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1変数関数の微分

関数のテイラー近似多項式

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微分可能な関数の1次のテイラー近似多項式

関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が定義域上の点\(a\in X\)において微分可能である場合には、そこでの微分係数\(f^{\prime }\left( a\right) \)に相当する有限な実数が存在するとともに、点\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において、\begin{equation*}f\left( x\right) \approx f\left( a\right) +f^{\prime }\left( a\right) \cdot
\left( x-a\right)
\end{equation*}という近似式が成り立ちます。つまり、関数\(f\)を点\(a\)で微分することとは、点\(a\)の周辺において関数\(f\)を変数\(x\)に関する1次の多項式関数\begin{equation}f\left( a\right) +f^{\prime }\left( a\right) \cdot \left( x-a\right)
\quad \cdots (1)
\end{equation}で近似することを意味します。そこで、この多項式関数を、\begin{equation*}
P_{1,a}\left( x\right) =f\left( a\right) +f^{\prime }\left( a\right) \cdot
\left( x-a\right)
\end{equation*}で表記し、\(a\)における\(f\)\(1\)次のテイラー近似多項式(1st degree Taylor approximating polynomial of \(f\) at \(a\))と呼びます。

関数\(f\)の\(1\)次のテイラー近似多項式\(P_{1,a}\left( x\right) \)は点\(a\)の取り方に依存します。また、近似多項式\(P_{1,a}\left( x\right) \)のグラフは関数\(f\)のグラフの点\(a\)における接線に相当します。

例(微分可能な関数の1次のテイラー近似多項式)
関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation}f\left( x\right) =e^{x} \quad \cdots (1)
\end{equation}を定めるものとします。自然指数関数は\(\mathbb{R} \)上で微分可能であり、導関数\(f^{\prime }:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation}f^{\prime }\left( x\right) =e^{x} \quad \cdots (2)
\end{equation}を定めます。点\(a\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、点\(a\)における\(f\)の\(1\)次のテイラー近似多項式は、\begin{eqnarray*}P_{1,a}\left( x\right) &=&f\left( a\right) +f^{\prime }\left( a\right)
\cdot \left( x-a\right) \quad \because P_{1}\left( a\right) \text{の定義} \\
&=&e^{a}+e^{a}\left( x-a\right) \quad \because \left( 1\right) ,\left(
2\right)
\end{eqnarray*}です。特に、点\(0\)における\(f\)の\(1\)次のテイラー近似多項式は、\begin{eqnarray*}P_{1,0}\left( x\right) &=&e^{0}+e^{0}\left( x-0\right) \\
&=&1+x
\end{eqnarray*}です。関数\(f\)のグラフは下図の黒い曲線として、近似多項式\(P_{1,0}\left( x\right) \)は青い曲線としてそれぞれ描かれています。\(P_{1,0}\left( x\right) \)のグラフは点\(0\)における\(f\)のグラフの接線であるため、たしかに点\(0\)の周辺の任意の点\(x\)において\(P_{1,0}\left( x\right) \)は\(f\)を近似しています。
図:点0における1次の近似多項式
図:点0における1次の近似多項式
例(微分可能な関数の1次のテイラー近似多項式)
関数\(f:\mathbb{R} _{++}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} _{++}\)に対して、\begin{equation}f\left( x\right) =\ln x \quad \cdots (1)
\end{equation}を定めるものとします。自然対数関数は\(\mathbb{R} _{++}\)上で微分可能であり、導関数\(f^{\prime }:\mathbb{R} _{++}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} _{++}\)に対して、\begin{equation}f^{\prime }\left( x\right) =\frac{1}{x} \quad \cdots (2)
\end{equation}を定めます。点\(a\in \mathbb{R} _{++}\)を任意に選んだとき、点\(a\)における\(f\)の\(1\)次のテイラー近似多項式は、\begin{eqnarray*}P_{1,a}\left( x\right) &=&f\left( a\right) +f^{\prime }\left( a\right)
\cdot \left( x-a\right) \quad \because P_{1}\left( a\right) \text{の定義} \\
&=&\ln a+\frac{1}{a}\cdot \left( x-a\right) \quad \because \left( 1\right)
,\left( 2\right)
\end{eqnarray*}です。特に、点\(1\)における\(f\)の\(1\)次のテイラー近似多項式は、\begin{eqnarray*}P_{1,1}\left( x\right) &=&\ln 1+\frac{1}{1}\cdot \left( x-1\right) \\
&=&0+x-1 \\
&=&x-1
\end{eqnarray*}です。関数\(f\)のグラフは下図の黒い曲線として、近似多項式\(P_{1,1}\left( x\right) \)は青い曲線として描かれています。\(P_{1,1}\left( x\right) \)のグラフは点\(1\)における\(f\)のグラフの接線であるため、たしかに点\(1\)の周辺の任意の点\(x\)において\(P_{1,1}\left( x\right) \)は\(f\)を近似しています。

