複素数列
無限個の複素数を順番に並べたもの\begin{equation*}
z_{1},z_{2},\cdots ,z_{n},\cdots
\end{equation*}を複素数列(sequence of complex numbers)と呼びます。数学では有限個の複素数を並べたものを複素数列として扱いません。複素数列は無限に続く複素数の列です。
複素数列をフォーマルな形で表現します。複素数列とは無限個の複素数を順番に並べたものであるため、それを総体的に表現するためには複素数列を構成する1番目の複素数\(z_{1}\)、2番目の複素数\(z_{2}\)、3番目の複素数\(z_{3}\)、\(\cdots \)などをすべて特定する必要があります。ただ、複素数列は無限個の複素数の並びであるため、このような作業を実際に無限回行うことは不可能です。ただ、このような作業を「それぞれの自然数\(n\in \mathbb{N} \)に対して複素数\(z_{n}\in \mathbb{C} \)を1つずつ定めること」として一般化できるため、複素数列を指定することと、\(\mathbb{N} \)から\(\mathbb{C} \)への写像を指定することは実質的に同じです。このような事情を踏まえた上で、複素数を写像\begin{equation*}z:\mathbb{N} \rightarrow \mathbb{C} \end{equation*}として定義できます。写像\(z\)がそれぞれの自然数\(n\)に対して定める像\(z\left( n\right) \)は複素数列を構成する\(n\)番目の複素数です。
通常、写像\(f:A\rightarrow B\)が定義域の値\(a\in A\)に対して定める像を\(f\left( a\right) \in B\)と表記しますが、複素数列に相当する写像\(z:\mathbb{N} \rightarrow \mathbb{C} \)が自然数\(n\in \mathbb{N} \)に対して定める像\(z\left(n\right) \in \mathbb{C} \)に関しては、これを、\begin{equation*}z_{n}
\end{equation*}と表記し、複素数列の項(term)と呼びます。複素数列そのものを\(\left\{ z_{n}\right\} _{n=1}^{\infty }\)や\(\left\{z_{n}\right\} _{n\in \mathbb{N} }\)、もしくはよりシンプルに\(\left\{ z_{n}\right\} \)と表現することもできます。
自然数を\(1\)から始まる整数と定義するのであれば、複素数列を構成する前から\(n\)番目の項は\(z_{n}\)であり、これを複素数列の第\(n\)項(\(n\)-th term)と呼びます。特に、複素数列の最初の項\(z_{1}\)を初項(first term)と呼びます。
複素数列の第\(n\)項\(z_{n}\)が具体的な形で与えられているならば、\(z_{n}\)中の\(n\)に具体的な自然数を代入することによりすべての項を具体的な形で特定できます。つまり、\(z_{n}\)は複素数列のすべての項を一般的に表現したものであるため、これを複素数列\(\left\{z_{n}\right\} \)の一般項(general term)と呼びます。複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の一般項\(z_{n}\)の形が分かっている場合には、その複素数列を「一般項が\(z_{n}\)の複素数列」と呼びます。
\end{equation*}である場合、個々の項を具体的に列挙すると、\begin{eqnarray*}
z_{1} &=&1+i \\
z_{2} &=&2+2i \\
z_{3} &=&3+3i \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}などとなります。
\end{equation*}である場合、個々の項を具体的に列挙すると、\begin{eqnarray*}
z_{1} &=&2^{1}=2 \\
z_{2} &=&2^{2}=4 \\
z_{3} &=&2^{3}=8 \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}などとなります。
\end{equation*}である場合、個々の項を具体的に列挙すると、\begin{eqnarray*}
z_{1} &=&3i \\
z_{2} &=&9i^{2}=-9 \\
z_{3} &=&27i^{3}=-27i \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}などとなります。
\frac{n\pi }{4}\right) i\right] \end{equation*}である場合、個々の項を具体的に列挙すると、\begin{eqnarray*}
z_{1} &=&\cos \left( \frac{\pi }{4}\right) +\sin \left( \frac{\pi }{4}\right) i \\
z_{2} &=&\frac{1}{2}\left[ \cos \left( \frac{\pi }{2}\right) +\sin \left(
\frac{\pi }{2}\right) i\right] \\
z_{3} &=&\frac{1}{3}\left[ \cos \left( \frac{3\pi }{4}\right) +\sin \left(
\frac{3\pi }{4}\right) i\right] \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}などとなります。
複素数列の表現方法(明示式と再帰式)
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の一般項\(z_{n}\)が具体的な形で与えられれば、\(z_{n}\)中の\(n\)に具体的な自然数を代入することにより、この複素数列のそれぞれの項を具体的に特定できます。このような文脈において複素数列の一般項を明示式(explicitformula)と呼び、明示式を通じて複素数列を表現することを複素数列の明示的な表現(explicit expression)と呼びます。
