集積点における複素関数の連続性をイプシロン・デルタ論法で定義する
複素空間\(\mathbb{C} \)もしくはその部分集合\(Z\)を定義域とし、値として複素数をとる複素関数\begin{equation*}f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \end{equation*}が与えられているものとします。その上で、複素関数\(f\)の定義域\(Z\)の集積点\(a\in \mathbb{Z} \)を任意に選びます。集積点の定義より、\begin{equation*}\forall \delta >0:N_{\delta }\left( a\right) \cap \left( A\backslash \left\{
a\right\} \right) \not=\phi
\end{equation*}が成り立ちます。ただし、\(N_{\delta }\left( a\right) \)は中心が\(a\)であり半径が\(\delta \)であるような近傍であり、\begin{equation*}N_{\delta }\left( a\right) =\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ \left\vert z-a\right\vert <\delta \right\}
\end{equation*}です。この場合、\(f\)は点\(a\)において定義されているとは限りませんが、点\(a\)からいくらでも近い場所に\(a\)とは異なる\(Z\)の点が必ず存在します。
複素関数\(f\)が定義域\(Z\)の集積点\(a\in \mathbb{C} \)において連続であることとは、以下の3つの条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ a\in Z \\
&&\left( b\right) \ \lim_{z\rightarrow a}f\left( z\right) \in \mathbb{C} \\
&&\left( c\right) \ \lim_{z\rightarrow a}f\left( z\right) =f\left( a\right)
\end{eqnarray*}がすべて成り立つこととして定義されます。つまり、\(f\)が点\(a\)において定義されており、なおかつ\(z\rightarrow a\)の場合に\(f\)が複素数へ収束し、さらにその極限\(\lim\limits_{z\rightarrow a}f\left( z\right) \)が\(f\left( a\right) \)と一致する場合には、\(f\)は点\(a\)において連続です。
複素関数\(f\)の定義域上の点\(a\in Z\)が定義域\(Z\)の集積点ではない場合、\(a\)は\(Z\)の孤立点になります。この場合、複素関数\(f\)は点\(a\)において連続であるものと定めます。
以上の定義では「複素関数の極限」という概念が前提となっていますが、「複素関数の極限」概念を経由せず、イプシロン・デルタ論法を用いて複素関数の連続性を定義することもできます。以下で順番に解説します。
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)と定義域\(Z\)の集積点\(a\in \mathbb{C} \)が与えられたとき\(z\rightarrow a\)の場合に\(f\)が複素数へ収束すること、すなわち、\begin{equation*}\exists b\in \mathbb{C} :\lim_{z\rightarrow a}f\left( z\right) =b
\end{equation*}が成り立つこととは、\(f\)の変数\(z\)を点\(a\)とは異なる\(Z\)上の点をとりながら\(a\)に限りなく近づける場合、\(z\)がどのような経路をたどって点\(a\)へ近づいていく場合においても、その際に\(f\left( z\right) \)の値が必ず特定の複素数\(b\)へ限りなく近づくことを意味しますが、そのことをイプシロン・デルタ論法を用いて厳密に定義すると、\begin{equation}\exists b\in \mathbb{C} ,\ \forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in Z:\left(
0<\left\vert z-a\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right)
-b\right\vert <\varepsilon \right) \quad \cdots (1)
\end{equation}となります。
では、複素関数\(f\)が定義域\(Z\)の集積点\(a\)において連続であることを、同じくイプシロン・デルタ論法を用いてどのように表現できるでしょうか。複素関数\(f\)が点\(a\)において連続であるものとします。この場合、複素関数\(f\)は点\(a\)および周辺の点において定義されているとともに、\(z\rightarrow a\)の場合に複素数へ収束し、なおかつその極限が\(f\left( a\right) \)と一致するため、\(\left( 1\right) \)中の\(b\)を\(f\left( a\right) \)に置き換えることができます。また、複素関数\(f\)が点\(a\)において連続である場合には\(f\)は\(a\)において定義されていることが前提になるため、\(\left( 1\right) \)において\(z=a\)の場合を除外する必要はありません。つまり、\(\left( 1\right) \)中の\(0<\left\vert z-a\right\vert \)は不要です。以上を踏まえると、複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)が定義域の集積点\(a\in \mathbb{C} \)において連続であることを、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in Z:\left(
\left\vert z-a\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right)
-f\left( a\right) \right\vert <\varepsilon \right)
\end{equation*}と表現できそうです。実際、これは正しい主張です。
\end{equation*}が成り立つものとする。以上の条件のもとでは、\begin{equation*}
\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in Z:\left(
\left\vert z-a\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right)
-f\left( a\right) \right\vert <\varepsilon \right)
\end{equation*}が成り立つことと、複素関数\(f\)が点\(a\)において連続であることは必要十分である。
