複素関数の連続性と複素関数の実部と虚部の連続性の関係
複素平面\(\mathbb{C} \)もしくはその部分集合\(Z\)を定義域とし、複素数を値としてとる複素関数\begin{equation*}f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \end{equation*}が与えられているものとします。このような複素関数が定義域上の点\(a\in Z\)において連続であることをイプシロン・デルタ論法を用いて表現すると、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in Z:\left(
\left\vert z-a\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right)
-f\left( a\right) \right\vert <\varepsilon \right)
\end{equation*}となります。ただ、以上の定義にもとづいて複素関数が連続であることを証明するのは面倒です。複素関数の連続性は複素関数の実部と虚部を用いて表現することもでき、そちらの定義を利用した方が複素関数が連続であることを容易に示すことができる場合もあります。順番に解説します。
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)およびその実部\(u:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{R} \)と虚部\(v:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{R} \)の間には以下の関係\begin{equation}\forall z\in Z:f\left( z\right) =u\left( z\right) +iv\left( z\right)
\quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立ちます。複素数\(z\in Z\)を任意に選んだとき、これは何らかの実数\(x,y\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation}z=x+yi \quad \cdots (2)
\end{equation}と表すことができるため、以下の関係\begin{eqnarray*}
f\left( z\right) &=&f\left( x+yi\right) \quad \because \left( 2\right) \\
&=&u\left( x+yi\right) +iv\left( x+yi\right) \quad \because \left( 1\right)
\end{eqnarray*}が成り立ちます。このような事情を踏まえると、複素関数\(f\)の実部\(u\)と虚部\(v\)を、実数を値としてとり得る2つの変数\(x,y\)に関する2変数の実数値関数\begin{eqnarray*}u\left( x,y\right) &:&\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{R} \\
v\left( x,y\right) &:&\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{R} \end{eqnarray*}とみなすことができます。このような解釈のもとでは、複素数\(z=x+y\in \mathbb{C} \)を任意に選んだとき、以下の関係\begin{equation*}f\left( z\right) =u\left( x,y\right) +iv\left( x,y\right)
\end{equation*}が成り立ちます。
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)と定義域上の点\(a=b+ci\in Z\)が与えられたとき、\(f\)の実部\(u\left( x,y\right) \)と虚部\(v\left( x,y\right) \)が点\(\left( b,c\right) \)において連続である場合、もとの複素関数\(f\)もまた点\(a\)において連続であることが保証されます。
\end{equation*}が成り立つ。\(f\)の定義域上の点\(a=b+ci\in Z\)が与えられたとき、\(u\)と\(v\)がともに点\(\left( b,c\right) \)において連続であるならば、\(f\)もまた点\(a\)において連続である。
上の命題の逆もまた成立します。つまり、複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)と定義域上の点\(a=b+ci\in Z\)が与えられたとき、\(f\)が点\(a\)において連続であるならば、\(f\)の実部\(u\left( x,y\right) \)と虚部\(v\left( x,y\right) \)はともに点\(\left( b,c\right) \)において連続であることが保証されます。
\end{equation*}が成り立つ。\(f\)の定義域上の点\(a=b+ci\in Z\)が与えられたとき、\(f\)が点\(a\)において連続であるならば、\(u\)と\(v\)はともに点\(\left( b,c\right) \)において連続である。
以上の2つの命題より、複素関数の連続性は2変数の実数値関数である複素関数の実部と虚部の連続性を用いて以下のように特徴づけられることが明らかになりました。
\end{equation*}が成り立つ。\(f\)の定義域上の点\(a=b+ci\in Z\)が与えられたとき、\(f\)が点\(a\)において連続であることと、\(u\)と\(v\)がともに点\(\left( b,c\right) \)において連続であることは必要十分である。
