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複素関数

複素関数による逆像と複素関数の定義域

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複素関数による要素の逆像

複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)が与えられたとき、終集合の要素\(w\in \mathbb{C} \)を任意に選ぶと、これに対して\(w=f\left( z\right) \)を満たす始集合の要素\(z\in Z\)は存在するとは限りませんし、存在する場合にも一意的であるとは限りません。そこで、\(w\in \mathbb{C} \)に対して\(w=f\left( z\right) \)を満たすような\(z\in Z\)からなる集合を、\begin{equation*}f^{-1}\left( w\right) =\left\{ z\in Z\ |\ w=f\left( z\right) \right\}
\end{equation*}で表記し、これを\(f\)による\(w\)の逆像(inverse image)や原像(preimage)などと呼びます。

複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)は始集合\(Z\)のそれぞれの要素に対して複素数を1つずつ定めます。したがって、それぞれの\(z\in Z\)に対して\(f\)が定める値\(f\left( z\right) \)は\(\mathbb{C} \)の「要素」です。一方、終集合のそれぞれの要素\(w\in \mathbb{C} \)に対して\(w=f\left( z\right) \)を満たす始集合の要素\(z\in Z\)は存在するとは限らず、また、存在する場合も一意的であるとは限らないため、逆像\(f^{-1}\left( w\right) \)は\(Z\)の「部分集合」であることに注意が必要です。

複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)による終集合の要素\(w\in \mathbb{C} \)の逆像は、\begin{equation*}f^{-1}\left( w\right) =\left\{ z\in Z\ |\ w=f\left( z\right) \right\}
\end{equation*}と定義されるため、順序対\(\left( z,w\right) \in Z\times \mathbb{C} \)を任意に選んだとき、以下の関係\begin{equation*}z\in f^{-1}\left( w\right) \Leftrightarrow w=f\left( z\right)
\end{equation*}が成り立ちます。つまり、\(z\)が\(f\)による\(w\)の逆像の要素であることと、\(f\)による\(z\)の像が\(w\)であることは必要十分です。

例(複素関数による要素の逆像)
複素関数\(f:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれの\(z\in \mathbb{C} \)に対して、\begin{equation*}f\left( z\right) =iz
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)による\(1\in \mathbb{C} \)の逆像は、\begin{eqnarray*}f^{-1}\left( 1\right) &=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ 1=f\left( z\right) \right\} \\
&=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ 1=iz\right\} \\
&=&\left\{ \frac{1}{i}\right\} \\
&=&\left\{ \frac{i}{i^{2}}\right\} \\
&=&\left\{ -i\right\}
\end{eqnarray*}となります。また、\(f\)による\(i\in \mathbb{C} \)の逆像は、\begin{eqnarray*}f^{-1}\left( i\right) &=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ i=f\left( z\right) \right\} \\
&=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ i=iz\right\} \\
&=&\left\{ 1\right\}
\end{eqnarray*}となります。また、\(f\)による\(1+i\in \mathbb{C} \)の逆像は、\begin{eqnarray*}f^{-1}\left( 1+i\right) &=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ 1+i=f\left( z\right) \right\} \\
&=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ 1+i=iz\right\} \\
&=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ \frac{1+i}{i}=z\right\} \\
&=&\left\{ \frac{1+i}{i}\right\} \\
&=&\left\{ \frac{1i+i^{2}}{i^{2}}\right\} \\
&=&\left\{ 1-i\right\}
\end{eqnarray*}となります。