図:点1における1次のテイラー近似多項式
図:点1における1次のテイラー近似多項式

 

2階微分可能な関数の2次のテイラー近似多項式

繰り返しになりますが、関数\(f\)を点\(a\)において微分することとは、その点\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において、もとの複雑な関数\(f\)をより単純な1次の多項式関数\(P_{1,a}\left( x\right) \)によって近似することを意味します。一方、このような考え方とは逆に、関数\(f\)を高次の多項式関数によって近似することにより近似の精度を高めようとする考え方もあります。順番に解説します。

繰り返しになりますが、関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)を点\(a\in X\)の周辺の任意の点\(x\)において変数\(x\)に関する1次の多項式関数によって近似することを考えます。つまり、変数\(x\)に関する1次多項式関数を、\begin{equation}P_{1,a}\left( x\right) =c_{0}+c_{1}\cdot \left( x-a\right) \quad \left(
c_{0},c_{1}\in \mathbb{R} \right) \quad \cdots (1)
\end{equation}とおいたとき、点\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において、\begin{equation*}f\left( x\right) \approx P_{1,a}\left( x\right)
\end{equation*}という近似関係が成り立つことを保証するためには、定数\(c_{0},c_{1}\)をそれぞれどのように定めればよいでしょうか。先の議論より、関数\(f\)が点\(a\)において微分可能である場合には、多項式関数\(P_{1,a}\left( x\right) \)として関数\(f\)の点\(a\)における1次の近似多項式\begin{equation*}P_{1,a}\left( x\right) =f\left( a\right) +f^{\prime }\left( a\right) \cdot
\left( x-a\right)
\end{equation*}を採用すれば目標は達成されるため、定数\(c_{0},c_{1}\)として、\begin{eqnarray}c_{0} &=&f\left( a\right) \quad \cdots (2) \\
c_{1} &=&f^{\prime }\left( a\right) \quad \cdots (3)
\end{eqnarray}を採用することになります。関数\(f\)は点\(a\)において微分可能であるため、以上の\(c_{0},c_{1}\)をとることができることに注意してください。加えて、\(\left( 1\right) \)より、\begin{eqnarray*}P_{1,a}\left( a\right) &=&c_{0} \\
P_{1,a}^{\prime }\left( a\right) &=&c_{1}
\end{eqnarray*}となるため、これと\(\left( 2\right) ,\left( 3\right) \)より、\begin{eqnarray}P_{1,a}\left( a\right) &=&f\left( a\right) \quad \cdots (4) \\
P_{1,a}^{\prime }\left( a\right) &=&f^{\prime }\left( a\right) \quad \cdots (5)
\end{eqnarray}という関係を得ます。

