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複素関数

複素関数の無限極限(発散する複素関数)

目次

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無限大へ発散する複素関数

複素平面\(\mathbb{C} \)もしくはその部分集合\(Z\)を定義域とし、複素数を値としてとる複素関数\begin{equation*}f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \end{equation*}が与えられているものとします。その上で、複素関数\(f\)の定義域\(Z\)の集積点\(a\in \mathbb{Z} \)を任意に選びます。集積点の定義より、\begin{equation*}\forall \delta >0:N_{\delta }\left( a\right) \cap \left( A\backslash \left\{
a\right\} \right) \not=\phi
\end{equation*}が成り立ちます。ただし、\(N_{\delta }\left( a\right) \)は中心が\(a\)であり半径が\(\delta \)であるような近傍であり、\begin{equation*}N_{\delta }\left( a\right) =\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ \left\vert z-a\right\vert <\delta \right\}
\end{equation*}です。この場合、\(f\)は点\(a\)において定義されているとは限りませんが、点\(a\)からいくらでも近い場所に\(a\)とは異なる\(A\)の点が必ず存在します。

複素関数\(f\)の変数\(z\)を点\(a\)とは異なる\(Z\)上の点をとりながら\(a\)に限りなく近づける場合、\(z\)がどのような経路をたどって点\(a\)へ近づいていく場合においても、その際に\(f\left( z\right) \)の絶対値\(\left\vert f\left( z\right) \right\vert \)の値が限りなく大きくなることが保証されているのであれば、\(z\)が\(a\)に限りなく近づくときに\(f\)は無限大\(\infty \)へ発散する(diverge to infinity)と言い、そのことを、\begin{equation*}\lim_{z\rightarrow a}f\left( z\right) =\infty
\end{equation*}もしくは、\begin{equation*}
z\rightarrow a\ \text{のとき }f\left( z\right) \rightarrow
\infty
\end{equation*}などで表記します。その上で、このような\(\infty \)を無限極限(infinite limit)と呼びます。

繰り返しになりますが、複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)と定義域\(Z\)の集積点\(a\in \mathbb{Z} \)に対して、\begin{equation*}\lim_{z\rightarrow a}f\left( z\right) =\infty
\end{equation*}が成り立つこととは、\(f\)の変数\(z\)を点\(a\)とは異なる\(Z\)上の点をとりながら\(a\)に限りなく近づける場合に\(\left\vert f\left( z\right)\right\vert \)の値が限りなく大きくなることを意味しますが、これをどのような形で厳密に表現できるでしょうか。

まず、\(z\rightarrow a\)が成り立つこと、すなわち、\(z\)が\(a\)とは異なる\(Z\)上の点をとりながら\(a\)に限りなく近づいていく様子を表現するためには、\(z\)と\(a\)の近さを表す指標が必要です。そこで、\(z\)と\(a\)の間の距離を表す指標として正の実数\(\delta >0\)を導入します。その上で、\begin{equation*}0<\left\vert z-a\right\vert <\delta
\end{equation*}が成り立つのであれば、「\(z\)は\(a\)とは異なる点であるとともに、\(z\)と\(a\)の間の距離は\(\delta \)よりも小さい」と言えます。また、\(f\left(z\right) \rightarrow \infty \)が成り立つこと、すなわち\(\left\vert f\left( z\right)\right\vert \)の値が限りなく大きくなる様子を表現するためには、\(\left\vert f\left(z\right) \right\vert \)の大きさを表す指標も必要です。そこで、\(\left\vert f\left( z\right) \right\vert \)の大きさを表す指標として実数\(M\in \mathbb{R} \)を導入します。その上で、\begin{equation*}\left\vert f\left( z\right) \right\vert >M
\end{equation*}が成り立つのであれば、「\(\left\vert f\left( z\right) \right\vert \)の値は\(M\)よりも大きい」と言えます。\(z\rightarrow a\)のときに\(f\left( z\right) \rightarrow \infty \)であることは、以上のような2つの実数\(M,\delta \)の関係として表現することになります。

