操業停止可能性
生産者の技術が生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)として表現されているものとします。このとき、\(Y\)がゼロベクトルを要素として持つならば、すなわち、\begin{equation*}0=\left( 0,\cdots ,0\right) \in Y
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(Y\)は操業停止可能性(possibility of inaction)を満たすと言います。
ゼロベクトルはすべての商品の純産出がゼロであるような生産ベクトルに相当します。したがって、操業停止可能性の仮定は、生産者が投入や産出を一切行わないことが可能であることを意味します。
例えば、生産者が設備投資への投資など生産要素の購入契約を結んでおり、それを取り消すことができない場合などには操業停止可能性は成立しません。そのような場合、生産者は生産要素を得る対価として支払わなければならない費用を持ちますが、そのような費用をサンク費用(sunk cost)や埋没費用などと呼びます。操業停止可能性の仮定はサンク費用が存在しないことを想定します。長期の生産を議論の対象とする場合には固定生産要素は存在しないため、操業停止可能性は妥当な仮定であると言えます。
変換関数の性質としての操業停止可能性
生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)が与えられたとき、変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)は任意の\(y\in \mathbb{R} ^{N}\)に対して、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ y\in Y\Leftrightarrow F\left( y\right) \leq 0 \\
&&\left( b\right) \ y\in Y^{f}\Leftrightarrow F\left( y\right) =0
\end{eqnarray*}を満たすものとして定義されます。したがって、生産集合\(Y\)が操業停止可能性を満たすという仮定、すなわち\(0\in Y\)が成り立つことは、\(F\left( 0\right) \leq 0\)が成り立つことと必要十分です。
\end{equation*}が成り立つことは、操業停止可能性が成り立つための必要十分条件である。
\end{equation*}を定めるものとして定義されています。生産ベクトル\(\left( 0,0\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}F\left( 0,0\right) =0+0=0
\end{equation*}が成り立つため、先の命題より生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{2}\)は操業停止可能性を満たします。
\begin{array}{cc}
y_{2}-\left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}} & \left( if\ \left(
y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} _{-}\times \mathbb{R} \right) \\
1 & \left( if\ \left( y_{1},y_{2}\right) \not\in \mathbb{R} _{-}\times \mathbb{R} \right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとして定義されています。生産ベクトル\(\left( 0,0\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}F\left( 0,0\right) =0-\left\vert 0\right\vert ^{\frac{1}{2}}=0
\end{equation*}が成り立つため、先の命題より生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{2}\)は操業停止可能性を満たします。
演習問題
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} _{-}\times \mathbb{R} \ |\ y_{2}\leq \left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{equation*}と定義されています。\(Y\)は操業停止可能性を満たすでしょうか。議論してください。
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2},y_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3}\ |\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq 0\wedge y_{3}\leq \left\vert
y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\left\vert y_{2}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{equation*}と定義されています。\(Y\)は操業停止可能性を満たすでしょうか。議論してください。
プレミアム会員専用コンテンツです
【ログイン】【会員登録】