点の狭義凸結合
ユークリッド空間上の有限個の点\(x_{1},\cdots ,x_{k}\in \mathbb{R} ^{n}\)が与えられたとき、スカラー\(\lambda _{1},\cdots ,\lambda _{k}\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation*}\lambda _{1}x_{1}+\cdots +\lambda _{k}x_{k}
\end{equation*}という形で表される\(\mathbb{R} ^{n}\)の点を\(x_{1},\cdots ,x_{k}\)の線型結合(linear combination)と呼びます。特に、スカラー\(\lambda _{1},\cdots ,\lambda _{k}\in \mathbb{R} \)が、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i\in \left\{ 1,\cdots ,k\right\} :\lambda _{i}>0
\\
&&\left( b\right) \ \sum_{i=1}^{k}\lambda _{i}=1
\end{eqnarray*}をともに満たす場合には、すなわち、すべてのスカラーが正であるとともにすべてのスカラーの和が\(1\)である場合には、線型結合のことを狭義凸結合(strictly convex combination)と呼びます。
何らかのスカラー\(\lambda_{i}\in \mathbb{R} \)について\(\lambda _{i}\geq 1\)が成り立つ場合、条件\(\left( a\right) \)より、\begin{equation*}\sum_{i=1}^{k}\lambda _{i}>1
\end{equation*}となり、これは\(\left( b\right) \)と矛盾です。したがって、狭義凸結合については、\begin{equation*}\forall i\in \left\{ 1,\cdots ,k\right\} :0<\lambda _{i}<1
\end{equation*}が成り立つこと、つまり、すべてのスカラーが\(0\)より大きく\(1\)より小さいことが保証されます。
y &=&\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}
\end{eqnarray*}の狭義凸結合は、\(\lambda_{1}>0\)かつ\(\lambda _{2}>0\)かつ\(\lambda _{1}+\lambda_{2}=1\)を満たすスカラー\(\lambda _{1},\lambda _{2}\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{eqnarray*}\lambda _{1}x+\lambda _{2}y &=&\lambda _{1}\left( x_{1},x_{2}\right)
+\lambda _{2}\left( y_{1},y_{2}\right) \quad \because x,y\text{の定義} \\
&=&\left( \lambda _{1}x_{1},\lambda _{1}x_{2}\right) +\left( \lambda
_{2}y_{1},\lambda _{2}y_{2}\right) \quad \because \text{ベクトルのスカラー倍の定義} \\
&=&\left( \lambda _{1}x_{1}+\lambda _{2}y_{1},\lambda _{1}x_{2}+\lambda
_{2}y_{2}\right) \quad \because \text{ベクトルの和の定義}
\end{eqnarray*}と表されます。また、3つの点\begin{eqnarray*}
x &=&\left( x_{1},x_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2} \\
y &=&\left( y_{1},y_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2} \\
z &=&\left( z_{1},z_{2}\right) \in \mathbb{R} ^{2}
\end{eqnarray*}の凸結合は、\(\lambda _{1}>0\)かつ\(\lambda _{2}>0\)かつ\(\lambda _{3}>0\)かつ\(\lambda _{1}+\lambda _{2}+\lambda _{3}=1\)を満たすスカラー\(\lambda _{1},\lambda _{2},\lambda _{3}\in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{eqnarray*}\lambda _{1}x+\lambda _{2}y+\lambda _{3}z &=&\lambda _{1}\left(
x_{1},x_{2}\right) +\lambda _{2}\left( y_{1},y_{2}\right) +\lambda
_{3}\left( z_{1},z_{2}\right) \quad \because x,y,z\text{の定義} \\
&=&\left( \lambda _{1}x_{1},\lambda _{1}x_{2}\right) +\left( \lambda
_{2}y_{1},\lambda _{2}y_{2}\right) +\left( \lambda _{3}z_{1},\lambda
_{3}z_{2}\right) \quad \because \text{ベクトルのスカラー倍の定義} \\
&=&\left( \lambda _{1}x_{1}+\lambda _{2}y_{1}+\lambda _{3}z_{1},\lambda
_{1}x_{2}+\lambda _{2}y_{2}+\lambda _{3}z_{2}\right) \quad \because \text{ベクトルの和の定義}
\end{eqnarray*}と表されます。
\end{equation}という形で表される\(\mathbb{R} ^{n}\)の点ですが、\begin{equation}\lambda _{2}=1-\lambda _{1} \quad \cdots (2)
\end{equation}であることを踏まえた上で\(\left( 1\right) \)を言い換えると、\begin{equation*}\lambda _{1}x_{1}+\left( 1-\lambda _{1}\right) x_{2}
\end{equation*}と言い換えることができます。ただし、\(\lambda _{2}>0\)および\(\left( 2\right) \)より\(1-\lambda _{1}>0\)すなわち\(\lambda _{1}<1\)でなければなりません。つまり、2つの点の狭義凸結合を表現するためにはスカラーが1つあれば十分です。以上の議論を踏まえた上で改めて整理すると、2つの点\(x_{1},x_{2}\in \mathbb{R} ^{n}\)の狭義凸結合は、\(0<\lambda <1\)を満たすスカラー\(\lambda \in \mathbb{R} \)を用いて、\begin{equation*}\lambda x_{1}+\left( 1-\lambda \right) x_{2}
