利潤最大化問題
生産者が直面し得る個々の選択肢を生産ベクトルとして表現し、技術的制約に直面した生産者が選択可能な生産ベクトルからなる集合を生産集合として表現しました。生産者理論では、生産者は自身が選択可能な生産ベクトルの中から自身が得られる利潤を最大化するようなものを選ぶものと仮定します。生産者の行動原理に関するこのような仮定を利潤最大化(profit maximization)の仮定と呼びます。
生産者の技術が生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)として定式化されているものとします。生産ベクトル\(y\in Y\)と価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)が与えられたとき、その第\(n\)成分どうしの積\(p_{n}y_{n}\)に注目すると、\(y_{n}<0\)の場合にはこれは生産要素である商品\(n\)を市場で調達するために必要な費用を表し、\(y_{n}>0\)の場合にはこれは生産物である商品\(n\)を市場で販売することで得られる収入を表します。利潤(profit)は収入から費用を差し引いたものであるため、価格ベクトル\(p\)が与えられたときに生産ベクトル\(y\)を選択することで生産者が得る利潤は、\begin{equation*}p\cdot y=\sum_{n=1}^{N}p_{n}y_{n}
\end{equation*}となります。
\end{equation*}と表現されます。これらの商品の価格が、\begin{equation*}
p=\left( p_{1},p_{2},p_{3}\right) =\left( 2,3,4\right)
\end{equation*}であるならば、生産者が\(y\)を実行することにより得られる利潤は、\begin{eqnarray*}p\cdot y &=&\left( p_{1},p_{2},p_{3}\right) \cdot \left(
y_{1},y_{2},y_{3}\right) \\
&=&\left( 2,3,4\right) \cdot \left( -3,-4,6\right) \\
&=&-6-12+24 \\
&=&6
\end{eqnarray*}となります。
プライステイカーの仮定より、生産者は価格ベクトル\(p\)を与えられたものとして意思決定を行います。つまり、\(p\)の水準が生産者による意思決定に影響を与えることはあっても、生産者による意思決定が\(p\)の水準に影響を与えることはないということです。以上を踏まえると、利潤最大化とプライステイカーを仮定する場合、生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)によって表現される技術を持つ生産者が価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)に直面したときに解くべき問題は、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ y^{\ast }\in Y \\
&&\left( b\right) \ \forall y\in Y:p\cdot y^{\ast }\geq p\cdot y
\end{eqnarray*}を満たす生産ベクトル\(y^{\ast }\in \mathbb{R} ^{N}\)を特定する最適化問題として定式化されます。このような最適化問題を\(p\)のもとでの利潤最大化問題(profit maximization problem)と呼びます。条件\(\left( a\right) \)は、利潤最大化問題の解\(y^{\ast }\)が技術的に選択可能であることを意味しますが、これを技術制約(technological constraint)の条件と呼びます。条件\(\left( b\right) \)は、利潤最大化問題の解\(y^{\ast }\)は、技術制約を満たす生産ベクトルの中でも利潤を最大化するものであることを意味しますが、これを利潤最大化(profit maximization)の条件と呼びます。利潤最大化問題とは、与えられた価格ベクトルのもとで、技術制約と利潤最大化の条件をともに満たす生産ベクトルを特定する最適化問題に相当します。
価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)のもとでの利潤最大化問題は、利潤\(p\cdot y\)を目的関数とし、技術制約を制約条件とする以下のような制約付き最大化問題\begin{equation*}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad y\in Y
\end{equation*}に他なりません。生産者が直面する利潤最大化問題は価格ベクトル\(p\)に依存して変化するため、生産者による意思決定を総体的に記述するためには、生産者が直面し得るすべての\(p\)について、そこでの利潤最大化問題について考える必要があります。その上で、\(p\)の変化にともない、生産者による選択がどのように変化するかを考察することになります。
\in Y
\end{equation*}となります。
y_{1},y_{2},y_{3}\right) \in Y
\end{equation*}となります。
変換関数を用いた利潤最大化問題の表現
生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)に加えて変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)が存在する場合、任意の\(y\in \mathbb{R} ^{N}\)に対して、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ y\in Y\Leftrightarrow F\left( y\right) \leq 0 \\
&&\left( b\right) \ y\in Y^{f}\Leftrightarrow F\left( y\right) =0
\end{eqnarray*}という関係が成り立ちます。ただし、\(Y^{f}\)は\(Y\)の境界すなわち変換フロンティアです。価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)のもとでの利潤最大化問題は、\begin{equation*}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad y\in Y
\end{equation*}と定式化されますが、\(\left( a\right) \)より、これを、\begin{equation*}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad F\left( y\right) \leq 0
\end{equation*}と表現しても一般性は失われません。
\end{equation*}の解であることは、\(y^{\ast }\)が\(p\)のもとでの利潤最大化問題\begin{equation*}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad y\in Y
\end{equation*}の解であるための必要十分条件である。
\end{equation*}を定めるものとします。価格ベクトル\(\left(p_{1},p_{2}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\)のもとでの利潤最大化問題は、\begin{equation*}\max_{\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}}p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}\quad \text{s.t.}\quad F\left( y_{1},y_{2}\right)
\leq 0