以上の命題より、複素関数の連続性に関する議論を、2変数の実数値関数の連続性に関する議論に置き換えて考えることができます。つまり、複素関数の連続性を判定する際に、イプシロン・エヌ論法を利用する必要はなく、2変数の実数値関数の連続性に関する知識を動員できます。
\end{equation*}を定めるものとします。複素数\(a=b+ci\in \mathbb{C} \)を任意に選んだとき、\(f\)が点\(a\)において連続であることを先の命題を用いて示します。複素数\(z=x+yi\in \mathbb{C} \)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}f\left( z\right) &=&f\left( x+yi\right) \\
&=&\left( x+yi\right) ^{2}+i\quad \because f\text{の定義}
\\
&=&x^{2}+2xyi+y^{2}i^{2}+i \\
&=&\left( x^{2}-y^{2}\right) +\left( 2xy+1\right) i
\end{eqnarray*}であるため、\(f\)の実部と虚部は、\begin{eqnarray*}u\left( x,y\right) &=&x^{2}-y^{2} \\
v\left( x,y\right) &=&2xy+1
\end{eqnarray*}であることが明らかになりました。\(u,v\)はともに多変数の多項式関数であるため点\(\left(b,c\right) \)において連続です。したがって先の命題より、\(f\)は点\(a\)において連続です。
複素関数が連続ではないことの証明
先の命題は複素関数が連続ではないことを示す上でも有用です。つまり、複素関数の実部もしくは虚部の少なくとも一方が連続ではない場合、もとの複素関数は連続ではありません。
\begin{array}{cc}
\frac{1}{z} & \left( if\ z\not=0\right) \\
0 & \left( if\ z=0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。非ゼロの複素数\(z\in \mathbb{C} /\left\{ 0\right\} \)に対しては、\begin{eqnarray*}f\left( z\right) &=&\frac{1}{z}\quad \because f\text{の定義} \\
&=&\frac{1}{r\left[ \cos \left( \theta \right) +i\sin \left( \theta \right) \right] } \\
&=&\frac{\cos \left( \theta \right) -i\sin \left( \theta \right) }{r}
\end{eqnarray*}となるため、この場合の\(f\)の実部は、\begin{equation*}u\left( \theta ,r\right) =\frac{\cos \left( \theta \right) }{r}
\end{equation*}となります。その一方で、\(z=0\)の場合には、\begin{equation*}f\left( z\right) =0
\end{equation*}であるため、この場合の\(f\)の実部は、\begin{equation*}u\left( \theta ,r\right) =0
\end{equation*}です。以上より、\(f\)の実部は、\begin{equation*}u\left( \theta ,r\right) =\left\{
\begin{array}{cc}
\frac{\cos \left( \theta \right) }{r} & \left( if\ z\not=0\right) \\
0 & \left( if\ z=0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}であることが明らかになりました。\(z\rightarrow 0\)の場合に\(u\left( \theta ,r\right) \)が実数へ収束しないことを示します。\(\left( \theta ,r\right) \)が以下の集合\begin{equation*}\left\{ \left( \theta ,r\right) \in \mathbb{C} \ |\ \theta =\pi \wedge r>0\right\}
\end{equation*}上の点をとりながら\(\left( 0,0\right) \)へ限りなく近づく場合には、\begin{eqnarray*}\lim_{\left( \theta ,r\right) \rightarrow \left( 0,0\right) }u\left( \theta
,r\right) &=&\lim_{\left( \theta ,r\right) \rightarrow \left( 0,0\right) }\frac{\cos \left( \theta \right) }{r} \\
&=&\lim_{r\rightarrow 0+}\frac{-1}{r} \\
&=&-\infty
\end{eqnarray*}となります。したがって\(u\left( \theta ,r\right) \)は点\(\left(0,0\right) \)において連続ではないため、先の命題より\(f\)は点\(0\)において連続ではありません。
演習問題
\end{equation*}を定めるものとします。点\(a=b+ci\in \mathbb{C} \)を任意に選んだとき、\(f\)が点\(a\)において連続であることを\(f\)の実部と虚部を用いて証明してください。
\end{equation*}を定めるものとします。点\(a=b+ci\in \mathbb{C} \)を任意に選んだとき、\(f\)が点\(a\)において連続であることを\(f\)の実部と虚部を用いて証明してください。
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