生産関数の存在条件

生産関数は任意の生産集合に対して定義できるわけではありません。本稿では、生産関数が存在するために必要な条件として、生産集合の閉性、可能産出量集合の非空性、上方有界性を解説し、それらが果たす役割を証明と具体例を通じて学びます。

生産関数の存在条件

これまで、生産者の技術を生産集合や生産関数などの概念を用いて表現しました。簡単に復習します。

\(N\)生産要素\(1\)生産物モデルにおける生産ベクトルは投入ベクトルと産出量の組\begin{equation*}\left( \boldsymbol{x},y\right) =\left( x_{1},\cdots ,x_{N},y\right) \in \mathbb{R} _{+}^{N+1}
\end{equation*}として表現されます。生産者が技術的に選択可能な生産ベクトルからなる集合は生産集合\begin{equation*}
Y\subset \mathbb{R} _{+}^{N+1}
\end{equation*}として表現されます。生産関数\(f:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が存在する場合には、それぞれの投入ベクトル\(\boldsymbol{x}\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)に対して、\begin{eqnarray*}f\left( \boldsymbol{x}\right) &=&\max P\left( \boldsymbol{x}\right) \\
&=&\max \left\{ y\in \mathbb{R} _{+}\ |\ \left( \boldsymbol{x},y\right) \in Y\right\}
\end{eqnarray*}を定めます。ただし、\begin{equation*}
P\left( \boldsymbol{x}\right) =\left\{ y\in \mathbb{R} _{+}\ |\ \left( \boldsymbol{x},y\right) \in Y\right\}
\end{equation*}は\(\boldsymbol{x}\)の可能産出量集合です。

しかし、生産関数は任意の生産集合に対して常に定義できるわけではありません。生産関数は、投入ベクトルを固定したときの最大産出量を表す関数であるため、各投入ベクトルに対して最大産出量が実際に存在することが必要です。例えば、産出量の上限にはいくらでも近づけるものの、その上限を達成できない生産集合では、生産関数を定義することはできません。そこで本節では、生産関数が存在するための条件について考えます。

生産集合\(Y\subset \mathbb{R} _{+}^{N+1}\)が以下の3つの条件を満たすものとします。

1つ目の条件は、生産集合\(Y\)が閉性を満たすというものです。つまり、\(Y\)はユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{N+1}\)上の閉集合です。

2つ目の条件は、任意の投入ベクトル\(\boldsymbol{x}\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)に対して、可能産出量集合\(P\left( \boldsymbol{x}\right) \)が非空であるというものです。つまり、\begin{equation*}P\left( \boldsymbol{x}\right) \not=\phi
\end{equation*}が成り立つということです。これは、投入\(\boldsymbol{x}\)のもとで実行可能な産出量が少なくとも1つ存在することを意味します。

3つ目の条件は、任意の投入ベクトル\(\boldsymbol{x}\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)に対して、可能産出量集合\(P\left( \boldsymbol{x}\right) \)が上に有界であるというものです。つまり、\begin{equation*}\exists M\in \mathbb{R} ,\ \forall y\in P\left( \boldsymbol{x}\right) :y\leq M
\end{equation*}が成り立つということです。これは、投入\(\boldsymbol{x}\)を固定したまま産出量を際限なく増やすことはできないことを意味します。

以上の諸条件が満たされる場合、生産関数が存在することを保証できます。

命題(生産関数の存在条件)
\(N\)生産要素\(1\)生産物モデルにおいて生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N+1}\)が閉性を満たすとともに、任意の投入ベクトル\(\boldsymbol{x}\in \mathbb{R} _{+}^{N}\)に対して、可能産出量集合\begin{equation*}P\left( \boldsymbol{x}\right) =\left\{ y\in \mathbb{R} _{+}\ |\ \left( \boldsymbol{x},y\right) \in Y\right\}
\end{equation*}が非空かつ上に有界であるものとする。この場合、生産関数\(f:\mathbb{R} _{+}^{N}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が存在する。
証明

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例(生産関数の存在条件)
2生産要素1生産物モデルにおける生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( x_{1},x_{2},y\right) \in \mathbb{R} _{+}^{3}\ |\ y\leq x_{1}^{\frac{1}{2}}x_{2}^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{equation*}であるものとします。\(Y\)は閉集合であるとともに、任意の\(\left(x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}P\left( x_{1},x_{2}\right) &=&\left\{ y\in \mathbb{R} _{+}\ |\ \left( x_{1},x_{2},y\right) \in Y\right\} \\
&=&\left\{ y\in \mathbb{R} _{+}\ |\ y\leq x_{1}^{\frac{1}{2}}x_{2}^{\frac{1}{2}}\right\} \\
&=&\left[ 0,x_{1}^{\frac{1}{2}}x_{2}^{\frac{1}{2}}\right] \end{eqnarray*}ですが、これは非空かつ上に有界な集合です。したがって先の命題より生産関数\(f:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が存在します。実際、\(f\)はそれぞれの\(\left(x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}f\left( x_{1},x_{2}\right) &=&\max P\left( x_{1},x_{2}\right) \\
&=&\max \left[ 0,x_{1}^{\frac{1}{2}}x_{2}^{\frac{1}{2}}\right] \\
&=&x_{1}^{\frac{1}{2}}x_{2}^{\frac{1}{2}}
\end{eqnarray*}を定めます。

