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生産者理論

変換関数

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変換関数

生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)は生産者が技術的に選択可能なすべての生産ベクトルからなる集合であるため、生産者の技術は生産集合\(Y\)の形状として表現されます。一方、生産者の技術を関数を用いて表現することもできます。具体的には、生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)が与えられたとき、任意の\(y\in \mathbb{R} ^{N}\)に対して、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ y\in Y\Leftrightarrow F\left( y\right) \leq 0 \\
&&\left( b\right) \ y\in Y^{f}\Leftrightarrow F\left( y\right) =0
\end{eqnarray*}を満たす多変数関数\begin{equation*}
F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が存在するのであれば、これを変換関数(transformation function)と呼びます。ただし\(Y^{f}\)は\(Y\)の境界、すなわち変換フロンティアです。

条件\(\left( a\right) \)は、生産ベクトル\(y\)が技術的に選択可能であることと、変換関数\(F\)が\(y\)に対して定める値が非正であることが必要十分であることを意味します。条件\(\left( b\right) \)は、生産ベクトル\(y\)が生産集合\(Y\)の境界点であることと、\(F\)が\(y\)に対して定める値がゼロであることが必要十分であることを意味します。以上を踏まえると、変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)が与えられたとき、逆に、生産集合\(Y\)およびその境界\(Y^{f}\)を、\begin{eqnarray*}Y &=&\left\{ y\in \mathbb{R} ^{N}\ |\ F\left( y\right) \leq 0\right\} \\
Y^{f} &=&\left\{ y\in \mathbb{R} ^{N}\ |\ F\left( y\right) =0\right\}
\end{eqnarray*}と表現できます。

変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)が与えられたとき、生産ベクトル\(y\in \mathbb{R} ^{N}\)が\(F\left( y\right) \leq 0\)を満たす場合には\(F\)の定義より\(y\in Y\)が成り立つため、生産者にとって\(y\)は技術的に選択可能な生産ベクトルです。一方、\(F\left( y\right) >0\)を満たす場合にはやはり\(F\)の定義より\(y\not\in Y\)が成り立つため、生産者にとって\(y\)は技術的に選択不可能です。以上を踏まえると、変換関数\(F\)が\(y\)に対して定める値\(F\left(y\right) \)は生産者が\(y\)を実行するために必要な技術進歩の程度と解釈できます。つまり、\(F\left( y\right) >0\)が成り立つ場合、生産者は\(y\)を実行するために正の技術進歩が必要であり、現在の技術水準では\(y\)を実行できないということです。\(F\left( y\right) \leq 0\)の場合には反対の関係が成り立ちます。

例(変換関数)
2財モデルにおける生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{2}\leq -y_{1}\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします(下図)。

図:生産集合
図:生産集合

この場合、変換関数\(F:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)が存在して、それぞれの\(\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}F\left( y_{1},y_{2}\right) =y_{1}+y_{2}
\end{equation*}を定めます。実際、任意の\(\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}F\left( y,y_{2}\right) \leq 0 &\Leftrightarrow &y_{1}+y_{2}\leq 0\quad
\because F\text{の定義} \\
&\Leftrightarrow &y_{2}\leq -y_{1} \\
&\Leftrightarrow &\left( y_{1},y_{2}\right) \in Y\quad \because Y\text{の定義}
\end{eqnarray*}という関係が成立しています。また、変換フロンティアが\begin{equation*}
Y^{f}=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{2}=-y_{1}\right\}
\end{equation*}であることを踏まえると、任意の\(\left( y_{1},y_{2}\right)\in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{eqnarray*}F\left( y,y_{2}\right) =0 &\Leftrightarrow &y_{1}+y_{2}=0\quad \because F\text{の定義} \\
&\Leftrightarrow &y_{2}=-y_{1} \\
&\Leftrightarrow &\left( y_{1},y_{2}\right) \in Y^{f}\quad \because Y^{f}\text{の定義}
\end{eqnarray*}という関係も成立しています。したがって、\(F\)は変換関数としての要件を満たしています。

例(変換関数)
2財モデルにおける変換関数\(F:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの\(\left( y_{1},y_{2}\right)\in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}F\left( y_{1},y_{2}\right) =y_{2}-\left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}
\end{equation*}を定めるものとします。生産集合\(Y\)は、\begin{eqnarray*}Y &=&\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ F\left( y_{1},y_{2}\right) \leq 0\right\} \\
&=&\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{2}-\left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\leq 0\right\} \\
&=&\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{2}\leq \left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{eqnarray*}であり、変換フロンティア\(Y^{f}\)は、\begin{eqnarray*}Y^{f} &=&\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ F\left( y_{1},y_{2}\right) =0\right\} \\
&=&\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{2}-\left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}=0\right\} \\
&=&\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{2}=\left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{eqnarray*}です。

