収束する複素数列はコーシー列
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が収束することとは、\(n\)が大きくなるにつれて項\(z_{n}\)が特定の複素数\(a\in \mathbb{C} \)に限りなく近づくことを意味しますが、これを厳密に表現すると、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left( n\geq N\Rightarrow \left\vert z_{n}-a\right\vert <\varepsilon
\right)
\end{equation*}となります。
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)がコーシー列であることとは、ある項より先にある任意の2つの項の間の距離が限りなく小さくなることを意味しますが、これを厳密に表現すると、\begin{equation*}\forall \varepsilon >0,\ \exists N\in \mathbb{N} ,\ \forall m\in \mathbb{N} ,\ \forall n\in \mathbb{N} :\left( m\geq N\wedge n\geq N\Rightarrow \left\vert z_{m}-z_{n}\right\vert
<\varepsilon \right)
\end{equation*}となります。
複素数列の項が一定の値に限りなく近づくならば項の間の距離はどこまでも小さくなっていきそうです。つまり、直感的に考えると、収束列はコーシー列でもありそうです。実際、収束列はコーシー列です。
コーシー列が収束するための条件
複素数列が収束する場合、その複素数列はコーシー列であることが明らかになりましたが、逆に、コーシー列は収束するのでしょうか。順番に考えます。
複素数列が収束する場合には、その任意の部分列もまた収束することが保証されます。一方、複素数列が収束する部分列を持つ場合、もとの複素数列は収束するとは限りません。以下の例より明らかです。
\end{equation*}で与えられるものとします。実数列\(\left\{ \mathrm{Im}\left( z_{n}\right) \right\} \)の一般項は、\begin{equation*}\mathrm{Im}\left( z_{n}\right) =\left( -1\right) ^{n}
\end{equation*}ですが、これは振動列であるため収束せず、したがってもとの複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)もまた収束しません。その一方で、この複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の偶数番目の項からなる部分列\(\left\{ z_{l\left( n\right) }\right\} =\left\{z_{2n}\right\} \)に注目すると、その一般項は、\begin{eqnarray*}z_{l\left( n\right) } &=&z_{2n} \\
&=&\left( -1\right) ^{2n}i \\
&=&i
\end{eqnarray*}であるため、\begin{eqnarray*}
\lim_{n\rightarrow \infty }z_{l\left( n\right) } &=&\lim_{n\rightarrow
\infty }i \\
&=&i
\end{eqnarray*}となります。
複素数列が収束する部分列を持つ場合でも、もとの複素数列は収束するとは限らないことが明らかになりました。ただ、考察対象をコーシー列に限定した場合には話は変わります。つまり、コーシー列が収束する部分列を持つ場合、そのコーシー列は収束することが保証されます。
コーシー列の収束定理
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が与えられているものとします。コーシー列は有界であるため\(\left\{z_{n}\right\} \)は有界です。複素数列に関するボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理、有界な複素数列は収束する部分列を持つため、\(\left\{ z_{n}\right\} \)は収束する部分列\(\left\{ z_{l\left( n\right)}\right\} \)を持ちます。つまり、\(\left\{ z_{n}\right\} \)はコーシー列であるとともに収束する部分列を持つため、先の命題より、\(\left\{ z_{n}\right\} \)は複素数へ収束します。
任意のコーシー列について同様の議論が成立するため、任意のコーシー列が複素数へ収束することが明らかになりました。
任意のコーシー列は収束することが明らかになりました。コーシー列の定義は極限については何も述べてはいません。項の番号を大きくしていくと項の変化がどこまでも小さくなっていく複素数列をコーシー列と定めているだけです。しかし、複素数列に関するボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理を踏まえると、コーシー列が収束することを保証できるというわけです。
コーシー列と収束列の関係
収束する任意の複素数列はコーシー列です。逆に、先に示したように、任意のコーシー列は収束します。したがって、複素数列がコーシー列であることと、その複素数列が収束することは必要十分です。
この命題の意味を考えておきましょう。複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が与えられたとき、それが収束列であるかどうかを判定できない、もしくはその判定が難しい場合でも、その複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)がコーシー列であることさえ示すことができれば、先の命題より、この複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)が収束列であることが保証されます。さらに、他の一般の収束列と同様に、コーシー列が収束する部分列を持つ場合には、コーシー列自身もまた部分列と同じ極限に収束します。したがって、コーシー列の部分列の極限さえ求められれば、もとのコーシー列の極限が判明します。
演習問題
\end{equation*}であるような複素数列\(\left\{ w_{n}\right\} \)を定義します。\(\left\{ w_{n}\right\} \)もまたコーシー列であることを証明してください。
\end{equation*}であるような複素数列\(\left\{ w_{n}\right\} \)を定義します。\(\left\{ w_{n}\right\} \)がコーシー列であるとき、\(\left\{z_{n}\right\} \)はコーシー列であるとは限らないことを示す例を挙げてください。
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