検索
Close this search box.
ベクトル値関数の微分

滑らかな曲線と正則な曲線

滑らかな曲線

区間上に定義された1変数のベクトル値関数\begin{equation*}
\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset I\rightarrow \mathbb{R} ^{m}
\end{equation*}が与えられているものとします。つまり、\(\boldsymbol{f}\)はそれぞれの実数\(x\in I\)に対して、ベクトル\begin{equation*}\boldsymbol{f}\left( x\right) =\left(
\begin{array}{c}
f_{1}\left( x\right) \\
\vdots \\
f_{m}\left( x\right)
\end{array}\right) \in \mathbb{R} ^{m}
\end{equation*}を値として定めるということです。ただし、\begin{equation*}
f_{i}:\mathbb{R} \supset I\rightarrow \mathbb{R} \ \left( i=1,\cdots ,m\right)
\end{equation*}はベクトル値関数\(\boldsymbol{f}\)の成分関数に相当する1変数の実数値関数です。\(\boldsymbol{f}\)の値域、すなわち\(\boldsymbol{f}\)から定義される曲線は、\begin{equation*}C\left( \boldsymbol{f}\right) =\left\{ \boldsymbol{f}\left( x\right) \in \mathbb{R} ^{m}\ |\ x\in I\right\}
\end{equation*}です。点\(x\in I\)が区間\(I\)の内点である場合、\(\boldsymbol{f}\)の微分可能性と連続性として通常の微分可能性と連続性を採用します。一方、\(I=\left[ a,b\right] \)などの場合、端点\(a,b\)における微分可能性と連続性としては片側微分可能性と片側連続性を採用します。

ベクトル値関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset I\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)が区間\(I\)上で\(C^{1}\)級である場合には、\(\boldsymbol{f}\)は滑らかである(smooth)と言います。またこのとき、曲線\(C\left( \boldsymbol{f}\right) \)を滑らかな曲線(smooth curve)と呼びます。ただし、\(C^{\infty }\)級であることによって滑らかであることの定義とするケースもあるため文脈から判断する必要があります。

私たちが「滑らかな曲線」を想像するとき、それはカクカクしておらず、筆がよどみなく流れるような線を思い浮かべます。実際には、曲線\(C\left( \boldsymbol{f}\right) \)が滑らかであったとしても、すなわち\(\boldsymbol{f}\)が\(C^{1}\)級であっても、描かれる曲線に尖った部分が現れることがあります。以下の例より明らかです。

例(尖った曲線)
関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}\boldsymbol{f}\left( x\right) =\left(
\begin{array}{c}
x^{3} \\
x^{2}\end{array}\right)
\end{equation*}を定めるものとします。多項式関数\(x^{3},x^{2}\)はともに\(C^{1}\)級であるため\(\boldsymbol{f}\)もまた\(C^{1}\)級であり、ゆえに\(\boldsymbol{f}\)および\(\boldsymbol{f}\)から定義される曲線\begin{equation*}C\left( \boldsymbol{f}\right) =\left\{ \left(
\begin{array}{c}
x^{3} \\
x^{2}\end{array}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x\in \mathbb{R} \right\}
\end{equation*}は滑らかです。その一方で、この曲線は点\(\left( 0,0\right) \)において尖っています(下図)。

図:尖った曲線
図:尖った曲線

実際、曲線\(C\left( \boldsymbol{f}\right) \)の接ベクトルは、\begin{equation*}\boldsymbol{f}^{\prime }\left( x\right) =\left(
\begin{array}{c}
3x^{2} \\
2x\end{array}\right)
\end{equation*}であるため、\(x=0\)の時点における接ベクトルは、\begin{equation*}\boldsymbol{f}^{\prime }\left( 0\right) =\left(
\begin{array}{c}
0 \\
0\end{array}\right)
\end{equation*}であり、そのときの速さは、\begin{equation*}
\left\Vert \boldsymbol{f}^{\prime }\left( 0\right) \right\Vert =0
\end{equation*}です。つまり、\(x=0\)の時点において曲線上の点は停止するため、接ベクトルすなわち点が進む方向に関する情報が消失し、曲線の接線が一意的に定まりません。接線が一意的に定まらないこととは、進む方向が左右で一致しないことを意味し、その結果として曲線が尖ってしまいます。