\end{equation*}を定めるものとします。この複素関数\(f\)が定義域上の点\(i\in \mathbb{C} \)において連続であることをイプシロン・デルタ論法を用いて示します。具体的には、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in \mathbb{C} :\left( \left\vert z-i\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert f\left(
z\right) -f\left( i\right) \right\vert <\varepsilon \right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in \mathbb{C} :\left( \left\vert z-i\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert
3z-3i\right\vert <\varepsilon \right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in \mathbb{C} :\left( \left\vert z-i\right\vert <\delta \Rightarrow 3\left\vert
z-i\right\vert <\varepsilon \right)
\end{equation*}を示すことが目標です。\(\varepsilon >0\)を任意に選ぶと、それに対して、\begin{equation}\delta =\frac{\varepsilon }{3}>0 \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たす正の実数\(\delta \)を選ぶことができます。すると、\begin{equation}\left\vert z-i\right\vert <\delta \quad \cdots (2)
\end{equation}を満たす任意の\(z\in \mathbb{C} \)に対して、\begin{eqnarray*}3\left\vert z-i\right\vert &<&3\delta \quad \because \left( 2\right) \\
&=&3\cdot \frac{\varepsilon }{3}\quad \because \left( 1\right) \\
&=&\varepsilon
\end{eqnarray*}となるため証明が完了しました。
孤立点における複素関数の連続性をイプシロン・デルタ論法で定義する
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)の定義域上の点\(a\in Z\)が定義域\(Z\)の集積点ではない場合、\(a\)は\(Z\)の孤立点になります。この場合、\(f\)は点\(a\)において連続であるものと定めましたが、その根拠を以下で解説します。
先ほど示したように、複素関数\(f\)が定義域\(Z\)の集積点\(a\in \mathbb{C} \)上で定義されている場合には、すなわち\(a\in Z\)が成り立つ場合には、複素関数\(f\)が点\(a\)において連続であることと、\begin{equation}\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in Z:\left(
\left\vert z-a\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right)
-f\left( a\right) \right\vert <\varepsilon \right) \quad \cdots (1)
\end{equation}が成り立つことは必要十分です。ただし、ここでは点\(a\)が複素関数\(f\)の定義域\(Z\)の集積点であることが前提となっています。では、点\(a\in Z\)が\(Z\)の集積点ではない場合、すなわち点\(a\)が\(Z\)の孤立点である場合にも、点\(a\)における連続性の定義として\(\left( 1\right) \)をそのまま採用できるでしょうか。複素関数\(f\)は定義域\(Z\)の孤立点\(a\)において連続であるものと定義したため、孤立点\(a\)における連続性の定義として\(\left(1\right) \)を採用するためには、孤立点\(a\)に対して\(\left( 1\right) \)が必ず真になることを確認しておく必要があります。
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)と定義域\(Z\)の孤立点\(a\in \mathbb{C} \)が与えられているものとします。孤立点の定義より、これは、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ a\in Z \\
&&\left( b\right) \ \exists \delta >0:N_{\delta }\left( a\right) \cap
Z=\left\{ a\right\}
\end{eqnarray*}が成り立つことを意味します。\(\varepsilon >0\)を任意に選びます。その上で、\(\left( b\right) \)において存在が保証される\(\delta >0\)に注目します。さらに、\(z\in N_{\delta }\left( a\right) \)を満たす\(z\in Z\)を任意に選びます。\(\left( b\right) \)より、そのような条件を満たす点\(z\)は\(a\)だけであるため、\begin{eqnarray*}\left\vert f\left( z\right) -f\left( a\right) \right\vert &=&\left\vert
f\left( a\right) -f\left( a\right) \right\vert \\
&=&0 \\
&<&\varepsilon
\end{eqnarray*}を得ます。以上より、\begin{equation*}
\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in Z:\left(
\left\vert z-a\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right)
-f\left( a\right) \right\vert <\varepsilon \right)
\end{equation*}が成り立つことの証明が完了しました。
\end{equation*}を定めるものとします。定義域上の点\(0\in\left\{ 0\right\} \)に注目したとき、これは定義域\(\left\{ 0\right\} \)の孤立点であるため、\(f\)は点\(0\)において連続です。さらに、\(\varepsilon>0\)を任意に選んだとき、それに対して、\begin{equation*}\delta >0
