線型生産関数
\(N\)生産要素\(1\)生産物モデルにおける生産関数\(f:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの投入ベクトル\(x=\left( x_{1},\cdots ,x_{N}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{N}\)に対して定める値が、\begin{equation*}f\left( x\right) =\alpha _{1}x_{1}+\cdots +\alpha _{N}x_{N}
\end{equation*}であるものとします。ただし、\(\alpha _{1},\cdots ,\alpha _{N}\in \mathbb{R} \)は定数であり、以下の条件\begin{equation*}\alpha _{n}>0\ \left( n=1,\cdots ,N\right)
\end{equation*}を定めるものとします。このような生産関数\(f\)を線型生産関数(linear production function)と呼びます。
\end{equation*}を定めます。ただし、\(\alpha _{1},\alpha _{2}>0\)です。例えば、\(\alpha _{1}=\alpha _{2}=1\)であれば、\begin{equation*}f\left( x_{1},x_{2}\right) =x_{1}+x_{2}
\end{equation*}となり、\(\alpha _{1}=\frac{1}{2}\)かつ\(\alpha _{2}=\frac{1}{3}\)であれば、\begin{equation*}f\left( x_{1},x_{2}\right) =\frac{x_{1}}{2}+\frac{x_{2}}{3}
\end{equation*}となります。
_{3}x_{3}
\end{equation*}を定めます。ただし、\(\alpha _{1},\alpha _{2},\alpha _{3}>0\)です。例えば、\(\alpha _{1}=\alpha _{2}=\alpha _{3}=1\)であれば、\begin{equation*}f\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) =x_{1}+x_{2}+x_{3}
\end{equation*}であり、\(\alpha _{1}=1\)かつ\(\alpha _{2}=2\)かつ\(\alpha _{3}=3\)であれば、\begin{equation*}f\left( x_{1},x_{2},x_{3}\right) =x_{1}+2x_{2}+3x_{3}
\end{equation*}となります。
線型生産関数の連続性
線型生産関数は連続関数です。
\end{equation*}を定める。ただし、\(\alpha _{n}>0\ \left( n=1,\cdots ,N\right) \)である。\(f\)は\(\mathbb{R} _{+}^{N}\)上において連続である。
\end{equation*}を定めるものとします。ただし、\(\alpha _{1},\alpha _{2}>0\)です。この\(f\)は線型生産関数であるため、先の命題より、\(f\)は\(\mathbb{R} _{+}^{2}\)上で連続です。
線型生産関数の連続微分可能性
線型生産関数は定義域の内部において連続微分可能です。
\end{equation*}を定める。ただし、\(\alpha _{n}>0\ \left( n=1,\cdots ,N\right) \)である。\(f\)は\(\mathbb{R} _{++}^{N}\)上において\(C^{1}\)級である。
\end{equation*}を定めるものとします。ただし、\(\alpha _{1},\alpha _{2}>0\)です。この\(f\)は線型生産関数であるため\(\mathbb{R} _{++}^{2}\)上で\(C^{1}\)級です。実際、定義域の内点\(\left(x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}\frac{\partial f\left( x_{1},x_{2}\right) }{\partial x_{1}} &=&\alpha _{1} \\
\frac{\partial f\left( x_{1},x_{2}\right) }{\partial x_{2}} &=&\alpha _{2}
\end{eqnarray*}となりますが、これらは定数関数であるため\(\mathbb{R} _{++}^{2}\)上で連続です。
線型生産関数のもとでの限界生産
線型生産関数のもとでの限界生産は以下の通りです。
\end{equation*}を定める。ただし、\(\alpha _{n}>0\ \left( n=1,\cdots ,N\right) \)である。生産要素\(n\in \left\{ 1,\cdots ,N\right\} \)および点\(x\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}MP_{n}\left( x\right) =\alpha _{n}
\end{equation*}となる。
