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消費者理論

支出最小化問題

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支出最小化問題

消費者が選択し得る消費ベクトルからなる集合が消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)として定式化されているとともに、消費者が消費ベクトルどうしを比較する評価体系が消費集合\(X\)上の選好関係\(\succsim \)として定式化されているものとします。つまり、2つの消費ベクトル\(x,y\in X\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}x\succsim y\Leftrightarrow \text{消費者は}x\text{を}y\text{以上に好む}
\end{equation*}という関係を満たすものとして\(X\)上の二項関係である\(\succsim \)を定義するということです。特に、消費者が直面する経済的制約に注目する場合、それは予算対応\(B:\mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{++}\twoheadrightarrow X\)として定式化されます。つまり、価格ベクトルと所得\(\left( p,w\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{++}\)に直面した消費者が選択可能な消費ベクトルからなる集合は予算集合\begin{equation*}B(p,w)=\{x\in X\ |\ p\cdot x\leq w\}
\end{equation*}として定式化されるということです。これまで考えてきた選好最大化(効用最大化問題)では、消費者は自身が直面する予算集合\(B\left( p,w\right) \)の中から自身の選好\(\succsim \)に照らし合わせて最も望ましい消費ベクトルを選ぶものと仮定しました。つまり、価格ベクトルと所得の組\(\left( p,w\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times \mathbb{R} _{++}\)に直面した消費者が解くべき選好最大化問題は、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ x^{\ast }\in B(p,w) \\
&&\left( b\right) \ \forall x\in B(p,w):x^{\ast }\succsim x
\end{eqnarray*}をともに満たす消費ベクトル\(x^{\ast }\in X\)を特定することとして定式化されます。本節では異なる角度から消費者の意思決定を考えます。

引き続き、消費者が消費ベクトルどうしを比較する評価体系が消費集合\(X\)上の選好関係\(\succsim \)として定式化されているものとします。加えて、消費者は価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)に直面した状況において、目標となる消費ベクトル\(x\in X\)以上に望ましい何らかの消費ベクトルを選択しようとしている状況を想定します。つまり、消費者の選択対象となる消費ベクトルからなる集合は\(x\)の上方位集合\begin{equation*}U\left( x\right) =\left\{ y\in X\ |\ y\succsim x\right\}
\end{equation*}です。消費者が消費ベクトル\(y\in U\left( x\right) \)を選ぶと支出額が\(p\cdot y\)として定まります。以上を踏まえた上で、消費者理論では、消費者は自身が直面する上方位集合\(U\left( x\right) \)の中から支出額\begin{equation*}p\cdot y=p_{1}y_{1}+\cdots +p_{N}y_{N}
\end{equation*}を最小化するような消費ベクトル\(y\)を選ぶものと仮定します。消費者の行動原理に関するこのような仮定を支出最小化(expenditure minimization)の仮定と呼びます。

プライステイカーの仮定より、消費者は価格ベクトル\(p\)を与えられたものとして意思決定を行います。つまり、\(p\)の水準が消費者による意思決定に影響を与えることはあっても、消費者による意思決定が\(p\)の水準に影響を与えることはないということです。以上を踏まえると、支出最小化とプライステイカーを仮定する場合、価格ベクトルと目標となる消費ベクトル\(\left(p,x\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times X\)に直面した消費者が解くべき問題は、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ x^{\ast }\in U\left( x\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall y\in U\left( x\right) :p\cdot y\geq p\cdot
x^{\ast }
\end{eqnarray*}を満たす消費ベクトル\(x^{\ast }\)を特定する最適化問題として定式化されます。このような最適化問題を\(\left( p,x\right) \)のもとでの支出最小化問題(expenditure minimization problem)と呼びます。条件\(\left( a\right) \)は、支出最小化問題の解\(x^{\ast }\)が目標となる消費ベクトル\(x\)以上に望ましい消費ベクトルであることを意味します。上方位集合の定義を踏まえると、これは、\begin{equation*}\left( a\right) \ x^{\ast }\succsim x
\end{equation*}と必要十分です。条件\(\left( b\right) \)は、支出最小化問題の解\(x^{\ast }\)は、目標となる消費ベクトル\(x\)以上に望ましい消費ベクトルの中でも支出を最小化するものであることを意味しますが、これを支出最小化(expenditure minimization)の条件と呼びます。上方位集合の定義を踏まえると、これは、\begin{equation*}\left( b\right) \ \forall y\in X:\left( y\succsim x\Rightarrow p\cdot y\geq
p\cdot x^{\ast }\right)
\end{equation*}と必要十分です。支出最小化問題とは、与えられた価格ベクトル\(p\)と目標となる消費ベクトル\(x\)のもとで、\(x\)以上に望ましい消費ベクトルの中から支出を最小化するようなものを特定する最適化問題に相当します。

