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生産者理論

利潤最大化問題の制約条件

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利潤最大化問題の制約条件

生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)によって表現される技術を持つ生産者が価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)に直面したときに得べき利潤最大化問題は、以下のような制約付き最大化問題\begin{equation*}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad y\in Y
\end{equation*}として定式化されます。消費者に関する効用最大化問題や支出最小化問題と同様、生産者に関する上のような利潤最大化問題に対してもベルジュの最大値定理を適用できるでしょうか。

ベルジュの最大値定理を利用する上で見通しを良くするために、それぞれの価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)に対して、\begin{equation*}Y\left( p\right) =Y
\end{equation*}を像として定める対応\(Y:\mathbb{R} _{++}^{N}\twoheadrightarrow \mathbb{R} ^{N}\)を便宜的に導入すれば、\(p\)のもとでの利潤最大化問題を、\begin{equation*}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad y\in Y\left( p\right)
\end{equation*}と表現できます。目的関数\(p\cdot x\)は明らかに連続関数であるため、ベルジュの最大値定理が要求する条件をクリアしています。したがって、制約条件を規定する対応\(Y\)が非空値かつコンパクト値をとる連続対応であるならば、すなわち生産集合\(Y\)が以上の条件を満たす場合には、利潤最大化問題にもベルジュの最大値定理を適用できます。ただ、この対応\(Y\)はそれらの性質を満たすとは限りません。

例(利潤最大化問題の制約条件)
2財モデルにおいて生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq \left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします(下図)。

図:生産集合
図:生産集合

それぞれの価格ベクトル\(\left( p_{1},p_{2}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\)に対して、\begin{equation*}Y\left( p_{1},p_{2}\right) =Y
\end{equation*}を像として定める対応\(Y:\mathbb{R} _{++}^{2}\twoheadrightarrow \mathbb{R} ^{2}\)を便宜的に導入すれば、\(\left( p_{1},p_{2}\right) \)のもとでの利潤最大化問題を、\begin{equation*}\max_{\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}}p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}\quad \text{s.t.}\quad \left( y_{1},y_{2}\right)
\in Y\left( p_{1},p_{2}\right)
\end{equation*}と表現できますが、\(Y\left( p_{1},p_{2}\right) \)すなわち\(Y\)は有界ではないためコンパクト集合でもなく、したがってベルジュの最大値定理を利用できません。

 

利潤最大化問題の変換

上の例が示唆するように、利潤最大化問題に対してベルジュの最大値定理を適用できるとは限りません。そこで、問題の一般性を失わないまま、利潤最大化問題をベルジュの最大値定理を適用できる形へと変換することを考えます。

繰り返しになりますが、生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)が与えられたとき、それぞれの価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)に対して、\begin{equation*}Y\left( p\right) =Y
\end{equation*}を定める対応\(Y:\mathbb{R} _{++}^{N}\twoheadrightarrow \mathbb{R} ^{N}\)を便宜的に導入すれば、\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)のもとでの利潤最大化問題は、\begin{equation}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad y\in Y\left( p\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}と定式化されます。ただし、先に例を通じて確認したように、上のように定義された対応\(Y\)は非空値かつコンパクト値をとる連続対応であるとは限らないため、利潤最大化問題に対してベルジュの最大値定理を適用できません。

このような問題を踏まえた上で、上の対応\(Y\)の代替となる対応を導入します。まず、生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)が操業停止可能性を満たすものとします。つまり、\begin{equation*}0\in Y
\end{equation*}を仮定するということです。その上で、それぞれの価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)に対して、\begin{equation*}S\left( p\right) =Y\cap \left\{ y\in \mathbb{R} ^{N}\ |\ p\cdot y\geq 0\right\}
\end{equation*}を像として定める対応\(S:\mathbb{R} _{++}^{N}\twoheadrightarrow \mathbb{R} ^{N}\)を定義します。つまり、\(S\left( p\right) \)は与えられた価格ベクトル\(p\)のもとで非負の利潤をもたらす(\(p\cdot y\geq 0\))とともに、技術的に選択可能(\(y\in Y\))な生産ベクトルからなる集合です。以上のように定義される対応\(S\)を制約対応(constraint correspondence)と呼ぶこととします。以上を踏まえた上で、それぞれの\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)に対して以下の制約付き最大化問題\begin{equation}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad y\in S\left( p\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}を考えます。

利潤最大化問題\(\left( 1\right) \)と制約対応のもとでの最大化問題\(\left( 2\right) \)は何が違うのでしょうか。利潤最大化問題\(\left( 1\right) \)は、技術制約を満たす生産ベクトルの中でも利潤を最大化するものを特定する問題です。一方、制約対応のもとでの最大化問題\(\left( 2\right) \)は、技術制約を満たすとともに、非負の利潤をもたらす生産ベクトルの中でも利潤を最大化するものを特定する問題です。操業停止可能性を仮定しているため、操業を停止することによりゼロの利潤を達成できることは保証されており、したがって負の利潤をもたらす生産ベクトルが利潤最大化問題の解になることはありません。したがって、利潤最大化問題において生産ベクトルがとり得る値の範囲を\(Y\left(P\right) \)から\(S\left( p\right) \)に縮小しても一般性は失われません。