\end{equation*}という形で表される\(\mathbb{R} ^{2}\)の点です。
狭義凸集合
ユークリッド空間の部分集合\(A\subset \mathbb{R} ^{n}\)が与えられたとき、その2つの異なる要素\(x_{1},x_{2}\in A\)を任意に選びます。このとき、これらの任意の狭義凸結合が\(A\)の内点になることが保証されるならば、すなわち、\begin{equation*}\forall x_{1}\in A,\ \forall x_{2}\in A\backslash \left\{ x_{1}\right\} ,\
\forall \lambda \in \left( 0,1\right) :\lambda x_{1}+\left( 1-\lambda
\right) x_{2}\in A^{i}
\end{equation*}が成り立つ場合には、\(A\)を狭義凸集合(strict convex set)と呼びます。
\end{equation*}が明らかに成り立ちますが、\(\mathbb{R} ^{n}\)は開集合であるため、\begin{equation*}\left( \mathbb{R} ^{n}\right) ^{i}=\mathbb{R} ^{n}
\end{equation*}となるため、\begin{equation*}
\lambda x_{1}+\left( 1-\lambda \right) x_{2}\in \left( \mathbb{R} ^{n}\right) ^{i}
\end{equation*}を得るからです。
狭義凸集合の幾何学的解釈
ユークリッド空間上の2つの異なる点\(x_{1},x_{2}\in \mathbb{R} ^{n}\)の狭義凸結合はスカラー\(\lambda \in \left( 0,1\right) \)を用いて、\begin{equation*}\lambda x_{1}+\left( 1-\lambda \right) x_{2}
\end{equation*}という形で表される\(\mathbb{R} ^{n}\)の点です。スカラー\(\lambda \)を変数とみなして\(\left( 0,1\right) \)内で自由に動かすと、\(x_{1}\)と\(x_{2}\)の狭義凸結合はどのような軌跡を描くでしょうか。見通しを良くするため狭義凸結合を変形すると、
特に、\(\lambda =0\)の場合にこれは点\(x_{2}\)と一致し、\(\lambda =1\)の場合には点\(x_{1}\)と一致するため、\(\lambda \)を\(\left( 0,1\right) \)の範囲で動かすと\(x_{1}\)と\(x_{2}\)の狭義凸結合は点\(x_{1},x_{2}\)を両端とする線分から両端の点を除いた領域を移動します(上図)。以上を踏まえた上で、2つの異なる点\(x_{1},x_{2}\in \mathbb{R} ^{n}\)に対し、それらのすべての狭義凸結合からなる集合を、\begin{equation*}\left( x_{1},x_{2}\right) =\left\{ \lambda x_{1}+\left( 1-\lambda \right)
x_{2}\ |\ \lambda \in \left( 0,1\right) \right\}
\end{equation*}で表記し、これを点\(x_{1},x_{2}\)を端点とする開いた線分(open line segment)と呼びます。
\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が狭義凸集合であることとは、\(A\)の異なる2つの点を任意に選んだときに、それらを端点とする開いた線分がいずれも\(A\)の内部の部分集合になることを意味します。
:\left( x_{1},x_{2}\right) \subset A^{i}
\end{equation*}が成り立つことは、\(A\)が狭義凸集合であるための必要十分条件である。
狭義凸集合の代替的な定義
ユークリッド空間\(\mathbb{R} ^{n}\)の部分集合\(A\)が狭義凸集合である場合には、\(A\)の2つの異なる点の任意の狭義凸結合が\(A\)の内点になるだけでなく、\(A\)の任意個の点の任意の狭義凸結合もまた\(A\)の内点になります。ただし、\(A\)の点の狭義凸結合は\(A\)の有限個の点に対して定義される概念であることを踏まえると、これは、自然数\(k\)を任意に選んだ上で、さらに\(k\)個の異なる点\(x_{1},\cdots ,x_{k}\in A\)を任意に選んだとき、\begin{eqnarray*}&&\left( a\right) \ \forall i\in \left\{ 1,\cdots ,k\right\} :\lambda _{i}>0
\\
&&\left( b\right) \ \sum_{i=1}^{k}\lambda _{i}=1
\end{eqnarray*}を満たす任意のスカラー\(\lambda _{1},\cdots ,\lambda _{k}\in \mathbb{R} \)に対して、\begin{equation*}\lambda _{1}x_{1}+\cdots +\lambda _{k}x_{k}\in A^{i}
\end{equation*}が成り立つという主張になります。\(A\)が狭義凸集合である場合には以上の条件が成り立つということです(演習問題)。
逆に、任意の自然数\(k\)について、\(A\)の異なる\(k\)個の点の狭義凸結合が\(A\)の内点である場合、その特殊ケースとして、\(A\)の異なる\(2\)個の点の狭義凸結合は\(A\)の内点になりますが、これは\(A\)が狭義凸集合であることの定義に他なりません。したがって以下を得ます。
凸集合と狭義凸集合の関係
狭義凸集合は凸集合とどのような点において異なるのでしょうか。以下は凸集合であるような狭義凸集合の例です。
一般に、狭義凸集合は凸集合です。
上の命題の逆は成り立つとは限りません。つまり、凸集合は狭義凸集合であるとは限らないということです。以下の例より明らかです。
演習問題
\end{equation*}と定義します。これが狭義凸集合であることを証明してください。
\end{equation*}と定義されます。\(N_{\varepsilon }\left( a\right) \)が狭義凸集合であることを示してください。
\end{equation*}と定義されます。\(C_{\varepsilon }\left( a\right) \)が狭義凸集合であることを示してください。
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