消費者が直面する支出最小化は価格ベクトル\(p\)と目標となる消費ベクトル\(x\)に依存して変化するため、消費者による意思決定を総体的に記述するためには、消費者が直面し得るすべての\(p,x\)について、そこでの支出最小化問題について考える必要があります。その上で、\(p\)や\(x\)の変化にともない、消費者による選択がどのように変化するかを考察することになります。

例(支出最小化問題)
1財モデルにおいて消費集合が\(\mathbb{R} _{+}\)である場合、価格と目標となる消費量\(\left(p,w\right) \in \mathbb{R} _{++}\times \mathbb{R} _{+}\)に直面した消費者が解くべき支出最小化問題は、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ x^{\ast }\in U\left( x\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall y\in U\left( x\right) :py\geq px^{\ast }
\end{eqnarray*}を満たす消費量\(x\)を特定する最適化問題として定式化されます。上方位集合の定義より、以上の2つの条件は、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ x^{\ast }\succsim x \\
&&\left( b\right) \ x^{\ast }\in \mathbb{R} _{+} \\
&&\left( c\right) \ \forall y\in \mathbb{R} _{+}:\left( y\succsim x\Rightarrow py\geq px^{\ast }\right)
\end{eqnarray*}と必要十分です。例えば、\(\left( p,x\right) =\left( 2,5\right) \)のもとでの支出最小化問題は、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ x^{\ast }\succsim 5 \\
&&\left( b\right) \ x^{\ast }\in \mathbb{R} _{+} \\
&&\left( c\right) \ \forall y\in \mathbb{R} _{+}:\left( y\succsim 5\Rightarrow 2y\geq 2x^{\ast }\right)
\end{eqnarray*}を満たす消費量\(x^{\ast }\)を特定する最適化問題として定式化されます。
例(支出最小化問題)
2財モデルにおいて消費集合が\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)である場合、価格ベクトルと目標となる消費量\(\left( p_{1},p_{2},x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\times \mathbb{R} _{+}^{2}\)に直面した消費者が解くべき支出最小化問題は、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) \in U\left(
x\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall \left( y_{1},y_{2}\right) \in U\left(
x_{1}x_{2}\right) :p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}\geq p_{1}x_{1}^{\ast
}+p_{2}x_{2}^{\ast }
\end{eqnarray*}を満たす消費ベクトル\(\left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) \)を特定する最適化問題として定式化されます。上方位集合の定義より、以上の2つの条件は、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) \succsim
\left( x_{1},x_{2}\right) \\
&&\left( b\right) \ \left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2} \\
&&\left( c\right) \ \forall \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}:\left[ \left( y_{1},y_{2}\right) \succsim \left( x_{1},x_{2}\right)
\Rightarrow p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}\geq p_{1}x_{1}^{\ast }+p_{2}x_{2}^{\ast }\right] \end{eqnarray*}と必要十分です。例えば、\(\left( p_{1},p_{2},x_{1},x_{2}\right) =\left(1,2,1,1\right) \)のもとでの支出最小化問題は、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) \succsim
\left( 1,1\right) \\
&&\left( b\right) \ \left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2} \\
&&\left( c\right) \ \forall \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}:\left[ \left( y_{1},y_{2}\right) \succsim \left( 1,1\right)
\Rightarrow y_{1}+2y_{2}\geq x_{1}^{\ast }+2x_{2}^{\ast }\right] \end{eqnarray*}を満たす消費ベクトル\(\left( x_{1}^{\ast },x_{2}^{\ast }\right) \)を特定する最適化問題として定式化されます。

