複素平面上の開集合
複素平面上の点\(a\in \mathbb{C} \)と正の実数\(\varepsilon >0\)をそれぞれ任意に選んだとき、点\(a\)を中心とする半径\(\varepsilon \)の近傍は、\begin{equation*}N_{\varepsilon }\left( a\right) =\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ \left\vert z-a\right\vert <\varepsilon \right\}
\end{equation*}と定義される\(\mathbb{C} \)の部分集合です。さて、\(\mathbb{C} \)の部分集合\(A\)に属するそれぞれの点\(a\)に対して、その点を中心とする近傍\(N_{\varepsilon }\left( a\right) \)の中に\(A\)の部分集合であるようなものが必ず存在するならば、すなわち、\begin{equation*}\forall a\in A,\ \exists \varepsilon >0:N_{\varepsilon }\left( a\right)
\subset A
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(A\)を\(\mathbb{C} \)上の開集合(open set on \(\mathbb{C} \))と呼びます。点の近傍の定義を踏まえると、これは、\begin{equation*}\forall a\in A,\ \exists \varepsilon >0,\ \forall z\in \mathbb{C} :\left[ z\in N_{\varepsilon }\left( a\right) \Rightarrow z\in A\right]
\end{equation*}すなわち、\begin{equation*}
\forall a\in A,\ \exists \varepsilon >0,\ \forall z\in \mathbb{C} :\left[ d\left( z,a\right) <\varepsilon \Rightarrow z\in A\right]
\end{equation*}と必要十分です。
\end{equation*}をとります。近傍の性質より、\begin{equation*}
\forall b\in N_{\varepsilon }\left( a\right) ,\ \exists \delta >0:N_{\delta
}\left( b\right) \subset N_{\varepsilon }\left( a\right)
\end{equation*}が成り立ちますが、以上の事実は\(N_{\varepsilon }\left(a\right) \)が\(\mathbb{C} \)上の開集合であることを意味します。
\end{equation*}を定義します。これを無限大の近傍(neighborhood of infinity)と呼びます。この集合\(A\)は\(\mathbb{C} \)上の開集合です(演習問題)。
A=\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ \mathrm{Im}\left( z\right) <0\right\}
\end{equation*}は\(\mathbb{C} \)上の開集合です(演習問題)。
A=\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ -1<\mathrm{Re}\left( z\right) <1\right\}
\end{equation*}は\(\mathbb{C} \)上の開集合です(演習問題)。
開集合ではない集合
\(\mathbb{C} \)の部分集合\(A\)が開集合ではないこととは、開集合の定義の否定に相当する以下の命題\begin{equation*}\exists a\in A,\ \forall \varepsilon >0:N_{\varepsilon }\left( a\right)
\not\subset A
\end{equation*}が成り立つことを意味します。ただし、これは以下の命題\begin{equation*}
\exists a\in A,\ \forall \varepsilon >0:N_{\varepsilon }\left( a\right) \cap
A^{c}\not=\phi
\end{equation*}と必要十分です。つまり、\(A\)が開集合でないこととは、\(A\)の少なくとも1つの点について、その点を中心とする任意の近傍が\(A\)の補集合と交わることを意味します。
A=\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ \mathrm{Re}\left( z\right) \geq 0\right\}
\end{equation*}は\(\mathbb{C} \)上の開集合ではありません(演習問題)。
\end{equation*}をとります。この集合は\(\mathbb{C} \)上の開集合ではありません(演習問題)。
複素平面の開集合系
複素平面\(\mathbb{C} \)上の開集合をすべて集めることにより得られる集合族を\(\mathbb{C} \)の開集合系(system of open sets)と呼び、これを、\begin{equation*}\mathcal{O}\left( \mathbb{C} \right)
\end{equation*}で表記します。開集合の定義より、\(\mathbb{C} \)の部分集合\(A\)を任意に選んだとき、以下の関係\begin{equation*}A\in \mathcal{O}\left( \mathbb{C} \right) \Leftrightarrow \forall a\in A,\ \exists \varepsilon