具体的には、まず、\(\left\vert f\left( z\right) \right\vert \)の大きさを表す値\(M\)を任意に選びます。今、\(z\rightarrow a\)の場合に\(f\left( z\right) \rightarrow \infty \)が成り立つのであれば、点\(a\)に十分近くなおかつ点\(a\)とは異なる任意の点\(z\)について、\(\left\vert f\left( z\right) \right\vert \)は\(M\)よりも大きくなるはずです。つまり、点\(a\)との距離がある値\(\delta \)より小さい場所にある\(a\)以外の任意の点\(z\in Z\)について、\(\left\vert f\left( z\right) \right\vert \)は\(M\)よりも大きくなるはずです。これを定式化すると、\begin{equation*}\exists \delta >0,\ \forall z\in Z:\left( 0<\left\vert z-a\right\vert
<\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right) \right\vert >M\right)
\end{equation*}となります。

さて、\(z\rightarrow a\)の場合に\(f\left( z\right) \rightarrow \infty \)となる場合には、最初に設定する\(M\)をどれほど大きくしても同様の議論が成立するはずです。つまり、\(\left\vert f\left( z\right) \right\vert \)の大きさを表す値\(M\)としてどれほど大きい値を採用した場合でも、\(z\rightarrow a\)の場合に\(f\left(z\right) \rightarrow \infty \)が成り立つ限りにおいて、点\(a\)との距離がある値\(\delta \)より小さい場所にある\(a\)以外の任意の点\(z\in Z\)について、\(\left\vert f\left( z\right) \right\vert \)は\(M\)よりも大きくなるはずです。これを定式化すると、\begin{equation*}\forall M\in \mathbb{R} ,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in Z:\left( 0<\left\vert z-a\right\vert
<\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right) \right\vert >M\right)
\end{equation*}となります。そこで、以上の命題によって、\begin{equation*}
\lim_{z\rightarrow a}f\left( z\right) =\infty
\end{equation*}が成り立つことの定義とします。

結論をまとめます。複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)と定義域\(Z\)の集積点\(a\in \mathbb{Z} \)に対して、\begin{equation*}\lim_{z\rightarrow a}f\left( z\right) =\infty
\end{equation*}が成り立つこととは、\(f\)の変数\(z\)を点\(a\)とは異なる\(Z\)上の点をとりながら\(a\)に限りなく近づける場合に\(\left\vert f\left( z\right)\right\vert \)の値が限りなく大きくなることを意味しますが、そのことを厳密に定義すると、\begin{equation*}\forall M\in \mathbb{R} ,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in Z:\left( 0<\left\vert z-a\right\vert
<\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right) \right\vert >M\right)
\end{equation*}になるということです。

ちなみに、先の命題は以下の命題\begin{equation*}
\forall M>0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in Z:\left( 0<\left\vert
z-a\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right) \right\vert
>M\right)
\end{equation*}と必要十分です。つまり、\(\left\vert f\left( z\right) \right\vert \)の大きさを表す実数\(M\)として正の実数だけを議論の対象としても一般性は失われません。

命題(無限大へ発散する複素関数の代替的な定義)
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)と定義域\(Z\)の集積点\(a\in \mathbb{Z} \)について、\begin{equation*}\forall M>0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in Z:\left( 0<\left\vert
z-a\right\vert <\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right) \right\vert
>M\right)
\end{equation*}が成り立つことは、\begin{equation*}
\forall M\in \mathbb{R} ,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in Z:\left( 0<\left\vert z-a\right\vert
<\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right) \right\vert >M\right)
\end{equation*}が成り立つことと必要十分である。

証明

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例(無限大へ発散する複素関数)
複素関数\(f:\mathbb{C} \backslash \left\{ 0\right\} \rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれの\(z\in \mathbb{C} \backslash \left\{ 0\right\} \)に対して、\begin{equation*}f\left( z\right) =\frac{1}{z}
\end{equation*}を定めるものとします。\(z\rightarrow 0\)の場合の極限について、\begin{equation*}\lim_{z\rightarrow 0}f\left( z\right) =\infty
\end{equation*}が成り立つことを示します。これを厳密に表現すると、\begin{equation*}
\forall M>0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in \mathbb{C} \backslash \left\{ 0\right\} :\left( 0<\left\vert z-0\right\vert <\delta
\Rightarrow \left\vert f\left( z\right) \right\vert >M\right)
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall M>0,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in \mathbb{C} \backslash \left\{ 0\right\} :\left( 0<\left\vert z\right\vert <\delta
\Rightarrow \left\vert \frac{1}{z}\right\vert >M\right)
\end{equation*}となります。これを示すことが目標です。実際、\(M>0\)を任意に選んだとき、それに対して、\begin{equation}\delta =\frac{1}{M}>0 \quad \cdots (1)
\end{equation}を選べば、\(0<\left\vert z\right\vert <\delta \)を満たす任意の\(z\in \mathbb{C} \backslash \left\{ 0\right\} \)に対して、\begin{eqnarray*}\left\vert \frac{1}{z}\right\vert &=&\frac{1}{\left\vert z\right\vert } \\
&>&\frac{1}{\delta }\quad \because 0<\left\vert z\right\vert <\delta \\
&=&\frac{1}{\frac{1}{M}}\quad \because \left( 1\right) \\
&=&M
\end{eqnarray*}が成り立つため証明が完了しました。