例(複素関数による要素の逆像)
複素関数\(f:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれの\(z\in \mathbb{C} \)に対して、\begin{equation*}f\left( z\right) =z+\frac{1}{z}
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)による\(1\in \mathbb{C} \)の逆像は、\begin{eqnarray*}f^{-1}\left( 1\right) &=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ 1=f\left( z\right) \right\} \\
&=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ 1=z+\frac{1}{z}\right\} \\
&=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ z=z^{2}+1\right\} \\
&=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ z^{2}-z+1=0\right\} \\
&=&\left\{ \frac{1\pm \sqrt{1-4}}{2}\right\} \\
&=&\left\{ \frac{1\pm \sqrt{-3}}{2}\right\} \\
&=&\left\{ \frac{1\pm i\sqrt{3}}{2}\right\}
\end{eqnarray*}となります。また、\(f\)による\(i\in \mathbb{C} \)の逆像は、\begin{eqnarray*}f^{-1}\left( i\right) &=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ i=f\left( z\right) \right\} \\
&=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ i=z+\frac{1}{z}\right\} \\
&=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ zi=z^{2}+1\right\} \\
&=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ z^{2}-iz+1=0\right\} \\
&=&\left\{ \frac{i\pm \sqrt{-1-4}}{2}\right\} \\
&=&\left\{ \frac{i\pm \sqrt{-5}}{2}\right\} \\
&=&\left\{ \frac{i\pm i\sqrt{5}}{2}\right\} \\
&=&\left\{ \frac{i\left( 1\pm \sqrt{5}\right) }{2}\right\}
\end{eqnarray*}となります。

 

複素関数による集合の逆像・複素関数の定義域

複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)および終集合の部分集合\(B\subset \mathbb{C} \)が与えられた状況を想定します。\(f\)は始集合のそれぞれの要素\(z\in Z\)に対して値\(f\left( z\right) \in \mathbb{C} \)を定めますが、これは先に選んだ集合\(B\)の要素であるか否かのどちらか一方です。そこで、\(f\left( z\right) \)が\(B\)の要素になるような\(z\in Z\)をすべて集めることにより得られる集合を、\begin{equation*}f^{-1}\left( B\right) =\left\{ z\in Z\ |\ f\left( z\right) \in B\right\}
\end{equation*}で表記し、これを\(f\)による\(B\)の逆像(inverse image)や原像(preimage)などと呼びます。\(f^{-1}\left(B\right) \)は\(f\)の始集合\(Z\)の要素ではなく部分集合であることに注意してください。

複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)の終集合\(\mathbb{C} \)は\(\mathbb{C} \)自身の部分集合であるため、\(f\)による\(\mathbb{C} \)の逆像\begin{equation*}f^{-1}\left( \mathbb{C} \right) =\left\{ z\in Z\ |\ f\left( z\right) \in \mathbb{C} \right\}
\end{equation*}が定義可能です。これを複素関数\(f\)の定義域(domain)と呼び、\begin{equation*}D\left( f\right)
\end{equation*}で表記します。つまり、\begin{eqnarray*}
D\left( f\right) &=&f^{-1}\left( \mathbb{C} \right) \\
&=&\left\{ z\in Z\ |\ f\left( z\right) \in \mathbb{C} \right\}
\end{eqnarray*}です。

複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)による終集合の部分集合\(B\subset \mathbb{C} \)の逆像は、\begin{equation*}f^{-1}\left( B\right) =\left\{ z\in Z\ |\ f\left( z\right) \in B\right\}
\end{equation*}と定義されるため、始集合の要素\(z\in Z\)を任意に選んだとき、以下の関係\begin{eqnarray*}z\in f^{-1}\left( B\right) &\Leftrightarrow &f\left( z\right) \in B \\
&\Leftrightarrow &\exists w\in B:w=f\left( z\right)
\end{eqnarray*}が成り立ちます。以上を踏まえると、複素関数\(f\)による集合\(B\subset \mathbb{C} \)の逆像を、\begin{equation*}f^{-1}\left( B\right) =\left\{ z\in Z\ |\ \exists w\in B:w=f\left( z\right)
\right\}
\end{equation*}と表現することもできます。特に、\(B=\mathbb{C} \)の場合には、\begin{eqnarray*}D\left( f\right) &=&f^{-1}\left( \mathbb{C} \right) \\
&=&\left\{ z\in Z\ |\ \exists w\in \mathbb{C} :w=f\left( z\right) \right\}
\end{eqnarray*}となります。