では、関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)を点\(a\in X\)の周辺の任意の点\(x\)において変数\(x\)に関する2次の多項式関数によって近似できるでしょうか。つまり、変数\(x\)に関する2次の多項式関数を、\begin{equation*}P_{2,a}\left( x\right) =c_{0}+c_{1}\cdot \left( x-a\right) +c_{2}\cdot
\left( x-a\right) ^{2}\quad \left( c_{0},c_{1},c_{2}\in \mathbb{R} \right)
\end{equation*}とおいたとき、点\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において、\begin{equation*}f\left( x\right) \approx P_{2,a}\left( x\right)
\end{equation*}という近似関係が成り立つことを保証するためには、定数\(c_{0},c_{1},c_{2}\)をそれぞれどのように定めればよいでしょうか。試みとして、1次のテイラー近似多項式\(P_{1,a}\left( x\right) \)の性質\(\left( 4\right) ,\left( 5\right) \)を踏まえた上で、2次の多項式関数\(P_{2,a}\left( x\right) \)に対しても同様の性質\begin{eqnarray*}P_{2,a}\left( a\right) &=&f\left( a\right) \\
P_{2,a}^{\prime }\left( a\right) &=&f^{\prime }\left( a\right) \\
P_{2,a}^{\prime \prime }\left( a\right) &=&f^{\prime \prime }\left(
a\right)
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation}
P_{2,a}^{\left( k\right) }=f^{\left( k\right) }\left( a\right) \quad \left(
k=0,1,2\right) \quad \cdots (6)
\end{equation}を要求してみましょう。ただし、以上の要求を可能にするためには関数\(f\)は点\(a\)において2階微分可能である必要があります。

以上の条件\(\left( 6\right) \)を満たす変数\(x\)に関する多項式関数\(P_{2,a}\left( x\right) \)を\(a\)における\(f\)\(2\)次のテイラー近似多項式(2nd degree Taylor approximating polynomialof \(f\) at \(a\))と呼びます。条件\(\left( 6\right) \)を踏まえると定数\(c_{0},c_{1},c_{2}\)をそれぞれ以下のように特定できます。

命題(2次のテイラー近似多項式)
関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)は定義域上の点\(a\in X\)において\(2\)階微分可能であるものとする。このとき、点\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において定義された変数\(x\)に関する\(2\)次の多項式関数\begin{equation*}P_{2,a}\left( x\right) =c_{0}+c_{1}\cdot \left( x-a\right) +c_{2}\cdot
\left( x-a\right) ^{2}\quad \left( c_{0},c_{1},c_{2}\in \mathbb{R} \right)
\end{equation*}が以下の条件\begin{equation*}
P_{2,a}^{\left( k\right) }=f^{\left( k\right) }\left( a\right) \quad \left(
k=0,1,2\right)
\end{equation*}を満たす場合には、\begin{equation*}
c_{k}=\frac{f^{\left( k\right) }\left( a\right) }{k!}\quad \left(
k=0,1,2\right)
\end{equation*}という関係が成り立つ。したがって、点\(a\)における\(f\)の\(2\)次のテイラー近似多項式は、\begin{equation*}P_{2,a}\left( x\right) =f\left( a\right) +f^{\prime }\left( a\right) \cdot
\left( x-a\right) +\frac{f^{\prime \prime }\left( a\right) }{2}\cdot \left(
x-a\right) ^{2}
\end{equation*}となる。

証明

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関数\(f\)が定義域上の点\(a \)において\(2\)階微分可能である場合、点\(a\)における\(f\)の\(2\)次のテイラー近似多項式は、\begin{equation*}P_{2,a}\left( x\right) =f\left( a\right) +f^{\prime }\left( a\right) \cdot
\left( x-a\right) +\frac{f^{\prime \prime }\left( a\right) }{2}\cdot \left(
x-a\right) ^{2}
\end{equation*}として与えられることが明らかになりましたが、後ほど示すように、\(P_{2,a}\left( x\right) \)は1次のテイラー近似多項式\(P_{1,a}\left( x\right) \)と同様、点\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において\(f\)を近似します。つまり、点\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において、\begin{equation*}f\left( x\right) \approx P_{2,a}\left( x\right)
\end{equation*}という近似関係が成立します。しかも、点\(a\)の周辺の任意の点において\(P_{2,a}\left( x\right) \)は\(P_{1,a}\left( x\right) \)よりも高い精度で\(f\)を近似します。厳密な証明は後ほど行うことにして、まずは実例を通じて以上の主張が正しいことを確認します。