>0:N_{\varepsilon }\left( a\right) \subset A
\end{equation*}が成り立ちます。
複素平面\(\mathbb{C} \)の開集合系\(\mathcal{O}\left( \mathbb{C} \right) \)を特徴づける1つ目の性質は、それが\(\mathbb{C} \)自身や空集合\(\phi \)を要素として持つということです。言い換えると、\(\mathbb{C} \)と\(\phi \)はいずれも\(\mathbb{C} \)上の開集合であるということです。
\end{equation*}を満たす。
複素平面\(\mathbb{C} \)の開集合系\(\mathcal{O}\left( \mathbb{C} \right) \)を特徴づける2つ目の性質は、\(\mathcal{O}\left( \mathbb{C} \right) \)に属する有限個の集合を任意に選んだとき、それらの共通部分もまた\(\mathcal{O}\left( \mathbb{C} \right) \)に属するということです。言い換えると、有限個の任意の開集合の共通部分もまた開集合になるということです。
\end{equation*}を満たす。
上の命題は有限個の開集合に関して成立する性質であることに注意してください。一方、無限個の開集合を選んだとき、それらの共通部分は開集合になるとは限りません。以下の例より明らかです。
\end{equation*}を定義します。先に示したように\(\mathbb{C} \)上の点を中心とする近傍は開集合であるため\(N_{\frac{1}{i}}\left( 0\right) \)は開集合です。\(\mathbb{N} \)は無限集合であるため、\begin{equation*}\left\{ N_{\frac{1}{i}}\left( 0\right) \right\} _{i\in \mathbb{N} }
\end{equation*}は無限個の開集合を要素として持つ集合族です。この集合族の共通部分は、\begin{equation*}
\bigcap_{i\in \mathbb{N} }N_{\frac{1}{i}}\left( 0\right) =\left\{ 0\right\}
\end{equation*}ですが、先に示したように1点集合は開集合ではないため、上の共通部分もまた開集合ではありません。
複素平面\(\mathbb{C} \)の開集合系\(\mathcal{O}\left( \mathbb{C} \right) \)を特徴づける3つ目の性質は、\(\mathcal{O}\left( \mathbb{C} \right) \)に属する任意個の集合を任意に選んだとき、それらの和集合もまた\(\mathcal{O}\left( \mathbb{C} \right) \)に属するということです。言い換えると、任意個の任意の開集合の和集合もまた開集合になるということです。
\mathcal{O}\left( \mathbb{C} \right) \right) \Rightarrow \bigcup\limits_{\lambda \in \Lambda }A_{\lambda
}\in \mathcal{O}\left( \mathbb{C} \right)
\end{equation*}を満たす。ただし、\(\Lambda \)は任意の集合である。
上の命題中の集合\(\Lambda \)は任意です。\(\Lambda \)として有限集合を採用した場合、上の命題の主張は「有限個の開集合の和集合は開集合」というものになります。一方、\(\Lambda \)として可算集合や非可算集合などの無限集合を採用した場合、上の命題の主張は「無限個の開集合の和集合は開集合」という主張になります。先に例を通じて確認したように、無限個の開集合の共通部分は開集合になるとは限りません。一方、無限個の開集合の和集合は開集合になることが保証されます。
複素ユークリッド空間の部分距離空間上の開集合
複素ユークリッド空間\(\left( \mathbb{C} ,d\right) \)が与えられているものとします。つまり、ユークリッド距離関数\(d:\mathbb{C} \times \mathbb{C} \rightarrow \mathbb{R} \)は複素数を成分とするそれぞれの順序対\(\left( z,w\right) \in \mathbb{C} \times \mathbb{C} \)に対して、以下の実数\begin{equation*}d\left( z,w\right) =\left\vert z-w\right\vert
\end{equation*}を値として定めます。ユークリッド距離関数\(d\)は以下の性質\begin{eqnarray*}&&\left( M_{1}\right) \ \forall z,w\in \mathbb{C} :d\left( z,w\right) \geq 0 \\
&&\left( M_{2}\right) \ \forall z,w\in \mathbb{C} :\left[ d(z,w)=0\Leftrightarrow z=w\right] \\
&&\left( M_{3}\right) \ \forall z,w\in \mathbb{C} :d\left( z,w\right) =d\left( w,z\right) \\
&&\left( M_{4}\right) \ \forall z,v,w\in \mathbb{C} :d\left( z,w\right) \leq d\left( z,v\right) +d\left( v,w\right)
\end{eqnarray*}を満たします。
