恒等関数の微分
恒等関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)が与えられているものとします。つまり、\(f\)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =x
\end{equation*}を定めるということです。
点\(a\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\(f\)は点\(a\)において微分可能であるとともに、そこでの微分係数は、\begin{equation*}f^{\prime }\left( a\right) =1
\end{equation*}となります。
命題(恒等関数の微分)
関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in X\)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =x
\end{equation*}を定めるものとする。点\(a\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\begin{equation*}f^{\prime }\left( a\right) =1
\end{equation*}が成り立つ。したがって、導関数\(f^{\prime }:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)が存在して、それぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f^{\prime }\left( x\right) =1
\end{equation*}を定める。
例(等速直線運動する物体の瞬間速度)
数直線上を移動する点を観察し、経過時間\(t\)と数直線上の点の位置を表す座標\(x\left( t\right) \)の関係を関数\begin{equation*}x:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}として整理したところ、任意の時点\(t\in \mathbb{R} _{+}\)において、\begin{equation*}x\left( t\right) =t
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。恒等関数の微分より、任意の時点\(t\in \mathbb{R} _{++}\)において、\begin{equation*}x^{\prime }\left( t\right) =1
\end{equation*}が成り立ちますが、以上の事実は、任意の時点\(t\)において、この物体の瞬間速度が\(1\)であることを意味します。つまり、この物体は等速直線運動をしています。
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。恒等関数の微分より、任意の時点\(t\in \mathbb{R} _{++}\)において、\begin{equation*}x^{\prime }\left( t\right) =1
\end{equation*}が成り立ちますが、以上の事実は、任意の時点\(t\)において、この物体の瞬間速度が\(1\)であることを意味します。つまり、この物体は等速直線運動をしています。
例(等加速運動をしている物体の瞬間加速度)
数直線上を移動する点を観察し、経過時間\(t\)と物体の瞬間速度\(v\left( t\right) \)の関係を関数\begin{equation*}v:\mathbb{R} _{+}\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}として整理したところ、任意の時点\(t\in \mathbb{R} _{+}\)において、\begin{equation*}v\left( t\right) =t
\end{equation*}でした。恒等関数の微分より、任意の時点\(t\in \mathbb{R} _{++}\)において、\begin{equation*}v^{\prime }\left( t\right) =1
\end{equation*}が成り立ちますが、以上の事実は、任意の時点において、この物体の瞬間加速度が\(1\)であることを意味します。つまり、この物体は等加速直線運動をしています。
\end{equation*}でした。恒等関数の微分より、任意の時点\(t\in \mathbb{R} _{++}\)において、\begin{equation*}v^{\prime }\left( t\right) =1
\end{equation*}が成り立ちますが、以上の事実は、任意の時点において、この物体の瞬間加速度が\(1\)であることを意味します。つまり、この物体は等加速直線運動をしています。
恒等関数の片側微分
片側微分可能性に関しても同様の命題が成り立ちます。
命題(恒等関数の片側微分)
関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in X\)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =x
\end{equation*}を定めるものとする。点\(a\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}\left( a\right) \ f^{\prime }\left( a+0\right) &=&1 \\
\left( b\right) \ f^{\prime }\left( a-0\right) &=&1
\end{eqnarray*}がともに成り立つ。したがって、右側導関数\(f_{+}^{\prime }:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)が存在して、それぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f_{+}^{\prime }\left( x+0\right) =1
\end{equation*}を定める。また、左側導関数\(f_{-}^{\prime }:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)が存在して、それぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f_{-}^{\prime }\left( x-0\right) =1
\end{equation*}を定める。
\end{equation*}を定めるものとする。点\(a\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}\left( a\right) \ f^{\prime }\left( a+0\right) &=&1 \\
\left( b\right) \ f^{\prime }\left( a-0\right) &=&1
\end{eqnarray*}がともに成り立つ。したがって、右側導関数\(f_{+}^{\prime }:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)が存在して、それぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f_{+}^{\prime }\left( x+0\right) =1
\end{equation*}を定める。また、左側導関数\(f_{-}^{\prime }:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)が存在して、それぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f_{-}^{\prime }\left( x-0\right) =1
\end{equation*}を定める。
例(恒等関数の片側微分)
関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
x & \left( if\ x\geq 0\right) \\
1 & \left( if\ x<0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。\(a>0\)を満たす点\(a\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において\(f\left( x\right) =x\)であるため、恒等関数の微分より、\begin{equation*}f^{\prime }\left( a\right) =1
\end{equation*}となります。また、点\(0\)以上の周辺の任意の点\(x\)において\(f\left( x\right) =x\)であるため、恒等関数の右側微分より、\begin{equation*}f^{\prime }\left( 0+0\right) =1
\end{equation*}となります。その一方で、点\(0\)以下の\(x\)について\(x\)の値によって\(f\left( x\right) \)の値が変わるため定義にもとづいて左側微分可能性を検討すると、\begin{eqnarray*}f^{\prime }\left( 0-0\right) &=&\lim_{h\rightarrow 0-}\frac{f\left(
0+h\right) -f\left( 0\right) }{h} \\
&=&\lim_{h\rightarrow 0-}\frac{1-0}{h}\quad \because h<0 \\
&=&\lim_{h\rightarrow 0-}\frac{1}{h} \\
&=&-\infty
\end{eqnarray*}であるため、\(f\)は点\(0\)において左側微分可能ではありません。したがって、\(f\)は点\(0\)において微分可能ではありません。\(a<0\)を満たす点\(a\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において\(f\left( x\right) =1\)であるため、定数関数の微分より、\begin{equation*}f^{\prime }\left( a\right) =0
