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消費者理論

可算集合上の効用関数の存在条件

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可算な消費集合上に定義された選好関係を表す選好関数

消費集合が有限集合である場合には合理的な選好関係を表現する効用関数が常に存在することが明らかになりました。状況をより一般化して、消費集合が可算集合である場合にはどうでしょうか。実は、消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)が可算集合である場合にも、\(X\)上の選好関係\(\succsim \)が合理性を満たすのであれば、それを表す効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在することを保証できます。しかも、そのような関数\(u\)を具体的に構成できます。まずは、そのような関数\(u\)の候補を提示します。

消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)が可算集合であるとともに、選好関係\(\succsim \)が合理性を満たすものとします。\(X\)は可算集合であるため、その要素に対して、\begin{equation*}X=\left\{ x_{1},x_{2},x_{3},\cdots \right\}
\end{equation*}と付番できます。消費ベクトル\(x_{n}\in X\ \left( n=1,2,3,\cdots\right) \)を任意に選んだときに、その下方位集合は、\begin{equation*}L\left( x_{n}\right) =\left\{ x\in X\ |\ x_{n}\succsim x\right\}
\end{equation*}と定義されます。つまり、\(L\left( x_{n}\right) \)は\(\succsim \)のもとで\(x_{n}\)と同等であるか\(x_{n}\)より望ましくない消費ベクトルからなる集合です。以上を踏まえた上で、それぞれの\(x_{n}\in X\)に対して、\begin{equation}u\left( x_{n}\right) =\sum_{m\in \mathbb{N} \ \text{s.t.}\ x_{m}\in L\left( x_{n}\right) }\left( \frac{1}{2}\right) ^{m}
\quad \cdots (1)
\end{equation}を定める関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)を定義します。つまり、消費ベクトル\(x_{n}\)と同等であるか\(x_{n}\)より望ましくない消費ベクトル\(x_{m}\)をすべて集めた上で、そのそれぞれの添字\(m\)に対して\(\left( \frac{1}{2}\right) ^{m}\)を計算した上で、それらの総和をとったものを\(u\left(x_{n}\right) \)と定めるということです。

消費集合\(X\)が可算集合である場合、消費ベクトル\(x_{n}\)の下方位集合\(L\left( x_{n}\right) \)の要素の個数、すなわち\(x_{n}\)と同等であるか\(x_{n}\)よりも望ましくない消費ベクトルの個数もまた可算となり得るため、\(\left( 1\right) \)の右辺は無限級数の和です。仮定より選好関係\(\succsim \)は完備性を満たすため、消費ベクトル\(x_{n},x_{m}\in X\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}x_{m}\not\in L\left( x_{n}\right) &\Leftrightarrow &\lnot \left(
x_{n}\succsim x_{m}\right) \quad \because L\text{の定義} \\
&\Leftrightarrow &x_{m}\succ x_{n}\quad \because \succsim \text{の完備性} \\
&\Leftrightarrow &x_{m}\in U_{s}\left( x_{n}\right) \quad \because U_{s}\text{の定義}
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation}
x_{m}\not\in L\left( x_{n}\right) \Leftrightarrow x_{m}\in U_{s}\left(
x_{n}\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}という関係が成り立ちます。ただし、\(U_{s}\left(x_{n}\right) \)は消費ベクトル\(x_{n}\)の狭義上方位であり、\begin{equation*}U_{s}\left( x_{n}\right) =\left\{ x\in X\ |\ x\succ x_{m}\right\}
\end{equation*}と定義されます。以上を踏まえると、先の関数\(u\)を、\begin{eqnarray*}u\left( x_{n}\right) &=&\sum_{m\in \mathbb{N} \ \text{s.t.}\ x_{m}\in L\left( x_{n}\right) }\left( \frac{1}{2}\right)
^{m}\quad \because \left( 1\right) \\
&=&\sum_{m\in \mathbb{N} }\left( \frac{1}{2}\right) ^{m}-\sum_{m\in \mathbb{N} \ \text{s.t.}\ x_{m}\not\in L\left( x_{n}\right) }\left( \frac{1}{2}\right)
^{m} \\
&=&1-\sum_{m\in \mathbb{N} \ \text{s.t.}\ x_{m}\in U_{s}\left( x_{n}\right) }\left( \frac{1}{2}\right)
^{m}\quad \because \left( 2\right)
\end{eqnarray*}と表現することもできます。つまり、消費ベクトル\(x_{n}\)よりも望ましい消費ベクトル\(x_{m}\)をすべて集めた上で、そのそれぞれの添字\(m\)に対して\(\left( \frac{1}{2}\right) ^{m}\)を計算した上で、それらの総和をとり、\(1\)からその総和を引くことで得られる値を\(u\left( x_{n}\right) \)と定めるということです。