非空な部分集合\(A\subset \mathbb{C} \)を任意に選んだ上で、それにあわせて距離関数\(d:\mathbb{C} \times \mathbb{C} \rightarrow \mathbb{R} \)の定義域を\(A\times A\)へ制限して\begin{equation*}d_{A}:A\times A\rightarrow \mathbb{R} \end{equation*}とすれば、すなわち、\begin{equation*}
\forall \left( z,w\right) \in A\times A:d_{A}\left( z,w\right) =d\left(
z,w\right)
\end{equation*}を満たすものとして\(d_{A}\)を定義すれば、この\(d_{A}\)もまた距離関数としての性質\begin{eqnarray*}&&\left( M_{1}\right) \ \forall z,w\in A:d_{A}\left( z,w\right) \geq 0 \\
&&\left( M_{2}\right) \ \forall z,w\in A:\left[ d_{A}(z,w)=0\Leftrightarrow
z=w\right] \\
&&\left( M_{3}\right) \ \forall z,w\in A:d_{A}\left( z,w\right) =d_{A}\left(
w,z\right) \\
&&\left( M_{4}\right) \ \forall z,v,w\in A:d_{A}\left( z,w\right) \leq
d_{A}\left( z,v\right) +d_{A}\left( v,w\right)
\end{eqnarray*}を満たすため、\begin{equation*}
\left( A,d_{A}\right)
\end{equation*}もまた距離空間になります。これをもとの空間\(\left( \mathbb{C} ,d\right) \)の部分距離空間と呼びます。
部分距離空間は距離空間であるため、部分距離空間においても、その部分集合が開集合であるか検討できます。具体的には以下の通りです。
複素ユークリッド空間\(\left( \mathbb{C} ,d\right) \)の部分距離空間\(\left(A,d_{A}\right) \)が与えられている状況を想定します。部分距離空間の点\(a\in A\)を中心とする半径\(\varepsilon >0\)の近傍とは、点\(a\)からの距離が\(\varepsilon \)よりも小さい場所にある\(A\)の点からなる集合であり、これを、\begin{eqnarray*}N_{\varepsilon }^{A}\left( a\right) &=&\left\{ z\in A\ |\ d_{A}\left(
z,a\right) <\varepsilon \right\} \\
&=&\left\{ z\in A\ |\ d\left( z,a\right) <\varepsilon \right\} \quad
\because d_{A}\text{の定義} \\
&=&\left\{ z\in A\ |\ \left\vert z-a\right\vert <\varepsilon \right\} \quad
\because d\text{の定義} \\
&=&A\cap N_{\varepsilon }\left( a\right)
\end{eqnarray*}で表記します。部分距離空間の部分集合\(B\subset A\)が\(A\)上の開集合であることは、\begin{equation*}\forall b\in B,\ \exists \varepsilon >0:N_{\varepsilon }^{A}\left( b\right)
\subset B
\end{equation*}が成り立つこととして定義されます。つまり、\(B\)の点\(b\)を任意に選んだとき、点\(b\)を中心とする近傍\(N_{\varepsilon}^{A}\left( b\right) \)の中に\(B\)の部分集合であるようなものが必ず存在するならば\(B\)は\(A\)上の開集合です。ただし、上の定義で用いている近傍\(N_{\varepsilon }^{A}\left( b\right) \)は部分距離空間\(A\)における点\(b\)の近傍であり、もとの空間\(\mathbb{C} \)における点\(b\)の近傍\begin{eqnarray*}N_{\varepsilon }\left( b\right) &=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ d\left( z,a\right) <\varepsilon \right\} \\
&=&\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ \left\vert z-a\right\vert <\varepsilon \right\}
\end{eqnarray*}ではないことに注意してください。
複素ユークリッド空間\(\left( \mathbb{C} ,d\right) \)の部分距離空間\(\left(A,d_{A}\right) \)が与えられているとき、\(A\)上の開集合をすべて集めることにより得られる集合を\(A\)の開集合系と呼び、これを、\begin{equation*}\mathcal{O}\left( A\right)
\end{equation*}で表記します。開集合の定義より、\(A\)の部分集合\(B\)を任意に選んだとき、以下の関係\begin{equation*}B\in \mathcal{O}\left( A\right) \Leftrightarrow \forall b\in B,\ \exists
\varepsilon >0:N_{\varepsilon }^{A}\left( b\right) \subset B
\end{equation*}が成り立ちます。
