複素関数の定義
始集合が複素平面\(\mathbb{C} \)もしくはその部分集合\(Z\)であり、終集合が複素平面\(\mathbb{C} \)であるような写像\begin{equation*}f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \end{equation*}を複素変数の複素数値関数(complex-valued function of a complex variable)や複素関数(complex function)などと呼びます。また、\(Z\)を\(f\)の始集合(initial set)と呼び、\(\mathbb{C} \)を\(f\)の終集合(final set)と呼びます。
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)が与えられたとき、始集合の要素である複素数\(z\in Z\)を任意に選ぶと、複素関数\(f\)はそれに対して終集合\(\mathbb{C} \)の要素である複素数を1つずつ定めます。これを複素関数\(f\)による要素\(z\)の値(value)や像(image)などと呼び、\begin{equation*}f\left( z\right)
\end{equation*}で表記します。\(f\left( z\right)\in \mathbb{C} \)です。
\end{equation*}を定める\(f:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)は関数です。このとき、\begin{eqnarray*}f\left( 0\right) &=&0^{2}=0 \\
f\left( 1\right) &=&1^{2}=1 \\
f\left( i\right) &=&i^{2}=-1 \\
f\left( 1+i\right) &=&\left( 1+i\right) ^{2}=2i
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
\end{equation*}を値として定めるものとします。このとき、\begin{eqnarray*}
f\left( 0\right) &=&\mathrm{Re}\left( 0\right) =0 \\
f\left( 1\right) &=&\mathrm{Re}\left( 1\right) =1 \\
f\left( i\right) &=&\mathrm{Re}\left( i\right) =0 \\
f\left( 1+i\right) &=&\mathrm{Re}\left( 1+i\right) =1
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
\end{equation*}を値として定めるものとします。このとき、\begin{eqnarray*}
f\left( 0\right) &=&\mathrm{Im}\left( 0\right) =0 \\
f\left( 1\right) &=&\mathrm{Im}\left( 1\right) =1 \\
f\left( i\right) &=&\mathrm{Im}\left( i\right) =1 \\
f\left( 1+i\right) &=&\mathrm{Im}\left( 1+i\right) =1
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
\end{equation*}を値として定めるものとします。複素数をゼロで割ることはできないため\(z^{2}-1\not=0\)である必要があり、したがってこの関数\(f\)は点\(z=-1,1\)において定義されないことに注意してください。ちなみに、\begin{eqnarray*}f\left( 0\right) &=&\frac{1}{0^{2}-1}=-1 \\
f\left( i\right) &=&\frac{1}{i^{2}-1}=-\frac{1}{2} \\
f\left( 1+i\right) &=&\frac{1}{\left( 1+i\right) ^{2}-1}=\frac{1}{2i-1}
\end{eqnarray*}などが成り立ちます。
複素関数ではない規則
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)は始集合のそれぞれの要素に対して終集合の要素を1つずつ定める規則でなければなりません。つまり、\begin{equation*}\forall z\in Z,\ \exists !w\in \mathbb{C} :w=f\left( z\right)
\end{equation*}を満たす\(f\)だけが\(Z\)から\(\mathbb{C} \)への複素関数として認められます。ただし、\(\exists !\)は「一意的に存在する」ことを表す記号です。
始集合\(Z\)の少なくとも1つの要素\(z\)に対してその像\(f\left( z\right) \)が存在しない場合や、始集合\(Z\)の少なくとも1つの要素\(z\)に対してその像\(f\left( z\right) \)が一意的に定まらない場合などには、\(f\)は\(Z\)から\(\mathbb{C} \)への複素関数ではありません。
\text{を満たす複素数}w
\end{equation*}を値として定める規則\(f:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)は複素関数ではありません。なぜなら、複素数\(z\)が与えられたとき、実部が\(\mathrm{Re}\left( z\right) \)以下であるような複素数は無数に存在し、したがって\(f\left( z\right) \)が1つの複素数として定まらないからです。
\end{equation*}を値として定める規則\(f:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)は関数ではありません。なぜなら、複素数をゼロで割ることはできず、始集合の要素である\(0\in \mathbb{C} \)に対して、\begin{equation*}f\left( 0\right) =\frac{1}{0}
\end{equation*}は定義不可能だからです。一方、\(f\)の始集合を制限して\(f:\mathbb{C} \backslash \left\{ 0\right\} \rightarrow \mathbb{C} \)とすれば、それぞれの非ゼロ複素数\(z\in \mathbb{C} \backslash \left\{ 0\right\} \)に対して、\begin{equation*}f\left( z\right) =\frac{1}{z}
\end{equation*}が1つの複素数として必ず定まるため、この場合の\(f\)は複素関数です。