例(微分可能な関数の2次のテイラー近似多項式)
関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation}f\left( x\right) =e^{x} \quad \cdots (1)
\end{equation}を定めるものとします。自然指数関数は\(\mathbb{R} \)上で2階微分可能であり、1階の導関数\(f^{\prime }:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)と2階の導関数\(f^{\prime \prime }:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)それぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{eqnarray}f^{\prime }\left( x\right) &=&e^{x} \quad \cdots (2) \\
f^{\prime \prime }\left( x\right) &=&e^{x} \quad \cdots (3)
\end{eqnarray}を定めます。点\(a\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、点\(a\)における\(f\)の\(1\)次のテイラー近似多項式は、\begin{eqnarray*}P_{1,a}\left( x\right) &=&f\left( a\right) +f^{\prime }\left( a\right)
\cdot \left( x-a\right) \quad \because P_{1,a}\left( x\right) \text{の定義} \\
&=&e^{a}+e^{a}\left( x-a\right) \quad \because \left( 1\right) ,\left(
2\right)
\end{eqnarray*}であり、点\(a\)における\(f\)の\(2\)次のテイラー近似多項式は、\begin{eqnarray*}P_{2,a}\left( x\right) &=&f\left( a\right) +f^{\prime }\left( a\right)
\cdot \left( x-a\right) +\frac{f^{\prime \prime }\left( a\right) }{2}\cdot
\left( x-a\right) ^{2}\quad \because P_{2,a}\left( x\right) \text{の定義} \\
&=&e^{a}+e^{a}\left( x-a\right) +\frac{e^{a}}{2}\left( x-a\right) ^{2}\quad
\because \left( 1\right) ,\left( 2\right) ,\left( 3\right)
\end{eqnarray*}となります。特に、点\(0\)における\(f\)の\(1\)次および\(2\)次のテイラー近似多項式は、\begin{eqnarray*}P_{1,0}\left( x\right) &=&e^{0}+e^{0}\left( x-0\right) =1+x \\
P_{2,0}\left( x\right) &=&e^{0}+e^{0}\left( x-0\right) +\frac{e^{0}}{2}\left( x-0\right) ^{2}=1+x+\frac{1}{2}x^{2}
\end{eqnarray*}となります。関数\(f\)のグラフは下図の黒い曲線として、\(P_{1,0}\left( x\right) \)のグラフは青い曲線として、\(P_{2,0}\left( x\right) \)のグラフは赤い曲線として描かれています。点\(0\)の周辺の任意の点において\(P_{2,0}\left( x\right) \)は\(P_{1,0}\left( x\right) \)よりも高い精度で\(f\)を近似していることを図から確認できます。