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\max_{\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}}p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}\quad \text{s.t.}\quad y_{1}+y_{2}\leq 0
\end{equation*}となります。
\begin{array}{cc}
y_{2}-\left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}} & \left( if\ y_{1}\leq
0\right) \\
>0 & \left( if\ y_{1}>0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を満たすものとします。価格ベクトル\(\left(p_{1},p_{2}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\)のもとでの利潤最大化問題は、\begin{equation*}\max_{\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}}p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}\quad \text{s.t.}\quad F\left( y_{1},y_{2}\right)
\leq 0
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\max_{\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}}p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}\quad \text{s.t.}\quad y_{2}-\left\vert
y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\leq 0\wedge y_{1}\leq 0
\end{equation*}となります。
\begin{array}{cl}
y_{3}-\left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\left\vert y_{2}\right\vert
^{\frac{1}{2}} & \left( if\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq 0\right) \\
>0 & \left( \text{otherwise}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を満たすものとします。価格ベクトル\(\left(p_{1},p_{2},p_{3}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{3}\)のもとでの利潤最大化問題は、\begin{equation*}\max_{\left( y_{1},y_{2},y_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3}}p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}+p_{3}y_{3}\quad \text{s.t.}\quad F\left(
y_{1},y_{2},y_{3}\right) \leq 0
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\max_{\left( y_{1},y_{2},y_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3}}p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}+p_{3}y_{3}\quad \text{s.t.}\quad y_{3}-\left\vert
y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\left\vert y_{2}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\leq 0\wedge y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq 0
\end{equation*}となります。
利潤を最大化する生産ベクトルは効率的
価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)が与えられたとき、生産者が得られる利潤は生産ベクトル\(y\in Y\)のもとで最大化されるものとします。つまり、\begin{equation*}\forall y^{\prime }\in Y:p\cdot y\geq p\cdot y^{\prime }
\end{equation*}が成り立つということです。このとき、\(y\)は効率的であることが保証されます。
\Rightarrow y\in Y^{\ast }\subset Y^{\ast \ast }
\end{equation*}が成り立つ。ただし、\(Y^{\ast }\)は狭義効率生産集合であり、\(Y^{\ast \ast }\)は広義効率生産集合である。
価格ベクトル\(p\)のもとでの利潤最大化問題の解は狭義効率的であるとともに、狭義効率生産集合\(Y^{\ast }\)が生産集合\(Y\)の部分集合であることを踏まえると、利潤最大化問題の解を探す際には\(Y\)のすべての点を候補とする必要はなく、効率生産集合\(Y^{\ast }\)の要素だけを候補としても一般性は失われません。つまり、価格ベクトル\(p\)のもとでの利潤最大化問題を、\begin{equation*}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad y\in Y^{\ast }
\end{equation*}と定式化しても一般性は失われません。
生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)と価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)が与えられたとき、生産ベクトル\(y^{\ast }\in Y\)が以下の問題\begin{equation*}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad y\in Y^{\ast }
\end{equation*}の解であることは、\(y^{\ast }\)が\(p\)のもとでの利潤最大化問題\begin{equation*}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad y\in Y
\end{equation*}の解であるための必要十分条件である。ただし、\(Y^{\ast }\)は狭義効率生産集合である。
狭義効率生産集合\(Y^{\ast }\)は変換フロンティア\(Y^{f}\)の部分集合であるとともに、変換関数\(F\)の定義より、変換フロンティア上の点\(y\in Y^{f}\)については\(F\left( y\right) =0\)が成り立ちます。以上の事実と上の命題を踏まえると、変換関数\(F\)が存在する場合には、利潤最大化問題の解を探す際には\(Y\)のすべての点を候補とする必要はなく、\(F\left( y\right) =0\)を満たす点\(y\)だけを候補としても一般性は失われません。つまり、価格ベクトル\(p\)のもとでの利潤最大化問題を、\begin{equation*}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad F\left( y\right) =0
\end{equation*}と定式化しても一般性は失われません。
