WIIS

生産者理論

生産集合の操業停止可能性

目次

Twitter
Mailで保存

操業停止可能性

生産者の技術が生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)として表現されているものとします。このとき、\(Y\)がゼロベクトルを要素として持つならば、すなわち、\begin{equation*}0=\left( 0,\cdots ,0\right) \in Y
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(Y\)は操業停止可能性(possibility of inaction)を満たすと言います。

ゼロベクトルはすべての商品の純産出がゼロであるような生産ベクトルに相当します。したがって、操業停止可能性の仮定は、生産者が投入や産出を一切行わないことが可能であることを意味します。

例えば、生産者が設備投資への投資など生産要素の購入契約を結んでおり、それを取り消すことができない場合などには操業停止可能性は成立しません。そのような場合、生産者は生産要素を得る対価として支払わなければならない費用を持ちますが、そのような費用をサンク費用(sunk cost)や埋没費用などと呼びます。操業停止可能性の仮定はサンク費用が存在しないことを想定します。長期の生産を議論の対象とする場合には固定生産要素は存在しないため、操業停止可能性は妥当な仮定であると言えます。

例(操業停止可能性)
2種類の商品が存在する経済における生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{2}\)が下図のグレーの領域として描かれています。\(\left( 0,0\right) \in Y\)が成立しているため\(Y\)は操業停止可能性を満たしています。

図:操業停止可能
図:操業停止可能
例(操業停止可能性)
2種類の商品が存在する経済における生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{2}\)が下図のグレーの領域として描かれています。\(\left( 0,0\right) \not\in Y\)であるため\(Y\)は操業停止可能性を満たしません。生産者にとって商品\(1\)を\(y_{1}^{\prime }\)だけ投入することは決定事項であり、商品\(1\)の投入量をそれよりも減らすことができないということです。

図:操業停止不可能
図:操業停止不可能

 

変換関数の性質としての操業停止可能性

生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)が与えられたとき、変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)は任意の\(y\in \mathbb{R} ^{N}\)に対して、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ y\in Y\Leftrightarrow F\left( y\right) \leq 0 \\
&&\left( b\right) \ y\in Y^{f}\Leftrightarrow F\left( y\right) =0
\end{eqnarray*}を満たすものとして定義されます。したがって、生産集合\(Y\)が操業停止可能性を満たすという仮定、すなわち\(0\in Y\)が成り立つことは、\(F\left( 0\right) \leq 0\)が成り立つことと必要十分です。

命題(変換関数の性質としての操業停止可能性)
生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)および変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)が与えられたとき、\begin{equation*}F\left( 0\right) \leq 0
\end{equation*}が成り立つことは、操業停止可能性が成り立つための必要十分条件である。

例(操業停止可能性)
2種類の商品が存在する経済における変換関数\(F:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)が、それぞれの\(\left(y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}F\left( y_{1},y_{2}\right) =y_{2}+y_{1}
\end{equation*}を定めるものとして定義されています。生産ベクトル\(\left( 0,0\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}F\left( 0,0\right) =0+0=0
\end{equation*}が成り立つため、先の命題より生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{2}\)は操業停止可能性を満たします。
例(操業停止可能性)
2種類の商品が存在する経済における変換関数\(F:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)が、それぞれの\(\left(y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}F\left( y_{1},y_{2}\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
y_{2}-\left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}} & \left( if\ \left(
y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} _{-}\times \mathbb{R} \right) \\
1 & \left( if\ \left( y_{1},y_{2}\right) \not\in \mathbb{R} _{-}\times \mathbb{R} \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとして定義されています。生産ベクトル\(\left( 0,0\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}F\left( 0,0\right) =0-\left\vert 0\right\vert ^{\frac{1}{2}}=0
\end{equation*}が成り立つため、先の命題より生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{2}\)は操業停止可能性を満たします。

 

演習問題

問題(操業停止可能性)
2種類の商品が存在する経済における生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} _{-}\times \mathbb{R} \ |\ y_{2}\leq \left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{equation*}と定義されています。\(Y\)は操業停止可能性を満たすでしょうか。議論してください。
証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(操業停止可能性)
3種類の商品が存在する経済における生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2},y_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3}\ |\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq 0\wedge y_{3}\leq \left\vert
y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\left\vert y_{2}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{equation*}と定義されています。\(Y\)は操業停止可能性を満たすでしょうか。議論してください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

Twitter
Mailで保存

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

関連知識

生産集合

現実の生産者は様々な制約に直面しているため、商品空間に属するすべての生産計画を選択できるわけではありません。そこで、生産者が選択可能な生産計画からなる商品空間の部分集合を生産集合と呼びます。

効率生産集合

生産者が技術的に選択可能な2つの生産ベクトルが与えられたとき、一方が他方よりも、より少ない投入でより多くを生産できるのであれば、それは効率的であると言えます。

変換関数

生産集合は生産者が技術的に選択可能なすべての生産ベクトルからなる集合であるため、生産者の技術は生産集合の形状として表現されます。一方、生産者の技術を変換関数と呼ばれる関数を用いて表現することもできます。

限界変形率

変換フロンティア上の生産ベクトルを出発点として、商品iの純産出量を1単位変化させてもなお、変換フロンティア上に留まるために変化させる必要のある商品jの純産出量を、その生産ベクトルにおける商品iの商品jで測った限界変形率と呼びます。

生産集合の非空性

生産者は生産集合に属する生産ベクトルを選ぶため、仮に生産集合が空集合であるならば、生産者がどのような選択を行うかという問題を検討する余地がなくなってしまいます。

生産集合の連続性

生産集合が閉集合であるという仮定を連続性の仮定と呼びます。変換関数が連続関数である場合には生産集合は連続性を満たします。

生産集合の凸性

生産者理論では生産集合が凸集合であることを仮定することがあります。これは変換関数が準凸関数であることを意味します。

生産集合の中立性

何らかの生産物の純産出量を増やそうとする行為が技術的に不可能であるような局面が必ず到来する場合、生産集合は中立性を満たすと言います。

1生産物モデルにおける生産集合

分析対象となる生産者にとって生産要素と生産物を事前に区別できる場合には、1生産物モデルと呼ばれるモデルを利用します。1生産物モデルにおける生産者の技術を生産集合として定式化します。

1生産物モデルにおける効率生産集合

1生産物モデルにおいて生産者が技術的に選択可能な2つの生産ベクトルが与えられたとき、一方が他方よりも、より少ない投入でより多くを生産できるのであれば、それは効率的であると言えます。

生産関数

1生産物モデルにおいて生産者の技術を生産集合と呼ばれる概念を用いて表現しましたが、生産者の技術を生産関数と呼ばれる関数を用いて表現することもできます。

1生産物モデルにおける生産集合の非空性

1生産物モデルにおいて生産者は生産集合に属する生産ベクトルを選ぶため、仮に生産集合が空集合であるならば、生産者がどのような選択を行うかという問題を検討する余地がなくなってしまいます。

生産者理論