空間\(\left( \mathbb{C} ,d\right) \)の部分距離空間\(\left(A,d_{A}\right) \)が与えられているものとします。部分距離空間の部分集合\(B\subset A\)が\(A\)上の開集合であるものとします。\(A\subset \mathbb{C} \)ゆえに\(B\subset \mathbb{C} \)であるため、この集合\(B\)がもとの空間\(\mathbb{C} \)においても開集合であるか検討できますが、\(B\)は\(\mathbb{C} \)上の開集合であるとは限りません。つまり、\(B\subset A\)について、\begin{equation*}B\in \mathcal{O}\left( A\right) \Rightarrow B\in \mathcal{O}\left( \mathbb{C} \right)
\end{equation*}は成り立つとは限りません。以下の例より明らかです。
\end{equation*}に注目した上で部分距離空間\(\left( A,d_{A}\right) \)を定義します。以下の集合\begin{equation*}B=\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ 0\leq \mathrm{Re}\left( z\right) <\frac{1}{2}\right\}
\end{equation*}は\(A\)上の開集合である一方で、もとの空間\(\mathbb{C} \)上において開集合ではありません(演習問題)。
複素ユークリッド空間\(\left( \mathbb{C} ,d\right) \)の部分距離空間\(\left(A,d_{A}\right) \)が与えられているものとします。部分距離空間の部分集合\(B\subset A\)が\(A\)上の開集合であるものとします。つまり、\(B\in \mathcal{O}\left( A\right) \)が成り立つということです。この場合には、もとの空間\(\mathbb{C} \)上の何らかの開集合\(X\in \mathcal{O}\left( \mathbb{C} \right) \)を用いて、\begin{equation*}B=X\cap A
\end{equation*}と表現できることが保証されます。つまり、部分距離空間\(A\)上の開集合\(B\)は、もとの空間\(\mathbb{C} \)上の何らかの開集合\(X\)と部分距離空間\(A\)の共通部分として表現できるということです。逆も成立するため以下を得ます。
\end{equation*}が成り立つ。
\end{equation*}に注目した上で部分距離空間\(\left( A,d_{A}\right) \)を定義します。以下の集合\begin{equation*}B=\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ 0\leq \mathrm{Re}\left( z\right) <\frac{1}{2}\right\}
\end{equation*}が\(A\)上の開集合であることは先に示した通りです。したがって先の命題より、\(\mathbb{C} \)上の何らかの開集合と\(A\)の共通部分として\(B\)を表現できるはずです。実際、以下の集合\begin{equation*}X=\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ -\frac{1}{2}<\mathrm{Re}\left( z\right) <\frac{1}{2}\right\}
\end{equation*}は\(\mathbb{C} \)上の開集合であるとともに、\begin{equation*}B=X\cap A
\end{equation*}が成り立ちます。以上の結果は先の命題の主張と整合的です。
演習問題
\end{equation*}を定義します。この集合が\(\mathbb{C} \)上の開集合であることを示してください。
A=\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ \mathrm{Im}\left( z\right) <0\right\}
\end{equation*}が\(\mathbb{C} \)上の開集合であることを示してください。
A=\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ -1<\mathrm{Re}\left( z\right) <1\right\}
\end{equation*}が\(\mathbb{C} \)上の開集合であることを示してください。
A=\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ \mathrm{Re}\left( z\right) \geq 0\right\}
\end{equation*}は\(\mathbb{C} \)上の開集合ではないことを示してください。
\end{equation*}をとります。この集合が\(\mathbb{C} \)上の開集合ではないことを示してください。
\end{equation*}に注目した上で部分距離空間\(\left( A,d_{A}\right) \)を定義します。以下の集合\begin{equation*}B=\left\{ z\in \mathbb{C} \ |\ 0\leq \mathrm{Re}\left( z\right) <\frac{1}{2}\right\}
\end{equation*}は\(A\)上の開集合である一方で、もとの空間\(\mathbb{C} \)上において開集合ではないことを示してください。
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