図:点0における1次と2次のテイラー近似多項式
図:点0における1次と2次のテイラー近似多項式
例(微分可能な関数の2次の近似多項式)
関数\(f:\mathbb{R} _{++}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} _{++}\)に対して、\begin{equation}f\left( x\right) =\ln x \quad \cdots (1)
\end{equation}を定めるものとします。自然対数関数は\(\mathbb{R} _{++}\)上で2階微分可能であり、1階の導関数\(f^{\prime}:\mathbb{R} _{++}\rightarrow \mathbb{R} \)と2階の導関数\(f^{\prime \prime }:\mathbb{R} _{++}\rightarrow \mathbb{R} \)それぞれの\(x\in \mathbb{R} _{++}\)に対して、\begin{eqnarray}f^{\prime }\left( x\right) &=&\frac{1}{x} \quad \cdots (2) \\
f^{\prime \prime }\left( x\right) &=&-\frac{1}{x^{2}} \quad \cdots (3)
\end{eqnarray}を定めます。点\(a\in \mathbb{R} _{++}\)を任意に選んだとき、点\(a\)における\(f\)の\(1\)次のテイラー近似多項式は、\begin{eqnarray*}P_{1,a}\left( x\right) &=&f\left( a\right) +f^{\prime }\left( a\right)
\cdot \left( x-a\right) \quad \because P_{1,a}\left( x\right) \text{の定義} \\
&=&\ln a+\frac{1}{a}\cdot \left( x-a\right) \quad \because \left( 1\right)
,\left( 2\right)
\end{eqnarray*}であり、点\(a\)における\(f\)の\(2\)次のテイラー近似多項式は、\begin{eqnarray*}P_{2,a}\left( x\right) &=&f\left( a\right) +f^{\prime }\left( a\right)
\cdot \left( x-a\right) +\frac{f^{\prime \prime }\left( a\right) }{2}\cdot
\left( x-a\right) ^{2}\quad \because P_{2,a}\left( x\right) \text{の定義} \\
&=&\ln a+\frac{1}{a}\cdot \left( x-a\right) -\frac{1}{2a^{2}}\cdot \left(
x-a\right) ^{2}\quad \because \left( 1\right) ,\left( 2\right)
\end{eqnarray*}となります。特に、点\(1\)における\(f\)の\(1\)次および\(2\)次のテイラー近似多項式は、\begin{eqnarray*}P_{1,1}\left( x\right) &=&\ln 1+\frac{1}{1}\cdot \left( x-1\right) =x-1 \\
P_{2,1}\left( x\right) &=&\ln 1+\frac{1}{1}\cdot \left( x-1\right) -\frac{1}{2\cdot 1^{2}}\cdot \left( x-1\right) ^{2}=-\frac{1}{2}x^{2}+2x-\frac{3}{2}
\end{eqnarray*}となります。関数\(f\)のグラフは下図の黒い曲線として、\(P_{1,1}\left( x\right) \)のグラフは青い曲線として、\(P_{2,1}\left( x\right) \)のグラフは赤い曲線として描かれています。点\(1\)の周辺の任意の点において\(P_{2,1}\left( x\right) \)は\(P_{1,1}\left( x\right) \)よりも高い精度で\(f\)を近似していることを図から確認できます。

図:点1における1次と2次のテイラー近似多項式
図:点1における1次と2次のテイラー近似多項式

 

\(n\)階微分可能な関数の\(n\)次のテイラー近似多項式

これまでの議論を一般化します。関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)が定義域上の点\(a\in X\)において\(n\)階微分可能であるとき、\(f\)を点\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において変数\(x\)に関する\(n\)次の多項式関数によって近似できるでしょうか。つまり、変数\(x\)に関する\(n\)次多項式関数を、\begin{eqnarray*}P_{n,a}\left( x\right) &=&\sum_{k=0}^{n}\left[ c_{k}\cdot \left( x-a\right)
^{k}\right] \quad \left( c_{k}\in \mathbb{R} \right) \\
&=&c_{0}+c_{1}\cdot \left( x-a\right) +c_{2}\cdot \left( x-a\right)
^{2}+\cdots +c_{n}\cdot \left( x-a\right) ^{n}
\end{eqnarray*}とおいたとき、点\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において、\begin{equation*}f\left( x\right) \approx P_{n,a}\left( x\right)
\end{equation*}という近似関係が成り立つことを保証するためには、定数\(c_{0},c_{1},c_{2},\cdots ,c_{n}\)をそれぞれどのように定めればよいでしょうか。以上の問題意識のもと、多項式関数\(P_{n,a}\left( x\right) \)に対して、\begin{equation*}P_{n,a}^{\left( k\right) }=f^{\left( k\right) }\left( a\right) \quad \left(
k=0,1,2,\cdots ,n\right)
\end{equation*}が成り立つことを要求します。仮定より\(f\)は点\(a\)において\(n\)階微分可能であるため、このような要求は可能です。以上の要求を満たす多項式関数\(P_{n,a}\left( x\right) \)を\(a\)における\(f\)\(n\)次のテイラー近似多項式(\(n\ \)th degree Taylor approximating polynomial of \(f\) at \(a\))と呼びます。以上の要求を踏まえると定数\(c_{0},c_{1},c_{2},\cdots ,c_{n}\)を以下のように特定できます。