例(複素関数の定義域)
複素関数\(f:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれの\(z\in \mathbb{C} \)に対して、\begin{equation*}f\left( z\right) =2\mathrm{Re}\left( z\right) -iz^{2}
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)の定義域は、\begin{eqnarray*}D\left( f\right) &=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ f\left( z\right) \in \mathbb{C} \right\} \\
&=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ 2\mathrm{Re}\left( z\right) -iz^{2}\in \mathbb{C} \right\} \\
&=&\mathbb{C} \end{eqnarray*}です。

例(複素関数の定義域)
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれの\(z\in Z\)に対して、\begin{equation*}f\left( z\right) =\frac{iz}{\left\vert z-1\right\vert }
\end{equation*}を定めるものとします。ただし、\begin{eqnarray*}
Z &=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ \left\vert z-1\right\vert \not=0\right\} \\
&=&\mathbb{C} \backslash \left\{ 1\right\}
\end{eqnarray*}です。\(f\)の定義域は、\begin{eqnarray*}D\left( f\right) &=&\left\{ z\in Z\ |\ f\left( z\right) \in \mathbb{C} \right\} \\
&=&\left\{ z\in Z\ |\ \frac{iz}{\left\vert z-1\right\vert }\in \mathbb{C} \right\} \\
&=&Z \\
&=&\mathbb{C} \backslash \left\{ 1\right\}
\end{eqnarray*}です。

 

複素関数の定義域と始集合は一致する

複素関数の定義域と始集合は常に一致します。

命題(複素関数の定義域と始集合は一致する)
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)が与えられたとき、\begin{equation*}D\left( f\right) =Z
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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この命題を踏まえると、複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)に関しては、その始集合\(Z\)と定義域\(D\left( f\right) \)を同一視しても一般性は失われません。複素関数の始集合と言ったとき、それは同時に定義域を指すとともに、その逆も成立するということです。

複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)の値域は\begin{eqnarray*}R\left( f\right) &=&f\left( Z\right) \\
&=&\left\{ f\left( z\right) \in \mathbb{C} \ |\ z\in Z\right\}
\end{eqnarray*}と定義される\(\mathbb{C} \)の部分集合ですが、これは\(\mathbb{C} \)と一致するとは限りません。つまり、以下の関係\begin{equation*}R\left( f\right) =\mathbb{C} \end{equation*}は成立するとは限りません。複素関数の値域と終集合は一致するとは限らないということです。その一方で、先の命題より、\begin{equation*}
D\left( f\right) =Z
\end{equation*}は常に成り立ちます。複素関数の定義域と始集合は常に一致するということです。

 

演習問題

問題(複素関数による要素の逆像)
複素関数\(f:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれの\(z\in \mathbb{C} \)に対して、\begin{equation*}f\left( z\right) =\overline{z}
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)による\(3-4i\in \mathbb{C} \)の逆像\begin{equation*}f^{-1}\left( 3-4i\right)
\end{equation*}を求めてください。

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問題(複素関数による要素の逆像)
複素関数\(f:\mathbb{C} \backslash \left\{ -1\right\} \rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれの\(z\in \mathbb{C} \backslash \left\{ -1\right\} \)に対して、\begin{equation*}f\left( z\right) =\frac{z-1}{z+1}
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)による\(i\in \mathbb{C} \)の逆像\begin{equation*}f^{-1}\left( i\right)
\end{equation*}を求めてください。

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問題(複素関数の定義域)
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれの\(z\in Z\)に対して、\begin{equation*}f\left( z\right) =\frac{iz}{\left\vert z\right\vert -1}
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)の定義域を求めてください。
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問題(複素関数の定義域)
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれの\(z\in Z\)に対して、\begin{equation*}f\left( z\right) =\frac{3z+2i}{z^{3}+4z^{2}+z}
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)の定義域を求めてください。
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