WIIS

複素数列

複素数列に関するボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理

目次

Mailで保存
Xで共有

複素数列の収束可能性と部分列の収束可能性の関係

複素数列の収束可能性と部分列の収束可能性の関係についてこれまで明らかになったことを簡単に復習します。

まず、複素数列が収束する場合には、その任意の部分列もまた収束することが保証されます。加えて、複素数列の収束可能性は部分列を用いて以下のように表現することができます。

命題(部分列を用いた複素数列の収束可能性の特徴づけ)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が複素数\(a\in \mathbb{C} \)へ収束することと、\(\left\{ z_{n}\right\} \)の任意の部分列が同一の複素数へ収束するとともにその極限が\(a\)であることは必要十分である。

一方、複素数列が収束しない場合には、収束する部分列が存在する場合とそうでない場合の両方が起こり得ます。まずは収束する部分列が存在する場合です。

例(収束しない複素数列が収束する部分列を持つ場合)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の一般項が、\begin{equation*}z_{n}=\left( -1\right) ^{n}i
\end{equation*}で与えられるものとします。実数列\(\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \right\} \)の一般項は、\begin{equation*}\mathrm{Im}\left( z_{n}\right) =\left( -1\right) ^{n}
\end{equation*}ですが、これは振動列であるため収束せず、したがってもとの複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)もまた収束しません。その一方で、この複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の偶数番目の項からなる部分列\(\left\{ z_{l\left( n\right) }\right\} =\left\{z_{2n}\right\} \)に注目すると、その一般項は、\begin{eqnarray*}z_{l\left( n\right) } &=&z_{2n} \\
&=&\left( -1\right) ^{2n}i \\
&=&i
\end{eqnarray*}であるため、\begin{eqnarray*}
\lim_{n\rightarrow \infty }z_{l\left( n\right) } &=&\lim_{n\rightarrow
\infty }i \\
&=&i
\end{eqnarray*}となります。

続いて収束する部分列が存在しない場合です。

例(収束しない複素数列が収束する部分列を持たない場合)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の一般項が、\begin{equation*}z_{n}=ni
\end{equation*}で与えられるものとします。実数列\(\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \right\} \)について、\begin{eqnarray*}\lim_{n\rightarrow +\infty }\mathrm{Im}\left( z_{n}\right)
&=&\lim_{n\rightarrow +\infty }n \\
&=&+\infty
\end{eqnarray*}が成り立つため、もとの複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)は収束しません。この複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の部分列\(\left\{ z_{l\left( n\right) }\right\} \)を任意に選ぶと、その一般項は、\begin{equation*}z_{l\left( n\right) }=l\left( n\right) i\quad \because \left\{ z_{n}\right\}
\text{の定義}
\end{equation*}となりますが、部分列の定義より\(l:\mathbb{N} \rightarrow \mathbb{N} \)は狭義単調増加関数であるため、実数列\(\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{l\left( n\right) }\right) \right\} \)について、\begin{eqnarray*}\lim_{n\rightarrow +\infty }\mathrm{Im}\left( z_{l\left( n\right) }\right)
&=&\lim_{n\rightarrow +\infty }l\left( n\right) \\
&=&+\infty
\end{eqnarray*}が成り立ちます。したがってもとの複素数列\(\left\{ z_{l\left( n\right) }\right\} \)は収束しません。任意の部分列について同様であるため、この複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)は収束する部分列を持たないことが明らかになりました。

 

複素数列に関するボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理

収束する複素数列の任意の部分列は収束する一方で、収束しない複素数列に関しては、その部分列の中に収束するものが存在するケースと存在しないケースの両方が起こり得ることが明らかになりました。

ただ、議論の対象を有界な複素数列に限定すると話は変わります。有界な複素数列が収束する場合、もちろん、その任意の部分列は収束します。一方、有界な複素数列が収束しない場合でも、収束する部分列が存在することを保証できます。つまり、有界な複素数列が与えられた場合、それ自身が収束するかどうかとは関係なく、収束する部分列は必ず存在することは保証されます。つまり、複素数列に関してもボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理(Bolzano-Weierstrauss theorem)が成り立ちます。

命題(ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が有界であるならば、\(\left\{z_{n}\right\} \)の部分列の中に複素数へ収束するものが存在する。
証明

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

以上の命題より、複素数列が与えられたとき、その複素数列が収束するかどうかが分からない場合でも、その複素数列が有界であることさえ保証できれば、その複素数列から収束する部分列を取り出すことができることが明らかになりました。

