複素指数関数の定義
指数関数\begin{equation*}
e^{x}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}はマクローリン展開可能であり、点\(0\)とは異なる点\(x\in \mathbb{R} \backslash \left\{ 0\right\} \)を任意に選んだとき、以下の関係\begin{equation*}e^{x}=1+\frac{x}{1!}+\frac{x^{2}}{2!}+\frac{x^{3}}{3!}+\cdots
\end{equation*}が成り立ちます。また、点\(0\)については、\begin{eqnarray*}e^{0} &=&1 \\
&=&1+\frac{0}{1!}+\frac{0^{2}}{2!}+\frac{0^{3}}{3!}+\cdots
\end{eqnarray*}が成り立つため、任意の\(x\in \mathbb{R} \)において、\begin{equation*}e^{x}=1+\frac{x}{1!}+\frac{x^{2}}{2!}+\frac{x^{3}}{3!}+\cdots
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。では、指数関数\(e^{x}\)の定義域を数直線\(\mathbb{R} \)から複素平面\(\mathbb{C} \)へ拡張して、\begin{equation*}e^{z}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \end{equation*}とするためにはどうすればよいでしょうか。これまで学んだ知識を動員しながら順番に考えます。
複素数\(z\in \mathbb{C} \)を任意に選んだとき、以下の無限級数\begin{equation*}\sum_{n=0}^{+\infty }\frac{z^{n}}{n!}=1+\frac{z}{1!}+\frac{z^{2}}{2!}+\frac{z^{3}}{3!}+\cdots
\end{equation*}は複素数へ収束します。
\end{equation*}は複素数へ収束する。
複素数\(z\in \mathbb{C} \)を任意に選んだとき、以下の無限級数\begin{equation*}\sum_{n=0}^{+\infty }\frac{z^{n}}{n!}=1+\frac{z}{1!}+\frac{z^{2}}{2!}+\frac{z^{3}}{3!}+\cdots
\end{equation*}は複素数へ収束することが明らかになりました。このような事情を踏まえると、それぞれの複素数\(z\in \mathbb{C} \)に対して、以下の複素数\begin{equation*}e^{z}=1+\frac{z}{1!}+\frac{z^{2}}{2!}+\frac{z^{3}}{3!}+\cdots
\end{equation*}を値として定める複素関数\begin{equation*}
e^{z}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \end{equation*}が定義可能です。これを複素指数関数(complex exponential function)と呼びます。複素指数関数を、\begin{equation*}
\exp \left( z\right) :\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \end{equation*}と表記することもできます。
\end{equation}である一方で、複素指数関数\(e^{z}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)が複素数\(z\in \mathbb{C} \)に対して定める値は、\begin{equation}e^{z}=1+\frac{z}{1!}+\frac{z^{2}}{2!}+\frac{z^{3}}{3!}+\cdots \quad \cdots (2)
\end{equation}です。実数\(x\in \mathbb{R} \)は複素数\(x+0i\in \mathbb{C} \)と同一視されるため、複素指数関数に複素数\(x+0i\in \mathbb{C} \)を入力すると、\begin{eqnarray*}e^{x+0i} &=&1+\frac{x+0i}{1!}+\frac{\left( x+0i\right) ^{2}}{2!}+\frac{\left( x+0i\right) ^{3}}{3!}+\cdots \quad \because \left( 2\right) \\
&=&1+\frac{x}{1!}+\frac{x^{2}}{2!}+\frac{x^{3}}{3!}+\cdots \\
&=&e^{x}\quad \because \left( 1\right)
\end{eqnarray*}となりますが、これは指数関数に実数\(x\in \mathbb{R} \)を入力をした場合に得られる値と一致します。以上より、複素指数関数は自然指数関数の一般化であることが明らかになりました。
オイラーの公式
複素指数関数\(e^{z}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれの\(z\in \mathbb{C} \)に対して、以下の複素数\begin{equation}e^{z}=1+\frac{z}{1!}+\frac{z^{2}}{2!}+\frac{z^{3}}{3!}+\cdots \quad \cdots (1)
\end{equation}を値として定める複素関数として定義されます。
実数\(\theta \in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、これと虚数単位\(i\in \mathbb{C} \)の積\(i\theta \in \mathbb{C} \)は複素数であるため、\(\left( 1\right) \)において\(z=i\theta \)とおくと、\begin{eqnarray*}e^{i\theta } &=&1+\frac{i\theta }{1!}+\frac{\left( i\theta \right) ^{2}}{2!}+\frac{\left( i\theta \right) ^{3}}{3!}+\cdots \\
&=&1+\frac{i\theta }{1!}+\frac{i^{2}\theta ^{2}}{2!}+\frac{i^{3}\theta ^{3}}{3!}+\cdots \\
&=&1+\frac{i\theta }{1!}-\frac{\theta ^{2}}{2!}-\frac{i\theta ^{3}}{3!}+\cdots
\end{eqnarray*}を得ますが、さらにこれを変形することにより、\begin{equation*}
e^{i\theta }=\cos \left( \theta \right) +i\sin \left( \theta \right)
