無償廃棄可能性
生産者の技術が生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)として表現されているものとします。このとき、\(Y\)が以下の条件\begin{equation*}\forall y\in Y,\ \forall y^{\prime }\in \mathbb{R} ^{N}:\left( y^{\prime }\leq y\Rightarrow y^{\prime }\in Y\right)
\end{equation*}を満たすならば、すなわち技術的に選択可能な生産ベクトル\(y\)を出発点としてすべての商品の純産出量を増やさない場合、そのようにして得られる生産ベクトル\(y^{\prime }\)もまた技術的に選択可能であることが保証される場合には、\(Y\)は無償廃棄可能性(free disposability)を満たすと言います。
生産集合\(Y\)が無償廃棄可能性を満たすものとします。すると、技術的に選択可能な生産ベクトル\(y\in Y\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \exists i\in \left\{ 1,\cdots ,N\right\} :y_{i}^{\prime
}<y_{i} \\
&&\left( b\right) \ \forall j\in \left\{ 1,\cdots ,N\right\} :y_{j}^{\prime
}=y_{j}
\end{eqnarray*}を満たす任意の生産ベクトル\(y^{\prime }\in \mathbb{R} ^{N}\)もまた技術的に選択可能であることが保証されますが、これは何を意味するのでしょうか。
商品\(i\)が生産物である場合、\(\left( a\right) \)および\(\left(b\right) \)が成り立つことは、技術的に選択可能な生産ベクトル\(y\)を出発点に、生産物\(i\)以外の生産物の産出量や生産要素の投入量を一定にしたまま、生産物\(i\)の産出量を自由に減らした\(y^{\prime }\)もまた実現可能であることを意味します。生産物\(i\)以外の生産物の産出量や生産要素の投入量が一定であるならば、本来、\(y\)と\(y^{\prime }\)とでは生産物\(i\)の産出量も同じであるはずです。それにもかかわらず\(y_{i}^{\prime }<y_{i}\)が成り立つということは、\(y\)に直面した生産者は生産物\(i\)をあえて\(y_{i}-y_{i}^{\prime }\)だけ処分することで\(y^{\prime }\)を実現していることになります。通常、生産物を処分する際には費用がかかるため、\(y\)が実行可能である場合に\(y^{\prime }\)もまた実行可能であるとは限りません。無償廃棄可能性は、生産者が制約なく生産物を処分できることを仮定します。
商品\(1\)が生産要素である場合、\(\left( a\right) \)および\(\left( b\right) \)が成り立つことは、技術的に選択可能な生産ベクトル\(y\)を出発点に、生産要素\(i\)以外の生産要素の投入量や生産物の産出量を一定にしたまま、生産要素\(i\)の投入量を自由に増やした\(y^{\prime }\)もまた実現可能であることを意味します。生産要素\(i\)以外の生産要素の投入量や生産物の産出量が一定であるならば、本来、生産要素\(i\)の投入量を増やなくても\(y\)における産出を実現できるはずです。それにも関わらず\(y_{i}^{\prime }<y_{i}\)が成り立つということは、\(y\)に直面した生産者は生産要素\(i\)をあえて\(y_{i}-y_{i}^{\prime }\)だけ過剰に抱えることで\(y^{\prime }\)を実現していることを意味します。通常、余った生産要素を処分する際には費用がかかるため、\(y\)が実行可能である場合に\(y^{\prime }\)もまた実行可能であるとは限りません。無償廃棄可能性は、生産者が制約なく生産要素を処分できることを仮定します。
逆に、生産集合\(Y\)が無償廃棄可能性を満たさないこととは、\begin{equation*}\exists y\in Y,\ \exists y^{\prime }\in \mathbb{R} ^{n}:\left( y^{\prime }\leq y\wedge y^{\prime }\not\in Y\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。つまり、技術的に選択可能なある生産ベクトル\(y\)に対して、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i\in \left\{ 1,\cdots ,N\right\} :y_{i}^{\prime
}\leq y_{i} \\
&&\left( b\right) \ \exists j\in \left\{ 1,\cdots ,N\right\} :y_{j}^{\prime
}<y_{j}
\end{eqnarray*}を満たすとともに技術的に選択可能ではない生産ベクトル\(y^{\prime }\)が存在するということです。
図中の生産ベクトル\(y=\left( y_{1},y_{2}\right) \in Y\)では商品\(1\)を投入して商品\(2\)を生産しています。図より、\(y\)より左下の部分にある任意の点、すなわち\(y- \mathbb{R} _{+}^{2} \)の任意の点が\(Y\)の要素であることを確認できますが、これは生産者が生産物や生産要素を制限なく処分できることを意味します。生産集合\(Y\)の境界\(Y^{f}\)すなわち生産フロンティアは右下がりの曲線であるため、\(Y^{f}\)上の任意の点において同様の議論が成り立ちます。また、\(Y\)の内点についても同様であるため、\(Y\)は無償廃棄可能性を満たしています。生産集合\(Y\)が無償廃棄可能性を満たす場合、生産フロンティア\(Y^{f}\)は水平または右下がりになります。
図中の点\(y=\left( y_{1},y_{2}\right) \in Y\)の左側にある生産ベクトルは\(Y\)の要素ではないため、\(Y\)は無償廃棄可能性を満たしません。生産フロンティア\(Y^{f}\)が右上がりの部分を持つ場合、\(Y\)は無償廃棄可能性を満たしません。
図中の点\(y=\left( y_{1},y_{2}\right) \in Y\)の左下には\(Y\)の要素ではない生産ベクトルが存在するため、\(Y\)は無償廃棄可能性を満たしません。
