消費者の選好関係を表現する効用関数が存在する場合には、消費ベクトルの間の相対的な望ましさを、実数の大小関係として表現することができます。

効用関数

消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が与えられたとき、ある関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在して、任意の消費ベクトル\(x,y\in X\)に対して、\begin{equation*}
u\left( x\right) \geq u\left( y\right) \ \Leftrightarrow \ x\succsim y
\end{equation*}という関係が成り立つ場合には、この関数\(u\)のことを、選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数(utility function)と呼びます。また、効用関数\(u\)が消費ベクトル\(x\)に対して定める値\(u\left( x\right) \)を\(x\)の効用(utility)と呼びます。

選好関係\(\succsim \)が効用関数\(u\)によって表現される場合には、\(\succsim \)によって表現される消費ベクトルの間の相対的な望ましさを、効用に相当する実数どうしの大小関係として表現することができます。

一般に、選好関係が与えられたとき、それを表現する効用関数は存在するとは限りません。ただ、効用関数が存在することを保証する上で必要とされる条件については、様々なものが知られています。効用関数の存在条件については、場を改めて詳しく解説します。

例(効用関数)
消費集合が\(X=\mathbb{R} _{+}\)であるものとします。つまり、問題としているのは1種類の商品であり、それぞれの消費ベクトルは\(x\in X\)は非負の実数です。\(X\)上に定義された消費者の選好関係\(\succsim \)を、\begin{equation*}
x\succsim y\ \Leftrightarrow \ x\geq y
\end{equation*}を満たすものとして定義します。ただし、\(\geq \)は実数どうしを比較する通常の大小関係です。つまり、上の選好関係\(\succsim \)は「商品の消費量は多ければ多いほど良い」という評価体系を反映しています。このとき、関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)を、\begin{equation*}
u\left( x\right) =x
\end{equation*}と定義します。つまり、商品の消費量を効用として採用するということです。この関数\(u\)は明らかに先の選好\(\succsim \)を表す効用関数です。
例(効用関数)
消費集合が\(X=\{0,1,2,3,4,5\}\times \{0,1,2,3,4,5\}\)であるものとします。つまり、問題としているのは2種類の商品であり、それぞれの消費ベクトル\(x=\left( x_{1},x_{2}\right) \in X\)について、その成分\(x_{i}\ \left( i=1,2\right) \)は\(0\)以上\(5\)以下の整数です。\(X\)上の選好関係\(\succsim \)を、\begin{equation*}
\left( x_{1},x_{2}\right) \succsim \left( y_{1},y_{2}\right) \
\Leftrightarrow \ x_{1}>y_{1}\ \veebar \ \left( x_{1}=y_{1}\ \wedge \
x_{2}\geq y_{2}\right)
\end{equation*}を満たすものとして定義します。ただし、\(\veebar \)は排他的論理和を表す記号です。つまり、上の選好関係\(\succsim \)は「商品\(1\)の消費量がより多い消費ベクトルは無条件でより望ましく、商品\(1\)の消費量が等しい消費ベクトルどうしについては、商品\(2\)の消費量が多い方がより望ましい」という評価体系を反映しています。関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)を、\begin{equation*}
u\left( x_{1},x_{2}\right) =5x_{1}+x_{2}
\end{equation*}と定義すると、これは\(\succsim \)を表す効用関数です(演習問題にします)。一方、関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)を、\begin{equation*}
u\left( x_{1},x_{2}\right) =3x_{1}+x_{2}
\end{equation*}と定義すると、これは\(\succsim \)を表す効用関数ではありません。実際、2つの消費ベクトル\(\left( 0,5\right) ,\left( 1,0\right) \in X\)に注目したとき、\(\succsim \)の定義より、\begin{equation*}
\left( 1,0\right) \succsim \left( 0,5\right)
\end{equation*}が成り立つ一方で、\(u\)の定義より、\begin{equation*}
u\left( 1,0\right) =3<5=u\left( 0,5\right)
\end{equation*}となります。これは効用関数\(u\)の定義に反しています。

 

