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商品

現実の社会には所有権や使用権を売買できないモノやサービスが存在します。具体例を挙げると、大気や自然環境など物理的に売買が困難であるものや、麻薬や奴隷など法や慣習によって売買が禁止されているものがあります。また、共産主義体制のもとでは生産手段の私有が認められないなど、政治体制や歴史に起因する事例もあります。いずれにせよ、消費者理論においては、所有権や使用権を自由に売買できるモノやサービスだけを消費者による選択対象とみなし、そのような環境を市場経済(market economy)と呼びます。市場経済において消費者が売買するモノやサービスを商品(commodities)や(goods)と呼びます。

自由に売買できるモノとサービスだけを考察対象とする立場とは別に、世の中に存在するあらゆるモノとサービスには所有権や使用権が定められており、それらを売買する市場が存在するものと仮定することもあります。このような仮定を市場の普遍性(universality of market)と呼びます。市場の普遍性の仮定のもとでは、現実世界に存在するあらゆるモノとサービスが消費者による選択の対象となります。

市場の普遍性の仮定は、市場メカニズムが社会的に効率的な結果を実現することを理論的に保証する上で重要な役割を果たします。逆に言えば、現実世界では市場の普遍性が成り立たないため、市場メカニズムが実現する結果は社会的に効率的であるとは限らないということです。この論点については、後に市場均衡について学ぶ際に詳しく解説します。

 

商品の区別

所有権や使用権を自由に売買できるモノやサービスとして商品を定義しましたが、実際の分析では、世の中にあるすべての商品を明示的に扱うのではなく、分析目的に応じて特定の商品だけを分析対象とするのが一般的です。例えば、家計によるひと月当たりコメ消費量が研究対象である状況を想定します。このとき、家計の一か月あたりのコメ消費を\(x_{1}\)で表し、同時期におけるコメ以外のすべての商品への消費を\(x_{2}\)で表すなど、経済を2財モデルで表現することがあります。ちなみに、この例における\(x_{2}\)のように、問題としている商品とは異なるすべての商品を包含する概念を合成財(composite good)と呼びます。

場合によっては、異なる商品を同一のカテゴリーに含めて 1 つの商品とみなしたり、逆に、同一の商品をあえて異なる商品として区別することもあります。例えば、家計による一年間を通じたコメ消費量の変化に興味がある場合に、時点\(t_{1}\)におけるコメ消費を\(x_{1}\)で表し、別の時点\(t_{2}\)におけるコメ消費を\(x_{2}\)で表すなど、本来は同じ商品を異なる時点において異なる商品として区別することがあります。いずれにせよ、分析対象や目的に応じて商品の範囲を決めることが重要です。

 

商品ベクトル

現実の世界には無数の商品が存在しますが、厳密には、世の中に存在する商品の種類は有限です。また、仮に商品の種類が無限である場合でも、消費者が実際に認識し、消費できる商品の種類は有限です。したがって、消費者の意思決定を分析する際には、市場経済に有限\(N\)種類の商品が存在するものと仮定しても一般性は失われません。

市場経済において売買される\(N\)種類の商品の数量の組み合わせを表すベクトルを、\begin{equation*}
x=\left(
\begin{array}{c}
x_{1} \\
\vdots \\
x_{N}\end{array}\right) \in
\mathbb{R} ^{N}
\end{equation*}で表記し、これを商品ベクトル(commodity vector)と呼びます。商品ベクトル\(x\)は\(N\)次元ベクトルであり、その第\(n\)成分である\(x_{n}\)は\(n\)番目の商品の数量を表す実数です。\(n\)番目の商品を商品\(n\)(commodity \(n\))や財\(n\)(good \(n\))などと呼びます。

商品ベクトルを列ベクトルとして定義しましたが、多くの場合、スペースの制約を考慮した上で、これを行ベクトル\begin{equation*}
x=\left( x_{1},\cdots ,x_{N}\right) \in
\mathbb{R} ^{N}
\end{equation*}として表記することもあります。本来、列ベクトルと行ベクトルは数学的には互いに区別されるべき概念ですが、ここでは特に断りのない限り両者を同一視し、両者は交換可能であるものとします。

\(N\)種類の商品の数量の組み合わせは無数に存在するため、商品ベクトルは無数に存在します。すべての商品ベクトルからなる集合をユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{N}\)とみなし、これを商品集合(commodity set)や商品空間(commodity space)などと呼びます。

 

演習問題

問題(商品ベクトル)
考察対象とする商品は、コーヒー、紅茶、角砂糖の3種類であるものとします。この状況を商品ベクトルとして表現した上で、以下のそれぞれの選択肢を商品ベクトルとして表現してください。
  1. ブラックコーヒーを2杯飲む。
  2. 角砂糖を2つ入れた紅茶を3杯飲む。
  3. 角砂糖を3つ入れたコーヒーと、角砂糖を1つ入れたコーヒーを1杯ずつ飲む。
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問題(合成財)
家計による一カ月間の総消費の中でも、コメの消費量に興味がある状況を想定します。家計による一か月あたりのコメ消費量を\(x_{1}\)で表し、同時期におけるコメ以外のすべての商品への消費量を\(x_{2}\)で表すことにより、それぞれの商品ベクトルを\(\left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)で表します。この例における商品\(2\)のように、問題としている商品(この例ではコメ)とは異なるすべての商品を包含する概念を合成財と呼びます。コメの消費量は重さで計測できるため、\(x_{1}\)の単位としてキログラムなどを採用し、その価格\(p_{1}\)としてコメのキロ当たり価格を採用できます。一方、\(x_{2}\)はコメ以外のすべての商品の消費量を表しており、その中には重さで測れる商品(食料など)や、重さで測れない商品(様々なサービス)など、様々なものがあるため、\(x_{2}\)の単位として重さを採用できません。では、合成財の消費量\(x_{2}\)や価格\(p_{2}\)の単位として何を採用すればよいでしょうか。
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次回は消費集合について解説します。

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