例(生産関数の存在条件)
2生産要素1生産物モデルにおける生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( x_{1},x_{2},y\right) \in \mathbb{R} _{+}^{3}\ |\ y\leq x_{1}+2x_{2}\right\}
\end{equation*}であるものとします。\(Y\)は閉集合であるとともに、任意の\(\left(x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}P\left( x_{1},x_{2}\right) &=&\left\{ y\in \mathbb{R} _{+}\ |\ \left( x_{1},x_{2},y\right) \in Y\right\} \\
&=&\left\{ y\in \mathbb{R} _{+}\ |\ y\leq x_{1}+2x_{2}\right\} \\
&=&\left[ 0,x_{1}+2x_{2}\right] \end{eqnarray*}ですが、これは非空かつ上に有界な集合です。したがって先の命題より生産関数\(f:\mathbb{R} _{+}^{2}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が存在します。実際、\(f\)はそれぞれの\(\left(x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}f\left( x_{1},x_{2}\right) &=&\max P\left( x_{1},x_{2}\right) \\
&=&\max \left[ 0,x_{1}+2x_{2}\right] \\
&=&x_{1}+2x_{2}
\end{eqnarray*}を定めます。

 

先の命題が要求する条件の吟味

生産関数の存在を保証する先の命題では3つの条件が設けられていました。条件が満たされない場合、生産関数が存在することを保証できません。

まずは、生産集合が閉性を満たさない例です。

例(生産関数が存在しないケース)
1生産要素1生産物モデルにおいて、生産集合が、\begin{eqnarray*}
Y &=&\mathbb{R} _{+}\times \lbrack 0,1) \\
&=&\left\{ \left( x,y\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\ |\ 0\leq y<1\right\}
\end{eqnarray*}であるものとします。\(Y\)は閉集合ではなく、生産関数\(f:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)は存在しません(演習問題)。

続いて、可能産出量集合が非空ではない例です。

例(生産関数が存在しないケース)
1生産要素1生産物モデルにおいて、生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( x,0\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\ |\ x\geq 1\right\}
\end{equation*}であるものとします。\(0\leq x<1\)を満たす任意の\(x\in \mathbb{R} \)において、\begin{equation*}P\left( x\right) =\phi
\end{equation*}であり、ゆえに生産関数は\([0,1)\)上に定義されません(演習問題)。

最後に、可能産出量集合が上に有界ではない例です。

例(生産関数が存在しないケース)
1生産要素1生産物モデルにおいて、生産集合が、\begin{equation*}
Y=\mathbb{R} _{+}^{2}
\end{equation*}であるものとします。任意の\(x\in \mathbb{R} _{+}\)において\(P\left( x\right) \)は上に有界ではなく、生産関数\(f:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)は存在しません(演習問題)。

 

演習問題

問題(生産関数が存在しないケース)
1生産要素1生産物モデルにおいて、生産集合が、\begin{eqnarray*}
Y &=&\mathbb{R} _{+}\times \lbrack 0,1) \\
&=&\left\{ \left( x,y\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\ |\ 0\leq y<1\right\}
\end{eqnarray*}であるものとします。以下の問いに答えてください。

  1. \(Y\)が閉集合ではないことを示してください。
  2. 生産関数\(f:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が存在しないことを示してください。
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問題(生産関数が存在しないケース)
1生産要素1生産物モデルにおいて、生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( x,0\right) \in \mathbb{R} _{+}^{2}\ |\ x\geq 1\right\}
\end{equation*}であるものとします。以下の問いに答えてください。

  1. \(0\leq x<1\)を満たす任意の\(x\in \mathbb{R} \)において、\begin{equation*}P\left( x\right) =\phi \end{equation*}であることを示してください。
  2. 生産関数\(f:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が\([0,1)\)上に定義されないことを示してください。
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問題(生産関数が存在しないケース)
1生産要素1生産物モデルにおいて、生産集合が、\begin{equation*}
Y=\mathbb{R} _{+}^{2}
\end{equation*}であるものとします。以下の問いに答えてください。

  1. 任意の\(x\in \mathbb{R} _{+}\)について\(P\left( x\right) \)が上に有界ではないことを示してください。
  2. 生産関数\(f:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} _{+}\)が存在しないことを示してください。
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