\end{equation*}によって明示的に表現されているとき、この複素数列の各項を、\begin{eqnarray*}
z_{1} &=&\left( 3-4\right) +i=-1+i \\
z_{2} &=&\left( 6-4\right) +i^{2}=2-1=1 \\
z_{3} &=&\left( 9-4\right) +i^{3}=5-i \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}という形で特定できます。
複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の一般項\(z_{n}\)が明らかである場合には、\(z_{n}\)中の\(n\)に自然数を代入することによりその複素数列の任意の項をすぐに特定できます。ただ、複素数列の一般項が明らかでない状況においても、その複素数列の項の間に成立する関係式が与えられている場合には、その関係式を用いて複素数列の項を次々と再帰的に特定できる場合があります。そこで、そのような性質を満たす関係式を再帰式(recursion formula)や漸化式(recurrence relation)などと呼び、再帰式を通じて複素数列を表現することを複素数列の再帰的な表現(recursive expression)と呼びます。
\begin{array}{l}
z_{1}=2 \\
z_{n}=3i\cdot z_{n-1}\end{array}\right.
\end{equation*}によって表現されている場合、この複素数列の各項を、\begin{eqnarray*}
z_{1} &=&2 \\
z_{2} &=&3i\cdot z_{1}=3i\cdot 2=6i \\
z_{3} &=&3i\cdot z_{2}=3i\cdot 6i=-18 \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}という形で順番に特定できます。
以下は明示式と再帰式がともに容易に導かれるような複素数列の例です。
\end{equation*}をとることができます。これを\(\left\{ z_{n}\right\} \)の第\(n\)部分和(partial sum)と呼びます。部分和は複素数であるため、複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の第\(n\)部分和\(s_{n}\)を第\(n\)項とする新たな複素数列\(\left\{ s_{n}\right\} \)が定義可能です。つまり、この複素数列\(\left\{ s_{n}\right\} \)の各項は、\begin{eqnarray*}s_{1} &=&z_{1} \\
s_{2} &=&z_{1}+z_{2} \\
s_{3} &=&z_{1}+z_{2}+z_{3} \\
&&\vdots
\end{eqnarray*}です。このような複素数列\(\left\{ s_{n}\right\} \)をもとの複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の級数(series)や部分和の列(sequence of partial sums)などと呼びます。複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)の級数\(\left\{ s_{n}\right\} \)を明示的に表現すると、\begin{equation*}s_{n}=z_{1}+z_{2}+\cdots +z_{n}
\end{equation*}となり、再帰的に表現すると、\begin{equation*}
\left\{
\begin{array}{l}
s_{1}=z_{1} \\
s_{n}=s_{n-1}+z_{n}\end{array}\right.
\end{equation*}となります。
演習問題
\left\{ 1,2,3,\cdots \right\}
\end{equation*}が複素数列であることを示した上で、これを複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)として定式化してください。
\left\{ 1,\frac{1}{2},\frac{1}{3},\cdots \right\}
\end{equation*}が複素数列であることを示した上で、これを複素数列\(\left\{ z_{n}\right\} \)として定式化してください。
\end{equation*}であるものとします。この複素数列の最初の5つの項を特定してください。
\end{equation*}であるものとします。この複素数列の最初の5つの項を特定してください。
\end{equation*}であるものとします。この複素数列の最初の5つの項を特定してください。
\end{equation*}であるものとします。この複素数列の最初の5つの項を特定してください。
\end{equation*}を定義します。その上で、複素数列\(\left\{z_{n}\right\} \)を以下の再帰式\begin{equation*}\left\{
\begin{array}{l}
z_{1}=0 \\
z_{n}=p\left( z_{n-1}\right)
\end{array}\right.
\end{equation*}によって定義します。この複素数列の最初の4つの項を特定してください。
\end{equation*}と表現される場合、このような複素数列を初項が\(a\)であり公比が\(r\)である等比複素数列(complex geometric sequence)と呼びます。以下の問いに答えてください。
- 等比複素数列\(\left\{ar^{n-1}\right\} \)を再帰式を用いて表現してください。
- 初項が\(a=1+i\)で公比が\(r=2i\)であるような等比複素数列の最初の4つの項を特定してください。
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