効用関数の特徴づけ

消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が与えられたとき、そこから狭義選好関係\(\succ \)と無差別関係\(\sim \)が間接的に定義されます。\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在するものとします。このとき、任意の消費ベクトル\(x,y\in X\)について、\begin{align*}
x\succ y& \Leftrightarrow \ x\succsim y\ \wedge \ \lnot (y\succsim x)\quad
\because \succ \text{の定義} \\
& \Leftrightarrow \ u(x)\geq u(y)\ \wedge \ \lnot \left[ u(y)\geq u(x)\right] \quad \because u\text{の定義} \\
& \Leftrightarrow \ u(x)>u(y)
\end{align*}すなわち、\begin{equation*}
x\succ y\ \Leftrightarrow \ u(x)>u(y)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、消費者が\(x\)を\(y\)よりも選好することは、\(x\)の効用が\(y\)の効用よりも大きいことと必要十分です。また、\begin{align*}
x\sim y& \Leftrightarrow \ x\succsim y\ \wedge \ y\succsim x\quad \because
\sim \text{の定義} \\
& \Leftrightarrow \ u(x)\geq u(y)\ \wedge \ u(y)\geq u(x)\quad \because u\text{の定義} \\
& \Leftrightarrow \ u(x)=u(y)
\end{align*}すなわち、\begin{equation*}
x\sim y\ \Leftrightarrow \ u(x)=u(y)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、消費者にとって\(x\)と\(y\)が無差別であることは、\(x\)の効用と\(y\)の効用が等しいことと必要十分です。

命題(効用関数の特徴づけ)
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在するとき、任意の消費ベクトル\(x,y\in X\)について、\begin{eqnarray*}
\left( a\right) \ x &\succ &y\ \Leftrightarrow \ u(x)>u(y) \\
\left( b\right) \ x &\sim &y\ \Leftrightarrow \ u(x)=u(y)
\end{eqnarray*}がともに成り立つ。
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上の命題とは逆に、選好関係\(\succsim \)が与えられたとき、任意の消費ベクトル\(x,y\)について、上の命題中の条件\(\left( a\right) ,\left( b\right) \)をともに満たす関数\(u\)が存在するものとします。このとき、この関数\(u\)は、任意の消費ベクトル\(x,y\)について、\begin{equation*}
x\succsim y\ \Leftrightarrow \ u\left( x\right) \geq u\left( y\right)
\end{equation*}を満たすことが証明されます(演習問題とします)。したがって、この関数\(u\)は選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数です。

命題(効用関数の特徴づけ)
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が与えられたとき、ある関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在して、任意の消費ベクトル\(x,y\in X\)に対して、\begin{eqnarray*}
\left( a\right) \ x &\succ &y\ \Leftrightarrow \ u(x)>u(y) \\
\left( b\right) \ x &\sim &y\ \Leftrightarrow \ u(x)=u(y)
\end{eqnarray*}をともに満たすならば、この関数\(u\)は選好関係\(\succsim \)を表す効用関数である。
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上の2つの命題より以下が得られます。

系(効用関数の特徴づけ)
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)が与えられたとき、ある関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在して、任意の消費ベクトル\(x,y\in X\)に対して、\begin{eqnarray*}
\left( a\right) \ x &\succ &y\ \Leftrightarrow \ u(x)>u(y) \\
\left( b\right) \ x &\sim &y\ \Leftrightarrow \ u(x)=u(y)
\end{eqnarray*}をともに満たすことは、この関数\(u\)が選好関係\(\succsim \)を表す効用関数であるための必要十分条件である。

これまでは選好関係\(\succsim \)を最初に定義し、そこから派生的に狭義選好関係\(\succ \)や無差別関係\(\sim \)を定義し、さらに、\begin{equation*}
x\succsim y\ \Leftrightarrow \ u\left( x\right) \geq u\left( y\right)
\end{equation*}を満たすものとして効用関数\(u\)を定義しました。上の命題によると、それとは逆に、先に\(\succ \)と\(\sim \)を定義し、そこから派生的に\(\succsim \)を定義し、さらに、上の命題中の条件\(\left( a\right) ,\left( b\right) \)を満たすものとして効用関数\(u\)を定義することも可能です。

 

基数的効用と序数的効用

消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が存在するとき、単調増加関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)を任意に選んだ上で、合成関数\(f\circ u:X\rightarrow \mathbb{R} \)を作成します。このような操作を\(u\)の単調増加変換(monotonically increasing transformation)と呼びます。消費ベクトル\(x,y\in X\)を任意に選ぶと、このとき、\begin{align*}
x\succsim y& \Leftrightarrow \ u(x)\geq u(y)\quad \because u\text{は効用関数} \\
& \Leftrightarrow \ f(u(x))\geq f(u(y))\quad \because f\text{は単調増加関数} \\
& \Leftrightarrow \ (f\circ u)(x)\geq (f\circ u)(y)\quad \because f\circ u\text{の定義}
\end{align*}すなわち、\begin{equation*}
x\succsim y\ \Leftrightarrow \ \ (f\circ u)(x)\geq (f\circ u)(y)
\end{equation*}が成り立つため、この合成関数\(f\circ u\)もまた\(\succsim \)を表す効用関数です。

