移動
複素関数\(f:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)がそれぞれの\(z\in Z\)に対して定める値が、\begin{equation*}b\not=0
\end{equation*}を満たす複素数\(b\in \mathbb{C} \)を用いて、\begin{equation*}f\left( z\right) =z+b
\end{equation*}と表される場合、このような複素関数\(f\)を移動(translation)と呼びます。
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は移動です。\(f\)が\(1\in \mathbb{C} \)に対して定める像は、\begin{eqnarray*}f\left( 1\right) &=&1+1+i \\
&=&2+i
\end{eqnarray*}であり、\(f\)が\(i\in \mathbb{C} \)に対して定める像は、\begin{eqnarray*}f\left( i\right) &=&i+1+i \\
&=&1+2i
\end{eqnarray*}であり、\(f\)が\(1+i\in \mathbb{C} \)に対して定める像は、\begin{eqnarray*}f\left( 1+i\right) &=&1+i+1+i \\
&=&2+i
\end{eqnarray*}です。
移動の幾何学的解釈
移動\(f:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)が与えられているものとします。つまり、\(f\)がそれぞれの\(z\in Z\)に対して定める値が、\(b\not=0\)を満たす\(b\in \mathbb{C} \)を用いて、\begin{equation}f\left( z\right) =z+b \quad \cdots (1)
\end{equation}と表されるということです。\(b\)は複素数であるため、何らかの実数\(x_{0},y_{0}\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation}b=x_{0}+iy_{0} \quad \cdots (2)
\end{equation}と表現できます。これはベクトル\(\left( x_{0},y_{0}\right) \)と同一視されます。
複素数\(z=x+iy\in \mathbb{C} \)が与えられているものとします。これは複素平面上の点\(\left( x,y\right) \)と同一視されます。この点を移動\(f\)に入力すると、以下の複素数\begin{eqnarray*}f\left( z\right) &=&f\left( x+iy\right) \quad \because z=x+iy \\
&=&x+iy+x_{0}+iy_{0}\quad \because \left( 1\right) ,\left( 2\right) \\
&=&\left( x+x_{0}\right) +i\left( y+y_{0}\right)
\end{eqnarray*}が出力されますが、これは複素平面上の点\(\left( x+x_{0},y+y_{0}\right) \)と同一視されます。
以上の議論より、移動\(f\)に点\(z=\left( x,y\right) \)を入力すると、その点はベクトル\(b=\left( x_{0},y_{0}\right) \)の方向へ\(\left\vert b\right\vert =\sqrt{x_{0}^{2}+y_{0}^{2}}\)だけ移動することが明らかになりました。移動後の点は\(f\left( z\right)=z+b=\left( x+x_{0},y+y_{0}\right) \)です。このような事情もあり、この複素関数\(f\)は移動と呼ばれています。
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は移動です。複素数\(2+3i\in \mathbb{C} \)は複素平面上の点\(\left(2,3\right) \)と同一視されます。この点を\(f\)に入力すると、\begin{eqnarray*}f\left( 2+3i\right) &=&2+3i+1+i \\
&=&3+4i
\end{eqnarray*}が出力されますが、これは複素平面上の点\(\left( 3,4\right) \)と同一視されます。つまり、\(f\)に点\(\left( 2,3\right) \)を入力すると、その点はベクトル\(\left(1,1\right) \)方向に\(\left\vert \left( 1,1\right)\right\vert =\sqrt{1^{2}+1^{2}}=\sqrt{2}\)だけ移動します。移動後の点は\(\left( 3,4\right) \)です。
移動による集合の像
移動\(f:\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \)が与えられているものとします。つまり、\(f\)がそれぞれの\(z\in Z\)に対して定める値が、\(b\not=0\)を満たす\(b\in \mathbb{C} \)を用いて、\begin{equation*}f\left( z\right) =z+b
\end{equation*}と表されるということです。\(f\)による集合\(A\subset \mathbb{C} \)の像は、\begin{eqnarray*}f\left( A\right) &=&\left\{ f\left( z\right) \in \mathbb{C} \ |\ z\in A\right\} \\
