複素関数の連続性と複素数列の極限の関係
複素平面\(\mathbb{C} \)もしくはその部分集合\(Z\)を定義域とし、複素数を値としてとる複素関数\begin{equation*}f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \end{equation*}が与えられているものとします。このような複素関数が定義域上の点\(a\in Z\)において連続であることをイプシロン・デルタ論法を用いて表現すると、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in Z:\left(
\left\vert z-a\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right)
-f\left( a\right) \right\vert <\varepsilon \right)
\end{equation*}となります。ただ、以上の定義にもとづいて複素関数が連続であることを証明するのは面倒です。複素関数の連続性は複素数列を用いて表現することもでき、そちらの定義を利用した方が複素関数が連続であることを容易に示すことができる場合もあります。順番に解説します。
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)が定義域上の点\(a\in Z\)において連続であるものとします。このとき、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall n\in \mathbb{N} :z_{n}\in Z \\
&&\left( b\right) \ \lim_{n\rightarrow +\infty }z_{n}=a
\end{eqnarray*}をすべて満たす複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)を任意に選びます。つまり、\(Z\)上の点を項とするとともに点\(a\)へ収束する複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)を任意に選ぶということです。
この複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の任意の項\(z_{n}\)は複素関数\(f\)の定義域\(Z\)の要素であるため、それに対して複素関数\(f\)は像\(f\left( z_{n}\right) \)を定めます。\(f\left( z_{n}\right) \)は複素数列であるため、これを項とする新たな複素数列\begin{equation*}\left\{ f\left( z_{n}\right) \right\}
\end{equation*}を構成できます。複素関数\(f\)は点\(a\)において定義されているため\(f\left( a\right) \)は複素数ですが、この複素数列\(\left\{f\left( z_{n}\right) \right\} \)が\(f\left( a\right) \)へ収束することが保証されます。
\end{equation*}が成り立つ。
先の命題の逆もまた成立します。つまり、複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)と定義域上の点\(a\in Z\)が与えられたとき、以下の条件\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall n\in \mathbb{N} :z_{n}\in Z \\
&&\left( b\right) \ \lim_{n\rightarrow +\infty }z_{n}=a
\end{eqnarray*}をともに満たす複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)を任意に選んだ上で、さらにそこから複素数列\(\left\{f\left( z_{n}\right) \right\} \)を構成します。このようにして得られた任意の複素数列\(\left\{ f\left( z_{n}\right) \right\} \)が\(f\left(a\right) \)へ収束する場合には、複素関数\(f\)は点\(a\)において連続であることが保証されます。
\end{equation*}が成り立つならば、複素関数\(f\)は点\(a\)において連続である。
以上の2つの命題により、複素関数の連続性の概念は複素数列の収束概念を用いて以下のように特徴づけられることが明らかになりました。
\end{equation*}が成り立つことは、複素関数\(f\)が点\(a\)において連続であるための必要十分条件である。
この命題が要求していることは、\(Z\)の点を項とするとともに\(a\)へ収束する「任意の」複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)に対して、そこから構成される複素数列\(\{f\left(z_{n}\right) \}\)が\(f\left( a\right) \)へ収束しなければならないということです。したがって、このような性質を満たす複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が「存在する」ことを示しただけでは、複素関数\(f\)が点\(a\)において連続であることを示したことにはなりません。
以上の命題より、関数の連続性に関する議論を複素関数の収束に関する議論に置き換えられることが明らかになりました。
\end{equation*}を定めるものとします。定義域上の点\(a\in \mathbb{C} \)を任意に選んだとき、\(f\)が点\(a\)において連続であることを複素数列を用いて示します。そこで、\(a\)へ収束する複素数列を任意に選びます。つまり、\begin{equation}\lim_{n\rightarrow +\infty }z_{n}=a \quad \cdots (1)
\end{equation}を満たす複素数列\(\left\{z_{n}\right\} \)を任意に選ぶということです。このとき、複素数列\(\left\{ f\left(z_{n}\right) \right\} \)の極限について、\begin{eqnarray*}\lim_{n\rightarrow +\infty }f\left( z_{n}\right) &=&\lim_{n\rightarrow
+\infty }2z_{n}i\quad \because f\text{の定義} \\
&=&2i\lim_{n\rightarrow +\infty }z_{n}\quad \because \text{定数倍の法則} \\
&=&2ia\quad \because \left( 1\right) \\
&=&2ai \\
&=&f\left( a\right) \quad \because f\text{の定義}
\end{eqnarray*}となるため、先の命題より\(f\)は点\(a\)において連続であることが明らかになりました。
複素関数が連続ではないことの証明
先の命題は、複素関数が連続でないことを示す際にも有用です。複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)と定義域上の点\(a\in Z\)が与えられたとき、\(Z\)の点を項とするとともに\(a\)へ収束する何らかの複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)を具体的に選んだ上で、それに対して複素数列\(\left\{ f\left( z_{n}\right) \right\} \)が\(f\left(a\right) \)へ収束しないことを示せば、\(f\)が点\(a\)において連続ではないことを示したことになります。なぜなら、先の命題より、そのような複素数列\(\left\{z_{n}\right\} \)が存在することは、\(f\)が点\(a\)において連続であることと矛盾するからです。
\begin{array}{cc}
z & \left( if\ x\not=0\right) \\
i & \left( if\ x=0\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}を定めるものとします。この複素関数\(f\)は点\(0\)において連続ではないことを複素数列を用いて示します。そこで、一般項が、\begin{equation*}z_{n}=\frac{1}{n}+\frac{1}{n}i
\end{equation*}で与えられる複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)に注目します。この複素数列は、\begin{equation*}\lim_{n\rightarrow +\infty }z_{n}=0
\end{equation*}を満たします。その一方で、複素数列\(\left\{f\left( z_{n}\right) \right\} \)については、\begin{eqnarray*}\lim_{n\rightarrow +\infty }f\left( z_{n}\right) &=&\lim_{n\rightarrow
+\infty }f\left( \frac{1}{n}+\frac{1}{n}i\right) \quad \because \left\{
z_{n}\right\} \text{の定義} \\
&=&\lim_{n\rightarrow +\infty }\left( \frac{1}{n}+\frac{1}{n}i\right) \quad
\because f\text{の定義} \\
&=&\lim_{n\rightarrow +\infty }\frac{1}{n}+i\lim_{n\rightarrow +\infty }\frac{1}{n} \\
&=&0+i0 \\
&=&0
\end{eqnarray*}となります。その一方で、\begin{equation*}
f\left( 0\right) =i
\end{equation*}であるため、\begin{equation*}
\lim_{n\rightarrow +\infty }f\left( z_{n}\right) \not=f\left( 0\right)
\end{equation*}を得ます。したがって先の命題より、複素関数\(f\)は点\(0\)において連続ではありません。
演習問題
\end{equation*}を定めるものとします。点\(a\in \mathbb{C} \)を任意に選んだとき、\(f\)が点\(a\)において連続であることを複素数列を用いて証明してください。
\end{equation*}を定めるものとします。点\(a\in \mathbb{C} \)を任意に選んだとき、\(f\)が点\(a\)において連続であることを複素数列を用いて証明してください。
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