\end{equation*}となります。以上より、\(f\)は\(\mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)上で微分可能であり、導関数\(f^{\prime }:\mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)に対して、\begin{equation*}f^{\prime }\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
1 & \left( if\ x>0\right) \\
0 & \left( if\ x<0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めます。また、\(f\)は\(\mathbb{R} \)上で右側微分可能であり、右側導関数\(f_{+}^{\prime }:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f_{+}^{\prime }\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
1 & \left( if\ x\geq 0\right) \\
0 & \left( if\ x<0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めます。また、\(f\)は\(\mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)上で左側微分可能であり、左側導関数\(f_{-}^{\prime }:\mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)に対して、\begin{equation*}f_{-}^{\prime }\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
1 & \left( if\ x\geq 0\right) \\
0 & \left( if\ x<0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めます。
\begin{array}{cc}
x & \left( if\ x\geq 0\right) \\
1 & \left( if\ x<0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。\(a>0\)を満たす点\(a\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において\(f\left( x\right) =x\)であるため、恒等関数の微分より、\begin{equation*}f^{\prime }\left( a\right) =1
\end{equation*}となります。また、点\(0\)以上の周辺の任意の点\(x\)において\(f\left( x\right) =x\)であるため、恒等関数の右側微分より、\begin{equation*}f^{\prime }\left( 0+0\right) =1
\end{equation*}となります。その一方で、点\(0\)以下の\(x\)について\(x\)の値によって\(f\left( x\right) \)の値が変わるため定義にもとづいて左側微分可能性を検討すると、\begin{eqnarray*}f^{\prime }\left( 0-0\right) &=&\lim_{h\rightarrow 0-}\frac{f\left(
0+h\right) -f\left( 0\right) }{h} \\
&=&\lim_{h\rightarrow 0-}\frac{1-0}{h}\quad \because h<0 \\
&=&\lim_{h\rightarrow 0-}\frac{1}{h} \\
&=&-\infty
\end{eqnarray*}であるため、\(f\)は点\(0\)において左側微分可能ではありません。したがって、\(f\)は点\(0\)において微分可能ではありません。\(a<0\)を満たす点\(a\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\(a\)の周辺の任意の点\(x\)において\(f\left( x\right) =1\)であるため、定数関数の微分より、\begin{equation*}f^{\prime }\left( a\right) =0
\end{equation*}となります。以上より、\(f\)は\(\mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)上で微分可能であり、導関数\(f^{\prime }:\mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)に対して、\begin{equation*}f^{\prime }\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
1 & \left( if\ x>0\right) \\
0 & \left( if\ x<0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めます。また、\(f\)は\(\mathbb{R} \)上で右側微分可能であり、右側導関数\(f_{+}^{\prime }:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f_{+}^{\prime }\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
1 & \left( if\ x\geq 0\right) \\
0 & \left( if\ x<0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めます。また、\(f\)は\(\mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)上で左側微分可能であり、左側導関数\(f_{-}^{\prime }:\mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)に対して、\begin{equation*}f_{-}^{\prime }\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
1 & \left( if\ x\geq 0\right) \\
0 & \left( if\ x<0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めます。
演習問題
問題(恒等関数の微分)
関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
1 & \left( if\ x\leq 3\right) \\
x & \left( if\ x>3\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。導関数\(f^{\prime }\)を求めてください。
\begin{array}{cc}
1 & \left( if\ x\leq 3\right) \\
x & \left( if\ x>3\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。導関数\(f^{\prime }\)を求めてください。
問題(恒等関数の微分)
関数\(f:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{ll}
1 & \left( if\ x\leq 1\right) \\
x & \left( if\ 1<x<2\right) \\
2 & \left( if\ 2\leq x\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。関数\(f\)の導関数\(f^{\prime }\)を求めてください。
\begin{array}{ll}
1 & \left( if\ x\leq 1\right) \\
x & \left( if\ 1<x<2\right) \\
2 & \left( if\ 2\leq x\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。関数\(f\)の導関数\(f^{\prime }\)を求めてください。
問題(恒等関数の微分)
関数\(f:\mathbb{R} \supset (-\infty ,1]\cup (2,+\infty )\rightarrow \mathbb{R} \)はそれぞれの\(x\in (-\infty ,1]\cup(2,+\infty )\)に対して、\begin{equation*}f\left( x\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
x & \left( if\ x\leq 1\right) \\
2 & \left( if\ x>2\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。関数\(f\)の導関数\(f^{\prime }\)を求めてください。
\begin{array}{cc}
x & \left( if\ x\leq 1\right) \\
2 & \left( if\ x>2\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。関数\(f\)の導関数\(f^{\prime }\)を求めてください。
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