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1変数関数の微分

瞬間変化率としての微分

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平均変化率と微分係数の解釈

実数空間\(\mathbb{R} \)もしくはその部分集合\(X\)を定義域とし、値として実数をとる1変数関数\begin{equation*}f:\mathbb{R} \supset X\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}が与えられているものとします。定義域の内点\(a\in X^{i}\)が与えられたとき、変数\(x\)の値を点\(a\)から微小量\(h\not=0\)だけ変化させると、それに応じて\(f\left( x\right) \)の値は\(f\left( a\right) \)から\(f\left( a+h\right) \)まで変化します。そこで、\(f\left( x\right) \)の変化量と\(x\)の変化量の比\begin{equation*}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}
\end{equation*}をとり、これを関数\(f\)の点\(a\)における平均変化率と呼びました。

変数\(x\)の値が\(a\)から\(h\)だけ変化していくという全体のプロセスの中の異なる複数の瞬間に注目したとき、それらの瞬間における\(f\left( x\right) \)の変化量は同じであるとは限りません。\(f\left( x\right) \)の値は同じペースで変化し続けているとは限らないからです。ただ、平均変化率について考える際には、それぞれの瞬間における\(f\left( x\right) \)の変化量の違いを無視し、プロセス全体において平均でどれくらいのペースで\(f\left( x\right) \)が変化したかに注目します。このような意味において、この指標は「平均変化率」と呼ばれます。一方、関数\(f\)の点\(a \)における微分係数は、\begin{equation*}\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}
\end{equation*}と定義されますが、これは\(x\)の値が\(a\)と一致する瞬間における\(f\left( x\right) \)の値の変化を表します。このような意味において、微分係数は「瞬間変化率(instantaneous rate of change)」とも呼ばれます。両者の違いをより深く理解するためいくつか例を挙げます。

 

平均の速さと瞬間の速さ

ある地点から車を走らせ、経過時間(秒)と走行距離(メートル)の関係を観察した上で、両者の関係を関数\(f\)として整理しました。つまり、計測を始めた時点から\(x\)秒後における車の走行距離は\(f\left( x\right) \)メートルであるということです。このとき、平均変化率\begin{equation*}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}
\end{equation*}はどのような意味を持つ指標でしょうか。計測を始めた時点から\(a\)秒後を新たな出発点としたとき、そこからの\(h\)秒間で車は\(f\left( a+h\right) -f\left( a\right) \)メートルだけ走行します。この走行距離\(f\left( a+h\right) -f\left(a\right) \)をかかった時間\(h\)で割ったものが上の平均変化率です。この\(h\)秒間の間、車が移動する速さは一定であったとは限りません。ただ、そのような違いを無視した上で、この\(h\)秒の間に車が平均でどれくらいのペースで走ったかを表す指標が上の平均変化率です。つまり、平均変化率は平均の速さ(average speed)に相当する概念です。ここで、かかった時間\(h\)を短くすれば、より短い経過時間の中での平均の速さが得られます。最終的に\(h\)を\(0\)に限りなく近付ければ、すなわち、微分係数\begin{equation*}\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}
\end{equation*}をとれば、それは計測を始めた時点から\(a\)秒後の時点における瞬間的な速さが得られます。つまり、微分係数は瞬間の速さ(instantaneous speed)に相当する概念です。

 