\end{equation*}を定めるものとします。ただし、\(\alpha _{1},\alpha _{2}>0\)です。この\(f\)は線型生産関数です。定義域の内点\(\left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}MP_{1}\left( x_{1},x_{2}\right) &=&\alpha _{1} \\
MP_{2}\left( x_{1},x_{2}\right) &=&\alpha _{2}
\end{eqnarray*}となります。
線型生産関数のもとでの技術的限界代替率
線型生産関数のもとでの技術的限界代替率は以下の通りです。
\end{equation*}を定める。ただし、\(\alpha _{n}>0\ \left( n=1,\cdots ,N\right) \)である。2つの生産要素\(i,j\in \left\{ 1,\cdots,N\right\} \)および点\(x\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)をそれぞれ任意に選んだとき、\begin{equation*}MRTS_{ij}\left( x\right) =\frac{\alpha _{i}}{a_{j}}
\end{equation*}となる。
\end{equation*}を定めるものとします。ただし、\(\alpha _{1},\alpha _{2}>0\)です。この\(u\)は線型生産関数です。定義域の内点\(\left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}MRTS_{12}\left( x_{1},x_{2}\right) =\frac{\alpha _{1}}{\alpha _{2}}
\end{equation*}となります。
完全代替財
線型生産関数はどのような技術を表現しているのでしょうか。具体例として、\(2\)生産要素\(1\)生産物モデルにおいて生産者の技術が線型生産数\(f:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)によって表現される状況を想定します。つまり、\(f\)はそれぞれの\(\left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{equation*}fu\left( x_{1},x_{2}\right) =\alpha _{1}x_{1}+\alpha _{2}x_{2}
\end{equation*}を定めるということです。ただし、\(\alpha _{1}>0\)かつ\(\alpha _{2}>0\)です。
投入ベクトル\(\left( x_{1},x_{2}\right)\in \mathbb{R} _{+}^{2}\)を任意に選んだとき、先の命題より、生産要素\(1\)の生産要素\(2\)で測った技術的限界代替率は、\begin{equation*}MRTS_{12}\left( x_{1},x_{2}\right) =\frac{\alpha _{1}}{\alpha _{2}}
\end{equation*}となります。任意の\(\left( x_{1},x_{2}\right) \)について同様の議論が成立するため、線型生産関数のもとでは投入ベクトル\(\left( x_{1},x_{2}\right) \)に依存せず技術的限界代替率\(MRTS_{12}\left( x_{1},x_{2}\right) \)が定数\(\frac{\alpha_{1}}{\alpha _{2}}\)になります。
これは何を意味しているのでしょうか。技術的限界代替率\(MRTS_{12}\left( x_{1},x_{2}\right) \)とは、投入ベクトル\(\left( x_{1},x_{2}\right) \)を出発点として生産要素\(1\)の投入量を\(1\)単位変化させたときに産出量を\(f\left( x_{1},x_{2}\right) \)に保つために変化させる必要のある生産要素\(2\)の投入量を表しています。言い換えると、生産者が\(\left( x_{1},x_{2}\right) \)を選択しているとき、\(1\)単位の生産要素\(1\)は\(MRTS_{12}\left(x_{1},x_{2}\right) \)単位の生産要素\(2\)と代替可能であり、両者を交換しても産出量は\(f\left( x_{1},x_{2}\right) \)から変化しないということです。以上を踏まえると、\(\left( x_{1},x_{2}\right) \)に依存せず\(MRTS_{12}\left( x_{1},x_{2}\right) \)が\(\frac{\alpha_{1}}{\alpha _{2}}\)で一定であることとは、生産要素\(1,2\)の投入量とは関係なく常に、\(1\)単位の生産要素\(1\)は\(\frac{\alpha _{1}}{\alpha _{2}}\)単位の生産要素\(2\)と常に代替可能であることを意味します。
\(N\)生産要素\(1\)生産物モデルにおける線型生産関数についても同様の議論が成立します。つまり、\(N\)生産要素\(1\)生産物モデルにおいて生産者の技術が線型生産関数によって表されている場合には、2つの生産要素\(i,j\)を任意に選んだとき、投入ベクトル\(x\)に依存せず技術的限界代替率\(MRTS_{ij}\left( x\right) \)は\(\frac{\alpha _{i}}{\alpha _{j}}\)で一定です。これは、生産要素の投入量とは関係なく常に、\(1\)単位の生産要素\(i\)が\(\frac{\alpha _{i}}{\alpha _{j}}\)単位の生産要素\(j\)と代替可能であることを意味します。同様の関係が任意の2つの生産要素\(i,j\)の間に成立します。
