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複素関数

複素余弦関数(複素cos関数)の定義と具体例

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複素余弦関数

余弦関数\begin{equation*}
\cos \left( x\right) :\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}は実変数の実数値関数ですが、余弦関数の定義域を数直線\(\mathbb{R} \)から複素平面\(\mathbb{C} \)へ拡張して、\begin{equation*}\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \end{equation*}とするためにはどうすればよいでしょうか。これまで学んだ知識を動員しながら順番に考えます。

実数\(x\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、オイラーの公式より、\begin{equation}e^{ix}=\cos \left( x\right) +i\sin \left( x\right) \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立ちます。実数\(x\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき\(-x\in \mathbb{R} \)であるため、やはりオイラーの公式より、\begin{eqnarray*}e^{-ix} &=&\cos \left( -x\right) +i\sin \left( -x\right) \\
&=&\cos \left( x\right) -i\sin \left( x\right)
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation}
e^{-ix}=\cos \left( x\right) -i\sin \left( x\right) \quad \cdots (2)
\end{equation}が成り立ちます。実数\(x\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\(\left( 1\right) ,\left( 2\right) \)より、\begin{equation*}e^{ix}+e^{-ix}=\left[ \cos \left( x\right) +i\sin \left( x\right) \right] +\left[ \cos \left( x\right) -i\sin \left( x\right) \right] \end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
e^{ix}+e^{-ix}=2\cos \left( x\right)
\end{equation*}が成り立ちますが、さらにこのとき、\begin{equation}
\cos \left( x\right) =\frac{e^{ix}+e^{-ix}}{2} \quad \cdots (3)
\end{equation}が成り立ちます。

任意の実数\(x\in \mathbb{R} \)に対して\(\left( 3\right) \)が成り立つことが明らかになりました。そこで、任意の複素数\(z\in \mathbb{C} \)に対しても、\(\left( 3\right) \)と同様に、\begin{equation}\cos \left( z\right) =\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2} \quad \cdots (4)
\end{equation}と定義します。複素指数関数\(e^{z}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)の定義域は\(\mathbb{C} \)であるため、\(\left( 4\right) \)を構成する\(e^{iz}\)および\(e^{-iz}\)はそれぞれ複素数として定まることが保証されます。また、複素平面は加法と除法について閉じているため(\(0\)で割る場合を除く)、\(\left( 4\right) \)すなわち\(\cos \left( z\right) \)が複素数として定まることが保証されます。このような事情を踏まえると、それぞれの複素数\(z\in \mathbb{C} \)に対して、以下の複素数\begin{equation*}\cos \left( z\right) =\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2}
\end{equation*}を値として定める複素関数\begin{equation*}
\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \end{equation*}が定義可能です。これを複素余弦関数(complex cosine function)や複素コサイン関数などと呼びます。

例(複素余弦関数)
複素余弦関数\(\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)が複素数\(i\in \mathbb{C} \)に対して定める値は、\begin{eqnarray*}\cos \left( i\right) &=&\frac{e^{i^{2}}+e^{-i^{2}}}{2}\quad \because \cos
\left( z\right) \text{の定義} \\
&=&\frac{e^{-1+0i}+e^{1+0i}}{2} \\
&=&\frac{e^{-1}\left[ \cos \left( 0\right) +i\sin \left( 0\right) \right] +e^{1}\left[ \cos \left( 0\right) +i\sin \left( 0\right) \right] }{2} \\
&=&\frac{e^{-1}+e}{2} \\
&=&\frac{1}{2}\left( e+\frac{1}{e}\right) \\
&\approx &1.5431
\end{eqnarray*}となります。

例(複素余弦関数)
複素余弦関数\(\sin \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)が複素数\(2+i\in \mathbb{C} \)に対して定める値は、\begin{eqnarray*}\cos \left( 2+i\right) &=&\frac{e^{i\left( 2+i\right) }+e^{-i\left(
2+i\right) }}{2}\quad \because \cos \left( z\right) \text{の定義} \\
&=&\frac{e^{-1+2i}+e^{1-2i}}{2} \\
&=&\frac{e^{-1}\left[ \cos \left( 2\right) +i\sin \left( 2\right) \right] +e^{1}\left[ \cos \left( -2\right) +i\sin \left( -2\right) \right] }{2} \\
&\approx &\frac{-1.2843-2.1372i}{2} \\
&\approx &-0.6422-1.0689i
\end{eqnarray*}となります。

 

複素余弦関数は余弦関数の一般化

実数\(x\in \mathbb{R} \)は複素数\(x+0i\in \mathbb{C} \)と同一視されますが、これを複素余弦関数\(\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)に入力すると、\begin{eqnarray*}\cos \left( x+0i\right) &=&\frac{e^{i\left( x+0i\right) }+e^{-i\left(
x+0i\right) }}{2}\quad \because \cos \left( z\right) \text{の定義} \\
&=&\frac{e^{0+ix}+e^{0-ix}}{2} \\
&=&\frac{e^{0}\left[ \cos \left( x\right) +i\sin \left( x\right) \right] +e^{0}\left[ \cos \left( -x\right) +i\sin \left( -x\right) \right] }{2} \\
&=&\frac{\left[ \cos \left( x\right) +i\sin \left( x\right) \right] +\left[
\cos \left( x\right) -i\sin \left( x\right) \right] }{2} \\
&=&\frac{2\cos \left( x\right) }{2} \\
&=&\cos \left( x\right)
\end{eqnarray*}が得られますが、これは余弦関数\(\cos \left( x\right) :\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)に実数\(x\in \mathbb{R} \)を入力した場合に出力される値と一致します。以上より、複素余弦関数は余弦関数の一般化であることが明らかになりました。