\end{equation*}を得ます。これをオイラーの公式(Euler’s formula)と呼びます。
実数\(\theta \in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、以下の関係\begin{equation*}e^{i\theta }=\cos \left( \theta \right) +i\sin \left( \theta \right)
\end{equation*}が成り立つ。
\end{equation*}が成り立ちます。オイラーの公式において、\begin{equation*}
\theta =\pi
\end{equation*}とおけば、\begin{eqnarray*}
e^{i\pi } &=&\cos \left( \pi \right) +i\sin \left( \pi \right) \\
&=&-1+i0 \\
&=&-1
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
e^{i\pi }=-1
\end{equation*}を得ます。これをオイラーの等式(Euler’s identity)と呼びます。
指数法則(底を共有する累乗の積)
指数関数\(e^{x}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)は以下の性質\begin{equation*}\forall x,y\in \mathbb{R} :e^{x}\cdot e^{y}=e^{x+y}
\end{equation*}を満たしますが、複素指数関数\(e^{z}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)も同様の性質\begin{equation*}\forall z,w\in \mathbb{C} :e^{z}\cdot e^{w}=e^{z+w}
\end{equation*}を満たします。つまり、底\(e\)を共有する累乗\(e^{z},e^{w}\)が与えられたとき、それらの積\(e^{z}\cdot e^{w}\)を求めるためには指数どうしの和\(z+w\)をとり、それを指数とする累乗\(e^{z+w}\)をとればよいということです。「累乗の積」に関する問題は「指数の和」に関する問題へと帰着させられます。
\end{equation*}を満たす。
複素指数関数の実部と虚部
複素指数関数\(e^{z}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれの\(z\in \mathbb{C} \)に対して、以下の複素数\begin{equation*}e^{z}=1+\frac{z}{1!}+\frac{z^{2}}{2!}+\frac{z^{3}}{3!}+\cdots
\end{equation*}を値として定めます。その一方で、オイラーの公式より、任意の\(\theta \in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation}e^{i\theta }=\cos \left( \theta \right) +i\sin \left( \theta \right)
\quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立ちます。複素数\(z\in \mathbb{C} \)は何らかの実数\(x,y\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation}z=x+iy \quad \cdots (2)
\end{equation}と表現されることを踏まえると、\begin{eqnarray*}
e^{z} &=&e^{x+iy}\quad \because \left( 2\right) \\
&=&e^{x}e^{iy}\quad \because \text{指数法則} \\
&=&e^{x}\left[ \cos \left( y\right) +i\sin \left( y\right) \right] \quad
\because \left( 1\right) \\
&=&e^{x}\cos \left( y\right) +ie^{x}\sin \left( y\right)
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{equation*}
e^{x+iy}=e^{x}\cos \left( y\right) +ie^{x}\sin \left( y\right)
\end{equation*}を得ます。議論の結果を命題としてまとめます。
\end{equation*}を定める。すなわち、\begin{eqnarray*}
\mathrm{Re}\left( e^{x+iy}\right) &=&e^{x}\cos \left( y\right) \\
\mathrm{Im}\left( e^{x+iy}\right) &=&e^{x}\sin \left( y\right)
\end{eqnarray*}が成り立つ。
\\
&=&-e^{2}+0i \\
&=&-e^{2}
\end{eqnarray*}です。
\left( -\frac{\pi }{3}\right) \\
&=&\frac{e^{3}}{2}-i\frac{\sqrt{3}e^{3}}{2}
\end{eqnarray*}です。
\end{equation}であることが明らかになりました。実数\(x\in \mathbb{R} \)は複素数\(x+0i\in \mathbb{C} \)と同一視されるため、複素指数関数に複素数\(x+0i\in \mathbb{C} \)を入力すると、\begin{eqnarray*}e^{x+0i} &=&e^{x}\cos \left( 0\right) +ie^{x}\sin \left( 0\right) \quad
\because \left( 1\right) \\
&=&e^{x}\cdot 1+ie^{x}\cdot 0 \\
&=&e^{x}
\end{eqnarray*}となり、これは指数関数\(e^{x}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)が実数\(x\in \mathbb{R} \)に対して定める値と一致します。以上より、複素指数関数は自然指数関数の一般化であることが明らかになりました。
複素指数関数の代表的な値
複素指数関数\(e^{z}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)が定める値としては、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ e^{0}=1 \\
&&\left( b\right) \ e^{\frac{\pi }{2}i}=i \\
&&\left( c\right) \ e^{\pi i}=-1 \\
&&\left( d\right) \ e^{\frac{3\pi }{2}i}=-i