 

効用関数が存在する場合の支出最小化問題

消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在する場合、効用\(u\left( x\right) \)が取り得る値の範囲、すなわち\(u\)の値域は、\begin{equation*}u\left( X\right) =\left\{ u\left( x\right) \in \mathbb{R} \ |\ x\in X\right\}
\end{equation*}となります。支出最小化問題において消費者の目標となる消費ベクトル\(x\in X\)を設定することは、そこから得られる効用\(u\left( x\right)\in u\left( X\right) \)を目標として設定することと同義ですが、さらにこれは、効用関数\(u\)の値域\(u\left( X\right) \)に属する何らかの効用水準\(v\)を目標として設定することと同義です。以上を踏まえると、選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u\)が存在する場合、価格ベクトルと目標効用水準\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times u\left( X\right) \)のもとでの支出最小化問題を、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ u\left( x^{\ast }\right) \geq v \\
&&\left( b\right) \ \forall x\in X:\left[ u\left( x\right) \geq v\Rightarrow
p\cdot x\geq p\cdot x^{\ast }\right] \end{eqnarray*}をともに満たす消費ベクトル\(x^{\ast }\in X\)を特定する最適化問題として定式化されます。条件\(\left( a\right) \)は、支出最小化問題の解\(x^{\ast }\)がもたらす効用が目標効用\(v\)以上であることを意味します。条件\(\left(b\right) \)は、支出最小化問題の解\(x^{\ast }\)は、目標効用\(v\)以上の効用をもたらす消費ベクトルの中でも支出を最小化するものであることを意味します。つまり\(\left( b\right) \)は支出最小化の条件です。

価格ベクトルと目標効用\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times u\left( X\right) \)のもとでの支出最小化問題は、支出\(p\cdot x\)を目的関数とし、目標効用に関する制約を制約条件とする以下のような制約付き最小化問題\begin{equation*}\min_{x\in X}\ p\cdot x\quad \text{s.t.}\quad u\left( x\right) \geq v
\end{equation*}に他なりません。これを、

$$\begin{array}{cl}
\min\limits_{x\in \mathbb{R} ^{N}} & p\cdot x \\
s.t. & u\left( x\right) \geq v \\
& x\in X\end{array}$$

と表現することもできます。

例(支出最小化問題)
1財モデルにおいて消費集合が\(\mathbb{R} _{+}\)である場合、価格と目標効用\(\left( p,v\right) \in \mathbb{R} _{++}\times u\left( \mathbb{R} _{+}\right) \)に直面した消費者が解くべき支出最小化問題は、

$$\begin{array}{cl}
\min\limits_{x} & px \\
s.t. & u\left( x\right) \geq v \\
& x\geq 0\end{array}$$

となります。例えば、\(\left( p,v\right) =\left( 2,5\right) \)のもとでの支出最小化問題は、

$$\begin{array}{cl}
\min\limits_{x} & 2x \\
s.t. & u\left( x\right) \geq 5 \\
& x\geq 0\end{array}$$

を満たす消費量\(x^{\ast }\)を特定する最適化問題として定式化されます。

例(支出最小化問題)
2財モデルにおいて消費集合が\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)である場合、価格ベクトルと目標効用\(\left( p_{1},p_{2},v\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\times u\left( \mathbb{R} _{+}^{2}\right) \)に直面した消費者が解くべき支出最小化問題は、

$$\begin{array}{cl}
\min\limits_{\left( x_{1},x_{2}\right) } & p_{1}x_{2}+p_{2}x_{2} \\
s.t. & u\left( x_{1},x_{2}\right) \geq v \\
& x_{1}\geq 0 \\
& x_{2}\geq 0\end{array}$$

となります。例えば、\(\left( p_{1},p_{2},v\right) =\left( 1,2,3\right) \)のもとでの支出最小化問題は、

$$\begin{array}{cl}
\min\limits_{\left( x_{1},x_{2}\right) } & x_{2}+2x_{2} \\
s.t. & u\left( x_{1},x_{2}\right) \geq 3 \\
& x_{1}\geq 0 \\
& x_{2}\geq 0\end{array}$$