&=&\left\{ z+b\in \mathbb{C} \ |\ z\in A\right\}
\end{eqnarray*}ですが、これは\(A\)上の点をいずれもベクトル\(b\)方向に\(\left\vert b\right\vert \)だけ移動することにより得られる点からなる集合であるため、\(f\left(A\right) \)は\(A\)そのものをベクトル\(b\)方向へ\(\left\vert b\right\vert \)だけ移動することにより得られる集合に他なりません。移動の前後において、集合\(A\)の形状や大きさは変化せず、位置だけが変化します。このような移動を剛体運動(rigid motion)と呼びます。
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)は移動です。以下の集合\begin{equation*}A=\left\{ z\in \mathbb{Z} \ |\ 0\leq \mathrm{Re}\left( z\right) \leq 1\wedge 0\leq \mathrm{Im}\left(
z\right) \leq 1\right\}
\end{equation*}に注目します。これは複素平面上の4点\(\left(0,0\right) ,\left( 1,0\right) ,\left( 1,1\right) ,\left( 0,1\right) \)を頂点とする正方形及びその内部に相当する領域です。\(f\)による\(A\)の像は、\begin{eqnarray*}f\left( A\right) &=&\left\{ f\left( z\right) \in \mathbb{C} \ |\ z\in A\right\} \\
&=&\left\{ z+1+i\in \mathbb{C} \ |\ 0\leq \mathrm{Re}\left( z\right) \leq 1\wedge 0\leq \mathrm{Im}\left(
z\right) \leq 1\right\} \\
&=&\left\{ w\in \mathbb{C} \ |\ 0\leq \mathrm{Re}\left( w-1-i\right) \leq 1\wedge 0\leq \mathrm{Im}\left(
w-1-i\right) \leq 1\right\} \quad \because w=z+1+i\text{とおいた} \\
&=&\left\{ x+yi\in \mathbb{C} \ |\ 0\leq \mathrm{Re}\left( x+yi-1-i\right) \leq 1\wedge 0\leq \mathrm{Im}\left( x+yi-1-i\right) \leq 1\right\} \quad \because w=x+yi\text{とおいた} \\
&=&\left\{ x+yi\in \mathbb{C} \ |\ 0\leq x-1\leq 1\wedge 0\leq y-1\leq 1\right\} \\
&=&\left\{ x+yi\in \mathbb{C} \ |\ 1\leq x\leq 2\wedge 1\leq y\leq 2\right\} \\
&=&\left\{ w\in \mathbb{C} \ |\ 1\leq \mathrm{Re}\left( w\right) \leq 2\wedge 1\leq \mathrm{Im}\left(
w\right) \leq 2\right\} \quad \because w=x+yi\text{とおいた}
\end{eqnarray*}となりますが、これは複素平面上の4点\(\left(1,1\right) ,\left( 2,1\right) ,\left( 2,2\right) ,\left( 1,2\right) \)を頂点とする正方形及びその内部に相当する領域です。つまり、\(f\)に集合\(A\)を入力すると、\(A\)全体がベクトル\(\left( 1,1\right) \)方向に\(\left\vert \left(1,1\right) \right\vert =\sqrt{1^{2}+1^{2}}=\sqrt{2}\)だけ移動します。
演習問題
\end{equation*}を定めるものとします。\(f\)による以下の集合\begin{equation*}A=\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ \left\vert z\right\vert \leq 1\right\}
\end{equation*}を特定してください。さらに、その幾何学的意味を解説してください。
\end{equation*}を定めるものとします。集合\(A\subset \mathbb{C} \)は3つの複素数\(0,1,i\)を頂点とする三角形およびその内部の領域です。\(f\)による像\(f\left( A\right) \)を特定してください。さらに、その幾何学的意味を解説してください。
f &:&\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \\
g &:&\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \end{eqnarray*}がともに移動である場合には、これらの合成複素関数\begin{eqnarray*}
g\circ f &:&\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \\
f\circ g &:&\mathbb{C} \rightarrow \mathbb{C} \end{eqnarray*}もまた移動であることを証明してください。
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