以上の例より、曲線の接ベクトルがゼロベクトルである時点において曲線上の点は停止し、ゆえに曲線は尖ってしまうことが明らかになりました。接ベクトルがゼロベクトルである場合には曲線が急に引き返してしまう事態も起こり得ます。以下の例より明らかです。

例(曲線上を引き返す点)
関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}\boldsymbol{f}\left( x\right) =\left(
\begin{array}{c}
x^{2} \\
0\end{array}\right)
\end{equation*}を定めるものとします。多項式関数\(x^{3},0\)はともに\(C^{1}\)級であるため\(\boldsymbol{f}\)もまた\(C^{1}\)級であり、ゆえに\(\boldsymbol{f}\)および\(\boldsymbol{f}\)から定義される曲線\begin{equation*}C\left( \boldsymbol{f}\right) =\left\{ \left(
\begin{array}{c}
x^{2} \\
0\end{array}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x\in \mathbb{R} \right\}
\end{equation*}は滑らかです。曲線\(C\left( \boldsymbol{f}\right) \)の接ベクトルは、\begin{equation*}\boldsymbol{f}^{\prime }\left( x\right) =\left(
\begin{array}{c}
2x \\
0\end{array}\right)
\end{equation*}であるため、\(x=0\)の時点における接ベクトルは、\begin{equation*}\boldsymbol{f}^{\prime }\left( 0\right) =\left(
\begin{array}{c}
0 \\
0\end{array}\right)
\end{equation*}であり、そのときの速さは、\begin{equation*}
\left\Vert \boldsymbol{f}^{\prime }\left( 0\right) \right\Vert =0
\end{equation*}です。つまり、\(x=0\)の時点において曲線上の点は停止するため、接ベクトルすなわち点が進む方向に関する情報が消失し、接線が一意的に定まりません。さらに、\(x\)が負の値をとりながら\(0\)に近づくにつれて点\(\boldsymbol{f}\left( x\right) \)は右側から原点\(\left( 0,0\right) \)へ近づき、\(x=0\)の時点において点\(\boldsymbol{f}\left( x\right) \)は原点\(\left( 0,0\right) \)と一致し、\(x\)が正の値をとりながら\(0\)から離れるにつれて点\(\boldsymbol{f}\left( x\right) \)は原点\(\left( 0,0\right) \)から右側へ離れていくため、\(x=0\)の時点を境に点\(\boldsymbol{f}\left( x\right) \)は来た道を引き返しています。

 

正則な曲線

先の例が示唆するように、曲線の接ベクトルがゼロベクトルになる場合には、曲線が尖ったり、曲線上の点が引き返してしまう事態が起こり得ます。そのような事態を回避するためには接ベクトルがゼロベクトルになり得ないという追加的な条件が必要です。

以上を踏まえた上で、ベクトル値関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset I\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)が滑らかであるとともに、すなわち区間\(I\)上で\(C^{1}\)級であるとともに、導関数が非ゼロベクトルのみを値としてとり得る場合には、すなわち、\begin{equation*}\forall x\in I:\boldsymbol{f}^{\prime }\left( x\right) \not=\boldsymbol{0}
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(\boldsymbol{f}\)は正則である(regular)と言います。またこのとき、曲線\(C\left( \boldsymbol{f}\right) \)を正則な曲線(regular curve)と呼びます。ただし、\(C^{\infty }\)級であることによって滑らかであることの定義とする場合もあるため、\(C^{\infty }\)級であるとともに導関数が非ゼロベクトルのみを値としてとることとして正則であることの定義とする場合もあります。文脈から判断する必要があります。