複数の生産要素の間の代替の程度が常に一定である場合、つまりそれらの生産要素の技術的限界代替率が投入ベクトルに依存せず一定である場合、それらの生産要素を完全代替財(perfect substitutes)と呼びます。線型生産関数は完全代替財を投入する場合の技術を表しています。
&=&\frac{x_{1}}{10}+\frac{x_{2}}{10}
\end{eqnarray*}を定めます。これは線型生産関数です。投入ベクトル\(\left( x_{1},x_{2}\right) \)を任意に選んだとき、\begin{equation*}MRTS_{12}\left( x_{1},x_{2}\right) =\frac{MP_{1}\left( x_{1},x_{2}\right) }{MP_{2}\left( x_{1},x_{2}\right) }=\frac{\frac{1}{10}}{\frac{1}{10}}=1
\end{equation*}が成り立ちますが、これは、この生産者にとって2つの発電所から供給される電力が常に\(1:1\)の比率で交換可能であることを意味します。
&=&1.1x_{1}+\cdots +1.1x_{N}
\end{eqnarray*}を定めますが、これは線型効用関数です。投入ベクトル\(x\)と2人の顧客\(i,j\)を任意に選んだとき、\begin{equation*}MRTS_{ij}\left( x\right) =\frac{MP_{i}\left( x\right) }{MP_{j}\left(
x\right) }=\frac{1.1}{1.1}=1
\end{equation*}が成り立ちますが、これは、この企業にとって顧客\(i,j\)から調達された資金が常に\(1:1\)の比率で交換可能であることを意味します。
線型生産関数の単調性
線型生産関数は狭義単調増加関数です。つまり、\begin{equation*}
\forall x,y\in \mathbb{R} _{+}^{N}:\left[ y>x\Rightarrow u\left( y\right) >u\left( x\right) \right]
\end{equation*}が成り立ちます。ただし、\(y>x\)における\(>\)はユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{N}\)における標準的狭義順序であり、\begin{equation*}y>x\Leftrightarrow \forall n\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :y_{n}\geq
x_{n}\wedge \exists n\in \left\{ 1,\cdots ,n\right\} :y_{n}>x_{n}
\end{equation*}を満たすものとして定義されます。線型生産関数が狭義単調増加であることとは、投入ベクトル\(x\)を任意に選んだとき、そこからすべての生産要素の投入量を減らさず、なおかつ少なくとも1つの生産要素の投入量を増やせば、生産物の産出量が増加することを意味します。
\end{equation*}を定める。ただし、\(\alpha _{n}>0\ \left( n=1,\cdots ,N\right) \)である。\(f\)は狭義単調増加関数である。
線型生産関数の同次性
線型効用関数\(u\)は\(1\)次同次関数です。つまり、\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} _{+}^{N},\ \forall \lambda \in \mathbb{R} _{++}:f\left( \lambda x\right) =\lambda f\left( x\right)
\end{equation*}が成り立ちます。投入ベクトル\(x\)を任意に選んだとき、すべての生産要素の投入量を\(\lambda >0\)倍すれば、産出量もまた\(\lambda \)倍になるということです。
\end{equation*}を定める。ただし、\(\alpha _{n}>0\ \left( n=1,\cdots ,N\right) \)である。\(f\)は1次同次関数である。
以上の命題を踏まえると、規模に関する収穫に関する以下の命題が得られます。
\end{equation*}を定める。ただし、\(\alpha _{n}>0\ \left( n=1,\cdots ,N\right) \)である。\(f\)は規模に関して収穫一定である。
線型生産関数は凸関数かつ凹関数
\end{equation*}を定める。ただし、\(\alpha _{n}>0\ \left( n=1,\cdots ,N\right) \)である。\(f\)は凸関数かつ凹関数である。
凸関数は準凸関数であり、凹関数は準凹関数であるため、上の命題より以下を得ます。
\end{equation*}を定める。ただし、\(\alpha _{n}>0\ \left( n=1,\cdots ,N\right) \)である。\(f\)は準凸関数かつ準凹関数である。
線型生産関数は狭義凸関数や狭義凹関数ではありません(演習問題)。また、狭義準凸関数や狭義準凹関数でもありません(演習問題)。
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