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複素数列

有界な複素数列と収束する複素数列の関係

目次

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有界な複素数列

複素平面\(\mathbb{C} \)の非空な部分集合\(A\subset \mathbb{C} \)が与えられたとき、\(A\)に属するすべての複素数の絶対値がある値以下であるならば、すなわち、\begin{equation*}\exists U\in \mathbb{R} ,\ \forall z\in A:\left\vert z\right\vert \leq U
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(A\)は\(\mathbb{C} \)上において有界であると言います。

複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)のすべての項からなる集合\begin{equation}\left\{ z_{n}\in \mathbb{C} \ |\ n\in \mathbb{N} \right\} \quad \cdots (1)
\end{equation}は\(\mathbb{C} \)の非空な部分集合であるため、\(\mathbb{C} \)上において有界であるか検討できます。\(\left( 1\right) \)が有界である場合には、すなわち、\begin{equation*}\exists U\in \mathbb{R} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left\vert z_{n}\right\vert \leq U
\end{equation*}が成り立つ場合には、この複素数列\(\left\{z_{n}\right\} \)は有界である(bounded)と言います。

例(有界な複素数列)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の一般項が、極形式の複素数\begin{equation*}z_{n}=\frac{1}{n}\left[ \cos \left( \frac{n\pi }{4}\right) +\sin \left(
\frac{n\pi }{4}\right) i\right] \end{equation*}であるものとします。\(n\in \mathbb{N} \)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}\left\vert z_{n}\right\vert &=&\sqrt{\frac{1}{n^{2}}\cos ^{2}\left( \frac{n\pi }{4}\right) +\frac{1}{n^{2}}\sin ^{2}\left( \frac{n\pi }{4}\right) } \\
&=&\sqrt{\frac{1}{n^{2}}\left[ \cos ^{2}\left( \frac{n\pi }{4}\right) +\sin
^{2}\left( \frac{n\pi }{4}\right) \right] } \\
&=&\sqrt{\frac{1}{n^{2}}} \\
&=&\frac{1}{n}
\end{eqnarray*}となるため、\begin{equation*}
\forall n\in \mathbb{N} :\left\vert z_{n}\right\vert \leq 1
\end{equation*}を得ます。したがって\(\left\{ z_{n}\right\} \)は有界です。

複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が有界であることは、\begin{equation*}\exists U\in \mathbb{R} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left\vert z_{n}\right\vert \leq U
\end{equation*}が成り立つことを意味します。したがって、複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が有界ではないことは、上の命題の否定である以下の命題\begin{equation*}\forall U\in \mathbb{R} ,\ \exists n\in \mathbb{N} :\left\vert z_{n}\right\vert >U
\end{equation*}が成り立つことを意味します。つまり、どのような実数\(U\)を選んだ場合でも、\(\left\{z_{n}\right\} \)の何らかの項の絶対値が\(U\)より大きくなってしまうということです。

複素数列は有界であるとは限りません。以下の例より明らかです。

例(非有界な複素数列)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の一般項が、\begin{equation*}z_{n}=ni
\end{equation*}であるものとします。この複素数列は有界ではありません。つまり、\begin{equation*}
\forall U\in \mathbb{R} ,\ \exists n\in \mathbb{N} :\left\vert z_{n}\right\vert >U
\end{equation*}が成り立ちます。一般項の絶対値は、\begin{eqnarray*}
\left\vert z_{n}\right\vert &=&\sqrt{0^{2}+n^{2}} \\
&=&\sqrt{n^{2}} \\
&=&\left\vert n\right\vert
\end{eqnarray*}ですが、\(U\in \mathbb{R} \)を任意に選んだとき、\begin{equation*}\exists n\in \mathbb{N} :\left\vert n\right\vert >U
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\exists n\in \mathbb{N} :\left\vert z_{n}\right\vert >U
\end{equation*}が成り立ちます。以上より、\(\left\{ z_{n}\right\} \)は有界ではないことが明らかになりました。

 

実数列を用いた複素数列の有界性の表現

複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が与えられれば、その一般項\(z_{n}\)の実部\(\mathrm{Re}\left( z_{n}\right) \)を一般項とする実数列\(\left\{ \mathrm{Re}\left( z_{n}\right) \right\} \)と、\(z_{n}\)の虚部\(\mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \)を一般項とする実数列\(\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \right\} \)が得られます。これらの実数列がともに\(\mathbb{R} \)上において有界であることは、すなわち、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \exists U_{1},L_{1}\in \mathbb{R} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :L_{1}\leq \mathrm{Re}\left( z_{n}\right) \leq U_{1} \\
&&\left( b\right) \ \exists U_{2},L_{2}\in \mathbb{R} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :L_{2}\leq \mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \leq U_{2}
\end{eqnarray*}がともに成り立つことは、もとの複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が\(\mathbb{C} \)上において有界であることと必要十分です。