例(可算な消費集合上に定義された関数)
消費集合\(X\)が可算集合であり、それらの要素が、\begin{equation*}X=\left\{ x_{1},x_{2},x_{3},\cdots \right\}
\end{equation*}で与えられているものとします。さらに、\(X\)上に定義された選好関係\(\succsim \)は合理性を満たすともに、\begin{equation}x_{3}\succ x_{1}\sim x_{5}\succ x_{2}\sim x_{4}\succsim \cdots \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たすものとします。このとき、先の関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの消費ベクトル\(x_{n}\in X\)対して定める値は、\begin{eqnarray*}u\left( x_{1}\right) &=&1-\sum_{m\in \left\{ 3\right\} }\left( \frac{1}{2}\right) ^{m}=1-\left( \frac{1}{2}\right) ^{3}=\frac{7}{8} \\
u\left( x_{2}\right) &=&1-\sum_{m\in \left\{ 1,3,5\right\} }\left( \frac{1}{2}\right) ^{m}=1-\left[ \frac{1}{2}+\left( \frac{1}{2}\right) ^{3}+\left(
\frac{1}{2}\right) ^{5}\right] =\frac{11}{32} \\
u\left( x_{3}\right) &=&1-0=1 \\
u\left( x_{4}\right) &=&1-\sum_{m\in \left\{ 1,3,5\right\} }\left( \frac{1}{2}\right) ^{m}=1-\left[ \frac{1}{2}+\left( \frac{1}{2}\right) ^{3}+\left(
\frac{1}{2}\right) ^{5}\right] =\frac{11}{32} \\
u\left( x_{5}\right) &=&1-\sum_{m\in \left\{ 3\right\} }\left( \frac{1}{2}\right) ^{m}=1-\left( \frac{1}{2}\right) ^{3}=\frac{7}{8} \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}などとなるため、
\begin{equation}
u\left( x_{3}\right) >u\left( x_{1}\right) =u\left( x_{5}\right) >u\left(
x_{2}\right) =u\left( x_{4}\right) \cdots \quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立ちます。\(\left(1\right) \)と\(\left( 2\right) \)を見比べると、少なくとも最初の5つの消費ベクトル\(x_{1},x_{2},x_{3},x_{4},x_{5}\)に関しては\(\succsim \)のもとでの消費ベクトルどうしの相対的な望ましさが効用の大小関係としてもそのまま表現されているため、\(u\)は\(\succsim \)を表す効用関数であることが予想されます。

上の例が示唆するように、可算な消費集合\(X\)上に定義された選好関係\(\succsim \)が合理性を満たす場合、先のように定義された関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)は\(\succsim \)を表現する効用関数になりことが予想されます。つまり、消費ベクトル\(x,y\in X\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}x\succsim y\Leftrightarrow u\left( x\right) \geq u\left( y\right)
\end{equation*}という関係が成り立つことが予想されます。

命題(可算な消費集合上の効用関数)
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)が可算集合であるとともに、\(X\)上の選好関係\(\succsim \)が合理性を満たす場合には、\(\succsim \)を表す効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在する。具体的には、それぞれの\(x_{n}\in X=\left\{ x_{1},x_{2},x_{3},\cdots \right\} \)に対して、\begin{equation*}u\left( x_{n}\right) =\sum_{m\in \mathbb{N} \ \text{s.t.}\ x_{m}\in L\left( x_{n}\right) }\left( \frac{1}{2}\right) ^{m}
\end{equation*}を定める関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)はそのような関数の一例である。
証明

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演習問題

問題(効用関数の存在条件)
可算な消費集合上に定義された合理的な選好関係を表現する効用関数として、本文中で挙げた例とは異なる関数は存在するでしょうか。議論してください。答案はコメント欄に投稿してください。

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