命題(利潤最大化問題の変換)
生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)は操業停止可能性を満たすものとする。さらに、対応\(S:\mathbb{R} _{++}^{N}\twoheadrightarrow \mathbb{R} ^{N}\)はそれぞれの\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)に対して、\begin{equation*}S\left( p\right) =Y\cap \left\{ y\in \mathbb{R} ^{N}\ |\ p\cdot y\geq 0\right\}
\end{equation*}を定めるものとする。\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)を任意に選んだとき、\(y^{\ast }\in \mathbb{R} ^{N}\)が\(p\)のもとでの最適化問題\begin{equation*}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad y\in S\left( p\right)
\end{equation*}の解であることは、\(y^{\ast }\)が\(p\)のもとでの利潤最大化問題\begin{equation*}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad y\in Y
\end{equation*}の解であるための必要十分条件である。

証明

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例(利潤最大化問題の変換)
2財モデルにおいて生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq \left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします(下図)。

図:生産集合
図:生産集合

\(Y\)は操業停止可能性を満たします。制約対応\(S:\mathbb{R} _{++}^{2}\twoheadrightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(\left(p_{1},p_{2}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\)に対して、\begin{equation*}S\left( p_{1},p_{2}\right) =Y\cap \left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}\geq 0\right\}
\end{equation*}を定めるとともに、\(\left( p_{1},p_{2}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\)のもとでの最適化問題は、\begin{equation*}\max_{\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}}p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}\quad \text{s.t.}\quad \left( y_{1},y_{2}\right)
\in S\left( p_{1},p_{2}\right)
\end{equation*}となります。

図:制約対応
図:制約対応

\(p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}\geq 0\)が成り立つことは生産ベクトル\(\left(y_{1},y_{2}\right) \)と価格ベクトル\(\left( p_{1},p_{2}\right) \)がなす角が直角以下であることを意味します。そのような生産ベクトル\(\left(y_{1},y_{2}\right) \)からなる集合と\(Y\)の交わりが\(S\left( p_{1},p_{2}\right) \)であるため、それは上図のグレーの領域として描かれます。\(Y\)とは異なり\(S\left( p_{1},p_{2}\right) \)は有界であるため、先の最適化問題に対してベルジュの最大値定理を適用できる可能性があります。

例(利潤最大化問題の変換)
3財モデルにおいて生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2},y_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3}\ |\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq 0\wedge y_{3}\leq \left\vert
y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\left\vert y_{2}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします。\(Y\)は操業停止可能性を満たします。制約対応\(S:\mathbb{R} _{++}^{3}\twoheadrightarrow \mathbb{R} ^{3}\)はそれぞれの\(\left(p_{1},p_{2},p_{3}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{3}\)に対して、\begin{equation*}S\left( p_{1},p_{2},p_{3}\right) =Y\cap \left\{ \left(
y_{1},y_{2},y_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3}\ |\ p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}+p_{3}y_{3}\geq 0\right\}
\end{equation*}を定めるとともに、\(\left( p_{1},p_{2},p_{3}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{3}\)のもとでの最適化問題は、\begin{equation*}\max_{\left( y_{1},y_{2},y_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{2}}p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}+p_{3}y_{3}\quad \text{s.t.}\quad \left(
y_{1},y_{2},y_{3}\right) \in S\left( p_{1},p_{2},p_{2}\right)
\end{equation*}となります。

 

制約対応の性質

以上の命題より、価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)のもとでの利潤最大化について考えるかわりに、制約対応のもとでの最大化問題\begin{equation*}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad y\in S\left( p\right)
\end{equation*}を考えても一般性は失われないことが保証されました。目的関数\(p\cdot y\)は連続関数であるため、制約対応\(S\)が非空値かつコンパクト値をとる連続対応であればベルジュの最大値定理を利用できます。実際、以下の条件のもとで、制約対応\(S\)はそれらの性質を満たします。

命題(制約対応の性質)

生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)が連続性、操業停止可能性、無償廃棄可能性、凸性、中立性を満たす場合には、それぞれの\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)に対して、\begin{equation*}S\left( p\right) =Y\cap \left\{ y\in \mathbb{R} ^{N}\ |\ p\cdot y\geq 0\right\}
\end{equation*}を定める対応\(S:\mathbb{R} _{++}^{N}\twoheadrightarrow \mathbb{R} ^{N}\)は非空値かつコンパクト値をとる連続対応になる。

証明

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演習問題

問題(効用最大化問題の変換)
2種類の商品が存在する経済における生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq \sqrt{2\left\vert y_{1}\right\vert }\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします。制約対応を用いた最大化問題を定式化してください。

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問題(効用最大化問題の変換)
2種類の商品が存在する経済における生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq y_{1}^{2}\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします。制約対応を用いた最大化問題を定式化してください。

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