変換関数は存在するとは限りません。以下の例より明らかです。

例(変換関数)
2財モデルにおける生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{2}<-y_{1}\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします(下図)。

図:生産集合
図:生産集合

変換関数\(F:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)が存在するものと仮定します。\(\left( 0,0\right) \)は\(Y\)の要素ではないため、変換関数の定義より、\begin{equation*}F\left( 0,0\right) >0
\end{equation*}が成り立ちます。\(\left(0,0\right) \)は\(Y\)の境界点であるため、変換関数の定義より、\begin{equation*}F\left( 0,0\right) =0
\end{equation*}が成り立ちます。これらが同時に成り立つことは\(F\)が関数であることと矛盾であるため、背理法より、変換関数は存在しません。

上の例が示唆するように、生産集合\(Y\)が閉集合ではない場合、\(Y\)の要素ではない\(Y\)の境界点が存在し得るため、変換関数\(F\)が存在しない状況が発生します。逆に、生産集合\(Y\)が閉集合である場合には\(Y^{f}\subset Y\)という関係が成り立つため、以下の性質\begin{equation*}F\left( y\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\leq 0 & \left( if\ y\in Y\right) \\
=0 & \left( if\ y\in Y^{f}\right) \\
>0 & \left( if\ y\not\in Y\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を満たす関数\(F\)を適当に構成することができ、これは変換関数としての要件を満たします。

変換関数が存在する場合、それは一意的に定まるとは限りません。以下の例より明らかです。

例(変換関数)
2財モデルにおける生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq -y_{1}\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします(下図)。

図:生産集合
図:生産集合

関数\(F:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの\(\left( y_{1},y_{2}\right)\in \mathbb{R} ^{2}\)に対して定める値が、\begin{equation*}F\left( y_{1},y_{2}\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
y_{2}-y_{1} & \left( if\ y_{1}\leq 0\right) \\
y_{1} & \left( if\ y_{1}>0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}であるとき、\(F\)は変換関数としての要件を満たします。同時に、関数\(G:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)がそれぞれの\(\left( y_{1},y_{2}\right)\in \mathbb{R} ^{2}\)に対して定める値が、\begin{equation*}G\left( y_{1},y_{2}\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
y_{2}-y_{1} & \left( if\ y_{1}\leq 0\right) \\
1 & \left( if\ y_{1}>0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}であるとき、\(G\)もまた変換関数としての要件を満たします。

 

変換関数と効率生産ベクトルの関係

生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)と狭義効率生産集合\(Y^{\ast }\)および変換フロンティア\(Y^{f}\)の間には、\begin{equation*}Y^{\ast }\subset Y\cap Y^{f}
\end{equation*}という関係が成り立ちます。以上を踏まえると、任意の\(y\in \mathbb{R} ^{N}\)について、\begin{eqnarray*}y\in Y^{\ast } &\Rightarrow &y\in Y^{f} \\
&\Leftrightarrow &F\left( y\right) =0\quad \because F\text{の定義}
\end{eqnarray*}が成り立ちます。つまり、変換関数\(F\)が狭義効率的な生産ベクトルに対して定める値は\(0\)です。

命題(変換関数と効率生産ベクトルの関係)
生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{N}\)と狭義効率生産集合\(Y^{\ast }\)および変換関数\(F:\mathbb{R} ^{N}\rightarrow \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}\forall y\in \mathbb{R} ^{N}:\left[ y\in Y^{\ast }\Rightarrow F\left( y\right) =0\right] \end{equation*}という関係が成り立つ。

上の命題の逆は成立するとは限りません。つまり、\(F\left( y\right) =0\)が成り立つ場合、\(y\)は狭義効率的であるとは限りません。生産集合の境界点は狭義効率的であるとは限らないからです。以下の例より明らかです。

例(変換関数と効率生産ベクトルの関係)
2種類の商品が存在する経済における生産集合\(Y\subset \mathbb{R} ^{2}\)が下図のグレーの領域として描かれています。境界\(Y^{f}\)が変換フロンティアです。

図:効率生産集合
図:効率生産集合

変換フロンティア上の生産ベクトル\(y,y^{\prime }\in Y^{f}\)を上図のように選びます。\(F\)の定義より\(F\left( y^{\prime }\right) =F\left( y\right) =0\)です。ただ、\(y\)は\(y^{\prime }\)を広義支配するため、\(y^{\prime }\)は狭義効率的ではなく、したがって\(y^{\prime }\not\in Y^{\ast} \)です。