命題(実数列を用いた複素数列の有界性の表現)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が\(\mathbb{C} \)上において有界であることと、実数列\(\left\{ \mathrm{Re}\left( z_{n}\right) \right\} ,\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{n}\right)\right\} \)がともに\(\mathbb{R} \)上において有界であることは必要十分である。
証明

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例(有界な複素数列)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の一般項が、極形式の複素数\begin{equation*}z_{n}=\frac{1}{n}\left[ \cos \left( \frac{n\pi }{4}\right) +\sin \left(
\frac{n\pi }{4}\right) i\right] \end{equation*}であるものとします。実数列\(\left\{ \mathrm{Re}\left( z_{n}\right)\right\} \)の一般項は、\begin{equation*}\mathrm{Re}\left( z_{n}\right) =\frac{1}{n}\cos \left( \frac{n\pi }{4}\right)
\end{equation*}ですが、\begin{equation*}
\forall n\in \mathbb{N} :-\frac{1}{n}\leq \frac{1}{n}\cos \left( \frac{n\pi }{4}\right) \leq \frac{1}{n}
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall n\in \mathbb{N} :-\frac{1}{n}\leq \mathrm{Re}\left( z_{n}\right) \leq \frac{1}{n}
\end{equation*}が成り立つため\(\left\{ \mathrm{Re}\left( z_{n}\right) \right\} \)は\(\mathbb{R} \)上において有界です。実数列\(\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{n}\right)\right\} \)の一般項は、\begin{equation*}\mathrm{Im}\left( z_{n}\right) =\frac{1}{n}\sin \left( \frac{n\pi }{4}\right)
\end{equation*}ですが、\begin{equation*}
\forall n\in \mathbb{N} :-\frac{1}{n}\leq \frac{1}{n}\sin \left( \frac{n\pi }{4}\right) \leq \frac{1}{n}
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall n\in \mathbb{N} :-\frac{1}{n}\leq \mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \leq \frac{1}{n}
\end{equation*}が成り立つため\(\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \right\} \)は\(\mathbb{R} \)上において有界です。したがって先の命題より\(\left\{ z_{n}\right\} \)は\(\mathbb{C} \)上において有界です。

複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が\(\mathbb{C} \)上において有界であることと、実数列\(\left\{ \mathrm{Re}\left( z_{n}\right) \right\} ,\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \right\} \)がともに\(\mathbb{R} \)上において有界であることは必要十分であることが明らかになりました。したがって、\(\left\{ z_{n}\right\} \)が\(\mathbb{C} \)上において非有界であることと、実数列\(\left\{ \mathrm{Re}\left( z_{n}\right) \right\} ,\left\{ \mathrm{Im}\left(z_{n}\right) \right\} \)の少なくとも一方が\(\mathbb{R} \)上において非有界であることは必要十分です。

例(非有界な複素数列)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の一般項が、\begin{equation*}z_{n}=ni
\end{equation*}であるものとします。実数列\(\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{n}\right)\right\} \)の一般項は、\begin{equation*}\mathrm{Im}\left( z_{n}\right) =n
\end{equation*}ですが、これは\(\mathbb{R} \)上において有界ではないため、先の命題より\(\left\{ z_{n}\right\} \)は\(\mathbb{C} \)上において有界ではありません。

 

収束する複素数列は有界

複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が複素数\(a\in \mathbb{C} \)へ収束することとは、\(n\)が大きくなるにつれて項\(z_{n}\)が\(a\)に限りなく近づくことを意味しますが、イプシロン・エヌ論法を用いてこれを表現すると、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left( n\geq N\Rightarrow \left\vert z_{n}-a\right\vert <\varepsilon
\right)
\end{equation*}となります。したがって、複素数列\(\left\{z_{n}\right\} \)が収束することとは、上の条件を満たす複素数\(a\in \mathbb{C} \)が存在すること、すなわち、\begin{equation*}\exists a\in \mathbb{C} ,\ \forall \varepsilon >0,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left( n\geq N\Rightarrow \left\vert z_{n}-a\right\vert <\varepsilon
\right)
\end{equation*}が成り立つことを意味します。