平均速度と瞬間速度

数直線上を移動する点を観察し、経過時間(秒)と点の位置(数直線上の点の座標)の関係を関数\(f\)として整理しました。つまり、計測を始めた時点から\(x\)秒後における点の位置(position)は\(f\left( x\right) \)であるということです。このとき、平均変化率\begin{equation*}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}
\end{equation*}はどのような意味を持つ指標でしょうか。計測を始めた時点から\(a\)秒後の時点における点の位置は\(f\left( a\right) \)であり、さらにその\(h\)秒後の時点における点の位置は\(f\left( a+h\right) \)です。これらの位置の差\begin{equation*}f\left( a+h\right) -f\left( a\right)
\end{equation*}を変位(displacement)と呼びますが、これは始点が\(f\left( a\right) \)であり終点が\(f\left( a+h\right) \)であるような数直線上のベクトルです。ベクトルは向きと大きさという2つの情報を持ちますが、変位\(f\left( a+h\right) -f\left( a\right) \)の向きは時点\(a\)から時点\(a+h\)にかけて点がどの向きに動いたかを表す一方、変位の大きさ\(\left\vert f\left( a+h\right) -f\left( a\right) \right\vert \)は時点\(a\)から時点\(a+h\)にかけて点がどれくらい動いたかを表します。ただ、変位は2つの時点\(a\)と\(a+h\)の前後において点がどちらの方向にどれだけ移動したかを表す指標であり、その2つの時点の間にある\(h\)秒間に点が実際にどのように動いたかについては何も教えてくれません。例えば、\(h\)秒間に点が座標\(f\left( a\right) \)から座標\(f\left(a+h\right) \)まで等しい速さで動いた場合、また、\(h\)秒間に点が座標\(f\left( a\right) \)から座標\(f\left( a+h\right) \)まで速さを変えながら動いた場合、また、\(h\)秒間に点が座標\(f\left( a\right) \)と\(f\left(a+h\right) \)の間を高速で往復した場合などでは、実際の点の動きは異なりますが、変位としては等しくなります。変位は前後の変化だけに注目した指標だからです。いずれにせよ、平均変化率\begin{equation*}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}
\end{equation*}は変位を経過時間で割ったものであり、これを平均速度(average velocity)や速度(velocity)などと呼びます。変位\(f\left( a+h\right) -f\left( a\right) \)は数直線上のベクトルであり、経過時間\(h\)は正の実数であるため、平均変化率\(\frac{f\left( a+h\right) -f\left(a\right) }{h}\)は変位と同じ方向を持つ数直線上のベクトルですが、その大きさは\(\frac{1}{h}\)になっています。つまり、平均速度は単位時間(1秒)あたりの変位であり、この\(h\)秒の間に点が平均的にどちらの方向にどれくらいのペースで動いたかを表す指標です。ただ、繰り返しになりますが、そもそも変位\(f\left( a+h\right) -f\left( a\right) \)は2つの時点の間にある\(h\)秒間に点が実際にどのように動いたかについては何も教えてくれないため、平均速度\(\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}\)も同様です。点の実際の動きを正確に描写するためには、より短い経過時間\(h\)の中での点の動きを観察した上で、その平均速度\(\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}\)を見る必要があります。最終的に\(h\)を\(0\)に限りなく近付ければ、すなわち、微分係数\begin{equation*}\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}
\end{equation*}をとれば、それは計測を始めた時点から\(a\)秒後の時点における瞬間的な平均速度が得られますが、これを瞬間速度(instaneous velocity)と呼びます。瞬間速度もまた数直線上のベクトルですが、これは、時点\(a\)における点の動きを正確に記述しています。

 

平均費用と限界費用

ある商品を生産している工場において、その商品の生産量(個)と総生産費用(円)の関係を計測した上で、両者の関係を関数\(f\)として整理しました。つまり、その商品を\(x\)個生産するためには\(f\left( x\right) \)円の総費用がかかるということです。このとき、平均変化率\begin{equation*}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}
\end{equation*}はどのような意味を持つ指標でしょうか。その商品を\(a\)個生産した時点を新たな出発点としたとき、そこから追加的に\(h\)個の商品を生産するためには\(f\left( a+h\right) -f\left( a\right) \)円の追加費用が必要です。この追加費用\(f\left( a+h\right)-f\left( a\right) \)を追加的な生産量\(h\)で割ったものが上の平均変化率です。この\(h\)個の商品を生産する間、個々の商品の生産費用は一定であったとは限りません(機械の故障などアクシデントが起こる可能性)。ただ、そのような違いを無視した上で、\(h\)個の商品を生産する間の商品1個あたりの平均費用を表す指標が上の平均変化率です。つまり、平均変化率は平均費用に相当する概念です。ここで、商品の個数\(h\)を少なくすれば、より少ない商品を生産する上での平均費用が得られます。最終的に\(h\)を\(0\)に限りなく近付ければ、すなわち、微分係数\begin{equation*}\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}
\end{equation*}をとれば、それは\(a\)個目の商品を生産した直後に追加的に商品を生産する際に必要な限界的な費用が得られます。つまり、微分係数は限界費用に相当する概念です。