 

演習問題

問題(変換関数)
2財モデルにおいて生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{2}\leq -y_{1}\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします。この技術を表現する変換関数\(F:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)を明らかにしてください。
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問題(変換関数)
2財モデルにおいて生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq \left\vert y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします。この技術を表現する変換関数\(F:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)を明らかにしてください。
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問題(変換関数)
3財モデルにおいて生産集合が、\begin{equation*}
Y=\left\{ \left( y_{1},y_{2},y_{3}\right) \in \mathbb{R} ^{3}\ |\ y_{1}\leq 0\wedge y_{2}\leq 0\wedge y_{3}\leq \left\vert
y_{1}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\left\vert y_{2}\right\vert ^{\frac{1}{2}}\right\}
\end{equation*}で与えられているものとします。この技術を表現する変換関数\(F:\mathbb{R} ^{3}\rightarrow \mathbb{R} \)を明らかにしてください。
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問題(変換関数)
2財モデルにおいて変換関数\(F:\mathbb{R} ^{2}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(\left( y_{1},y_{2}\right)\in \mathbb{R} ^{2}\)に対して、\begin{equation*}F\left( y_{1},y_{2}\right) =e^{2y_{1}}+e^{y_{2}}-2
\end{equation*}を定めるものとします。生産集合\(Y\)と変換フロンティア\(Y^{f}\)を求めてください。
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関連知識

生産集合

現実の生産者は様々な制約に直面しているため、商品空間に属するすべての生産計画を選択できるわけではありません。そこで、生産者が選択可能な生産計画からなる商品空間の部分集合を生産集合と呼びます。

効率生産集合

生産者が技術的に選択可能な2つの生産ベクトルが与えられたとき、一方が他方よりも、より少ない投入でより多くを生産できるのであれば、それは効率的であると言えます。

限界変形率

変換フロンティア上の生産ベクトルを出発点として、商品iの純産出量を1単位変化させてもなお、変換フロンティア上に留まるために変化させる必要のある商品jの純産出量を、その生産ベクトルにおける商品iの商品jで測った限界変形率と呼びます。

生産集合の非空性

生産者は生産集合に属する生産ベクトルを選ぶため、仮に生産集合が空集合であるならば、生産者がどのような選択を行うかという問題を検討する余地がなくなってしまいます。

生産集合の連続性

生産集合が閉集合であるという仮定を連続性の仮定と呼びます。変換関数が連続関数である場合には生産集合は連続性を満たします。

生産集合の操業停止可能性

生産集合がゼロベクトルを要素として持つ場合、生産集合は商業停止可能性を満たすと言います。これは、生産者が投入や産出を一切行わないことが可能であることを意味します。

私有経済のモデル

消費者と生産者と商品が存在する経済において、商品および生産者である企業がいずれも消費者によって保有される状況を私有経済と呼ばれるモデルとして定式化します。

生産集合の凸性

生産者理論では生産集合が凸集合であることを仮定することがあります。これは変換関数が準凸関数であることを意味します。

私有経済におけるパレート効率的な配分

私有経済において消費者は効用最大化原理にもとづいて行動し、生産者は利潤最大化原理にもとづいて行動する一方で、それとは別に、社会的に望ましい配分を考えることもできます。パレート効率性という基準のもとで社会的に望ましい配分を定義します。

生産集合の中立性

何らかの生産物の純産出量を増やそうとする行為が技術的に不可能であるような局面が必ず到来する場合、生産集合は中立性を満たすと言います。

1生産物モデルにおける生産集合

分析対象となる生産者にとって生産要素と生産物を事前に区別できる場合には、1生産物モデルと呼ばれるモデルを利用します。1生産物モデルにおける生産者の技術を生産集合として定式化します。

1生産物モデルにおける効率生産集合

1生産物モデルにおいて生産者が技術的に選択可能な2つの生産ベクトルが与えられたとき、一方が他方よりも、より少ない投入でより多くを生産できるのであれば、それは効率的であると言えます。

生産関数

1生産物モデルにおいて生産者の技術を生産集合と呼ばれる概念を用いて表現しましたが、生産者の技術を生産関数と呼ばれる関数を用いて表現することもできます。

1生産物モデルにおける生産集合の非空性

1生産物モデルにおいて生産者は生産集合に属する生産ベクトルを選ぶため、仮に生産集合が空集合であるならば、生産者がどのような選択を行うかという問題を検討する余地がなくなってしまいます。

生産者理論