命題(効用関数の単調増加変換)
消費集合\(X\subset \mathbb{R} ^{N}\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が与えられたとき、それと任意の単調増加関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)の合成関数\(f\circ u:X\rightarrow \mathbb{R} \)もまた\(\succsim \)を表現する効用関数である。
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例(効用関数の単調増加変換)
消費集合が\(X=\mathbb{R} _{+}\)であるものとします。つまり、問題としているのは1種類の商品であり、それぞれの消費ベクトル\(x\in X\)は非負の実数です。\(X\)上の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u:X\rightarrow \mathbb{R} \)が、\begin{equation*}
u\left( x\right) =4x^{4}
\end{equation*}で与えられているものとします。さらに、\(u\)に対して様々な単調増加変換を施すことで得られる関数\(g,h,i:X\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれ、\begin{eqnarray*}
g\left( x\right) &=&\left[ u\left( x\right) \right] ^{2}=\left[ 4x^{4}\right] ^{2} \\
h\left( x\right) &=&10\log u\left( x\right) =10\log 4x^{4} \\
i\left( x\right) &=&\sqrt{u\left( x\right) }=\sqrt{4x^{4}}
\end{eqnarray*}で与えられているものとします。先の命題より、\(g,h,i\)もまた\(u\)と同様に\(\succsim \)を表現する効用関数です。消費量\(x=1,2,3\cdots \)の効用をそれぞれ計算すると、

$$\begin{array}{ccccc}
\hline
x & u(x) & g(x) & h(x) & i(x) \\ \hline
1 & 4 & 16 & 13.86 & 2 \\ \hline
2 & 16 & 256 & 27.73 & 4 \\ \hline
3 & 36 & 1296 & 35.84 & 6 \\ \hline
\vdots & \vdots & \vdots & \vdots & \vdots \\ \hline
10 & 400 & 160000 & 59.92 & 20 \\ \hline
\end{array}$$

表:効用関数の単調増加変換

などとなります。消費量\(x\)が同じでも、\(u,g,h,i\)の中のどれを採用するかによって効用の水準が変わり得ることが上の表から確認できます。一方、\(u,g,h,i\)の中のどれを採用する場合でも、消費量\(x\)が増えるほど効用が増えるという点では共通しています。

効用関数の単調増加変換に関する先の命題や上の例が示唆するように、消費者の選好関係\(\succsim \)が与えられたとき、それを表現する効用関数は一意的には定まりません。実際、単調増加関数は無数に存在するため、\(\succsim \)を表す効用関数\(u\)が与えられたとき、それは無数の形で単調増加変換が可能であり、そうして得られる無数の関数はいずれも同一の選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数となります。つまり、その中のどの効用関数を採用しても一般性は失われないということです。

その一方で、消費ベクトル\(x\)を任意に選んだとき、そこから得られる効用の絶対的な水準は、どの効用関数を採用するかに依存して変化します。絶対的な水準に注目した場合の効用を基数的効用(cardinal utility)と呼びます。上の例においても、関数\(u,g,h,i\)はいずれも同一の選好\(\succsim \)を表す効用関数であるためどれを採用しても良いのですが、それぞれの消費ベクトル\(x\)の基数的効用はどの効用関数を採用するかに依存して変化します。採用する効用関数に依存して基数的効用が変化してしまうということは、基数的効用はそれほど重要ではないことを意味します。

選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u\)と、それを任意の形で単調増加変換して得られる効用関数\(f\circ u\)が与えられたとき、任意の消費ベクトル\(x,y\in X\)に対して,\begin{equation*}
u(x)\geq u(y)\Leftrightarrow \ (f\circ u)(x)\geq (f\circ u)(y)
\end{equation*}という関係が成り立ちます。つまり、それぞれの消費ベクトルに対して割り当てられる効用の相対的な大小関係は、どの効用関数を採用した場合でも一定であるため、効用の相対的な大小関係には重要な意味があります。相対的な大小に注目した場合の効用を序数的効用(ordinal utility)と呼びます。

選好関係\(\succsim \)を表現する効用関数\(u\)が与えられたとき、消費ベクトル\(x\)の効用\(u\left( x\right) \)が消費ベクトル\(y\)の効用\(u\left( y\right) \)の\(2\)倍の大きさであっても、消費者は\(x\)を\(y\)よりも\(2\)倍好ましいと考えているとは言えません。なぜなら、\(u\)を単調増加変換して得られる関数\(f\circ u\)もまた\(\succsim \)を表現する効用関数であるにも関わらず、\((f\circ u)(x)\)の大きさは\((f\circ u)(y)\)の大きさの\(2\)倍であるとは限らないからです。基数的効用は重要ではありません。その一方で、\(u\)と\(f\circ u\)のどちらの効用関数を採用した場合においても、\(x\)の効用が\(y\)の効用よりも大きいという事実は不変です。序数的効用は重要です。

次回は選好関係から定義される消費集合の部分集合について学びます。

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