例(正則な曲線)
関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset \left[ 0,2\pi \right] \rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(x\in \left[ 0,2\pi \right] \)に対して、\begin{equation*}\boldsymbol{f}\left( x\right) =\left(
\begin{array}{c}
\cos \left( x\right) \\
\sin \left( x\right)
\end{array}\right)
\end{equation*}を定めるものとします。\(\boldsymbol{f}\)は\(C^{1}\)級であるため滑らかです。さらに、任意の\(x\in \left[ 0,2x\right] \)について、\begin{equation*}\boldsymbol{f}^{\prime }\left( x\right) =\left(
\begin{array}{c}
-\sin \left( x\right) \\
\cos \left( x\right)
\end{array}\right) \not=\left(
\begin{array}{c}
0 \\
0\end{array}\right)
\end{equation*}が成り立つため\(\boldsymbol{f}\)は正則でもあります。\(\boldsymbol{f}\)から定義される曲線は、\begin{equation*}C\left( \boldsymbol{f}\right) =\left\{ \left(
\begin{array}{c}
\cos \left( x\right) \\
\sin \left( x\right)
\end{array}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x\in \left[ 0,2\pi \right] \right\}
\end{equation*}ですが、これは単位円です。単位円は滑らかに途切れなく繋がっているだけでなく、尖った部分は存在せず、また単位円上を動く点は引き返しません。

正則な曲線が尖った部分を持たない理由は明らかですが、正則な曲線上を動く点が引き返さない理由は自明ではありません。なぜでしょうか。ベクトル値関数\(\boldsymbol{f}\)が区間\(I\)上で正則であるものとします。この場合、導関数\(\boldsymbol{f}^{\prime }\)は\(I\)上で連続であるとともに、点\(x_{0}\in I\)を任意に選ぶと、\begin{equation*}\boldsymbol{f}^{\prime }\left( x_{0}\right) \not=\boldsymbol{0}
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\left(
\begin{array}{c}
f_{1}^{\prime }\left( x_{0}\right) \\
\vdots \\
f_{m}^{\prime }\left( x_{0}\right)
\end{array}\right) \not=\left(
\begin{array}{c}
0 \\
\vdots \\
0\end{array}\right)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(f_{1}^{\prime }\left( x_{0}\right) ,\cdots,f_{m}^{\prime }\left( x_{0}\right) \)の中の少なくとも1つ\(f_{i}^{\prime }\left( x_{0}\right) \)が正または負のどちらか一方になります。導関数\(\boldsymbol{f}^{\prime }\)は連続であるため、点\(x_{0}\)に限りなく近い任意の点\(x\)において\(f_{i}^{\prime }\left(x\right) \)の符号は\(f_{i}^{\prime }\left(x_{0}\right) \)の符号と一致します。以上の事実は、点\(x_{0}\)の近傍において\(f_{i}\left( x\right) \)が狭義単調増加または狭義単調減少であることを意味するため、点\(x_{0}\)において曲線上の点は引き返しません。\(I\)上の任意の点について同様の議論が成立するため、正則な曲線上を動く点は引き返さないことが明らかになりました。

 

弧長の評価

\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義されたベクトル値関数\begin{equation*}\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} ^{m}
\end{equation*}が\(C^{1}\)級である場合には、曲線\begin{equation*}C\left( \boldsymbol{f}\right) =\left\{ \boldsymbol{f}\left( x\right) \in \mathbb{R} ^{m}\ |\ x\in \left[ a,b\right] \right\}
\end{equation*}は求長可能であるとともに、弧長は、\begin{equation*}
\Lambda \left( a,b\right) =\int_{a}^{b}\left\Vert \boldsymbol{f}^{\prime
}\left( x\right) \right\Vert dx
\end{equation*}として導出可能であることを明らかにしました。

ベクトル値関数\(\boldsymbol{f}\)が正則である場合には\(C^{1}\)級でもあるため、先の命題より、速さをパラメータがとり得る区間上で積分すれば弧長すなわち曲線上を動く点の道のりを導出できます。\(\boldsymbol{f}\)が正則であるとは限らない一方で滑らかである場合にはどうでしょうか。この場合にも\(\boldsymbol{f}\)は\(C^{1}\)級であるため先の命題を利用できます。つまり、曲線に尖っている箇所があったり、点が曲線上において引き返してしまう場合においても、速さをパラメータがとり得る区間上で積分すれば、曲線上を動く点の道のりを正しく導出できます。