\end{eqnarray*}などが重要です。
&&\left( b\right) \ e^{\frac{\pi }{2}i}=i \\
&&\left( c\right) \ e^{\pi i}=-1 \\
&&\left( d\right) \ e^{\frac{3\pi }{2}i}=-i
\end{eqnarray*}を満たす。
複素指数関数の値は非ゼロ
指数関数\(e^{x}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)は以下の性質\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} :e^{x}>0
\end{equation*}を満たします。複素指数関数\(e^{z}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)は指数関数の一般化であるため、複素指数関数が実数に対して定める値も正です。一方、複素指数関数に複素数を入力する状況を想定する場合には、\begin{equation*}\forall z\in \mathbb{C} :e^{z}\not=0
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、複素指数関数がとり得る値は非ゼロです。
\end{equation*}を満たす。
\end{equation*}が成り立ちます。また、複素指数関数は実数ではない複素数を値としてとり得ます。実際、先に示したように、\begin{equation*}
e^{\frac{\pi }{2}i}=i
\end{equation*}が成り立ちます。
指数関数の値が1であるための条件
複素指数関数\(e^{z}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)は以下の性質\begin{equation*}\forall z\in \mathbb{C} :\left( e^{z}=1\Leftrightarrow \exists k\in \mathbb{Z} :z=2k\pi i\right)
\end{equation*}を満たします。つまり、複素指数関数に\(2\pi i\)の整数倍の値を入力すると\(1\)が出力されます。
\end{equation*}を満たす。
指数法則(負の複素数乗の解釈)
指数関数\(e^{x}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)は以下の性質\begin{equation*}\forall x\in \mathbb{R} :e^{-x}=\frac{1}{e^{x}}
\end{equation*}を満たしますが、複素指数関数\(e^{z}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)も同様の性質\begin{equation*}\forall z\in \mathbb{C} :e^{-z}=\frac{1}{e^{z}}
\end{equation*}を満たします。
\end{equation*}を満たす。
指数法則(底を共有する累乗の商)
指数関数\(e^{x}:\mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \)は以下の性質\begin{equation*}\forall x,y\in \mathbb{R} :\frac{e^{x}}{e^{y}}=e^{x-y}
\end{equation*}を満たしますが、複素指数関数\(e^{z}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)も同様の性質\begin{equation*}\forall z,w\in \mathbb{C} :\frac{e^{z}}{e^{w}}=e^{z-w}
\end{equation*}を満たします。つまり、底\(e\)を共有する累乗\(e^{z},e^{w}\)が与えられたとき、それらの商\(\frac{e^{z}}{e^{w}}\)を求めるためには指数どうしの差\(z-w\)をとり、それを指数とする累乗\(e^{z-w}\)をとればよいということです。「累乗の商」に関する問題は「指数の差」に関する問題へと帰着させられます。
\end{equation*}を満たす。
指数関数の整数乗
複素指数関数\(e^{z}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)は以下の性質\begin{equation*}\forall z\in \mathbb{C} ,\ \forall k\in \mathbb{Z} :\left( e^{z}\right) ^{k}=e^{kz}
\end{equation*}を満たします。
\end{equation*}を満たす。
複素指数関数の絶対値
複素指数関数\(e^{z}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)は以下の性質\begin{equation*}\forall z\in \mathbb{C} :\left\vert e^{z}\right\vert =e^{\mathrm{Re}\left( z\right) }
\end{equation*}を満たします。つまり、複素指数関数が定める値\(e^{z}\)の絶対値を特定するためには、\(z\)の実部を指数とする累乗をとればよいということです。
\end{equation*}を満たす。
複素指数関数の偏角
複素指数関数\(e^{z}:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)は以下の性質\begin{equation*}\forall z\in \mathbb{C} :\mathrm{Arg}\left( e^{z}\right) =\mathrm{Im}\left( z\right)
\end{equation*}を満たします。つまり、複素指数関数が定める値\(e^{z}\)の偏角は\(z\)の虚部と一致するということです。
\end{equation*}を満たす。
演習問題
e^{3+\pi i}
\end{equation*}を\(a+bi\)の形で表現してください。
e^{z^{2}}
\end{equation*}を\(a+bi\)の形で表現してください。ただし、\begin{equation*}z=x+yi
\end{equation*}であるものとします。
\left\vert e^{z^{2}}\right\vert
\end{equation*}を特定してください。ただし、\begin{equation*}
z=x+yi
\end{equation*}であるものとします。
\overline{e^{iz}}=e^{i\overline{z}}
\end{equation*}を満たす複素数\(z\in \mathbb{Z} \)をすべて特定してください。
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