例(複素数列に関するボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の一般項が、\begin{equation*}z_{n}=\left( -1\right) ^{n}+\frac{i}{n}
\end{equation*}で与えられているものとします。\begin{eqnarray*}
-1 &\leq &\left( -1\right) ^{n}\leq 1 \\
0 &\leq &\frac{1}{n}\leq 1
\end{eqnarray*}すなわち、\begin{eqnarray*}
-1 &\leq &\mathrm{Re}\left( z_{n}\right) \leq 1 \\
0 &\leq &\mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \leq 1
\end{eqnarray*}が成り立つため実数列\(\left\{ \mathrm{Re}\left( z_{n}\right) \right\} ,\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \right\} \)はともに\(\mathbb{R} \)上で有界であり、ゆえに\(\left\{ z_{n}\right\} \)は\(\mathbb{C} \)上で有界です。したがって、複素数列に関するボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理より、この複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)は収束する部分列\(\left\{ z_{l\left( n\right)}\right\} \)を持ちます。実際、この複素数列\(\left\{z_{n}\right\} \)の偶数番目の項からなる部分列\(\left\{ z_{l\left(n\right) }\right\} =\left\{ z_{2n}\right\} \)に注目すると、その一般項は、\begin{eqnarray*}z_{l\left( n\right) } &=&z_{2n} \\
&=&\left( -1\right) ^{2n}+\frac{i}{2n} \\
&=&1+\frac{i}{2n}
\end{eqnarray*}であるため、その極限は、\begin{eqnarray*}
\lim_{n\rightarrow +\infty }z_{l\left( n\right) } &=&\lim_{n\rightarrow
+\infty }\left( 1+\frac{i}{2n}\right) \\
&=&1+0i \\
&=&1
\end{eqnarray*}となります。

有界ではない複素数列に対してボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理を適用することはできません。つまり、有界でない複素数列は収束する部分列を持つとは限りません。

例(有界ではない複素数列)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の一般項が、\begin{equation*}z_{n}=ni
\end{equation*}で与えられるものとします。実数列\(\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \right\} \)の一般項は、\begin{equation*}\mathrm{Im}\left( z_{n}\right) =n
\end{equation*}ですが、これは\(\mathbb{R} \)上で有界ではないため、もとの複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)は\(\mathbb{C} \)上で有界ではありません。したがって、\(\left\{ z_{n}\right\} \)は複素数列に関するボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理が要求する条件を満たさないため、\(\left\{ z_{n}\right\} \)が収束する部分列を持つことを保証できません。実際、先に例を通じて確認したように、\(\left\{ z_{n}\right\} \)の任意の部分列は収束しません。

 

有界な複素数列の部分列は収束するとは限らない

ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理より、有界な複素数列は収束する部分列を持つことが明らかになりました。ただ、この定理は、有界な複素数列の任意の部分列が収束するとまでは主張していません。有界な複素数列は必ず収束する部分列を持つ一方で、収束しない部分列もまた存在し得ます。以下の例より明らかです。

例(有界数列の収束しない部分列)
有界かつ収束しない複素数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)を任意に選びます。\(\left\{x_{n}\right\} \)は\(\left\{ x_{n}\right\} \)自身の部分列ですが、仮定より\(\left\{ x_{n}\right\} \)は収束しないため、\(\left\{ x_{n}\right\} \)は収束しない部分列\(\left\{x_{n}\right\} \)を持つことが明らかになりました。

 

演習問題

問題(有界かつ収束しない複素数列の部分列)
有界かつ収束しない複素数列\(\left\{ x_{n}\right\} \)が、自身とは異なり、なおかつ収束しない部分列を持つケースは起こり得るでしょうか。議論してください。
解答を見る

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録

関連知識

Mailで保存
Xで共有

質問とコメント

プレミアム会員専用コンテンツです

会員登録

有料のプレミアム会員であれば、質問やコメントの投稿と閲覧、プレミアムコンテンツ(命題の証明や演習問題とその解答)へのアクセスなどが可能になります。

ワイズのユーザーは年齢・性別・学歴・社会的立場などとは関係なく「学ぶ人」として対等であり、お互いを人格として尊重することが求められます。ユーザーが快適かつ安心して「学ぶ」ことに集中できる環境を整備するため、広告やスパム投稿、他のユーザーを貶めたり威圧する発言、学んでいる内容とは関係のない不毛な議論などはブロックすることになっています。詳細はガイドラインをご覧ください。

誤字脱字、リンク切れ、内容の誤りを発見した場合にはコメントに投稿するのではなく、以下のフォームからご連絡をお願い致します。

プレミアム会員専用コンテンツです
ログイン】【会員登録