ベキ複素級数
複素数列\(\left\{ a_{n}\right\} _{n=0}^{+\infty }\)および複素数\(c\in \mathbb{C} \)が与えられれば、それぞれの複素数\(z\in \mathbb{C} \)に対して、以下の複素数列\begin{equation*}\left\{ a_{n}\left( z-c\right) ^{n}\right\} =\left\{ a_{0},a_{1}\left(
z-c\right) ,a_{2}\left( z-c\right) ^{2},a_{3}\left( z-c\right) ^{3},\cdots
\right\}
\end{equation*}が定義可能です。この複素数列の項からなる無限級数\begin{equation*}
\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}\left( z-c\right) ^{n}=a_{0}+a_{1}\left(
z-c\right) +a_{2}\left( z-c\right) ^{2}+a_{3}\left( z-c\right) ^{3}+\cdots
\end{equation*}を点\(c\)を中心とする係数\(\left\{ a_{n}\right\} \)のベキ複素級数(power complex series centered at \(c\) with \(\left\{ a_{n}\right\} \))と呼びます。
点\(0\in \mathbb{C} \)を中心とする係数\(\left\{a_{n}\right\} \)のベキ複素級数は、\begin{equation*}\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}z^{n}=a_{0}+a_{1}z+a_{2}z^{2}+a_{3}z^{3}+\cdots
\end{equation*}となりますが、特にこれを原点まわりの係数\(\left\{ a_{n}\right\} \)のベキ複素級数(power complex series around the origin with \(\left\{ a_{n}\right\} \))と呼びます。
\end{equation*}となります。これは初項が\(a\)であり公比が\(z\)であるような等比複素級数であるため、\(\left\vert z\right\vert <1\)の場合には収束するとともに、その和は、\begin{equation*}\sum_{n=0}^{+\infty }az^{n}=\frac{a}{1-z}
\end{equation*}となります。
\end{equation*}となります。
\end{equation*}となります。
点\(c\)を中心とする係数\(\left\{ a_{n}\right\} \)のベキ複素級数\begin{equation*}\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}\left( z-c\right) ^{n}=a_{0}+a_{1}\left(
z-c\right) +a_{2}\left( z-c\right) ^{2}+a_{3}\left( z-c\right) ^{3}+\cdots
\end{equation*}が与えられた状況を想定します。ここで、\begin{equation*}
w=z-c\in \mathbb{C} \end{equation*}と定義すれば、点\(c\)を中心とする係数\(\left\{a_{n}\right\} \)のベキ複素級数は、\begin{equation*}\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}w^{n}=a_{0}+a_{1}w+a_{2}w^{2}+a_{3}w^{3}+\cdots
\end{equation*}となり、原点まわりの係数\(\left\{ a_{n}\right\} \)のベキ級数が得られます。
以上のように考えることにより、任意のベキ複素級数を原点まわりのベキ複素級数とみなすことができます。そこで、以降では原点まわりのベキ複素級数を対象に議論を行います。
ベキ複素級数の収束半径
複素数列\(\left\{ a_{n}\right\} _{n=0}^{+\infty }\)が与えられれば、それぞれの複素数\(z\in \mathbb{C} \)に対して、原点まわりのベキ級数\begin{equation}\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}z^{n}=a_{0}+a_{1}z+a_{2}z^{2}+a_{3}z^{3}+\cdots
\quad \cdots (1)
\end{equation}が定義可能です。
\(z=0\)である場合に\(\left( 1\right) \)は\(a_{0}\)と一致するため、\(\left( 1\right) \)は複素数として定まります。また、\(z\not=0\)であるとともに、複素数列\(\left\{ a_{n}\right\} \)の有限個の項が非ゼロであり、それ以外の任意の項がゼロである場合には、\(\left( 1\right) \)は有限個の複素数の和となります。有限個の複素数の和は複素数であるため、この場合、\(\left( 1\right) \)は複素数として定まります。以上のいずれのケースでもない場合には、すなわち、\(x\not=0\)であるとともに、複素数列\(\left\{ a_{n}\right\} \)の無限個の項が非ゼロである場合には、\(\left( 1\right) \)は無限個の複素数の和となるため、その収束可能性が問題になります。以降では、ベキ複素級数の絶対収束可能性について議論します。
係数\(\left\{ a_{n}\right\} \)に関する原点まわりのベキ複素級数\begin{equation*}\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}z^{n}=a_{0}+a_{1}z+a_{2}z^{2}+a_{3}z^{3}+\cdots
\end{equation*}は変数\(z\in \mathbb{C} \)を含む形で定義されているため、絶対収束可能性を判定するためには\(z\)の値を具体的に指定する必要があります。先の議論より、\(z=0\)の場合にはベキ複素級数\(\sum a_{n}z^{n}\)は\(a_{0}\)と一致するため、この場合には\(\sum a_{n}z^{n}\)は明らかに絶対収束します。そこで、以下の条件\begin{equation*}S\not=0
\end{equation*}を満たす何らかの実数\(S\in \mathbb{R} \)に対して、\(z=S\)の場合にベキ級数\(\sum a_{n}z^{n}\)が収束する状況を想定します。つまり、以下の無限級数\begin{equation*}\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}S^{n}=a_{0}+a_{1}S+a_{2}S^{2}+a_{3}S^{3}+\cdots
\end{equation*}が収束するということです。この場合、以下の条件\begin{equation*}