例(曲線の弧長)
関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset \left[ -1,1\right] \rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(x\in \left[ -1,1\right]\)に対して、\begin{equation*}\boldsymbol{f}\left( x\right) =\left(
\begin{array}{c}
x^{2} \\
0\end{array}\right)
\end{equation*}を定めるものとします。先に示したように\(\boldsymbol{f}\)は滑らかですが正則ではありません。\(\boldsymbol{f}\)から定義される曲線\begin{equation*}C\left( \boldsymbol{f}\right) =\left\{ \left(
\begin{array}{c}
x^{2} \\
0\end{array}\right) \in \mathbb{R} ^{2}\ |\ x\in \left[ -1,1\right] \right\}
\end{equation*}は原点\(\left( 0,0\right) \)と点\(\left(1,0\right) \)を端点とする線分です。弧長を計算すると、\begin{eqnarray*}\Lambda \left( -1,1\right) &=&\int_{-1}^{1}\left\Vert \boldsymbol{f}^{\prime }\left( x\right) \right\Vert dx \\
&=&\int_{-1}^{1}\left\Vert \left(
\begin{array}{c}
2x \\
0\end{array}\right) \right\Vert dx \\
&=&\int_{-1}^{1}\sqrt{4x^{2}}dx \\
&=&\int_{-1}^{1}2\left\vert x\right\vert dx \\
&=&\int_{-1}^{0}\left( -2x\right) dx+\int_{0}^{1}2xdx \\
&=&\left[ -x^{2}\right] _{-1}^{0}+\left[ x^{2}\right] _{0}^{1} \\
&=&1+1 \\
&=&2
\end{eqnarray*}となります。実際、曲線上の点は点\(\left( 1,0\right) \)を出発して原点\(\left( 0,0\right) \)に行き、そこから引き返して点\(\left( 1,0\right) \)へ戻るため、点の道のりは\(2\)です。

 

弧長関数の評価

曲線の弧長、すなわち曲線上を動く点の道のりを特定する上で、曲線が滑らかである場合と正則である場合とでは違いは生じないことが明らかになりました。一方、弧長関数に関しては両者の違いが明白になります。

\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義されたベクトル値関数\begin{equation*}\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} ^{m}
\end{equation*}が\(C^{1}\)級である場合には、曲線\begin{equation*}C\left( \boldsymbol{f}\right) =\left\{ \boldsymbol{f}\left( x\right) \in \mathbb{R} ^{m}\ |\ x\in \left[ a,b\right] \right\}
\end{equation*}は求長可能であるため、弧長関数\(s:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が定義可能であるとともに、これはそれぞれの\(x\in \left[ a,b\right] \)に対して、\begin{equation*}s\left( x\right) =\Lambda \left( a,x\right) =\int_{a}^{x}\left\Vert
\boldsymbol{f}^{\prime }\left( t\right) \right\Vert dt
\end{equation*}を値として定めます。しかも、弧長関数\(s\)は単調増加関数です。

曲線が正則である場合、弧長関数は狭義単調増加になることが保証されます。

命題(正則な曲線の弧長関数は狭義単調増加)
\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義されたベクトル値関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)が正則であるならば、弧長関数\(s:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が定義可能であるとともに、これは狭義単調増加関数である。
証明

会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

曲線\(\boldsymbol{f}\)が正則である場合には弧長関数\(s:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が狭義単調増加であることが明らかになりました。つまり、\(s\)は単射です。この場合、\(s\)の終集合を値域に制限して、\begin{equation*}s:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow s\left( \left[ a,b\right] \right)
\end{equation*}とすれば全単射になるため、その逆関数\begin{equation*}
s^{-1}:\mathbb{R} \supset s\left( \left[ a,b\right] \right) \rightarrow \left[ a,b\right] \end{equation*}が存在します。この場合、パラメータの値と弧長の間には1対1の関係が成り立つとともに、両者の組\(\left(x_{0},s_{0}\right) \in \left[ a,b\right] \times s\left( \left[ a,b\right] \right) \)を任意に選んだとき、以下の関係\begin{equation*}s\left( x_{0}\right) =s_{0}\Leftrightarrow s^{-1}\left( s_{0}\right) =x_{0}
\end{equation*}が成り立ちます。弧長関数\(s\)はパラメータの値が\(x_{0}\)であるときの弧長\(s\left( x_{0}\right) \)を特定できますが、曲線が正則である場合には弧長関数の逆関数\(s^{-1}\)が存在するため、弧長が\(s_{0}\)であるときのパラメータの値\(s^{-1}\left(s_{0}\right) \)を一意的に特定することもできます。パラメータが時間\(t\)である場合、以上の事実は、動点の位置を経過時間から特定できるだけでなく、点の道のりからも完全に特定できることを意味します。

