複素1次関数
複素関数\(f:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)がそれぞれの\(z\in Z\)に対して定める値が、複素数\(a,b\in \mathbb{C} \)を用いて、\begin{equation*}f\left( z\right) =az+b
\end{equation*}と表される場合、このような複素関数\(f\)を複素1次関数(complex linear function)や複素線型関数などと呼びます。
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は複素1次関数です。\(f\)が\(1\in \mathbb{C} \)に対して定める像は、\begin{equation*}f\left( 1\right) =i+1
\end{equation*}であり、\(f\)が\(i\in \mathbb{C} \)に対して定める像は、\begin{eqnarray*}f\left( i\right) &=&i^{2}+i \\
&=&-1+i
\end{eqnarray*}であり、\(f\)が\(1+i\in \mathbb{C} \)に対して定める像は、\begin{eqnarray*}f\left( 1+i\right) &=&i\left( 1+i\right) +i \\
&=&i+i^{2}+i \\
&=&-1+2i
\end{eqnarray*}です。
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は複素1次関数です。\(f\)が\(1\in \mathbb{C} \)に対して定める像は、\begin{eqnarray*}f\left( 1\right) &=&4i+2+3i \\
&=&2+7i
\end{eqnarray*}であり、\(f\)が\(i\in \mathbb{C} \)に対して定める像は、\begin{eqnarray*}f\left( i\right) &=&4i^{2}+2+3i \\
&=&-2+3i
\end{eqnarray*}であり、\(f\)が\(1+i\in \mathbb{C} \)に対して定める像は、\begin{eqnarray*}f\left( 1+i\right) &=&4i\left( 1+i\right) +2+3i \\
&=&4i+4i^{2}+2+3i \\
&=&-2+7i
\end{eqnarray*}です。
\end{equation*}と表されるということです。特に、以下の条件\begin{eqnarray*}
a &=&1 \\
b &\not=&0
\end{eqnarray*}が満たされる場合には、\begin{equation*}
f\left( z\right) =z+b
\end{equation*}となり、\(f\)は移動になります。以上より、移動は複素1次関数の具体例であることが明らかになりました。ちなみに、移動\(f\)に複素数\(z\)を入力するとベクトル\(b\)方向に\(\left\vert b\right\vert \)だけ移動します。
\end{equation*}と表されるということです。特に、以下の条件\begin{eqnarray*}
\left\vert a\right\vert &=&1 \\
b &=&0
\end{eqnarray*}が満たされる場合には、\begin{equation*}
f\left( z\right) =az
\end{equation*}となり、\(f\)は回転になります。以上より、回転は複素1次関数の具体例であることが明らかになりました。ちなみに、回転\(f\)に複素数\(z\)を入力すると原点\(O\)を中心に\(\mathrm{Arg}\left(a\right) \)ラジアンだけ回転します。
\end{equation*}と表されるということです。特に、以下の条件\begin{eqnarray*}
a &\in &\mathbb{R} _{++} \\
b &=&0
\end{eqnarray*}が満たされる場合には、\begin{equation*}
f\left( z\right) =az
\end{equation*}となり、\(f\)は拡大になります。以上より、拡大は複素1次関数の具体例であることが明らかになりました。ちなみに、拡大\(f\)に複素数\(z\)を入力すると偏角はそのままで絶対値が\(a\)倍になります。
複素1次関数の幾何学的解釈
複素関数\(f:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)が与えられているものとします。つまり、\(f\)がそれぞれの\(z\in Z\)に対して定める値が、複素数\(a,b\in \mathbb{C} \)を用いて、\begin{equation*}f\left( z\right) =az+b
\end{equation*}と表されるということです。これを変形すると、\begin{equation*}
az+b=\left\vert a\right\vert \left( \frac{a}{\left\vert a\right\vert }\right) z+b
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
f\left( z\right) =\left\vert a\right\vert \left( \frac{a}{\left\vert
a\right\vert }\right) z+b
\end{equation*}となりますが、これにはどのような意味があるのでしょうか。\(a,b\not=0\)である状況を想定した上で、以下の3つの複素1次関数を定義します。
1つ目の複素1次関数\(R:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれの\(z\in \mathbb{C} \)に対して、\begin{equation*}R\left( z\right) =\frac{a}{\left\vert a\right\vert }z
\end{equation*}を定めるものとします。このとき、\begin{equation*}
\left\vert \frac{a}{\left\vert a\right\vert }\right\vert =\frac{\left\vert
a\right\vert }{\left\vert a\right\vert }=1
\end{equation*}が成り立つため、\(R\)は回転です(rotationの\(R\))。つまり、回転\(R\)に複素数\(z\)を入力すると原点\(O\)を中心に\(\mathrm{Arg}\left( \frac{a}{\left\vert a\right\vert }\right) \)ラジアンだけ回転します。