複素数へ収束する複素数列は有界であることが保証されます。

命題(収束する複素数列は有界)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が複素数へ収束するならば、\(\left\{ z_{n}\right\} \)は有界な複素数列である。
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例(収束する複素数列は有界)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の一般項が、極形式の複素数\begin{equation*}z_{n}=\frac{1}{n}\left[ \cos \left( \frac{n\pi }{4}\right) +\sin \left(
\frac{n\pi }{4}\right) i\right] \end{equation*}であるものとします。先に例を通じて示したように、この複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)は収束するため、先の命題より\(\left\{ z_{n}\right\} \)は有界です。実際、先に例を通じて示したように\(\left\{ z_{n}\right\} \)は有界です。以上の結果は先の命題の主張と整合的です。

 

有界な複素数列は収束するとは限らない

収束する複素数列は有界であることが明らかになりましたが、その逆は成立するとは限りません。つまり、有界な複素数列は収束するとは限りません。以下の例より明らかです。

例(有界な複素数列は収束するとは限らない)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の一般項が、\begin{equation*}z_{n}=\left( -1\right) ^{n}i
\end{equation*}であるものとします。実数列\(\left\{ \mathrm{Re}\left( z_{n}\right)\right\} =\left\{ 0\right\} \)について、\begin{equation*}\forall n\in \mathbb{N} :0\leq \mathrm{Re}\left( z_{n}\right) \leq 0
\end{equation*}が成り立つため\(\left\{ \mathrm{Re}\left( z_{n}\right) \right\} \)は\(\mathbb{R} \)上で有界です。実数列\(\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \right\} =\left\{ \left(-1\right) ^{n}\right\} \)について、\begin{equation*}\forall n\in \mathbb{N} :-1\leq \mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \leq 1
\end{equation*}が成り立つため\(\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \right\} \)は\(\mathbb{R} \)上で有界です。したがって先の命題より\(\left\{ z_{n}\right\} \)は\(\mathbb{C} \)上で有界です。その一方で、実数列\(\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \right\} \)は振動列であるため収束せず、したがって複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)は収束しません。以上より、\(\left\{z_{n}\right\} \)は有界である一方で収束しないことが明らかになりました。

 

複素数列が収束しないことの証明

収束する複素数列は有界であることが明らかになりました。対偶より、有界ではない複素数列は収束しません。したがって、複素数列が有界ではないことを証明できれば、その複素数列が収束しないことを示したことになります。

例(複素数列が収束しないことの証明)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の一般項が、\begin{equation*}z_{n}=ni
\end{equation*}であるものとします。実数列\(\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{n}\right)\right\} \)の一般項は、\begin{equation*}\mathrm{Im}\left( z_{n}\right) =n
\end{equation*}ですが、これは\(\mathbb{R} \)上において有界ではないため、\(\left\{ z_{n}\right\} \)は\(\mathbb{C} \)上において有界ではありません。したがって先の命題より、\(\left\{ z_{n}\right\} \)は収束しません。

 

演習問題

問題(距離を用いた有界な複素数列の表現)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が有界であることと、以下の命題\begin{equation*}\exists z\in \mathbb{C} ,\ \exists \varepsilon >0,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left\vert z-z_{n}\right\vert <\varepsilon
\end{equation*}が成り立つことは必要十分であることを示してください。

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問題(距離を用いた有界な複素数列の表現)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が有界であることと、以下の命題\begin{equation*}\exists \varepsilon >0,\ \forall m,n\in \mathbb{N} :\left\vert z_{m}-z_{n}\right\vert <\varepsilon
\end{equation*}が成り立つことは必要十分であることを示してください。

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問題(点の近傍を用いた有界な複素数列の表現)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が有界であることと、以下の命題\begin{equation*}\exists z\in \mathbb{C} ,\ \exists \varepsilon >0,\ \forall n\in \mathbb{N} :z_{n}\in N_{\varepsilon }\left( z\right)
\end{equation*}が成り立つことは必要十分であることを示してください。ただし、\begin{equation*}
N_{\varepsilon }\left( z\right) =\left\{ w\in \mathbb{C} \ |\ \left\vert z-w\right\vert <\varepsilon \right\}
\end{equation*}です。

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問題(点の近傍を用いた有界な複素数列の表現)
点\(a\in \mathbb{C} \)が与えられたとき、複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が有界であることと、\begin{equation*}\exists \varepsilon >0,\ \forall n\in \mathbb{N} :z_{n}\in N_{\varepsilon }\left( a\right)
\end{equation*}が成り立つことは必要十分であることを示してください。ただし、\begin{equation*}
N_{\varepsilon }\left( a\right) =\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ \left\vert z-a\right\vert <\varepsilon \right\}
\end{equation*}です。

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問題(複素数列の有界性)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の一般項が、\begin{equation*}z_{n}=n\left( -1\right) ^{n+1}i
\end{equation*}であるものとします。この複素数列は有界ですか、それとも非有界ですか。議論してください。

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