曲線\(\boldsymbol{f}\)が滑らかである一方で正則ではない場合、弧長関数が狭義単調増加にならない事態が起こり得ます。以下の例より明らかです。

例(狭義単調増加ではない弧長関数)
関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset \left[ -1,2\right] \rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(x\in \left[ -1,2\right]\)に対して、\begin{equation*}\boldsymbol{f}\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
\left(
\begin{array}{c}
x^{2} \\
0\end{array}\right) & \left( if\ -1\leq x<0\right) \\
\left(
\begin{array}{c}
0 \\
0\end{array}\right) & \left( if\ 0\leq x\leq 1\right) \\
\left(
\begin{array}{c}
\left( x-1\right) ^{2} \\
0\end{array}\right) & \left( if\ 1<x\leq 2\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。\(\boldsymbol{f}\)は滑らかである一方で正則ではありません。さらに、弧長関数\(s:\mathbb{R} \supset \left[ -1,2\right] \rightarrow \mathbb{R} \)は狭義単調増加関数ではありません(演習問題)。

先の例とは異なり、正則ではない滑らかな曲線の弧長関数が狭義単調増加になるケースも存在します。とは言え、弧長関数が必ず狭義単調増加になることを保証するためには曲線は正則である必要があります。弧長関数が狭義単調増加ではない単調増加関数である場合、逆関数が存在することを保証できません。弧長関数の逆関数が存在することを保証するためには曲線が正則である必要があるということです。弧長関数の逆関数が存在することのメリットについては場を改めて後述します。

 

単位接ベクトルの評価

ベクトル値関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset I\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)が点\(a\in I\)において微分可能である場合の微分係数\begin{equation*}\boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right) =\left(
\begin{array}{c}
f_{1}^{\prime }\left( a\right) \\
\vdots \\
f_{n}^{\prime }\left( a\right)
\end{array}\right) \in \mathbb{R} ^{m}
\end{equation*}を曲線\(C\left( \boldsymbol{f}\right) \)の点\(\boldsymbol{f}\left( a\right) \)における接ベクトル(速度ベクトル)と呼びます。接ベクトル\(\boldsymbol{f}^{\prime }\left(a\right) \)はベクトルであるため、曲線\(C\left( \boldsymbol{f}\right) \)の点\(\boldsymbol{f}\left( a\right) \)における向きと大きさ、すなわち曲線\(C\left( \boldsymbol{f}\right) \)の接線の点\(\boldsymbol{f}\left( a\right) \)における向きと大きさに関する情報をともに含んでいます。そこで、曲線\(C\left( \boldsymbol{f}\right) \)が点\(\boldsymbol{f}\left( a\right) \)において向いている方向だけを抽出したい場合には、ベクトル\(\boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right) \)の大きさを\(1\)に正規化して、単位接ベクトル\begin{equation*}\boldsymbol{T}\left( a\right) =\frac{\boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right)
}{\left\Vert \boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right) \right\Vert }
\end{equation*}を利用します。