2つ目の複素1次関数\(M:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれの\(z\in \mathbb{C} \)に対して、\begin{equation*}M\left( z\right) =\left\vert a\right\vert z
\end{equation*}を定めるものとします。このとき、\begin{equation*}
\left\vert a\right\vert \in \mathbb{R} _{++}
\end{equation*}が成り立つため、\(M\)は拡大です(magnificationの\(M\))。つまり、拡大\(M\)に複素数\(z\)を入力すると偏角はそのままで絶対値が\(\left\vert a\right\vert \)倍になります。
3つ目の複素1次関数\(T:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれの\(z\in \mathbb{C} \)に対して、\begin{equation*}T\left( z\right) =z+b
\end{equation*}を定めるものとします。このとき、\begin{equation*}
b\not=0
\end{equation*}が成り立つため、\(T\)は移動です(translationの\(T\))。つまり、移動\(T\)に複素数\(z\)を入力するとベクトル\(b\)方向に\(\left\vert b\right\vert \)だけ移動します。
以上の3つの複素1次関数\(R,M,T:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)の合成写像\begin{equation*}T\circ M\circ R:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \end{equation*}を定義すると、これはそれぞれの\(z\in \mathbb{C} \)に対して、\begin{eqnarray*}\left( T\circ M\circ R\right) \left( z\right) &=&\left( T\circ M\right)
\left( R\left( z\right) \right) \\
&=&T\left( M\left( R\left( z\right) \right) \right) \\
&=&T\left( M\left( \frac{a}{\left\vert a\right\vert }z\right) \right) \quad
\because R\text{の定義} \\
&=&T\left( \left\vert a\right\vert \left( \frac{a}{\left\vert a\right\vert }z\right) \right) \quad \because M\text{の定義} \\
&=&\left\vert a\right\vert \left( \frac{a}{\left\vert a\right\vert }z\right)
+b\quad \because T\text{の定義} \\
&=&f\left( z\right) \quad \because f\text{の定義}
\end{eqnarray*}を定めます。以上より、\begin{equation*}
f=T\circ M\circ R
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。つまり、複素1次関数\(f\)は回転\(R\)と拡大\(M\)と移動\(T\)の合成写像とみなすことができるということです。したがって、複素1次関数\(f\)に複素数\(z\)を代入すると、その点は原点\(O\)を中心に\(\mathrm{Arg}\left( \frac{a}{\left\vert a\right\vert }\right) \)ラジアンだけ回転し、回転後の点は偏角はそのままで絶対値が\(\left\vert a\right\vert \)倍になり、拡大後の点はベクトル\(b\)方向に\(\left\vert b\right\vert \)だけ移動します。点\(z\)に対して以上の3つの操作を順番に行った結果として得られる点が\(f\left( z\right) \)です。
先の3つの複素1次関数\(R,M,T\)を合成する順番を変更すると、最終的に得られる合成写像は変化します。複素1次関数\(f\)と一致する合成写像は\(T\circ M\circ R\)であり、これと異なる順番で\(R,M,T\)を合成することにより得られる合成写像は\(f\)と一致するとは限らないため注意が必要です。
\end{equation*}と表されるものとする。点\(z\in \mathbb{C} \)を任意に選んだ上で、以下の3つの操作\begin{eqnarray*}&&\left( R\right) \ \text{原点}O\text{を中心に}\mathrm{Arg}\left( \frac{a}{\left\vert a\right\vert }\right) \text{ラジアンだけ回転する} \\
&&\left( M\right) \ \text{偏角はそのままで絶対値を}\left\vert a\right\vert
\text{倍する} \\
&&\left( T\right) \ \text{ベクトル}b\text{方向に}\left\vert b\right\vert \text{だけ移動する}
\end{eqnarray*}を順番に行うと点\(f\left(z\right) \in \mathbb{C} \)が得られる。
\end{equation*}を定めるものとします。これを変形すると、\begin{eqnarray*}
f\left( z\right) &=&iz+i \\
&=&\left\vert i\right\vert \left( \frac{i}{\left\vert i\right\vert }\right)
z+i
\end{eqnarray*}となるため、\(f\)は以下の3つの複素1次関数\begin{eqnarray*}R\left( z\right) &=&\frac{i}{\left\vert i\right\vert }z=iz \\
M\left( z\right) &=&\left\vert i\right\vert z=z \\
T\left( z\right) &=&z+i
\end{eqnarray*}の合成写像\(T\circ M\circ R:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)とみなすことができます。つまり、点\(z\in \mathbb{C} \)が与えられたとき、以下の3つの操作\begin{eqnarray*}&&\left( R\right) \ \text{原点}O\text{を中心に}\mathrm{Arg}\left( i\right) =\frac{\pi }{2}\text{ラジアンだけ回転する} \\