 

人口の平均変化率と瞬間変化率

ある国の人口を観測し、時点(年)と人口(人)の関係を観察した上で、両者の関係を関数\(f\)として整理しました。つまり、計測を始めた時点から\(x\)年後における人口は\(f\left( x\right) \)人であるということです。このとき、平均変化率\begin{equation*}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}
\end{equation*}はどのような意味を持つ指標でしょうか。観察を始めた時点から\(a\)年後を新たな出発点としたとき、そこからの\(h\)年間で人口は\(f\left( a+h\right) -f\left( a\right) \)人だけ変化します。この変化量\(f\left( a+h\right) -f\left( a\right) \)を観察期間\(h\)で割ったものが上の平均変化率です。この\(h\)年の間、人口が変化する速さは一定であったとは限りません。ただ、そのような違いを無視した上で、この\(h\)年間に人口が平均でどれくらいのペースで変化したかを表す指標が上の平均変化率です。つまり、平均変化率は人口の平均変化率(average rate of change of a population)に相当する概念です。ここで、観察期間\(h\)を短くすれば、より短い経過時間の中での平均の変化率が得られます。最終的に\(h\)を\(0\)に限りなく近付ければ、すなわち、微分係数\begin{equation*}\lim_{h\rightarrow 0}\frac{f\left( a+h\right) -f\left( a\right) }{h}
\end{equation*}をとれば、それは計測を始めた時点から\(a\)年後の時点における瞬間的な変化率が得られます。つまり、微分係数は人口の瞬間変化率(instantaneous rate ofchange of a population)に相当する概念です。

 

演習問題

問題(瞬間速度)
高さ\(500\)メートルの塔の頂上からボールを落とします。時点\(0\)にボールを落とした後、\(t\geq 0\)秒経過する間でのボールの落下距離が、\begin{equation*}f\left( t\right) =4.9t^{2}
\end{equation*}メートルであるものとします。時点\(5\)における瞬間速度を求めてください。
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問題(平均速度と瞬間速度)
時点\(0\)にボールを投げた後に\(t\geq 0\)秒が経過した時点におけるボールの高さが、\begin{equation*}f\left( t\right) =40t-16t^{2}
\end{equation*}フィートであるものとします。時点\(2\)から時点\(2.5\)までの\(0.5\)秒間におけるボールの平均速度を求めてください。さらに、時点\(2\)におけるボールの瞬間速度を求めてください。
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問題(瞬間の速さ)
時間\(t\)は任意の非負の実数を値としてとるものとします。動いている物体を観察した上で、経過時間と(スタート地点から測った)移動距離の関係を関数\(f\)として整理しました。具体的には、時点\(t\)における移動距離が、\begin{equation*}f\left( t\right) =\frac{t+1}{t+4}
\end{equation*}で与えられています。このとき以下の問いに答えてください。

  1. 時点\(t=s\)におけるこの物体の速さ(瞬間の速さ)を求めてください。
  2. この物体が移動を止める時点は存在しますか。存在する場合にはその時点を明らかにし、存在しない場合にはその理由を説明してください。
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問題(瞬間的な流量)
時間\(t\)は任意の非負の実数を値としてとるものとします。プールの中の水の量を観察した上で、経過時点と水の量の関係を関数\(f\)として整理しました。具体的には、時点\(t=0\)から時点\(t=6\)まで連続的に観測したところ、各時点\(t\)においてプールに入っている水の量は、\begin{equation*}f\left( t\right) =10+5t-t^{2}
\end{equation*}であることが明らかになりました。このとき以下の問いに答えてください。

  1. 時点\(t=0\)において、プールの水は増えていますか、それとも減っていますか。理由とともに答えてください。
  2. 時点\(t=6\)において、プールの水は増えていますか、それとも減っていますか。理由とともに答えてください。
  3. プールの水の量が変化しない時点は存在しますか。存在する場合にはその時点を明らかにし、存在しない場合にはその理由を説明してください。
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