\left\vert z\right\vert <\left\vert S\right\vert
\end{equation*}を満たす任意の\(z\in \mathbb{C} \)に対して、ベキ複素級数\(\sum a_{n}z^{n}\)が絶対収束することが保証されます。
\end{equation*}が収束するものとする。この場合、以下の条件\begin{equation*}
\left\vert z\right\vert <\left\vert S\right\vert
\end{equation*}を満たす任意の複素数\(z\in \mathbb{C} \)に対して、原点まわりのベキ複素級数\begin{equation*}\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}z^{n}
\end{equation*}は絶対収束する。
係数\(\left\{ a_{n}\right\} \)に関する原点まわりのベキ複素級数\begin{equation*}\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}z^{n}=a_{0}+a_{1}z+a_{2}z^{2}+a_{3}z^{3}+\cdots
\end{equation*}が与えられているものとします。以下の条件\begin{equation*}
T\not=0
\end{equation*}を満たす何らかの実数\(T\in \mathbb{R} \)に対して、\(z=T\)の場合にベキ級数\(\sum a_{n}z^{n}\)が発散する状況を想定します。つまり、以下の無限級数\begin{equation*}\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}T^{n}=a_{0}+a_{1}T+a_{2}T^{2}+a_{3}T^{3}+\cdots
\end{equation*}が発散するということです。この場合、以下の条件\begin{equation*}
\left\vert T\right\vert <\left\vert z\right\vert
\end{equation*}を満たす任意の\(z\in \mathbb{C} \)に対して、ベキ複素級数\(\sum a_{n}z^{n}\)が発散することが保証されます。
\end{equation*}が発散するものとする。この場合、\begin{equation*}
\left\vert T\right\vert <\left\vert z\right\vert
\end{equation*}を満たす任意の複素数\(z\in \mathbb{C} \)に対して、原点まわりのベキ複素級数\begin{equation*}\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}z^{n}
\end{equation*}は発散する。
以上の2つの命題を用いることにより以下が導かれます。
\end{equation*}を満たす拡大実数\(R\in \overline{\mathbb{R} }\)が存在して、任意の\(z\in \mathbb{C} \)について、\begin{eqnarray*}&&\left( A\right) \ \left\vert z\right\vert <R\Rightarrow
\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}z^{n}\text{は絶対収束する} \\
&&\left( B\right) \ \left\vert z\right\vert >R\Rightarrow
\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}z^{n}\text{は発散する}
\end{eqnarray*}がともに成り立つ。
複素数列\(\left\{ a_{n}\right\} _{n=0}^{+\infty }\)が与えられたとき、それに対して、以下の条件\begin{equation*}0\leq R\leq +\infty
\end{equation*}を満たす拡大実数\(R\in \overline{\mathbb{R} }\)が存在して、任意の\(z\in \mathbb{C} \)について、\begin{eqnarray*}&&\left( A\right) \ \left\vert z\right\vert <R\Rightarrow
\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}z^{n}\text{は絶対収束する} \\
&&\left( B\right) \ \left\vert z\right\vert >R\Rightarrow
\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}z^{n}\text{は発散する}
\end{eqnarray*}がともに成り立つことが明らかになりました。そこで、この値\(R\)をベキ複素級数\begin{equation*}\sum_{n=0}^{+\infty }a_{n}z^{n}
\end{equation*}の収束半径(radius of convergence)と呼びます。さらに、ベキ複素級数\(\sum a_{n}z^{n}\)が絶対収束する複素数\(z\)からなる集合\begin{equation*}\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ \left\vert z\right\vert <R\right\}
\end{equation*}を収束円(circle of convergence)と呼びます。これは複素平面上の原点を中心とする半径\(R\)の円の内部に相当します。
ベキ複素級数\(\sum a_{n}z^{n}\)の収束半径が\(R\)であることは、収束円上の点、すなわち\(\left\vert z\right\vert <R\)を満たす任意の\(z\in \mathbb{C} \)のもとでベキ複素級数\(\sum a_{n}z^{n}\)は絶対収束する一方で、収束円の外部上の点、すなわち\(\left\vert z\right\vert >R\)を満たす任意の\(z\in \mathbb{C} \)のもとでベキ複素級数\(\sum a_{n}z^{n}\)は発散することを意味します。\(\left\vert z\right\vert =R\)の場合には、ベキ複素級数\(\sum a_{n}z^{n}\)が絶対収束する場合と発散する場合の双方のパターンが起こり得ます。
特に、ベキ複素級数\(\sum a_{n}z^{n}\)の収束半径が\(R=0\)であることは、ベキ複素級数\(\sum a_{n}z^{n}\)は\(z=0\)の場合にのみ絶対収束することを意味します。この場合の収束円は原点だけからなる集合です。
逆に、ベキ複素級数\(\sum a_{n}z^{n}\)の収束半径が\(R=+\infty \)であることは、ベキ複素級数\(\sum a_{n}z^{n}\)が任意の複素数\(z\in \mathbb{C} \)のもとで絶対収束することを意味します。この場合の収束円は複素平面全体です。
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