ベクトル値関数\(\boldsymbol{f}\)が正則である場合には\(\boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right) \not=\boldsymbol{0}\)ゆえに\(\left\Vert \boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right)\right\Vert >0\)であり、したがって単位接ベクトル\(\frac{\boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right) }{\left\Vert \boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right) \right\Vert }\)すなわち\(\boldsymbol{T}\left( a\right) \)が定義可能です。一方、ベクトル値関数\(\boldsymbol{f}\)が滑らかである一方で正則ではない場合には\(\boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right) =\boldsymbol{0}\)すなわち\(\left\Vert \boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right) \right\Vert =0\)という事態が起こり得ます。この場合には\(\frac{\boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right) }{\left\Vert \boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right) \right\Vert }\)すなわち\(\boldsymbol{T}\left( a\right) \)が定義不可能です。単位接ベクトルが常に定義可能であることを保証するためには曲線が滑らかであるだけでは不十分で、正則である必要があるということです。

 

曲率の評価

ベクトル値関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset I\rightarrow \mathbb{R} ^{m}\)が点\(a\in I\)において微分可能である場合の曲率を、\begin{equation*}\kappa \left( a\right) =\frac{\left\Vert \boldsymbol{T}^{\prime }\left(
a\right) \right\Vert }{\left\Vert \boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right)
\right\Vert }
\end{equation*}と定義しました。曲率を利用すれば曲線\(C\left( \boldsymbol{f}\right) \)の点\(\boldsymbol{f}\left(a\right) \)における曲がり方の激しさをスカラーを用いて表現できます。

ベクトル値関数\(\boldsymbol{f}\)が正則である場合には\(\boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right) \not=\boldsymbol{0}\)ゆえに\(\left\Vert \boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right)\right\Vert >0\)であり、したがって曲率\(\frac{\left\Vert \boldsymbol{T}^{\prime}\left( a\right) \right\Vert }{\left\Vert \boldsymbol{f}^{\prime }\left(
a\right) \right\Vert }\)すなわち\(\kappa \left(a\right) \)が定義可能です。一方、ベクトル値関数\(\boldsymbol{f}\)が滑らかである一方で正則ではない場合には\(\boldsymbol{f}^{\prime }\left(a\right) =\boldsymbol{0}\)すなわち\(\left\Vert \boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right) \right\Vert =0\)という事態が起こり得ます。この場合には\(\frac{\left\Vert \boldsymbol{T}^{\prime }\left( a\right) \right\Vert }{\left\Vert \boldsymbol{f}^{\prime }\left( a\right) \right\Vert }\)すなわち\(\kappa \left( a\right) \)が定義不可能です。曲率が常に定義可能であることを保証するためには曲線が滑らかであるだけでは不十分で、正則である必要があるということです。

 

演習問題

問題(尖点を持つ非正則曲線)
関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}\boldsymbol{f}\left( x\right) =\left(
\begin{array}{c}
x^{2} \\
x^{4}\end{array}\right)
\end{equation*}を定めるものとします。以下の問いに答えてください。

  1. \(\boldsymbol{f}\)が滑らかであることを示してください。
  2. \(\boldsymbol{f}\)が正則ではないことを示してください。
  3. 曲線\(C\left( \boldsymbol{f}\right) \)を\(y=g\left(x\right) \)の形で表し、原点\(\left( 0,0\right) \)付近での形状の特徴を述べてください。
解答を見る

会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(周期的な停止をともなう曲線)
関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset \left[ 0,2\right] \rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(x\in \left[ 0,2\right] \)に対して、\begin{equation*}\boldsymbol{f}\left( x\right) =\left(
\begin{array}{c}
\left( x-1\right) ^{3}+1 \\
0\end{array}\right)
\end{equation*}を定めるものとします。以下の問いに答えてください。

  1. \(\boldsymbol{f}\)が滑らかであることを示してください。
  2. \(\boldsymbol{f}\)が正則ではないことを示してください。
  3. 弧長関数\(s:\mathbb{R} \supset \left[ 0,2\right] \rightarrow \mathbb{R} \)は狭義単調増加であるか判定してください。
解答を見る

会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(狭義単調増加ではない弧長関数)
関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}\boldsymbol{f}\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cl}
\left(
\begin{array}{c}
x^{2} \\
0\end{array}\right) & \left( if\ -1\leq x<0\right) \\
\left(
\begin{array}{c}
0 \\
0\end{array}\right) & \left( if\ 0\leq x\leq 1\right) \\
\left(
\begin{array}{c}
\left( x-1\right) ^{2} \\
0\end{array}\right) & \left( if\ 1<x\leq 2\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。以下の問いに答えてください。