となります。

 

選好関係を用いた支出最小化問題と効用関数を用いた支出最小化問題の関係

消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が与えられたとき、価格ベクトルと目標となる消費ベクトル\(\left(p,x\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times X\)のもとでの支出最小化問題とは、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ x^{\ast }\in U\left( x\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall y\in U\left( x\right) :p\cdot y\geq p\cdot
x^{\ast }
\end{eqnarray*}を満たす消費ベクトル\(x^{\ast }\in X\)を特定する最適化問題です。選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在する場合、先の\(\left( p,x\right) \)のもとでの支出最小化問題とは、\(\left( p,u\left( x\right) \right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times u\left( X\right) \)のもとでの支出最小化問題、すなわち、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ u\left( x^{\ast }\right) \geq u\left( x\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall y\in X:\left[ u\left( y\right) \geq u\left(
x\right) \Rightarrow p\cdot y\geq p\cdot x^{\ast }\right] \end{eqnarray*}を満たす消費ベクトル\(x^{\ast }\in X\)を特定する最適化問題です。さらに、効用関数の定義より、任意の\(x,y\in X\)に対して、\begin{equation*}u\left( x\right) \geq u\left( y\right) \Leftrightarrow x\succsim y
\end{equation*}という関係が成り立つため、ある消費ベクトル\(x^{\ast }\in X\)が\(\left( p,x\right) \)のもとでの支出最小化問題の解であることと、\(x^{\ast }\)が\(\left( p,u\left( x\right) \right) \)のもとでの支出最小化問題の解であることは必要十分になります(演習問題)。したがって、選好関係を表現する効用関数が存在する場合には、\(\left( p,x\right) \)のもとでの支出最小化問題の代わりに\(\left( p,u\left( x\right) \right) \)のもとでの支出最小化問題について考えても得られる結果は同じであることが保証されます。

命題(選好関係を用いた支出最小化問題と効用関数を用いた支出最小化問題の関係)
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在するものとする。価格ベクトルと目標となる消費ベクトル\(\left( p,x\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times X\)を任意に選んだとき、消費ベクトル\(x^{\ast }\in X\)が\(\left( p,x\right) \)のもとでの支出最小化問題の解であることは、\(x^{\ast }\)が\(\left( p,u\left( x\right) \right) \)のもとでの支出最小化問題の解であるための必要十分条件である。
証明

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一般に、選好関係を表現する効用関数が存在する場合、それは一意的に定まりません。実際、選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u\)が存在する場合、それを任意の形で単調増加変換することで得られる関数もまた\(\succsim \)を表現する効用関数であることが保証されます。では、支出最小化問題を構成する際に、数ある効用関数の中からどれを採用すればよいのでしょうか。同一の選好関係\(\succsim \)を表現する2つの効用関数\(u,v \)を任意に選んだ場合、どちらを採用した場合にも先の命題が成り立ちます。つまり、効用関数として\(u\)を採用した場合の支出最小化問題の解と、効用関数として\(v\)を採用した場合の支出最小化問題の解はいずれも、\(\succsim \)のもとでの支出最小化問題の解と一致するため、2つの支出最小化問題の解もまた一致します。したがって、支出最小化問題を構成する際にどちらの効用関数を採用しても本質的な違いは発生しません。

 

効用関数を利用する利点

消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が与えられたとき、価格ベクトルと目標となる消費ベクトル\(\left(p,x\right) \in \mathbb{R} _{++}^{N}\times X\)のもとでの支出最小化問題は、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ x^{\ast }\succsim x \\
&&\left( b\right) \ \forall y\in X:\left( y\succsim x\Rightarrow p\cdot
y\geq p\cdot x^{\ast }\right)
\end{eqnarray*}を満たす消費ベクトル\(x^{\ast }\)を特定する最適化問題として定式化されますが、これをそのまま解くのは容易ではありません。一方、選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在する場合には、先に提示した理由により、\(\left( p,u\left( x\right) \right) \)のもとでの支出最小化問題

$$\begin{array}{cl}
\min\limits_{x\in \mathbb{R} ^{N}} & p\cdot x \\
s.t. & u\left( x\right) \geq v \\
& x\in X\end{array}$$