 

無限大へ発散する複素関数の代替的な定義

複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)と定義域\(Z\)の集積点\(a\in \mathbb{Z} \)について、\begin{equation*}\lim_{z\rightarrow a}f\left( z\right) =\infty
\end{equation*}が成り立つことを、以下の命題\begin{equation*}
\forall M\in \mathbb{R} ,\ \exists \delta >0,\ \forall z\in Z:\left( 0<\left\vert z-a\right\vert
<\delta \Rightarrow \left\vert f\left( z\right) \right\vert >M\right)
\end{equation*}が成り立つこととして定義しました。ただ、以上の定義にもとづいて複素関数が発散することを示す作業は面倒です。そこで、代替的な定義を提示します。

複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \)が非ゼロの複素数を値としてとる場合には、すなわち、\begin{equation*}\forall z\in Z:f\left( z\right) \not=0
\end{equation*}が成り立つ場合には、以下の複素関数\begin{equation*}
\frac{1}{f\left( z\right) }:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \end{equation*}が定義可能です。その上で、定義域\(Z\)の集積点\(a\in \mathbb{Z} \)が与えられたとき、以下の命題\begin{equation*}\lim_{z\rightarrow a}\frac{1}{f\left( z\right) }=0
\end{equation*}が成り立つことと、もとの複素関数\(f\)について、\begin{equation*}\lim_{z\rightarrow a}f\left( z\right) =\infty
\end{equation*}が成り立つことは必要十分になります。

命題(無限大へ発散する複素関数の代替的な定義)
複素関数\(f:\mathbb{C} \supset Z\rightarrow \mathbb{C} \backslash \left\{ 0\right\} \)と定義域\(Z\)の集積点\(a\in \mathbb{Z} \)について、\begin{equation*}\lim_{z\rightarrow a}f\left( z\right) =\infty \Leftrightarrow
\lim_{z\rightarrow a}\frac{1}{f\left( z\right) }=0
\end{equation*}が成り立つ。

証明

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以上の命題より、複素関数\(f\left( z\right) \)が\(z\rightarrow a\)の場合に無限大に発散することを示す代わりに、複素関数\(\frac{1}{f\left(z\right) }\)が\(z\rightarrow a\)の場合にゼロへ収束することを示してもよいことが明らかになりました。

例(無限大へ発散する複素関数)
複素関数\(f:\mathbb{C} \backslash \left\{ i\right\} \rightarrow \mathbb{C} \)はそれぞれの\(z\in \mathbb{C} \backslash \left\{ i\right\} \)に対して、\begin{equation*}f\left( z\right) =\frac{z}{\left( z-i\right) ^{2}}
\end{equation*}を定めるものとします。\(z\rightarrow i\)の場合の極限について、\begin{equation*}\lim_{z\rightarrow i}f\left( z\right) =\infty
\end{equation*}が成り立つことを示します。以下の複素関数\begin{equation*}
\frac{1}{f\left( z\right) }=\frac{\left( z-i\right) ^{2}}{z}
\end{equation*}について、\begin{eqnarray*}
\lim_{z\rightarrow i}\frac{1}{f\left( z\right) } &=&\lim_{z\rightarrow i}\frac{\left( z-i\right) ^{2}}{z} \\
&=&\frac{\left( i-i\right) ^{2}}{z} \\
&=&0
\end{eqnarray*}が成り立つため、先の命題より、\begin{equation*}
\lim_{z\rightarrow i}f\left( z\right) =+\infty
\end{equation*}であることが明らかになりました。

 

演習問題

問題(無限大へ発散する複素関数)
以下の極限\begin{equation*}
\lim_{z\rightarrow i}\frac{z^{2}-1}{z^{2}+1}
\end{equation*}を評価してください。

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問題(無限大へ発散する複素関数)
以下の極限\begin{equation*}
\lim_{z\rightarrow -\frac{i}{2}}\frac{\left( 1-i\right) z+i}{2z+i}
\end{equation*}を評価してください。

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