  1. \(\boldsymbol{f}\)が滑らかであることを示してください。
  2. \(\boldsymbol{f}\)が正則ではないことを示してください。
  3. 弧長関数\(s:\mathbb{R} \supset \left[ -1,2\right] \rightarrow \mathbb{R} \)が狭義単調増加ではないことを示してください。
解答を見る

会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(正則ではない曲線)
\(a<b\)を満たす実数\(a,b\in \mathbb{R} \)を端点とする有界閉区間上に定義されたベクトル値関数\begin{equation*}\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset \left[ a,b\right] \rightarrow \mathbb{R} ^{m}
\end{equation*}がそれぞれの\(t\in \left[ a,b\right] \)に対して定める値が、ベクトル\(\boldsymbol{c}\in \mathbb{R} ^{m}\)を用いて、\begin{equation*}\boldsymbol{f}\left( t\right) =\boldsymbol{c}
\end{equation*}と表されるものとします。つまり、\(\boldsymbol{f}\)は定値関数です。曲線\(C\left( \boldsymbol{f}\right) \)を特定するとともに、この曲線が滑らかである一方で正則ではないことを示してください。
解答を見る

会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(正則な曲線の長さ)
関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset \left[ 0,2\pi \right] \rightarrow \mathbb{R} ^{2}\)がそれぞれの\(t\in \left[ 0,2\pi \right] \)に対して定める値が、定数\(r>0\)を用いて、\begin{equation*}\boldsymbol{f}\left( t\right) =\left(
\begin{array}{c}
r\cos \left( t\right) \\
r\sin \left( t\right)
\end{array}\right)
\end{equation*}と表されるものとします。曲線\(C\left( \boldsymbol{f}\right) \)が正則であることを示すとともに、その弧長を求めてください。
解答を見る

会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(正則な曲線の長さ)
関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset \left[ 0,\pi \right] \rightarrow \mathbb{R} ^{4}\)はそれぞれの\(t\in \left[ 0,\pi \right] \)に対して、\begin{equation*}\boldsymbol{f}\left( t\right) =\left(
\begin{array}{c}
\cos \left( t\right) \\
\sin \left( t\right) \\
\cos \left( 2t\right) \\
\sin \left( 2t\right)
\end{array}\right)
\end{equation*}を定めるものとします。曲線\(C\left( \boldsymbol{f}\right) \)が正則であることを示すとともに、その曲線の弧長を求めてください。
解答を見る

会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

問題(正則な曲線の長さ)
関数\(\boldsymbol{f}:\mathbb{R} \supset \left[ 0,\pi \right] \rightarrow \mathbb{R} ^{3}\)はそれぞれの\(t\in \left[ 0,\pi \right] \)に対して、\begin{equation*}\boldsymbol{f}\left( t\right) =\left(
\begin{array}{c}
\cos \left( t\right) \\
\sin \left( t\right) \\
t^{2}\end{array}\right)
\end{equation*}を定めるものとします。曲線\(C\left( \boldsymbol{f}\right) \)が正則であることを示すとともに、その曲線の弧長を求めてください。
解答を見る

会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

関連知識

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです

会員登録

有料のプレミアム会員であれば、質問やコメントの投稿と閲覧、プレミアムコンテンツ(命題の証明や演習問題とその解答)へのアクセスなどが可能になります。

WIISでは、年齢・性別・学歴・職業・社会的立場などにかかわらず、すべてのユーザーが「学ぶ人」として対等であると考えています。ここは、知識を競う場所ではなく、互いに尊重し合いながら理解を深めていく場です。安心して思考し、質問し、考え続けられる環境を、みなさんと一緒につくっていきたいと考えています。

誤字脱字、リンク切れ、内容の誤りを発見した場合にはコメントに投稿するのではなく、以下のフォームからご連絡をお願い致します。

会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録