について考えても一般性は失われません。支出最小化問題は支出\(p\cdot x\)を目的関数とする制約付き最小化問題です。一般に、与えられた制約のもとで目的関数を最小化する制約付きについては、それを扱う数学の理論体系が存在します。そこで、効用関数を用いて支出最小化問題を表現することにより、既存の数学体系を利用しながら支出最小化問題を分析し、解くことができるようになります。

 

支出最小化問題の自明な解

消費集合が\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)である場合には\(0\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)が成り立つため、消費者は商品を消費しないという選択が可能です。支出最小化問題において目標として設定する消費ベクトル\(x\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)が、\begin{equation*}0\succ x
\end{equation*}を満たすものとします。価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)が与えられたとき、\(x\not=0\)かつ\(x\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)より、\(x\)を実現するために必要な支出\(p\cdot x\)は正の実数である一方、それより望ましい消費ベクトル\(0\)を支出ゼロで実現できるため、以上の\(\left( p,x\right) \)のもとでの支出最小化問題の解は明らかに\(0\)です。こうした事情もあり、\begin{equation*}x\succsim 0
\end{equation*}を満たすような\(\left( p,x\right) \)に関してのみ支出最小化問題を考えれば十分です。

効用関数を用いて表現された支出最小化問題についても同様の議論が成立します。つまり、支出最小化問題において目標として設定する効用水準\(v\in u\left( \mathbb{R} _{+}^{N}\right) \)が、\begin{equation*}u\left( 0\right) >v
\end{equation*}を満たすものとします。価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)が与えられたとき、\(v\)を実現するために必要な支出は正の実数である一方、それより大きい効用を支出ゼロで実現できるため、以上の\(\left( p,v\right) \)のもとでの支出最小化問題の解は明らかに\(0\)です。こうした事情もあり、\begin{equation*}v\geq u\left( 0\right)
\end{equation*}を満たすような\(\left( p,v\right) \)に関してのみ支出最小化問題を考えれば十分です。

例(支出最小化問題の自明な解)
消費集合が\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)であり、効用関数\(u:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの消費ベクトル\(\left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{equation*}u\left( x_{1},x_{2}\right) =x_{1}x_{2}+1
\end{equation*}を定めるものとします。このとき、\begin{equation*}
u\left( 0,0\right) =1
\end{equation*}であるため、先の議論により、\(v\geq 1\)を満たす\(\left( p_{1},p_{2},v\right) \)に関してのみ支出最小化問題を考えれば十分です。なぜなら、\(v<1\)を満たす\(\left( p_{1},p_{2},v\right) \)のもとでの支出最小化問題は明らかに\(\left( 0,0\right) \)だからです。

 

演習問題

問題(支出最小化問題)
3財モデルにおいて消費集合が\(\mathbb{R} _{+}^{3}\)であるものとします。支出最小化問題を選好関係を用いた形と効用関数を用いた形のそれぞれで定式化してください。
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問題(コメへの支出)
家計によるひと月当たりコメ消費量が研究対象である状況を想定します。家計の一か月あたりのコメの消費量(kg)を\(x_{1}\)で表記し、同時期におけるコメ以外のすべての商品への消費を合成財への消費とみなした上で、その支出総額を(円)を\(x_{2}\)で表記します。消費集合は\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)であるとともに、家計の効用関数\(u:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)が与えられているものとします。その他、必要な要素を補いながら家計が直面する支出最小化問題を定式化してください。
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問題(異時点間の消費)
今期において所得\(w>0\)を保有する消費者が、それを今期の支出と来期の支出へ振り分ける状況を想定します。各期において、消費者は経済に存在するあらゆる商品を購入し得る状況を想定するため、消費者は各期において合成財を消費するものと考えます。つまり、今期におけるすべての商品への支出総額を\(x_{1}\)で表し、来期におけるすべての商品への支出総額を\(x_{2}\)で表すということです。消費集合は\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)であるとともに、家計の効用関数\(u:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)が与えられているものとします。来期の物価水準が今期比で\(\alpha \%\)(百分率)だけ変化するという想定のもと、この消費者が直面する支出最小化問題を定式化してください。
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