命題(複素余弦関数は余弦関数の一般化)
複素余弦関数\(\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)と余弦関数\(\cos \left( x\right) :\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)の間には、以下の関係\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} :\cos \left( x+0i\right) =\cos \left( x\right)
\end{equation*}が成り立つ。

例(複素余弦関数は余弦関数の一般化)
複素余弦関数\(\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)が複素数\(\pi +0i\in \mathbb{C} \)に対して定める値は、\begin{eqnarray*}\cos \left( \pi +0i\right) &=&\cos \left( \pi \right) \\
&=&-1
\end{eqnarray*}となります。

 

複素余弦関数と複素双曲線余弦関数の関係

複素余弦関数と複素双曲線余弦関数の間には以下の関係が成り立ちます。

命題(複素余弦関数と複素双曲線余弦関数の関係)
複素余弦関数\(\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)と複素双曲線余弦関数\(\cosh \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)の間には、以下の関係\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall z\in \mathbb{C} :\cos \left( z\right) =\cosh \left( iz\right) \\
&&\left( b\right) \ \forall z\in \mathbb{C} :\cosh \left( z\right) =\cos \left( iz\right)
\end{eqnarray*}がともに成り立つ。

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複素余弦関数の実部と虚部

複素余弦関数の実部と虚部は以下の通りです。

命題(複素余弦関数の実部と虚部)
複素余弦関数\(\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)が複素数\(z=x+yi\in \mathbb{C} \)に対して定める値は、\begin{equation*}\cos \left( z\right) =\cos \left( x\right) \cosh \left( y\right) -i\sin
\left( x\right) \sinh \left( y\right)
\end{equation*}である。つまり、\(\cos \left(z\right) \)の実部と虚部は、\begin{eqnarray*}\mathrm{Re}\left( \cos \left( z\right) \right) &=&\cos \left( x\right) \cosh
\left( y\right) \\
\mathrm{Im}\left( \cos \left( z\right) \right) &=&-\sin \left( x\right) \sinh
\left( y\right)
\end{eqnarray*}である。ただし、\begin{eqnarray*}
\cosh \left( y\right) &=&\frac{e^{y}+e^{-y}}{2} \\
\sinh \left( y\right) &=&\frac{e^{y}-e^{-y}}{2}
\end{eqnarray*}である。

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複素余弦関数の規則性

余弦関数\(\cos \left( x\right) :\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)は以下の性質\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} :\cos \left( -x\right) =\cos \left( x\right)
\end{equation*}を満たしますが、複素余弦関数\(\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)も同様の性質\begin{equation*}\forall z\in \mathbb{C} :\cos \left( -z\right) =\cos \left( z\right)
\end{equation*}を満たします。

命題(複素余弦関数の規則性)
複素余弦関数\(\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)が与えられたとき、任意の\(z\in \mathbb{C} \)に対して、以下の関係\begin{equation*}\cos \left( -z\right) =\cos \left( z\right)
\end{equation*}が成り立つ。

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複素余弦関数\(\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)は以下の性質\begin{equation*}\forall z\in \mathbb{C} :\cos \left( z+2\pi \right) =\cos \left( z\right)
\end{equation*}を満たします。つまり、複素余弦関数は周期関数です。

命題(複素余弦関数の規則性)
複素余弦関数\(\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)が与えられたとき、任意の\(z\in \mathbb{C} \)に対して、以下の関係\begin{equation*}\cos \left( z+2\pi \right) =\cos \left( z\right)
\end{equation*}が成り立つ。

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複素余弦関数の定義域と値域

複素余弦関数の定義域と値域は以下の通りです。

命題(複素余弦関数の定義域と値域)
複素余弦関数\(\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)の定義域は、\begin{equation*}\mathbb{C} \end{equation*}であり、値域は、\begin{equation*}\mathbb{C} \end{equation*}である。
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複素余弦関数の絶対値

複素余弦関数の絶対値は以下の通りです。

命題(複素余弦関数の絶対値)
複素余弦関数\(\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)は以下の性質\begin{equation*}\forall z\in \mathbb{C} :\left\vert \cos \left( z\right) \right\vert =\sqrt{\cos ^{2}\left( x\right)
+\sinh ^{2}\left( y\right) }
\end{equation*}を満たす。ただし、\begin{equation*}
\sinh \left( y\right) =\frac{e^{y}-e^{-y}}{2}
\end{equation*}である。

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複素余弦関数の値がゼロであるための条件

複素余弦関数の値がゼロであるための条件は以下の通りです。

命題(複素余弦関数の値がゼロであるための条件)
複素余弦関数\(\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)は以下の性質\begin{equation*}\forall z\in \mathbb{C} :\left[ \cos \left( z\right) =0\Leftrightarrow \exists n\in \mathbb{Z} :z=\frac{\pi }{2}+n\pi \right] \end{equation*}を満たす。

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演習問題

問題(複素余弦関数の値)
複素余弦関数\(\sin \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)が複素数\(-3i\in \mathbb{C} \)に対して定める値\begin{equation*}\cos \left( -3i\right)
\end{equation*}を特定してください。

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問題(複素余弦関数の値)
複素余弦関数\(\cos \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)が複素数\(2-4i\in \mathbb{C} \)に対して定める値\begin{equation*}\cos \left( 2-4i\right)
\end{equation*}を特定してください。

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問題(複素余弦関数と方程式)
複素数\(z\in \mathbb{C} \)に関する以下の方程式\begin{equation*}\cos \left( z\right) =4
\end{equation*}の解を求めてください。

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関連知識

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