無償廃棄可能性を以下のように表現することもできます。
生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)に対して、\begin{equation*}Y-\mathbb{R} _{+}^{N}\subset Y
\end{equation*}が成り立つことは、無償廃棄可能性が成り立つための必要十分条件である。
変換関数の性質としての無償廃棄可能性
生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)が与えられたとき、変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)は任意の\(y\in \mathbb{R} ^{N}\)に対して、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ y\in Y\Leftrightarrow F\left( y\right) \leq 0 \\
&&\left( b\right) \ y\in Y^{f}\Leftrightarrow F\left( y\right) =0
\end{eqnarray*}を満たすものとして定義されます。したがって、生産集合\(Y\)が無償廃棄可能性を満たすという仮定、すなわち、\begin{equation*}\forall y\in Y,\ \forall y^{\prime }\in \mathbb{R} ^{N}:\left( y^{\prime }\leq y\Rightarrow y^{\prime }\in Y\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{equation*}
\forall y,y^{\prime }\in \mathbb{R} ^{N}:\left[ \left( F\left( y\right) \leq 0\wedge y^{\prime }\leq y\right)
\Rightarrow F\left( y^{\prime }\right) \leq 0\right]
\end{equation*}が成り立つことと必要十分です。
\Rightarrow F\left( y^{\prime }\right) \leq 0\right] \end{equation*}が成り立つことは、無償廃棄可能性が成り立つための必要十分条件である。
逆に、無償廃棄可能性が成り立たないこととは、変換関数\(F\)に関して、\begin{equation*}\exists y,y^{\prime }\in \mathbb{R} ^{N}:\left[ y^{\prime }\leq y\wedge F\left( y\right) \leq 0\wedge F\left(
y^{\prime }\right) >0\right]
\end{equation*}が成り立つことを意味します。
\end{equation*}を定めるものとして定義されています。\(F\left( y_{1},y_{2}\right) \leq 0\)すなわち、\begin{equation}y_{2}+y_{1}\leq 0 \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たす点\(\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)を任意に選びます。それに対して、\begin{equation}y_{1}^{\prime }\leq y_{1}\wedge y_{2}^{\prime }\leq y_{2} \quad \cdots (2)
\end{equation}を満たす点\(\left( y_{1}^{\prime},y_{2}^{\prime }\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)を任意に選ぶと、\begin{eqnarray*}F\left( y_{1}^{\prime },y_{2}^{\prime }\right) &=&y_{2}^{\prime
}+y_{1}^{\prime }\quad \because F\text{の定義} \\
&<&y_{2}+y_{1}\quad \because \left( 2\right) \\
&\leq &0\quad \because \left( 1\right)
\end{eqnarray*}となるため、生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{2}\)は無償廃棄可能性を満たします。
演習問題
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2},y_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3}\ |\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq 0\wedge y_{3}\leq \left\vert
y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\left\vert y_{2}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{equation*}と定義されています。\(Y\)は無償廃棄可能性を満たすでしょうか。議論してください。
\begin{array}{cc}
y_{2}-\left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}} & \left( if\ \left(
y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} _{-}\times \mathbb{R} \right) \\
1 & \left( if\ \left( y_{1},y_{2}\right) \not\in \mathbb{R} _{-}\times \mathbb{R} \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を満たすものとします。生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{2}\)は無償廃棄可能性を満たすでしょうか。議論してください。
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