命題((n)次のテイラー近似多項式)
関数\(f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \)は定義域上の点\(a\in X\)において\(n\)階微分可能であるものとする。このとき、点\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において定義される\(n\)次の多項式関数\begin{eqnarray*}P_{n,a}\left( x\right) &=&\sum_{k=0}^{n}\left[ c_{k}\cdot \left( x-a\right)
^{k}\right] \quad \left( c_{k}\in \mathbb{R} \right) \\
&=&c_{0}+c_{1}\cdot \left( x-a\right) +c_{2}\cdot \left( x-a\right)
^{2}+\cdots +c_{n}\cdot \left( x-a\right) ^{n}
\end{eqnarray*}が以下の条件\begin{equation*}
P_{n,a}^{\left( k\right) }=f^{\left( k\right) }\left( a\right) \quad \left(
k=0,1,2,\cdots ,n\right)
\end{equation*}を満たす場合には、\begin{equation*}
c_{k}=\frac{f^{\left( k\right) }\left( a\right) }{k!}\quad \left(
k=0,1,2,\cdots ,n\right)
\end{equation*}という関係が成り立つ。したがって、点\(a\)における\(f\)の\(n\)次のテイラー近似多項式は、\begin{eqnarray*}P_{n,a}\left( x\right) &=&\sum_{k=0}^{n}\left[ \frac{f^{\left( k\right)
}\left( a\right) }{k!}\cdot \left( x-a\right) ^{k}\right] \\
&=&f\left( a\right) +f^{\prime }\left( a\right) \cdot \left( x-a\right) +\frac{f^{\prime \prime }\left( a\right) }{2!}\cdot \left( x-a\right)
^{2}+\cdots +\frac{f^{\left( n\right) }\left( a\right) }{n!}\cdot \left(
x-a\right) ^{n}
\end{eqnarray*}となる。

証明

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関数\(f\)が定義域上の点\(a\)において\(n\)階微分可能である場合、点\(a\)における関数\(f\)の\(n\)次のテイラー近似多項式は、\begin{eqnarray*}P_{n,a}\left( x\right) &=&\sum_{k=0}^{n}\left[ \frac{f^{\left( k\right)
}\left( a\right) }{k!}\cdot \left( x-a\right) ^{k}\right] \\
&=&f\left( a\right) +f^{\prime }\left( a\right) \cdot \left( x-a\right) +\frac{f^{\prime \prime }\left( a\right) }{2!}\cdot \left( x-a\right)
^{2}+\cdots +\frac{f^{\left( n\right) }\left( a\right) }{n!}\cdot \left(
x-a\right) ^{n}
\end{eqnarray*}として与えられることが明らかになりました。ただ、この関数\(P_{n,a}\left( x\right) \)が点\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において\(f\)を近似すること、すなわち、点\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において、\begin{equation*}f\left( x\right) \approx P_{n,a}\left( x\right)
\end{equation*}という近似関係が成り立つことの根拠は示されていません。また、次数\(n\)を大きくするほど近似の精度が高くなることの根拠も示されていません。これらの主張の根拠を与えるのがテイラーの定理(Taylor’stheorem)です。次回はテイラーの定理について解説します。

 

演習問題

問題(テイラー近似多項式)
関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =3x^{2}-6x+5
\end{equation*}を定めるものとします。点\(a\in \mathbb{R} \)における\(2\)次のテイラー近似多項式\begin{equation*}P_{2,a}\left( x\right)
\end{equation*}を求めた上で、それを用いて、\begin{equation*}
P_{2,1}\left( x\right)
\end{equation*}を特定してください。

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問題(テイラー近似多項式)
関数\(f:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} _{+}\)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =x^{\frac{1}{2}}
\end{equation*}を定めるものとします。点\(a\in \mathbb{R} _{++}\)における\(3\)次のテイラー近似多項式\begin{equation*}P_{3,a}\left( x\right)
\end{equation*}を求めた上で、それを用いて、\begin{equation*}
P_{3,4}\left( x\right)
\end{equation*}を特定してください。

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