)に均衡が存在することを前提としない場合、配分\(\phi \left( \succsim_{I}\right) \)はエージェントたちが申告する選好プロファイル\(\succsim _{I}\)のもとで狭義パレート効率的です。一方、狭義事後効率的メカニズム\(\phi \)が誘因両立性を満たす場合、均衡配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)は真の状態\(\succsim _{I}\)のもとで狭義パレート効率的であることが保証されます。すでに示したように、TTCメカニズムは耐戦略性(支配戦略均衡誘因両立性)と狭義事後効率性をともに満たすため、状態\(\succsim _{I}\)がいかなるものであるかに関わらず、任意のエージェント\(i\)は自身の真の選好\(\succsim _{i}\)を正直に表明することが均衡になるとともに、均衡配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)が真の状態\(\succsim _{I}\)のもとで狭義パレート効率的になります。
演習問題
I=\left\{ 1,2,3,4,5\right\}
\end{equation*}であるものとします。任意のエージェント\(i\)の選好関係\(\succsim _{i}\)は完備性と推移性に加えて狭義選好の仮定を満たすものとします。具体的には、エージェントたちの選好プロファイル\(\succsim _{I}\)が以下の表で与えられているものとします。
$$\begin{array}{cccccc}
\hline
エージェント\diagdown 順位 & 1 & 2 & 3 & 4 & 5 \\ \hline
1 & h_{3} & h_{4} & h_{2} & h_{1} & h_{5} \\ \hline
2 & h_{4} & h_{1} & h_{2} & h_{3} & h_{5} \\ \hline
3 & h_{1} & h_{4} & h_{3} & h_{2} & h_{5} \\ \hline
4 & h_{3} & h_{2} & h_{1} & h_{4} & h_{5} \\ \hline
5 & h_{1} & h_{5} & h_{2} & h_{4} & h_{3} \\ \hline
\end{array}$$
TTCメカニズム\(\phi \)に直面したエージェントたちが以上の選好プロファイル\(\succsim _{I}\)を申告する場合、TTCメカニズムが選択する配分\(\phi \left(\succsim _{I}\right) \)を特定してください。その上で、この配分\(\phi \left( \succsim _{I}\right) \)が\(\succsim _{I}\)が狭義コア、狭義個人合理的、かつ狭義パレート効率的であることを示してください。
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