生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)に加えて変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)が存在するものとする。価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)を任意に選んだとき、生産ベクトル\(y^{\ast}\in Y\)が以下の問題\begin{equation*}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad F\left( y\right) =0
\end{equation*}の解であることは、\(y^{\ast }\)が\(p\)のもとでの利潤最大化問題\begin{equation*}\max_{y\in \mathbb{R} ^{N}}p\cdot y\quad \text{s.t.}\quad y\in Y
\end{equation*}の解であるための必要十分条件である。
\end{equation*}を定めるものとします。価格ベクトル\(\left(p_{1},p_{2}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\)のもとでの利潤最大化問題は、\begin{equation*}\max_{\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}}p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}\quad \text{s.t.}\quad F\left( y_{1},y_{2}\right)
=0
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\max_{\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}}p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}\quad \text{s.t.}\quad y_{1}+y_{2}=0
\end{equation*}となります。
\begin{array}{cc}
y_{2}-\left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}} & \left( if\ y_{1}\leq
0\right) \\
>0 & \left( if\ y_{1}>0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を満たすものとします。価格ベクトル\(\left(p_{1},p_{2}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{2}\)のもとでの利潤最大化問題は、\begin{equation*}\max_{\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}}p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}\quad \text{s.t.}\quad F\left( y_{1},y_{2}\right)
=0
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\max_{\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}}p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}\quad \text{s.t.}\quad y_{2}-\left\vert
y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}=0\wedge y_{1}\leq 0
\end{equation*}となります。
\begin{array}{cl}
y_{3}-\left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\left\vert y_{2}\right\vert
^{\frac{1}{2}} & \left( if\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq 0\right) \\
>0 & \left( \text{otherwise}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を満たすものとします。価格ベクトル\(\left(p_{1},p_{2},p_{3}\right) \in \mathbb{R} _{++}^{3}\)のもとでの利潤最大化問題は、\begin{equation*}\max_{\left( y_{1},y_{2},y_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3}}p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}+p_{3}y_{3}\quad \text{s.t.}\quad F\left(
y_{1},y_{2},y_{3}\right) =0
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\max_{\left( y_{1},y_{2},y_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3}}p_{1}y_{1}+p_{2}y_{2}+p_{3}y_{3}\quad \text{s.t.}\quad y_{3}-\left\vert
y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\left\vert y_{2}\right\vert ^{\frac{1}{2}}=0\wedge y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq 0
\end{equation*}となります。
価格ベクトル\(p\in \mathbb{R} _{++}^{N}\)が与えられたとき、生産ベクトル\(y\in Y\)のもとで利潤が最大化される場合には、\(y\)が狭義効率的であることが保証されるため、\(p\)のもとでの利潤最大化問題の解を探す際には、効率生産集合\(Y^{\ast }\)上の生産ベクトルや、変換関数\(F\)が定める値が\(0\)であるような生産ベクトルだけを候補としても一般性は失われないことが明らかになりました。ただ、生産集合\(Y\)が閉集合ではない場合、\(Y\)の境界点は\(Y\)に含まれるとは限らず、この場合には\(Y^{\ast }\subset\phi =Y\cap Y^{f}\)すなわち、\begin{equation*}Y^{\ast }=\phi
\end{equation*}となる可能性があり、効率的な生産ベクトルが存在しないことになってしまいます。一方、\(Y\)が閉集合である場合には、\begin{equation*}Y^{\ast }\subset Y^{f}\subset Y
\end{equation*}という関係が成り立つため問題を回避できます。\(Y\)が閉集合である場合には、利潤最大化問題の制約条件を満たす生産ベクトルが存在しないという事態は回避されるということです。
演習問題
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq \sqrt{2\left\vert y_{1}\right\vert }\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします。利潤最大化問題を定式化してください。
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq y_{1}^{2}\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします。利潤最大化問題を定式化してください。
\end{equation*}を定めるものとします。利潤最大化問題を定式化してください。
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