&&\left( M\right) \ \text{偏角はそのままで絶対値を}1\text{倍する} \\
&&\left( T\right) \ \text{ベクトル}i\text{方向に}\left\vert i\right\vert =1\text{だけ移動する}
\end{eqnarray*}を順番に行うと点\(f\left(z\right) \in \mathbb{C} \)が得られます。
\end{equation*}を定めるものとします。これを変形すると、\begin{eqnarray*}
f\left( z\right) &=&4iz+2+3i \\
&=&\left\vert 4i\right\vert \left( \frac{4i}{\left\vert 4i\right\vert }\right) z+2+3i
\end{eqnarray*}となるため、\(f\)は以下の3つの複素1次関数\begin{eqnarray*}R\left( z\right) &=&\frac{4i}{\left\vert 4i\right\vert }z=i \\
M\left( z\right) &=&\left\vert 4i\right\vert z=4 \\
T\left( z\right) &=&z+2+3i
\end{eqnarray*}の合成写像\(T\circ M\circ R:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)とみなすことができます。つまり、点\(z\in \mathbb{C} \)が与えられたとき、以下の3つの操作\begin{eqnarray*}&&\left( R\right) \ \text{原点}O\text{を中心に}\mathrm{Arg}\left( i\right) =\frac{\pi }{2}\text{ラジアンだけ回転する} \\
&&\left( M\right) \ \text{偏角はそのままで絶対値を}4\text{倍する} \\
&&\left( T\right) \ \text{ベクトル}2+3i\text{方向に}\left\vert 2+3i\right\vert =\sqrt{13}\text{だけ移動する}
\end{eqnarray*}を順番に行うと点\(f\left(z\right) \in \mathbb{C} \)が得られます。
複素1次関数による集合の像
複素関数\(f:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)が与えられているものとします。つまり、\(f\)がそれぞれの\(z\in Z\)に対して定める値が、複素数\(a,b\in \mathbb{C} \)を用いて、\begin{equation*}f\left( z\right) =az+b
\end{equation*}と表されるということです。\(f\)による集合\(A\subset \mathbb{C} \)の像は、\begin{eqnarray*}f\left( A\right) &=&\left\{ f\left( z\right) \in \mathbb{C} \ |\ z\in A\right\} \\
&=&\left\{ az+b\in \mathbb{C} \ |\ z\in A\right\}
\end{eqnarray*}ですが、\(a,b\not=0\)である場合、これは\(A\)上のそれぞれの点に対して以下の3つの操作\begin{eqnarray*}&&\left( R\right) \ \text{原点}O\text{を中心に}\mathrm{Arg}\left( \frac{a}{\left\vert a\right\vert }\right) \text{ラジアンだけ回転する} \\
&&\left( M\right) \ \text{偏角はそのままで絶対値を}\left\vert a\right\vert
\text{倍する} \\
&&\left( T\right) \ \text{ベクトル}b\text{方向に}\left\vert b\right\vert \text{だけ移動する}
\end{eqnarray*}を順番に行うことにより得られる点からなる集合です。回転\(\left( R\right) \)の前後において集合の形状や大きさは変化せず位置だけが変化します。また、拡大\(\left( M\right) \)の前後において集合の形状は変化せず大きさだけが変化します。さらに、移動\(\left( T\right) \)の前後において集合の形状や大きさは変化せず位置だけが変化します。したがって、\(A\)と\(f\left( A\right) \)を比べたとき、集合の形状は変化せず、位置と大きさだけが変化します。
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は移動です。以下の集合\begin{equation*}A=\left\{ z\in \mathbb{Z} \ |\ 0\leq \mathrm{Re}\left( z\right) \leq 1\wedge 0\leq \mathrm{Im}\left(
z\right) \leq 1\right\}
\end{equation*}に注目します。これは複素平面上の4点\(0,1,1+i,i\in \mathbb{C} \)を頂点とする正方形及びその内部に相当する領域です。\(f\)は複素1次関数であり、\(A\)上のそれぞれの点に対して以下の3つの操作\begin{eqnarray*}&&\left( R\right) \ \text{原点}O\text{を中心に}\mathrm{Arg}\left( i\right) =\frac{\pi }{2}\text{ラジアンだけ回転する} \\
&&\left( M\right) \ \text{偏角はそのままで絶対値を}4\text{倍する} \\
&&\left( T\right) \ \text{ベクトル}2+3i\text{方向に}\left\vert 2+3i\right\vert =\sqrt{13}\text{だけ移動する}
\end{eqnarray*}を順番に行えば\(f\left( A\right) \)が得られます。先の4点を\(f\)に入力することにより得られる点は、\begin{eqnarray*}f\left( 0\right) &=&2+3i \\
f\left( 1\right) &=&2+7i \\
f\left( 1+i\right) &=&-2+7i \\
f\left( i\right) &=&-2+3i
\end{eqnarray*}であるため、\(f\left( A\right) \)はこれらの点を頂点とする正方形及びその内部に相当する領域です。
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