\end{equation*}を適当に選べば、\(\left\vert z-0\right\vert <\delta \)を満たす任意の\(z\in \left\{ 0\right\} \)について、\begin{eqnarray*}\left\vert f\left( z\right) -f\left( 0\right) \right\vert &=&\left\vert
f\left( 0\right) -f\left( 0\right) \right\vert \quad \because z\in \left\{
0\right\} \\
&=&0 \\
&<&\varepsilon \quad \because \varepsilon >0
\end{eqnarray*}が成り立ちます。以上より、\begin{equation*}
\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in \left\{ 0\right\}
:\left( \left\vert z-0\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert f\left(
z\right) -f\left( 0\right) \right\vert <\varepsilon \right)
\end{equation*}が成り立つことが明らかになりました。
イプシロン・デルタ論法を用いた複素関数の連続性の定義
これまでの議論から明らかになったように、イプシロン・デルタ論法を用いた複素関数の連続性の定義は、定義域上の集積点における連続性だけでなく、定義域上の孤立点における連続性に対しても有効です。複素関数の定義域上の点は集積点または孤立点のどちらか一方です。したがって、イプシロン・デルタ論法を用いた連続性の定義は、複素関数の定義域上に存在するすべての点に対して有効です。
このような事情を踏まえると、複素関数が連続であることを以下の形で改めて定義できます。
\left\vert z-a\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right)
-f\left( a\right) \right\vert <\varepsilon \right)
\end{equation*}が成り立つことと、複素関数\(f\)が点\(a\)において連続であることは必要十分である。
複素関数が連続でないことの証明
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)が定義域上の点\(a\in Z\)において連続であることは、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in Z:\left(
\left\vert z-a\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right)
-f\left( a\right) \right\vert <\varepsilon \right)
\end{equation*}が成り立つこととして定義できることが明らかになりました。
一方、複素関数\(f\)がそもそも点\(a\)において定義されていない場合、すなわち\(a\not\in Z\)である場合、\(f\)は点\(a\)において連続ではありません。また、\(a\in Z\)である場合においても、上の命題が成り立たない場合には、すなわち、上の命題の否定である、\begin{equation*}\exists \varepsilon >0,\ \forall \delta >0,\ \exists z\in Z:\left(
\left\vert z-a\right\vert <\delta \wedge \left\vert f\left( z\right)
-f\left( a\right) \right\vert \geq \varepsilon \right)
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(f\)は点\(a\)において連続ではありません。
\begin{array}{cc}
0 & \left( if\ \mathrm{Re}\left( z\right) <0\right) \\
i & \left( if\ \mathrm{Re}\left( z\right) \geq 0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は点\(0\)において連続ではありませんが、それをイプシロン・デルタ論法を用いて証明します。具体的には、\begin{equation*}\exists \varepsilon >0,\ \forall \delta >0,\ \exists z\in \mathbb{C} :\left( \left\vert z-0\right\vert <\delta \wedge \left\vert f\left( z\right)
-f\left( 0\right) \right\vert \geq \varepsilon \right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\exists \varepsilon >0,\ \forall \delta >0,\ \exists z\in \mathbb{C} :\left( \left\vert z\right\vert <\delta \wedge \left\vert f\left( z\right)
-i\right\vert \geq \varepsilon \right)
\end{equation*}を示すことが目標です。そこで、\begin{equation}
1>\varepsilon >0 \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たす正の実数\(\varepsilon>0\)に注目します。\(\delta >0\)を任意に選んだ上で、\begin{equation}\mathrm{Re}\left( z\right) <0\wedge \left\vert z\right\vert <\delta \quad \cdots (2)
\end{equation}を満たす\(z\in \mathbb{C} \)に注目すると、\begin{eqnarray*}\left\vert f\left( z\right) -i\right\vert &=&\left\vert 0-i\right\vert
\quad \because \left( 2\right) \text{および}f\text{の定義} \\
&=&1 \\
&>&\varepsilon \quad \because \left( 1\right)
\end{eqnarray*}となるため証明が完了しました。
演習問題
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)が点\(i\in \mathbb{C} \)において連続であることをイプシロン・デルタ論法を用いて証明してください。
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)が点\(-1\in \mathbb{C} \)において連続であることをイプシロン・デルタ論法を用いて証明してください。
プレミアム会員専用コンテンツです
【ログイン】【会員登録】