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)が与えられたとき、始集合に属する「異なる」要素\(z,z^{\prime }\in Z\)を任意に選びそれらの像\(f\left( z\right) ,f\left( z^{\prime }\right) \in \mathbb{C} \)をとると、それらは一致するとは限りませんし、逆に、一致しても構いません。どちらの場合でも複素関数の定義には抵触しないため、問題はありません。
繰り返しになりますが、複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)は始集合のそれぞれの要素\(z\in Z\)に対して終集合の要素である像\(f\left( z\right) \in \mathbb{C} \)を1つずつ定めるものでなければなりません。一方、終集合の要素\(w\in \mathbb{C} \)を任意に選ぶと、それに対して\(w=f\left( z\right) \)を満たす始集合の要素\(z\in Z\)は存在するとは限りませんが、その場合にも複素関数の定義には抵触しないため、問題ありません。
\end{equation*}を定めるものとします。始集合の要素である複素数\(1,i\in \mathbb{C} \)に対して、それらの像は、\begin{equation*}f\left( 1\right) =1\not=-1=f\left( i\right)
\end{equation*}となります。一方、始集合の要素である複素数\(1,-1\in \mathbb{C} \)に注目すると、それらの像は、\begin{equation*}f\left( 1\right) =1=f\left( -1\right)
\end{equation*}となります。いずれにせよ、このような事態が起きていても複素関数として何も問題なく、この\(f\)は\(\mathbb{C} \)から\(\mathbb{C} \)への複素関数です。
等しい複素関数
2つの複素関数\begin{eqnarray*}
f &:&\mathbb{R} \supset Z\rightarrow \mathbb{R} \\
g &:&\mathbb{R} \supset W\rightarrow \mathbb{R} \end{eqnarray*}が与えられたとき、これらが以下の条件\begin{eqnarray*}
&&\left( a\right) \ Z=W \\
&&\left( b\right) \ \forall z\in Z:f\left( z\right) =g\left( z\right)
\end{eqnarray*}をともに満たす場合には、\(f\)と\(g\)は等しい(equal)といい、そのことを、\begin{equation*}f=g
\end{equation*}と表記します。つまり、2つの複素関数\(f,g\)が等しいこととは、\(\left( a\right) \)それらの始集合どうしが一致するとともに、\(\left( b\right) \)始集合のそれぞれの要素に対して\(f\)が定める値と\(g\)が定める値が常に一致することを意味します。
逆に、上の2つの条件\(\left( a\right) ,\left( b\right) \)の少なくとも一方が成り立たない場合、すなわち、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ Z\not=W \\
&&\left( b\right) \ \exists z\in Z:f\left( z\right) \not=g\left( z\right)
\end{eqnarray*}の少なくとも一方が成り立つ場合、\(f\)と\(g\)は異なる(not equal)といい、そのことを、\begin{equation*}f\not=g
\end{equation*}と表記します。
g\left( z\right) &=&\sqrt{z\overline{z}}
\end{eqnarray*}を定めるものとします。\(f\)と\(g\)は始集合\(\mathbb{C} \)を共有します。加えて、任意の複素数\(z\in \mathbb{C} \)に対して、\begin{equation*}\left\vert z\right\vert =\sqrt{z\overline{z}}
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
f\left( z\right) =g\left( z\right)
\end{equation*}が成り立ちます。以上より、\begin{equation*}
f=g
\end{equation*}であることが明らかになりました。
g\left( z\right) &=&\left\vert z\right\vert
\end{eqnarray*}を定めるものとします。\(f\)と\(g\)は始集合を共有します。その一方で、複素数\(1+i\in \mathbb{C} \)に注目すると、\begin{eqnarray*}f\left( 1+i\right) &=&1+i \\
g\left( 1+i\right) &=&\left\vert 1+i\right\vert =\sqrt{2}
\end{eqnarray*}であるため、\begin{equation*}
f\left( 1+i\right) \not=g\left( 1+i\right)
\end{equation*}であり、したがって、\begin{equation*}
f\not=g
\end{equation*}であることが明らかになりました。
演習問題
\end{equation*}を定めるものとします。以下の問いに答えてください。
- \(f\left( 1\right) \)を求めてください。
- \(f\left( i\right) \)を求めてください。
- \(f\left( 1+i\right) \)を求めてください。
\end{equation*}を定めるものとします。以下の問いに答えてください。
- \(f\left( 1\right) \)を求めてください。
- \(f\left( i\right) \)を求めてください。
- \(f\left( 2-3i\right) \)を求めてください。
\end{equation*}を定めるものとします。以下の問いに答えてください。
- \(f\left( 2i\right) \)を求めてください。
- \(f\left( 1+i\right) \)を求めてください。
- \(f\left( 3-2i\right) \)を求めてください。
\end{equation*}を定めるものとします。以下の問いに答えてください。
- \(f\left( i\right) \)を求めてください。
- \(f\left( 2-i\right) \)を求めてください。
- \(f\left( 1+2i\right) \)を求めてください。
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